僕たちは永遠の時を与えられたので訳アリ魔女を倒してまわることにした

ぜろのいち

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【ゼロ章】時空の木こりたち(序ー3)今年の冬はヤバすぎる件について(お腹すいた)

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 それからというもの、ハインリヒ家には重苦しい空気が漂い続けていた。
 特に問題だったのは、その年の冬が異常に厳しかったことだ。
「うーん、今日もダメかぁ」
 ヴァルターは手に何も持たずに帰ってきた。森に狩りに出かけたのだが、獲物の影すら見つからなかったのである。
「お兄ちゃん、お疲れさま」
 イヴリンが振り返る。彼女は台所で、残り少ない食材をやりくりしようと必死に考えていた。
 でも、どうやりくりしても、もう限界である。
「今日の夕食、どうしよう……」
 イヴリンの困った顔を見て、ヴァルターの胸も痛んだ。
 そもそも、今年は春からおかしかった。いつもなら豊作をもたらすはずの畑が、なぜか全然育たなかったのだ。隣近所の家も同じような状況で、村全体が食糧不足に陥っていた。
 おまけに森の動物たちも、まるで蒸発したかのように姿を消している。
「なんでこんなことになっちゃったんだろうね」
 イヴリンがぽつりとつぶやく。
 実は、この異常事態こそが「東の魔女」の仕業だということを、兄妹はまだ知らない。
 *  *  *
 ——東の魔女、その名をヴィルマ・シュヴァルツと呼ぶ者もいた。
 かつて彼女は、この大陸全土を恐怖に陥れた災いの象徴だった。都市を一夜にして廃墟に変え、人々の心に絶望を植え付け、時の流れすら歪めてしまう恐るべき存在。
 しかし、今から百年ほど前。伝説の「時の魔女」によって、彼女は深い森の奥に封印された。
 ただし——封印は、彼女を完全に滅ぼすことはできなかった。
 東の魔女は傷だらけの身体で、ひっそりと力の回復を待っていたのだ。そして、人間の絶望や苦悩を少しずつ吸い取りながら、復活の機会を狙い続けていた。
 そんな彼女が、ついに見つけたのがハインリヒ家の存在である。
 ——時の眷属の血を引く兄妹。ヴァルターとイヴリン。
 彼らの持つ特殊な力こそが、東の魔女が手早く復活するために必要なものだった。
 だからこそ、彼女は巧妙な罠を仕掛けた。作物を枯らし、獣たちを森から追い払い、人々を飢えに苦しめる。そうすることで、この地に絶望を蔓延させ、同時に兄妹を窮地に追い込む。
 そして、最も重要なのは——継母マルガレーテの心に隙を作ることだった。
 *  *  *
 その夜、マルガレーテは寝室で一人涙を流していた。
「どうしよう……このままじゃ、あの子たちが……」
 今日の夕食も、薄いスープとわずかなパンだけだった。ヴァルターもイヴリンも、お腹を空かせているのを隠そうとして、無理に笑顔を作っていた。
 その健気な姿を見ていると、マルガレーテの心は引き裂かれそうになる。
「私がもっとしっかりしていれば……」
「私にもっと力があれば……」
 自分を責める声が、頭の中をぐるぐると回り続ける。
 ヴァルターもイヴリンも、血のつながった自分の子どもではない。でも、この家に嫁いできてから、まるで本当の親子のように大切に思ってきた。
 なのに、その子どもたちを守ることができない。
 母親失格だ——そんな絶望感が、マルガレーテの心を真っ黒に染めていく。
 そんな時だった。
 夢ともうつつとも分からない状態で、甘くて美しい女性の声が聞こえてきた。
『可哀想に、マルガレーテ』
 マルガレーテはハッと顔を上げた。でも、部屋には誰もいない。
『あなたの愛する子どもたちが、飢えで苦しんでいるのね。母親として、これほど辛いことはないでしょう?』
「……だれ?」
『私は、あなたの心の痛みがよく分かるの。あなたは本当に良い母親よ。だからこそ、こんなに苦しんでいる』
 声の主は、まるでマルガレーテの心の奥底を見透かしているかのように語りかける。
『でも、安心して。私が解決策を教えてあげるから』
「解決策……?」
『そう。よく考えてみて、マルガレーテ。あの子たちは、もう立派な大人でしょう? ヴァルターは十九歳、イヴリンは十七歳。いつまでもこの家にいては、飢え死にしてしまうわ』
 マルガレーテの胸に、チクリと痛みが走った。確かに、その通りかもしれない。
『でもね、あの森には不思議な力が満ちているの。あの子たちをそこに送り出せば、きっと新しい道が開けるはず。これは見捨てることじゃない。愛しているからこその、最後の贈り物よ』
「最後の……贈り物?」
『そう。あなたが本当にあの子たちを愛しているなら、自立の機会を与えてあげるべき。いつまでも手元に置いておくのは、愛ではなく、エゴよ』
 声の言葉は、まるで砂糖のように甘く、マルガレーテの心に染み込んでいく。
 確かに、そうかもしれない。
 このまま家に置いておいても、みんなで飢え死にするだけかもしれない。だったら——
『明日の朝、あの子たちに言ってあげて。「森で新しい道を見つけてきなさい」って。それが、母親としてあなたができる、最高の愛情よ』
 甘い声は、そこで途切れた。
 マルガレーテは呆然と天井を見上げる。
「森に……送り出す……?」
 なぜか、その考えがとても正しいことのように思えてきた。
 子どもたちのために。愛しているからこそ。
 そう自分に言い聞かせながら、マルガレーテは深い眠りに落ちていった。
 ——彼女は気づいていなかった。
 自分が今、恐るべき魔女の罠にはまったということを。
 そして、その決断が、愛する子どもたちを地獄へと送り出すことになるということを。
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