8 / 19
【第二章 序】日本か……ずいぶん遠くへ行くんだな(直行便ないのでヒースロー経由です)
しおりを挟む
翌日の朝、ヴァルターとイヴリンはマンチェスター空港にいた。
出発ロビーは平日の朝なのに、たくさんの旅行者で賑わっている。スーツケースを引きずった人々が、せわしなく行き交っていた。家族旅行らしい一団が大きな荷物と格闘し、ビジネスマンらしき男性がスマートフォンを片手に急ぎ足で歩いていく。
ヴァルターは搭乗券を握りしめながら、慣れ親しんだこの空港を見渡した。何十年、いや何世紀にもわたって彼らが旅立ちの場として使ってきた場所だ。時代が変わり、飛行機が大型化し、セキュリティが厳しくなっても、旅立ちの前の緊張感は変わらない。
「日本か……ずいぶん遠くへ行くんだな。ヒースローで乗り換えか」
ヴァルターが呟く。手にした搭乗券には「LONDON HEATHROW」の文字が印刷されていた。
永遠の時を生きる彼らにとって、地理的な距離に特別な意味はない。でも、文化圏の違いは魔女や異常現象の性質に大きく影響する可能性があった。ヴァルターは過去を振り返る。東欧で遭遇した魔女は古いスラブの神話に根ざした力を使い、南米で出会ったものは太陽神信仰の影響を受けていた。日本という極東の島国では、いったいどんな力が彼らを待っているのだろう。
「でも考えてみて、お兄様」
イヴリンが搭乗券をひらひら振りながら言う。彼女の青い瞳には、いつもの好奇心が輝いている。
「もし東の魔女が本当に日本にいるなら、私たち初めて本体に近づけるかもしれないのよ?」
これまでの戦いは、すべて東の魔女の影や手下との戦いだった。ロンドンの霧に潜んでいた影、パリの地下墓地で遭遇した骸骨の軍団、ローマの古い教会で対峙した黒い霊体——どれも東の魔女の力の一部でしかなかった。本体との直接対決なんて、彼らの長い追跡の歴史でも経験したことがない。
ヴァルターはイヴリンの言葉にうなずきながらも、心の奥で警戒心を抱いていた。これほど長い間、姿を現さなかった相手が今になって痕跡を残すとは——それが罠である可能性も否定できない。
「立花さんのことを考えると」
イヴリンが続ける。昨日の研究会での出来事が、まだ記憶に新しい。
「彼みたいな協力者がいるのは心強いわ。都市伝説っていう現代的なアプローチで謎に挑む研究者……私たちだけじゃ見落としちゃう視点を持ってるかもしれないのよ」
「そうだな」
ヴァルターが微笑む。立花の冷静で論理的な分析力は印象的だった。彼は超常現象を科学的手法で解析しようとする——それは長年魔法の世界にどっぷりと浸かってきた自分たちには新鮮なアプローチだ。
「彼の『都市伝説は現代の神話』という考え方は興味深かった。もしかしたら、東の魔女も時代に合わせて姿を変えているのかもしれない」
搭乗開始のアナウンスが流れ、二人は列に並んだ。ヴァルターは機内持ち込み用のバッグを肩にかけ直す。中には彼らの「商売道具」——古い魔法書、護符、銀製のナイフ、時の魔女より受け取ったアイテムなどが慎重に梱包されていた。
飛行機が離陸する瞬間、ヴァルターとイヴリンは窓の下に広がるマンチェスターの街を見下ろした。煉瓦造りの古い建物群が雲の間に小さく見える。産業革命の名残を留める工場の煙突、現代的なガラス張りのオフィスビル、そして住宅地に点在する緑の公園——何層もの歴史が重なった街並みだ。
「次にここに戻ってくる時、私たちは何を学んでるでしょうね、お兄様」
イヴリンの問いに、ヴァルターは慎重に答えた。
「きっと、東の魔女の正体について今よりずっと多くのことがわかるだろう。そして……」
彼は言葉を選んだ。
「俺たちの永遠の戦いの本当の意味も」
なぜ彼らは不老不死の体を与えられたのか。なぜ東の魔女を追い続けなければならないのか。その答えが、極東の島国で見つかるのかもしれない。
機内では、イヴリンが持参した日本語の参考書を広げていた。
「『こんにちは』『ありがとうございます』『すみません』……うーん、発音が難しいわ」
彼女は何度も同じフレーズを繰り返し、舌の動きを確認していた。永遠の時を生きる彼女にとって、新しい言語の習得は単なる実用的な技能以上の意味を持つ——それは新しい文化との出会い、新しい可能性への扉だった。
「永遠の時があるんだから、焦らなくてもいいだろ」
ヴァルターは苦笑いを浮かべながら、窓の外の雲海を眺めていた。
雲の向こうには、未知の冒険が待っている。そして、ついに東の魔女の正体に迫れるかもしれない——そんな期待と不安が、彼の胸の内で静かに渦巻いていた。
長い飛行時間の間、二人は交代で眠り、日本についての資料を読み、そして過去の戦いを振り返った。初めての遭遇から数えて、もう何世紀が経っただろうか。その長い追跡の果てに、ついに答えが見つかるのだろうか。
ヴァルターは目を閉じ、これまでの戦いの記憶を辿った。勝利もあれば敗北もあった。仲間を失ったこともある。だが、諦めたことは一度もない——それが彼らに課せられた使命だから。
機内のスクリーンには、現在位置を示す世界地図が表示されていた。小さな飛行機のアイコンが、ゆっくりと東へ向かって進んでいる。
出発ロビーは平日の朝なのに、たくさんの旅行者で賑わっている。スーツケースを引きずった人々が、せわしなく行き交っていた。家族旅行らしい一団が大きな荷物と格闘し、ビジネスマンらしき男性がスマートフォンを片手に急ぎ足で歩いていく。
ヴァルターは搭乗券を握りしめながら、慣れ親しんだこの空港を見渡した。何十年、いや何世紀にもわたって彼らが旅立ちの場として使ってきた場所だ。時代が変わり、飛行機が大型化し、セキュリティが厳しくなっても、旅立ちの前の緊張感は変わらない。
「日本か……ずいぶん遠くへ行くんだな。ヒースローで乗り換えか」
ヴァルターが呟く。手にした搭乗券には「LONDON HEATHROW」の文字が印刷されていた。
永遠の時を生きる彼らにとって、地理的な距離に特別な意味はない。でも、文化圏の違いは魔女や異常現象の性質に大きく影響する可能性があった。ヴァルターは過去を振り返る。東欧で遭遇した魔女は古いスラブの神話に根ざした力を使い、南米で出会ったものは太陽神信仰の影響を受けていた。日本という極東の島国では、いったいどんな力が彼らを待っているのだろう。
「でも考えてみて、お兄様」
イヴリンが搭乗券をひらひら振りながら言う。彼女の青い瞳には、いつもの好奇心が輝いている。
「もし東の魔女が本当に日本にいるなら、私たち初めて本体に近づけるかもしれないのよ?」
これまでの戦いは、すべて東の魔女の影や手下との戦いだった。ロンドンの霧に潜んでいた影、パリの地下墓地で遭遇した骸骨の軍団、ローマの古い教会で対峙した黒い霊体——どれも東の魔女の力の一部でしかなかった。本体との直接対決なんて、彼らの長い追跡の歴史でも経験したことがない。
ヴァルターはイヴリンの言葉にうなずきながらも、心の奥で警戒心を抱いていた。これほど長い間、姿を現さなかった相手が今になって痕跡を残すとは——それが罠である可能性も否定できない。
「立花さんのことを考えると」
イヴリンが続ける。昨日の研究会での出来事が、まだ記憶に新しい。
「彼みたいな協力者がいるのは心強いわ。都市伝説っていう現代的なアプローチで謎に挑む研究者……私たちだけじゃ見落としちゃう視点を持ってるかもしれないのよ」
「そうだな」
ヴァルターが微笑む。立花の冷静で論理的な分析力は印象的だった。彼は超常現象を科学的手法で解析しようとする——それは長年魔法の世界にどっぷりと浸かってきた自分たちには新鮮なアプローチだ。
「彼の『都市伝説は現代の神話』という考え方は興味深かった。もしかしたら、東の魔女も時代に合わせて姿を変えているのかもしれない」
搭乗開始のアナウンスが流れ、二人は列に並んだ。ヴァルターは機内持ち込み用のバッグを肩にかけ直す。中には彼らの「商売道具」——古い魔法書、護符、銀製のナイフ、時の魔女より受け取ったアイテムなどが慎重に梱包されていた。
飛行機が離陸する瞬間、ヴァルターとイヴリンは窓の下に広がるマンチェスターの街を見下ろした。煉瓦造りの古い建物群が雲の間に小さく見える。産業革命の名残を留める工場の煙突、現代的なガラス張りのオフィスビル、そして住宅地に点在する緑の公園——何層もの歴史が重なった街並みだ。
「次にここに戻ってくる時、私たちは何を学んでるでしょうね、お兄様」
イヴリンの問いに、ヴァルターは慎重に答えた。
「きっと、東の魔女の正体について今よりずっと多くのことがわかるだろう。そして……」
彼は言葉を選んだ。
「俺たちの永遠の戦いの本当の意味も」
なぜ彼らは不老不死の体を与えられたのか。なぜ東の魔女を追い続けなければならないのか。その答えが、極東の島国で見つかるのかもしれない。
機内では、イヴリンが持参した日本語の参考書を広げていた。
「『こんにちは』『ありがとうございます』『すみません』……うーん、発音が難しいわ」
彼女は何度も同じフレーズを繰り返し、舌の動きを確認していた。永遠の時を生きる彼女にとって、新しい言語の習得は単なる実用的な技能以上の意味を持つ——それは新しい文化との出会い、新しい可能性への扉だった。
「永遠の時があるんだから、焦らなくてもいいだろ」
ヴァルターは苦笑いを浮かべながら、窓の外の雲海を眺めていた。
雲の向こうには、未知の冒険が待っている。そして、ついに東の魔女の正体に迫れるかもしれない——そんな期待と不安が、彼の胸の内で静かに渦巻いていた。
長い飛行時間の間、二人は交代で眠り、日本についての資料を読み、そして過去の戦いを振り返った。初めての遭遇から数えて、もう何世紀が経っただろうか。その長い追跡の果てに、ついに答えが見つかるのだろうか。
ヴァルターは目を閉じ、これまでの戦いの記憶を辿った。勝利もあれば敗北もあった。仲間を失ったこともある。だが、諦めたことは一度もない——それが彼らに課せられた使命だから。
機内のスクリーンには、現在位置を示す世界地図が表示されていた。小さな飛行機のアイコンが、ゆっくりと東へ向かって進んでいる。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる