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【第二章 1】時風タロウとの出会い(立花さん、すごいワンちゃんと一緒じゃないですか)
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十数時間後、浜松駅。
「ありがとう、立花さん」
ヴァルターがたどたどしい日本語で言った。発音はまだぎこちないが、意味は通じている。
「思ったより暑いな、この国は」
「あら、お兄様、日本語頑張ってるのね」
イヴリンが微笑む。彼女の日本語はヴァルターよりもさらに片言だった。
「すみません、まだ勉強中で」
立花は二人の努力に微笑みながら答えた。
「いえいえ、十分伝わりますよ。飛行機の中で勉強されたんですね。ようこそ日本へ」
立花は軽く頭を下げた。ヴァルターとイヴリンの日本語は確かにたどたどしいが、基本的な会話はできるレベルまで達している。十数時間のフライトの間、相当集中して勉強したのだろう。
その足元に、白い毛玉のような小さな柴犬がちょこんと座っている。
「この子は?」
イヴリンが興味深そうに犬を見下ろす。
「時風タロウです。僕の相棒でして」
立花が微笑む。
「可愛いですね」
ヴァルターが犬を見下ろしたその時、頭の中に妙な感覚が走った。まるで誰かが脳裏で囁いているような——
「あれ? なんか変な感じが……」
ヴァルターが首をかしげる。
時風タロウがゆっくりと立ち上がり、ヴァルターとイヴリンを見上げた。その瞳には、普通の犬とは明らかに違う知性の光が宿っている。
そして次の瞬間——
『なんだ、この匂いは……貴様ら、ただの人間ではないな?』
明確な日本語が、ヴァルターの頭の中に響いた。
「!?」
ヴァルターが石のように固まった。
「……え?」
イヴリンも同じように硬直している。
二人は犬を見下ろし、犬は二人を見上げている。静寂が流れた。
『時の流れが、貴様らの周りだけ妙にねじれている。面白い』
また、はっきりとした声が聞こえた。
「…………」
「…………」
ヴァルターとイヴリンは顔を青ざめたまま、互いを見つめ合った。
「……お兄様」
「……うん」
「今、犬が」
「うん、話した」
「日本語で」
「うん、日本語で」
そして二人は同時に叫んだ。
「「犬がしゃべったああああああああ!!!」」
ヴァルターが後ろに飛び跳ねる。イヴリンが立花の後ろに隠れる。
「ちょっと待って! ちょっと待ってください!」
ヴァルターが両手をぶんぶん振り回した。
「今、確実に、この犬から声が聞こえました! 人間の言葉で! しかも流暢な日本語で!」
「お、お兄様……私にも聞こえた……確実に聞こえた……」
イヴリンが震え声で言う。
「犬が……犬がしゃべってる……これって、これって……ありえない! 絶対にありえない!」
『うるさい奴らだな』
タロウが耳をぺたんと倒す。
「うわああああ! また話した! 普通に話した!」
ヴァルターがぴょんぴょん跳ね回る。
「立花さん! 立花さん!」
イヴリンが立花の袖を引っ張る。
「これ、これどういうことですか?! 犬がしゃべるなんて、そんな……そんなことって……」
立花は二人のパニックぶりを見て、懐かしむような苦笑いを浮かべた。
「ああ……僕もまったく同じ反応でした」
「同じって!」
ヴァルターが立花を指差す。
「立花さん、これって普通のことなんですか?! 日本では犬がしゃべるのって普通なんですか?!」
「いえいえ、普通ではありません」
立花が慌てて手を振る。
「でも、タロウは特別で……」
『当然だ。我はただの犬ではない。時風タロウ様である』
タロウが誇らしげに胸を張る。
「きゃあああああ!」
イヴリンが立花の後ろに完全に隠れる。
「だ、だめ! 受け入れられない! 犬がしゃべるなんて受け入れられない!」
「これ、これ幻覚ですよね?」
ヴァルターが頭を抱える。
「時差ボケで頭がおかしくなってるんですよね? それか暑さで熱中症になってるとか……」
「残念ながら現実です」
立花が申し訳なさそうに答える。
「僕も最初は、自分が疲労で幻聴を聞いてるんだと思いました。病院にも行きました」
「病院!」
イヴリンが顔を出す。
「それで、お医者さんは何て?」
「『異常なし』でした。精神科でも『ストレスによる軽度の幻聴の可能性』と言われただけで……でも、タロウの言うことが現実と一致することが多くて……」
『その時の立花の顔と言ったら』
タロウがくつくつと笑うような仕草を見せる。
『真っ青になって「先生、犬の声が聞こえるんです」なんて言うものだから、医者も困り顔だったぞ』
「タロウ、その話は今しなくていいでしょ」
立花が苦笑いする。
「でも、本当なんです。最初は僕も絶対に信じられませんでした。犬がしゃべるなんて、おとぎ話の中だけの話だと思ってましたから」
「おとぎ話……」
ヴァルターが呟く。
「でも、確実に聞こえてる……僕たちには確実に……」
「あの、あの!」
イヴリンがおずおずと立花に尋ねる。
「もしかして、私たちにしか聞こえないとか……そういうことですか?」
「そうなんです」
立花がうなずく。
「タロウの声が聞こえる人は、何か特別な……感受性? のようなものを持っていることが多くて」
『正確に言うなら、我は時の流れの『ほころび』を嗅ぎ分けることができる』
タロウが説明口調になる。
『そして、そういう現象に敏感な者とは、心で会話することができる。この能力は生まれつきだが、使いこなすまでに相当苦労したぞ』
「つまり……」
ヴァルターがゆっくりと理解を深めようとする。
「僕たちがタロウの声を聞けるということは、僕たちにも何か特殊な……」
『その通りだ。貴様らからは普通の人間とは違う匂いがする』
タロウが断言する。
『特に、時間の流れに縛られていない匂いがするな』
ヴァルターとイヴリンは顔を見合わせた。
「お兄様……これって、偶然じゃないかも」
「ああ……僕たちがここに来たのも、このタイミングでこの犬と……タロウと出会ったのも」
『ふん、やっと理解したか』
タロウが得意げに鼻を鳴らす。
『貴様らが追っている『異常』……我もその匂いを嗅いでいる』
「え?」
立花がタロウを見下ろす。
『立花、貴様に言っていなかったが、最近嫌な匂いが強くなっている。特に、遠州鉄道の線路の向こう側……あちらの方角から、強い時の歪みが漂ってくる』
立花の表情が急に真剣になった。
「タロウ、それって……」
『あの忌々しい『消えた駅』の件と同じ匂いだ』
タロウが低く唸る。
「きさらぎ駅……」
ヴァルターが呟く。マンチェスターで立花から聞いた、現実には存在しないはずの駅の名前。
「ええ」
立花の表情が真剣になる。
「僕のデータ解析の結果、これは単なる都市伝説じゃありません。むしろ、何か意図的に作り出された『情報ブラックホール』みたいな現象です」
ヴァルターとイヴリンは顔を見合わせた。もう犬がしゃべることよりも、その犬が示している情報の方が重要になってきている。
「立花さん」
ヴァルターが慎重に切り出す。
「実は、僕たちがマンチェスターでお聞きした話……単なる都市伝説研究として興味を持ったわけではないんです」
「え?」
立花が首をかしげる。
イヴリンがもじもじと手をいじりながら、申し訳なさそうに口を開く。
「あの、お話しして、私たちのことを変だと思われるかもしれませんが……」
「今更です」
立花が苦笑いする。
「犬がしゃべってる時点で、変なことは何でも受け入れる準備ができました」
『その通りだ。今更何を言われても驚かんぞ』
タロウが尻尾を振る。
ヴァルターが深呼吸をして、ゆっくりと話し始めた。
「僕たちは……ヨーロッパで、ある連続した異常現象を調査しています。時間や空間の歪み、理論では説明のつかない現象の数々……」
「そして、その現象の痕跡が、日本の『きさらぎ駅』という都市伝説に酷似していることがわかったんです」
イヴリンが補足する。
「つまり……」
立花がゆっくりと理解を深めようとする。
「あなた方は、国際的な規模で発生している超常現象を追跡されている、ということですか?」
「そうです」
ヴァルターがうなずく。
「まだ仮説の段階ですが、これらの現象には共通する『何か』があると考えています」
『面白い』
タロウが尻尾をパタパタ振る。
『我の嗅覚と、貴様らの追跡が一致するとはな』
立花は少し考え込んでから、決意を込めて言った。
「分かりました。正直、犬がしゃべる時点で僕の常識は完全に崩壊しましたが……最近の浜松で起きている現象も、通常の都市伝説研究では説明がつかないんです」
彼は研究者らしい冷静さを保ちながら続けた。
「もしよろしければ、僕のデータと照らし合わせてみませんか? タロウの感知情報と組み合わせれば、何か見えてくるかもしれません」
「それは助かります」
ヴァルターが安堵の表情を見せる。
「正直、どこから手をつけていいかわからなかった」
「日本の都市伝説って、ヨーロッパの伝承とは全然違う性質を持ってるのね」
イヴリンが興味深そうに呟く。
「とりあえず、僕の研究室でデータをお見せします」
立花が言った。
「タロウが反応した地点をマッピングしてありますから、あなた方の調査と重なる部分があるかもしれません」
『その前に一つ確認だ』
タロウが二人を見上げる。
『貴様ら、犬は好きか?』
「え?」
イヴリンがきょとんとする。
『犬が好きなら、案内してやろう。嫌いなら……まあ、仕方なく案内してやろう』
「どっちでも一緒じゃないですか」
ヴァルターが苦笑いする。
『ふん、まあ良い。貴様らは我を驚かせはしたが、悪い奴らではなさそうだ』
タロウが得意げに胸を張りながら、先頭を歩き始める。
『さあ、ついてこい。この時風タロウ様が、貴様らを案内してやろう』
三人と一匹は、浜松駅の暑いコンクリートの上を歩き始めた。遠州地方の強い日差しの下で、彼らの新たな調査が始まろうとしていた。。
歩きながら、イヴリンがぽつりと呟く。
「まさか犬がしゃべる日が来るなんて……」
「僕たちの人生、予想がつかないことばかりですね」
ヴァルターが苦笑いする。
『心配するな。慣れればどうということはない』
タロウが振り返った。
『それより、焼き芋屋の件だが——』
「タロウ、今は仕事中です」
立花が慌てて制止する。
『つまらん男だ』
タロウが小さくため息をつきながら、それでも嬉しそうに尻尾を振って先を歩いていく。
この強烈な個性を持つ犬の導きで、彼らの謎解きの旅が本格的に始まろうとしていた。
「ありがとう、立花さん」
ヴァルターがたどたどしい日本語で言った。発音はまだぎこちないが、意味は通じている。
「思ったより暑いな、この国は」
「あら、お兄様、日本語頑張ってるのね」
イヴリンが微笑む。彼女の日本語はヴァルターよりもさらに片言だった。
「すみません、まだ勉強中で」
立花は二人の努力に微笑みながら答えた。
「いえいえ、十分伝わりますよ。飛行機の中で勉強されたんですね。ようこそ日本へ」
立花は軽く頭を下げた。ヴァルターとイヴリンの日本語は確かにたどたどしいが、基本的な会話はできるレベルまで達している。十数時間のフライトの間、相当集中して勉強したのだろう。
その足元に、白い毛玉のような小さな柴犬がちょこんと座っている。
「この子は?」
イヴリンが興味深そうに犬を見下ろす。
「時風タロウです。僕の相棒でして」
立花が微笑む。
「可愛いですね」
ヴァルターが犬を見下ろしたその時、頭の中に妙な感覚が走った。まるで誰かが脳裏で囁いているような——
「あれ? なんか変な感じが……」
ヴァルターが首をかしげる。
時風タロウがゆっくりと立ち上がり、ヴァルターとイヴリンを見上げた。その瞳には、普通の犬とは明らかに違う知性の光が宿っている。
そして次の瞬間——
『なんだ、この匂いは……貴様ら、ただの人間ではないな?』
明確な日本語が、ヴァルターの頭の中に響いた。
「!?」
ヴァルターが石のように固まった。
「……え?」
イヴリンも同じように硬直している。
二人は犬を見下ろし、犬は二人を見上げている。静寂が流れた。
『時の流れが、貴様らの周りだけ妙にねじれている。面白い』
また、はっきりとした声が聞こえた。
「…………」
「…………」
ヴァルターとイヴリンは顔を青ざめたまま、互いを見つめ合った。
「……お兄様」
「……うん」
「今、犬が」
「うん、話した」
「日本語で」
「うん、日本語で」
そして二人は同時に叫んだ。
「「犬がしゃべったああああああああ!!!」」
ヴァルターが後ろに飛び跳ねる。イヴリンが立花の後ろに隠れる。
「ちょっと待って! ちょっと待ってください!」
ヴァルターが両手をぶんぶん振り回した。
「今、確実に、この犬から声が聞こえました! 人間の言葉で! しかも流暢な日本語で!」
「お、お兄様……私にも聞こえた……確実に聞こえた……」
イヴリンが震え声で言う。
「犬が……犬がしゃべってる……これって、これって……ありえない! 絶対にありえない!」
『うるさい奴らだな』
タロウが耳をぺたんと倒す。
「うわああああ! また話した! 普通に話した!」
ヴァルターがぴょんぴょん跳ね回る。
「立花さん! 立花さん!」
イヴリンが立花の袖を引っ張る。
「これ、これどういうことですか?! 犬がしゃべるなんて、そんな……そんなことって……」
立花は二人のパニックぶりを見て、懐かしむような苦笑いを浮かべた。
「ああ……僕もまったく同じ反応でした」
「同じって!」
ヴァルターが立花を指差す。
「立花さん、これって普通のことなんですか?! 日本では犬がしゃべるのって普通なんですか?!」
「いえいえ、普通ではありません」
立花が慌てて手を振る。
「でも、タロウは特別で……」
『当然だ。我はただの犬ではない。時風タロウ様である』
タロウが誇らしげに胸を張る。
「きゃあああああ!」
イヴリンが立花の後ろに完全に隠れる。
「だ、だめ! 受け入れられない! 犬がしゃべるなんて受け入れられない!」
「これ、これ幻覚ですよね?」
ヴァルターが頭を抱える。
「時差ボケで頭がおかしくなってるんですよね? それか暑さで熱中症になってるとか……」
「残念ながら現実です」
立花が申し訳なさそうに答える。
「僕も最初は、自分が疲労で幻聴を聞いてるんだと思いました。病院にも行きました」
「病院!」
イヴリンが顔を出す。
「それで、お医者さんは何て?」
「『異常なし』でした。精神科でも『ストレスによる軽度の幻聴の可能性』と言われただけで……でも、タロウの言うことが現実と一致することが多くて……」
『その時の立花の顔と言ったら』
タロウがくつくつと笑うような仕草を見せる。
『真っ青になって「先生、犬の声が聞こえるんです」なんて言うものだから、医者も困り顔だったぞ』
「タロウ、その話は今しなくていいでしょ」
立花が苦笑いする。
「でも、本当なんです。最初は僕も絶対に信じられませんでした。犬がしゃべるなんて、おとぎ話の中だけの話だと思ってましたから」
「おとぎ話……」
ヴァルターが呟く。
「でも、確実に聞こえてる……僕たちには確実に……」
「あの、あの!」
イヴリンがおずおずと立花に尋ねる。
「もしかして、私たちにしか聞こえないとか……そういうことですか?」
「そうなんです」
立花がうなずく。
「タロウの声が聞こえる人は、何か特別な……感受性? のようなものを持っていることが多くて」
『正確に言うなら、我は時の流れの『ほころび』を嗅ぎ分けることができる』
タロウが説明口調になる。
『そして、そういう現象に敏感な者とは、心で会話することができる。この能力は生まれつきだが、使いこなすまでに相当苦労したぞ』
「つまり……」
ヴァルターがゆっくりと理解を深めようとする。
「僕たちがタロウの声を聞けるということは、僕たちにも何か特殊な……」
『その通りだ。貴様らからは普通の人間とは違う匂いがする』
タロウが断言する。
『特に、時間の流れに縛られていない匂いがするな』
ヴァルターとイヴリンは顔を見合わせた。
「お兄様……これって、偶然じゃないかも」
「ああ……僕たちがここに来たのも、このタイミングでこの犬と……タロウと出会ったのも」
『ふん、やっと理解したか』
タロウが得意げに鼻を鳴らす。
『貴様らが追っている『異常』……我もその匂いを嗅いでいる』
「え?」
立花がタロウを見下ろす。
『立花、貴様に言っていなかったが、最近嫌な匂いが強くなっている。特に、遠州鉄道の線路の向こう側……あちらの方角から、強い時の歪みが漂ってくる』
立花の表情が急に真剣になった。
「タロウ、それって……」
『あの忌々しい『消えた駅』の件と同じ匂いだ』
タロウが低く唸る。
「きさらぎ駅……」
ヴァルターが呟く。マンチェスターで立花から聞いた、現実には存在しないはずの駅の名前。
「ええ」
立花の表情が真剣になる。
「僕のデータ解析の結果、これは単なる都市伝説じゃありません。むしろ、何か意図的に作り出された『情報ブラックホール』みたいな現象です」
ヴァルターとイヴリンは顔を見合わせた。もう犬がしゃべることよりも、その犬が示している情報の方が重要になってきている。
「立花さん」
ヴァルターが慎重に切り出す。
「実は、僕たちがマンチェスターでお聞きした話……単なる都市伝説研究として興味を持ったわけではないんです」
「え?」
立花が首をかしげる。
イヴリンがもじもじと手をいじりながら、申し訳なさそうに口を開く。
「あの、お話しして、私たちのことを変だと思われるかもしれませんが……」
「今更です」
立花が苦笑いする。
「犬がしゃべってる時点で、変なことは何でも受け入れる準備ができました」
『その通りだ。今更何を言われても驚かんぞ』
タロウが尻尾を振る。
ヴァルターが深呼吸をして、ゆっくりと話し始めた。
「僕たちは……ヨーロッパで、ある連続した異常現象を調査しています。時間や空間の歪み、理論では説明のつかない現象の数々……」
「そして、その現象の痕跡が、日本の『きさらぎ駅』という都市伝説に酷似していることがわかったんです」
イヴリンが補足する。
「つまり……」
立花がゆっくりと理解を深めようとする。
「あなた方は、国際的な規模で発生している超常現象を追跡されている、ということですか?」
「そうです」
ヴァルターがうなずく。
「まだ仮説の段階ですが、これらの現象には共通する『何か』があると考えています」
『面白い』
タロウが尻尾をパタパタ振る。
『我の嗅覚と、貴様らの追跡が一致するとはな』
立花は少し考え込んでから、決意を込めて言った。
「分かりました。正直、犬がしゃべる時点で僕の常識は完全に崩壊しましたが……最近の浜松で起きている現象も、通常の都市伝説研究では説明がつかないんです」
彼は研究者らしい冷静さを保ちながら続けた。
「もしよろしければ、僕のデータと照らし合わせてみませんか? タロウの感知情報と組み合わせれば、何か見えてくるかもしれません」
「それは助かります」
ヴァルターが安堵の表情を見せる。
「正直、どこから手をつけていいかわからなかった」
「日本の都市伝説って、ヨーロッパの伝承とは全然違う性質を持ってるのね」
イヴリンが興味深そうに呟く。
「とりあえず、僕の研究室でデータをお見せします」
立花が言った。
「タロウが反応した地点をマッピングしてありますから、あなた方の調査と重なる部分があるかもしれません」
『その前に一つ確認だ』
タロウが二人を見上げる。
『貴様ら、犬は好きか?』
「え?」
イヴリンがきょとんとする。
『犬が好きなら、案内してやろう。嫌いなら……まあ、仕方なく案内してやろう』
「どっちでも一緒じゃないですか」
ヴァルターが苦笑いする。
『ふん、まあ良い。貴様らは我を驚かせはしたが、悪い奴らではなさそうだ』
タロウが得意げに胸を張りながら、先頭を歩き始める。
『さあ、ついてこい。この時風タロウ様が、貴様らを案内してやろう』
三人と一匹は、浜松駅の暑いコンクリートの上を歩き始めた。遠州地方の強い日差しの下で、彼らの新たな調査が始まろうとしていた。。
歩きながら、イヴリンがぽつりと呟く。
「まさか犬がしゃべる日が来るなんて……」
「僕たちの人生、予想がつかないことばかりですね」
ヴァルターが苦笑いする。
『心配するな。慣れればどうということはない』
タロウが振り返った。
『それより、焼き芋屋の件だが——』
「タロウ、今は仕事中です」
立花が慌てて制止する。
『つまらん男だ』
タロウが小さくため息をつきながら、それでも嬉しそうに尻尾を振って先を歩いていく。
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