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【第三章ー1】 龍を呼ぶ図形 (え?龍?そんなのが日本にいるの?)
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「はぁ~……」
ヴァルターは立花の研究室で思いっきりため息をついた。椅子にもたれかかって、天井を見上げている。
「まったく、今回結構頑張ったのに、時の魔女と理の幽霊は僕らに完全だんまりだよ」
「あはは、お兄様ってば拗ねてる~」
イヴリンはそんな兄を見てくすくす笑いながら、立花のタブレットで日本の都市伝説を読み漁っていた。鼻歌交じりで、実に楽しそうだ。
「♪~ふんふふ~ん、この『コトリバコ』って話、すっごく怖いのね~」
一方、時風タロウは部屋の隅で直立不動。耳をぴんと立てて、じっと何かに集中している。
「なんか、だいぶ議論してるみたい。タロウが完全に石像状態よ」
立花も困った顔をしていた。
「僕たちに聞こえない声での議論って困りますよね。話の筋道が見えないで、いきなり結論だけ言われても……仕事のやりがいが感じられないというか」
そう言いながら、ふと思い出したように振り返る。
「そういえばイヴリンさん、この前マッピングの時に何か言いかけてませんでした?」
「あ……えっとね」
イヴリンがタブレットから顔を上げる。
「実は、きさらぎ駅の発生ポイントをつないでみると、なんか星の形に見えるなって思ったの」
「星?」
「うん。でも、ほら、西洋と東洋って図形の意味が違うじゃない?だから、よくわからないわ」
立花が腕を組んで考え込む。
「星形……これ、もしかして五芒星のことじゃないでしょうか」
「ごぼうせい?」
イヴリンが首をかしげる。
「五芒星です。五つの点を持つ星形の図形。魔術では結構重要な意味を持つんですよ」
その時、ヴァルターがぱちんと手を叩いた。
「あ!そういえば紡ぎの魔女が言ってたな。『座標』がなんちゃらって」
『その通りじゃ、若者たちよ』
突然、理の幽霊の重厚な声が響いた。三人がびくっと肩を震わせる。
『奴らの目的は、人々の時や絶望を集めて自らの糧にするだけではない』
「え~?僕らの時間を取って食べるためじゃないの?」
ヴァルターがきょとんとした顔で尋ねる。
『今の奴らにとって、人間の『時』など取るに足らぬ軽食に過ぎぬ。時の眷属の血であろうと同じことじゃ。やつらは、もっと巨大な力を呼び出そうとしておる』
時の魔女の声も加わった。
『もっと説明が必要みたいね』
「どういうことなんですか?」
イヴリンが不安そうな顔で尋ねる。
『やつらは……龍を呼び出すつもりなのよ』
「えっ!?」
三人が同時に声を上げる。
「りゅ、龍って……まさか本当のドラゴンのことですか?」
イヴリンの声が裏返った。
その時、立花の顔がぱあっと明るくなった。
「あ!そうか!天竜川だ!」
「てんりゅうがわ?」
「僕たちの調査地点を地図で見てください!磐田の山奥、浜名湖の周辺、きさらぎ駅の場所……これ全部、天竜川を囲むように五芒星を作ってるんです!」
立花が興奮してタブレットを操作する。地図上に赤い点を結んだ線が、確かに星の形を描いている。
「しかも、天竜川の蛇行した形が……まるで龍が横たわってるみたいに見える!」
『立花よ、よくぞ気づいた』
理の幽霊の声に感心の色が混じる。
『やつらは天竜川を龍の形に「切り取って」おるのじゃ。あとは強力な術式を流し込んで、龍神を目覚めさせる算段よ』
「りゅ、龍神って……」
ヴァルターがごくりと唾を飲み込む。
「まさか本当のドラゴンが日本にいるってことですか?」
『日本では「龍神」と呼ばれておる』
理の幽霊の説明が続く。
『古来より、この国の大地と川に宿る強大な霊的存在じゃ。普段は深く眠っているが、一度目覚めれば……』
「一度目覚めたら、どうなるんですか?」
イヴリンが震え声で尋ねる。
『この国全体の時の流れが大きく歪む。人々の感情が龍に吸い上げられ、日本中が無気力と絶望に支配されるのじゃ』
「うわあ……」
『東の魔女の最終目的はそれよ』
時の魔女が続ける。
『龍神を完全に支配下に置いて、日本全土を「自分の補給源」に変えるつもりなの』
立花がタブレットをカタカタ操作しながら、青い顔で報告する。
「天竜川の流域の人口密度を計算すると……影響を受ける人の数は……」
「ど、どれぐらい?」
「静岡県だけで約370万人です。でも、龍神の力が本当なら……」
立花の手が震えている。
「日本全体……1億2000万人が……」
部屋がしんと静まり返った。
『だが、まだ希望はある』
時風タロウが突然口を開く。理の幽霊との通信がまだ続いているらしい。
『龍神を完全に目覚めさせるには、五芒星の各頂点で特別な儀式が必要なのじゃ。現在、きさらぎ駅の一点が破られたため、やつらは計画を練り直さねばならぬ』
「つまり、まだチャンスがあるってこと!?」
イヴリンがぱっと顔を明るくする。
『そうじゃ。しかし、やつらも必死になっておる。今度は格の違う相手が来るぞ』
「格の違うって……」
ヴァルターがごくりと唾を飲み込む。
「紡ぎの魔女よりも強い敵ってことですか?」
『東の魔女の四天王の一人、「水鏡の魔女」が動き出したとの情報が入った』
「水鏡の魔女……」
立花が慌ててタブレットで検索を始める。
「あ、ありました!日本の都市伝説に鏡関係のものがたくさん!『トイレの花子さん』『コトリバコ』『ひとりかくれんぼ』……全部鏡が関わってる!」
『その通りじゃ』
理の幽霊が重々しく説明する。
『水鏡の魔女は人の心を映し出し、最も恐れる幻覚を見せて精神を破綻させる恐ろしい存在じゃ』
一同がぞっとする。
「で、でも」
ヴァルターが震え声で言う。
「僕たちには時の魔女と理の幽霊がついてるし……」
その時だった。
ピロリロリロ~♪
突然、タブレットから警告音が鳴り響いた。
「うわあ!? なんですか、これ!?」
立花が慌てて画面を確認する。
「やばい! 異常値です! 浜名湖で巨大な時空間歪曲が発生してます!」
『始まったか』
時風タロウの声に緊張が走る。
『やつら、五芒星の別の頂点で儀式を開始したようじゃな』
「浜名湖……」
イヴリンがつぶやく。
「そこには何があるんですか?」
「館山寺温泉っていう有名な温泉街があります」
立花が説明する。
「でも、最近変な噂が……」
立花がさらに検索して、顔色を変える。
「『温泉に入ると鏡に自分じゃない誰かが映る』『知らない顔になっている』『湖の水面に亡くなった人が現れる』……」
「うわあ、完全に水鏡の魔女の仕業ね」
イヴリンがぶるっと身震いする。
『急がねば』
時の魔女の声が切迫している。
『このままでは浜名湖が「絶望の大鏡」と化してしまう。そうなれば、静岡県西部の人々が一斉に……』
立花がさらにタブレットを操作して、最新ニュースを確認する。その顔が見る見る青ざめていく。
「これ……やばいです……」
立花が震え声で読み上げる。
「『浜名湖で集団失踪事件発生 温泉客20人が謎の失踪』……警察も自衛隊も出動してるけど、手がかりが全然つかめないって……」
「に、20人……」
ヴァルターが絶句する。
「しかも、この記事によると……」
立花が震え声で続ける。
「失踪する直前、みんな温泉の鏡を見つめて、にこにこ笑っていたって……」
『水鏡の魔女め、本格的に動き出したか』
理の幽霊の声に怒りが混じる。
『あやつの幻術にかかった者は、現実と幻想の区別がつかなくなる。そして最終的には……』
「最終的には?」
『魂を鏡の世界に閉じ込められ、永遠に幻覚の迷宮を彷徨うことになる』
また重い静寂が部屋を支配した。
立花が震え声でつぶやく。
「つまり、20人の人たちは……もう……」
「まだ間に合う!」
ヴァルターがばん!と立ち上がった。
「水鏡の魔女を倒せば、魂を取り戻せるんでしょう?」
『理論上はそうじゃが……』
理の幽霊が心配そうに言う。
『しかし水鏡の魔女は紡ぎの魔女とは格が違う。東の魔女の四天王の一人じゃぞ』
「それでも、やるしかないわ!」
イヴリンもすっくと立ち上がる。
「あの人たちを見捨てるなんて、絶対にできない!」
四人と一匹は急いで準備を始めた。
ヴァルターが聖遺物をチェックし、イヴリンが地図を確認する。立花はタブレットに最新データをダウンロードして、時風タロウは……
『おい、立花』
タロウが急にきらきら目を輝かせた。
『浜名湖といえば、名物の鰻があるじゃろう?』
「タロウ!今はそんな場合じゃないでしょ!」
『戦いの前の腹ごしらえは重要じゃ!それに……』
タロウがちょっぴり寂しそうな顔をした。
『もしかしたら、これが最後の美味しい食事になるかもしれんからのう……』
その言葉に、一同がしんみりしてしまった。
確かに今回の敵は、今までとは格が違う。
「でも!」
イヴリンがぱっと明るい声を出す。
「私たちが絶対勝って、みんなでお祝いの鰻丼を食べましょう!タロウの分も特大サイズで!」
『おお!その言葉、絶対に忘れるなよ!』
タロウが嬉しそうにぱたぱた尻尾を振った。
夕日が差し込む研究室で、四人と一匹は出発の準備を整える。
窓の外では、静岡県警のヘリコプターがばたばたと慌ただしく飛び交っている。
テレビからは「浜名湖周辺に避難勧告発令」「原因不明の集団失踪事件」の報道が次々と流れている。
『時の魔女よ』
理の幽霊が静かに語りかける。
『今回ばかりは、我らの力だけでは不十分かもしれん』
『わかってる』
時の魔女の声も重い。
『でも、あの子たちを信じましょう。ヴァルターとイヴリン、そして立花と時風タロウ……この絆こそが、最強の武器よ』
立花がタブレットをぱちんと閉じた。
「準備完了です!浜名湖まで車で約40分!」
「よし、行こう!」
ヴァルターが先頭に立つ。
「20人の人たちを助けて、龍の復活を絶対に阻止する!」
「そうね!」
イヴリンがきゅっと鈴を握りしめる。
「今度こそ、東の魔女の野望を完全に打ち砕いてやるわ!」
『その意気じゃ!』
時風タロウがわんわん鳴く。
『浜名湖の鰻のためにも、絶対に負けられんな!』
「タロウ、まだ鰻のこと考えてるの?」
立花が苦笑いする。
『当然じゃ!美味しいもののためなら、どんな魔女だって倒してやる!』
一行は研究室を出て、夕闇が迫る浜松の街へ向かった。
遠くの空で、浜名湖の方角に不気味な光がちらちらと明滅している。
水鏡の魔女との戦いが、ついに始まろうとしていた。
そして、龍神復活を阻止する戦いの第二幕が、いよいよ幕を開ける——。
「さあ、行きましょう!」
イヴリンがくるりと振り返る。
「次は、鏡の中の悪夢との戦いよ!」
四人と一匹の影が、夕日にながーく伸びていく。
新たな戦いへ向かう彼らを、時の魔女と理の幽霊が静かに見守っていた。
浜名湖で待ち受ける恐怖は、今までとは全く違う性質のものだった。
そこでは現実と幻想の境界がぐにゃぐにゃに歪み、心の奥底の恐怖がむくむくと実体化する——。
果たして、四人と一匹は水鏡の魔女の恐ろしい幻術を打ち破ることができるのか?
そして、20人の失踪者たちの魂を、無事に救い出すことはできるのか?
次なる戦いが、いま始まろうとしていた!
ヴァルターは立花の研究室で思いっきりため息をついた。椅子にもたれかかって、天井を見上げている。
「まったく、今回結構頑張ったのに、時の魔女と理の幽霊は僕らに完全だんまりだよ」
「あはは、お兄様ってば拗ねてる~」
イヴリンはそんな兄を見てくすくす笑いながら、立花のタブレットで日本の都市伝説を読み漁っていた。鼻歌交じりで、実に楽しそうだ。
「♪~ふんふふ~ん、この『コトリバコ』って話、すっごく怖いのね~」
一方、時風タロウは部屋の隅で直立不動。耳をぴんと立てて、じっと何かに集中している。
「なんか、だいぶ議論してるみたい。タロウが完全に石像状態よ」
立花も困った顔をしていた。
「僕たちに聞こえない声での議論って困りますよね。話の筋道が見えないで、いきなり結論だけ言われても……仕事のやりがいが感じられないというか」
そう言いながら、ふと思い出したように振り返る。
「そういえばイヴリンさん、この前マッピングの時に何か言いかけてませんでした?」
「あ……えっとね」
イヴリンがタブレットから顔を上げる。
「実は、きさらぎ駅の発生ポイントをつないでみると、なんか星の形に見えるなって思ったの」
「星?」
「うん。でも、ほら、西洋と東洋って図形の意味が違うじゃない?だから、よくわからないわ」
立花が腕を組んで考え込む。
「星形……これ、もしかして五芒星のことじゃないでしょうか」
「ごぼうせい?」
イヴリンが首をかしげる。
「五芒星です。五つの点を持つ星形の図形。魔術では結構重要な意味を持つんですよ」
その時、ヴァルターがぱちんと手を叩いた。
「あ!そういえば紡ぎの魔女が言ってたな。『座標』がなんちゃらって」
『その通りじゃ、若者たちよ』
突然、理の幽霊の重厚な声が響いた。三人がびくっと肩を震わせる。
『奴らの目的は、人々の時や絶望を集めて自らの糧にするだけではない』
「え~?僕らの時間を取って食べるためじゃないの?」
ヴァルターがきょとんとした顔で尋ねる。
『今の奴らにとって、人間の『時』など取るに足らぬ軽食に過ぎぬ。時の眷属の血であろうと同じことじゃ。やつらは、もっと巨大な力を呼び出そうとしておる』
時の魔女の声も加わった。
『もっと説明が必要みたいね』
「どういうことなんですか?」
イヴリンが不安そうな顔で尋ねる。
『やつらは……龍を呼び出すつもりなのよ』
「えっ!?」
三人が同時に声を上げる。
「りゅ、龍って……まさか本当のドラゴンのことですか?」
イヴリンの声が裏返った。
その時、立花の顔がぱあっと明るくなった。
「あ!そうか!天竜川だ!」
「てんりゅうがわ?」
「僕たちの調査地点を地図で見てください!磐田の山奥、浜名湖の周辺、きさらぎ駅の場所……これ全部、天竜川を囲むように五芒星を作ってるんです!」
立花が興奮してタブレットを操作する。地図上に赤い点を結んだ線が、確かに星の形を描いている。
「しかも、天竜川の蛇行した形が……まるで龍が横たわってるみたいに見える!」
『立花よ、よくぞ気づいた』
理の幽霊の声に感心の色が混じる。
『やつらは天竜川を龍の形に「切り取って」おるのじゃ。あとは強力な術式を流し込んで、龍神を目覚めさせる算段よ』
「りゅ、龍神って……」
ヴァルターがごくりと唾を飲み込む。
「まさか本当のドラゴンが日本にいるってことですか?」
『日本では「龍神」と呼ばれておる』
理の幽霊の説明が続く。
『古来より、この国の大地と川に宿る強大な霊的存在じゃ。普段は深く眠っているが、一度目覚めれば……』
「一度目覚めたら、どうなるんですか?」
イヴリンが震え声で尋ねる。
『この国全体の時の流れが大きく歪む。人々の感情が龍に吸い上げられ、日本中が無気力と絶望に支配されるのじゃ』
「うわあ……」
『東の魔女の最終目的はそれよ』
時の魔女が続ける。
『龍神を完全に支配下に置いて、日本全土を「自分の補給源」に変えるつもりなの』
立花がタブレットをカタカタ操作しながら、青い顔で報告する。
「天竜川の流域の人口密度を計算すると……影響を受ける人の数は……」
「ど、どれぐらい?」
「静岡県だけで約370万人です。でも、龍神の力が本当なら……」
立花の手が震えている。
「日本全体……1億2000万人が……」
部屋がしんと静まり返った。
『だが、まだ希望はある』
時風タロウが突然口を開く。理の幽霊との通信がまだ続いているらしい。
『龍神を完全に目覚めさせるには、五芒星の各頂点で特別な儀式が必要なのじゃ。現在、きさらぎ駅の一点が破られたため、やつらは計画を練り直さねばならぬ』
「つまり、まだチャンスがあるってこと!?」
イヴリンがぱっと顔を明るくする。
『そうじゃ。しかし、やつらも必死になっておる。今度は格の違う相手が来るぞ』
「格の違うって……」
ヴァルターがごくりと唾を飲み込む。
「紡ぎの魔女よりも強い敵ってことですか?」
『東の魔女の四天王の一人、「水鏡の魔女」が動き出したとの情報が入った』
「水鏡の魔女……」
立花が慌ててタブレットで検索を始める。
「あ、ありました!日本の都市伝説に鏡関係のものがたくさん!『トイレの花子さん』『コトリバコ』『ひとりかくれんぼ』……全部鏡が関わってる!」
『その通りじゃ』
理の幽霊が重々しく説明する。
『水鏡の魔女は人の心を映し出し、最も恐れる幻覚を見せて精神を破綻させる恐ろしい存在じゃ』
一同がぞっとする。
「で、でも」
ヴァルターが震え声で言う。
「僕たちには時の魔女と理の幽霊がついてるし……」
その時だった。
ピロリロリロ~♪
突然、タブレットから警告音が鳴り響いた。
「うわあ!? なんですか、これ!?」
立花が慌てて画面を確認する。
「やばい! 異常値です! 浜名湖で巨大な時空間歪曲が発生してます!」
『始まったか』
時風タロウの声に緊張が走る。
『やつら、五芒星の別の頂点で儀式を開始したようじゃな』
「浜名湖……」
イヴリンがつぶやく。
「そこには何があるんですか?」
「館山寺温泉っていう有名な温泉街があります」
立花が説明する。
「でも、最近変な噂が……」
立花がさらに検索して、顔色を変える。
「『温泉に入ると鏡に自分じゃない誰かが映る』『知らない顔になっている』『湖の水面に亡くなった人が現れる』……」
「うわあ、完全に水鏡の魔女の仕業ね」
イヴリンがぶるっと身震いする。
『急がねば』
時の魔女の声が切迫している。
『このままでは浜名湖が「絶望の大鏡」と化してしまう。そうなれば、静岡県西部の人々が一斉に……』
立花がさらにタブレットを操作して、最新ニュースを確認する。その顔が見る見る青ざめていく。
「これ……やばいです……」
立花が震え声で読み上げる。
「『浜名湖で集団失踪事件発生 温泉客20人が謎の失踪』……警察も自衛隊も出動してるけど、手がかりが全然つかめないって……」
「に、20人……」
ヴァルターが絶句する。
「しかも、この記事によると……」
立花が震え声で続ける。
「失踪する直前、みんな温泉の鏡を見つめて、にこにこ笑っていたって……」
『水鏡の魔女め、本格的に動き出したか』
理の幽霊の声に怒りが混じる。
『あやつの幻術にかかった者は、現実と幻想の区別がつかなくなる。そして最終的には……』
「最終的には?」
『魂を鏡の世界に閉じ込められ、永遠に幻覚の迷宮を彷徨うことになる』
また重い静寂が部屋を支配した。
立花が震え声でつぶやく。
「つまり、20人の人たちは……もう……」
「まだ間に合う!」
ヴァルターがばん!と立ち上がった。
「水鏡の魔女を倒せば、魂を取り戻せるんでしょう?」
『理論上はそうじゃが……』
理の幽霊が心配そうに言う。
『しかし水鏡の魔女は紡ぎの魔女とは格が違う。東の魔女の四天王の一人じゃぞ』
「それでも、やるしかないわ!」
イヴリンもすっくと立ち上がる。
「あの人たちを見捨てるなんて、絶対にできない!」
四人と一匹は急いで準備を始めた。
ヴァルターが聖遺物をチェックし、イヴリンが地図を確認する。立花はタブレットに最新データをダウンロードして、時風タロウは……
『おい、立花』
タロウが急にきらきら目を輝かせた。
『浜名湖といえば、名物の鰻があるじゃろう?』
「タロウ!今はそんな場合じゃないでしょ!」
『戦いの前の腹ごしらえは重要じゃ!それに……』
タロウがちょっぴり寂しそうな顔をした。
『もしかしたら、これが最後の美味しい食事になるかもしれんからのう……』
その言葉に、一同がしんみりしてしまった。
確かに今回の敵は、今までとは格が違う。
「でも!」
イヴリンがぱっと明るい声を出す。
「私たちが絶対勝って、みんなでお祝いの鰻丼を食べましょう!タロウの分も特大サイズで!」
『おお!その言葉、絶対に忘れるなよ!』
タロウが嬉しそうにぱたぱた尻尾を振った。
夕日が差し込む研究室で、四人と一匹は出発の準備を整える。
窓の外では、静岡県警のヘリコプターがばたばたと慌ただしく飛び交っている。
テレビからは「浜名湖周辺に避難勧告発令」「原因不明の集団失踪事件」の報道が次々と流れている。
『時の魔女よ』
理の幽霊が静かに語りかける。
『今回ばかりは、我らの力だけでは不十分かもしれん』
『わかってる』
時の魔女の声も重い。
『でも、あの子たちを信じましょう。ヴァルターとイヴリン、そして立花と時風タロウ……この絆こそが、最強の武器よ』
立花がタブレットをぱちんと閉じた。
「準備完了です!浜名湖まで車で約40分!」
「よし、行こう!」
ヴァルターが先頭に立つ。
「20人の人たちを助けて、龍の復活を絶対に阻止する!」
「そうね!」
イヴリンがきゅっと鈴を握りしめる。
「今度こそ、東の魔女の野望を完全に打ち砕いてやるわ!」
『その意気じゃ!』
時風タロウがわんわん鳴く。
『浜名湖の鰻のためにも、絶対に負けられんな!』
「タロウ、まだ鰻のこと考えてるの?」
立花が苦笑いする。
『当然じゃ!美味しいもののためなら、どんな魔女だって倒してやる!』
一行は研究室を出て、夕闇が迫る浜松の街へ向かった。
遠くの空で、浜名湖の方角に不気味な光がちらちらと明滅している。
水鏡の魔女との戦いが、ついに始まろうとしていた。
そして、龍神復活を阻止する戦いの第二幕が、いよいよ幕を開ける——。
「さあ、行きましょう!」
イヴリンがくるりと振り返る。
「次は、鏡の中の悪夢との戦いよ!」
四人と一匹の影が、夕日にながーく伸びていく。
新たな戦いへ向かう彼らを、時の魔女と理の幽霊が静かに見守っていた。
浜名湖で待ち受ける恐怖は、今までとは全く違う性質のものだった。
そこでは現実と幻想の境界がぐにゃぐにゃに歪み、心の奥底の恐怖がむくむくと実体化する——。
果たして、四人と一匹は水鏡の魔女の恐ろしい幻術を打ち破ることができるのか?
そして、20人の失踪者たちの魂を、無事に救い出すことはできるのか?
次なる戦いが、いま始まろうとしていた!
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