僕たちは永遠の時を与えられたので訳アリ魔女を倒してまわることにした

ぜろのいち

文字の大きさ
13 / 19

【第三章―3】牢獄からの脱出(ちょっとヤバイ代償も払ってしまいました)

しおりを挟む
水底の街は、想像以上に不気味だった。
足音がぽちゃぽちゃと水音になり、息をするたびに小さな泡がぷくぷくと浮いていく。でも不思議と息苦しさはない。
「最初の救出、あの女性から行きましょう」
立花が一番近くにいる迷い人を指差す。二十代くらいの女性で、手には結婚指輪がきらりと光っている。きっと結婚式の日の記憶に囚われているのだろう。
童子がひらりと女性の前に現れ、写真立てをひらひらと振った。中には幸せそうな結婚式の写真。
でも立花は、すっと前に出た。
「田中美咲さん!」
はっきりと、フルネームで呼びかける。
女性がぴくりと反応した。夢見るような表情に、わずかなひびが入る。
その瞬間、イヴリンが鈴を鳴らす。
チリーン……
「私は……私は本当に幸せ?」
女性の本心の声がぽろりと漏れた。
「結婚してから、夫は私を大切にしてくれない。でも、あの日だけは……あの日だけは愛されてた……」
童子の白い面に、ぴしりとひびが入った。
『今じゃ!』
タロウがぱくりと童子に噛みついた。面が割れて、中から濡れた紙のような生き物がにゅるりと這い出す。
「うげ」
それは紙魚のような虫だったが、べとべとに濡れていて気持ち悪い。タロウがもう一度がぶりと噛むと、ぽふんと光って消えた。
女性の目に、ゆっくりと意識が戻る。
「あ、あれ? ここは……」
「大丈夫です。すぐに外に出しますから」
立花が優しく声をかけながら、女性を鏡の出口へと導いた。
「一人成功……」
でも、その時だった。
水底の街全体が、ごぼごぼと音を立て始めた。水位が少しずつ上がっている。
「三人救出するごとに水位上昇のリスクって、これのことね……」
イヴリンが不安そうに呟く。
「急がないと、私たちも溺れちゃう」
救出作業は続いた。
二人目は中年のサラリーマン。大学受験に成功した日の記憶。
三人目は高校生の男の子。初恋の人と付き合い始めた日の記憶。
立花が名前を呼び、イヴリンが鈴を鳴らし、タロウが童子を祓う。同じ手順の繰り返し。
でも、三人目を救出した瞬間——
ごぼごぼごぼ!
水位が一気に上昇した。今度は膝の高さまで水が来ている。
「やばい、このペースだと……」
立花が残りの迷い人を見回す。あと十七人。でも、このまま行けば途中で水位が胸まで上がってしまう。
「全員は救えないかもしれない……」
その時、水底の街の奥から、ぞっとする笑い声が響いた。
「あははは……よくここまで来たわね、小さな英雄さんたち」
巨大な鏡が、ゆらりと空中に浮かび上がった。その中から現れたのは、水鏡の魔女だった。
全身が鏡の破片で覆われた女性の姿。でも、その鏡の一枚一枚に、囚われた魂の顔が映っている。
「でも、ここからが本当の試練よ? あなたたちの心の奥底にある『一番見たくないもの』を、たっぷりと見せてあげましょうね」
魔女が指を鳴らすと、立花の前に巨大な鏡が現れた。
 * * *
「これは……」
立花が息を呑んだ。
鏡に映っているのは、研究室でデータと睨めっこしている自分の姿だった。でも、その周りには泣いている人たちがいる。
「助けて」「なんとかして」「お願いします」
しかし、鏡の中の立花は、まったく振り返らない。データばかり見つめて、目の前の人の苦しみを無視している。
「君はね」
鏡の中の自分が、冷たい声で言った。
「結局、観測者でしかないのよ。データを集めて、分析して、論文を書いて。でも実際に人を救うことなんて、一度もしたことがない」
「そ、そんなことは……」
「あるじゃない。今だって、二十人全員を救えないって分かった瞬間、『仕方がない』って諦めかけた」
立花の顔が青ざめる。確かに、その通りだった。
「君は安全な場所から眺めているだけ。本当に大切な時に、本当に必要な時に、何もできない傍観者よ」
「違う……」
でも立花の声は震えていた。
その時、イヴリンの前にも鏡が現れた。
「きゃあ!」
鏡に映ったのは、燃える森だった。
幼い頃のイヴリン。炎に包まれた村で、一人の少女が助けを求めて手を伸ばしている。
「イヴリン、助けて!」
でも、幼いイヴリンは怖くて動けない。ただ立ち尽くすだけ。
「結局ね」
鏡の中の少女が、恨めしそうに言った。
「あなたはいつも、大切な時に何もできない。口では『助ける』って言うけど、本当に危険が迫ると逃げ出すのよ」
「そんな……」
イヴリンの目に涙が浮かぶ。
「今だって、本当は怖いんでしょう? 魔女と戦うなんて、本当は嫌なんでしょう?」
一方、外で拍子を管理していたヴァルターも、異変に気づいていた。
懐中時計を握る右手に、激しい痛みが走る。まるで焼けた鉄を押し当てられたような熱さ。
「うっ……」
右手を見ると、手の甲に複雑な紋様が浮かび上がっていた。それは永遠の時を燃料として使った証——封印の刻印だった。
『代償が現れたか』
時の魔女の声が頭に響く。
『永遠の時を魔術の燃料にするたび、あなたの身体にその痕跡が残る。やがて、その痛みは……』
「やがて、どうなる?」
『やがて、あなた自身が時の流れから切り離される。完全に』
ヴァルターの顔が青ざめる。
『でも、まだ選択肢はある。今、諦めれば痛みは和らぐ。永遠の時を燃やすのをやめれば、刻印の進行も止まる』
洗面所の鏡から、仲間たちの苦しむ声が聞こえてくる。
「助けて……」「もう無理……」
でも、右手の痛みは我慢の限界を超えていた。まるで手首から先が溶けてしまいそうな激痛。
『どうする、ヴァルター?』
時の魔女が問いかける。
『仲間を見捨てれば、痛みは消える。でも……』
「でも、それじゃあ俺じゃない」
ヴァルターが歯を食いしばった。
「痛くたって……痛くたって、やるしかないだろ!」
懐中時計を強く握りしめる。刻印がさらに深く刻まれ、痛みが倍増する。
でも、BGMの拍はより正確に、より強力になった。
 * * *
鏡界では、立花が震える声で反論していた。
「違う……観測は、介入の始まりなんだ」
鏡の中の自分が嘲笑う。
「きれいごとね」
「きれいごとじゃない!」
立花が声を張り上げた。
「データを集めるのは、現実を変えるため。分析するのは、解決策を見つけるため。僕は……僕は確かに観測者かもしれない。でも、観測しなければ何も始まらない!」
その瞬間、鏡にひびが入った。
「田中美咲さんの本当の気持ちを聞けたのも、観察があったからだ。佐藤太郎さんの苦しみを理解できたのも、分析があったからだ」
ばりん!
鏡が砕け散る。
同時に、イヴリンも叫んでいた。
「そう、私は怖い!」
鏡の中の少女が驚く。
「でも、怖いからって逃げるわけじゃない! 弱いからって、何もしないわけじゃない!」
イヴリンが鈴を高く掲げる。
「私は弱虫よ! 泣き虫よ! でも、それでも! それでも大切な人を守りたいの!」
チリーン!
鈴の音が響くと、イヴリンの鏡も砕けた。
水鏡の魔女が舌打ちする。
「小賢しい……でも、まだ迷い人は残ってるわよ。水位はどんどん上がってる。さあ、どうするの? 全員を救えるかしら?」
確かに、水位は腰の高さまで上がっていた。残りの救出者は十四人。このペースでは、途中で溺れてしまう。
その時、立花が決意を固めた表情で言った。
「全員救います」
「無理よ。物理的に不可能」
「いえ、方法があります」
立花がタブレットをぽちぽち操作する。
「救出の効率を上げるんです。一人ずつじゃなく、複数同時に」
「でも、それじゃあリスクが……」
「僕が全員の名前を覚えました。一気に呼びかけます」
立花が深呼吸をして、大きな声で叫んだ。
「田中美咲さん! 佐藤太郎さん! 山田花子さん! 鈴木一郎さん!……」
二十人全員の名前を、一気に呼び上げる。
イヴリンも鈴を思い切り鳴らした。
チリリリリリ—————————!
すべての童子の面が、いっせいに割れ始める。
『我も負けておれん!』
タロウが理の縄を振り回し、童子たちをまとめて祓い始めた。
「そんな……そんな無茶な……!」
水鏡の魔女が慌てる。
でも、作戦は成功した。
迷い人たち全員が、いっせいに意識を取り戻し始める。
「ありがとうございました……」
「助かりました……」
感謝の声があちこちから聞こえる中、立花の顔には満足の笑みが浮かんでいた。
「観察者から介入者になれた……」
イヴリンも鈴を握りしめながら、嬉しそうに笑う。
「弱くても、できることはあるのね」
そして外では、ヴァルターが右手の激痛に耐えながら、仲間たちの成功を確信していた。
「よくやった、みんな……」
刻印はさらに深くなったが、それでも彼は後悔していなかった。
大切な人を守るためなら、どんな代償も惜しくない——それが、ヴァルター・ハインリヒソンという男だった。
 * * *
水鏡の魔女が歯ぎしりをした。
「小賢しい人間どもめ……だが、これで終わりと思うな!」
魔女の身体が、ぐにゃりと溶け始めた。そして、水底の街全体が崩れ始める。
「外に出るぞ!」
立花が叫ぶ。救出した人々を引き連れて、一行は急いで鏡の出口へ向かった。
タロウが理の縄を引っ張ると、まっすぐに現世へと続く光の道が現れる。
「みんな、こっちよ!」
イヴリンが人々を誘導する。
一人、また一人と、鏡の向こうから旅館の洗面所へと帰っていく。そして最後に——
ぽん!
三人と一匹が、洗面所に飛び出した。
「みんな、無事か!」
ヴァルターが右手を押さえながら駆け寄る。
「お兄様……手、大丈夫?」
イヴリンが心配そうに兄を見つめる。ヴァルターの右手は真っ赤に腫れ、複雑な刻印がくっきりと浮かんでいた。
「大丈夫だ。それより、魔女は……」
その時だった。
旅館全体が、ぐらぐらと揺れ始めた。
そして窓の外——浜名湖の湖面に、巨大な何かがぽっかりと浮かび上がった。
「うわあああああ!」
直径二十メートルはある巨大な鏡。それが湖面にぷかぷかと浮いている。
そして、その鏡の中から現れたのは——
「ついに本気を出す時が来たわね」
水鏡の魔女の真の姿だった。
全身が鏡の鱗で覆われた、龍のような巨大な化け物。一枚一枚の鱗に、今まで囚われた人々の魂が映っている。
「あの鱗……一枚が一つの魂……」
立花が息を呑む。
ドンドンドン……ドンドンドン……
どこからか、巨大な太鼓の音が響き始めた。まるで巨人の心拍のような、ゆっくりとした重低音。
「湖上決戦か」
ヴァルターが懐中時計を握りしめる。刻印の痛みが激しくなるが、もう後には引けない。
「よし、作戦を変更する」
立花がタブレットをぱたぱた操作する。
「きさらぎ駅の座標が失われた分、旅館の鏡群を仮の頂点として位相バイパスを作ります。五芒星の力を一時的に復活させるんです」
『理の縄で主鏡の外周を固定するぞ』
タロウが決意を固める。
『あの化け物の動きを封じる』
「僕は心拍太鼓の逆相干渉で、無拍地帯を作り出す」
ヴァルターが右手の痛みを我慢しながら言った。
「イヴリン、君は……」
「鈴の倍音を三段階に分けるのね。共鳴、共振、共滅……最後に鱗の魂を剥がしてみせる」
イヴリンがぎゅっと鈴を握る。
四人と一匹は、旅館の屋上へと向かった。そこから湖心の主鏡がよく見える。
 * * *
夜の浜名湖。月明かりに照らされた湖面に、巨大な鏡がゆらゆらと浮かんでいる。
その上に立つ水鏡の魔女は、もはや人間の姿を留めていなかった。全身鱗だらけの龍人の姿で、背中には鏡でできた翼がきらきらと光っている。
「さあ、始めましょうか」
立花がタブレットから術札を取り出し、旅館のあちこちに貼り始める。洗面所の鏡、廊下の姿見、客室の化粧台——すべての鏡を一つの巨大な術式として繋げていく。
「位相バイパス、起動!」
ぱぁっと旅館全体が光った。五芒星の欠けた頂点が、一時的に補完される。
その瞬間——
『行くぞ!』
タロウが屋上から大きくジャンプした。理の縄を口にくわえて、まるで忍者のように空中を飛ぶ。
着地すると同時に、主鏡の周りを駆け始める。理の縄がぐるぐると鏡の縁に絡みついていく。
「何を……」
水鏡の魔女が困惑する。だが、縄が一周するごとに、魔女の動きが鈍くなっていく。
「なるほど……『理の縄』で物理法則を固定してるのか」
ヴァルターが感心しながら、懐中時計を操作する。
「今度は僕の番だ」
クロノス・パルスが激しく光ると、太鼓の音にずれが生じ始めた。
ドンドンドン……が、ドンズンドン……になり、やがてドズンンド……と完全にリズムが崩れる。
「時間の拍が狂っている」
魔女の周りに、ふわりと無重力空間が生まれた。鏡の鱗がぱらぱらと宙に浮き始める。
「今だ、イヴリン!」
イヴリンが鈴を高く掲げた。
チリーン……
最初は一つの音色。でも、すぐに音が分裂し始める。
チリリーン、チリリリーン、チリリリリリーン……
倍音が三段階に分かれて、複雑なハーモニーを奏でる。
「共鳴……」
主鏡の表面に、さざ波のような波紋が広がる。
「共振……」
波紋がどんどん大きくなり、魔女の鱗と同じ周波数で震え始める。
「共滅!」
最後の音が響くと、魔女の鱗がぽろぽろと剥がれ始めた。一枚剥がれるごとに、囚われた魂が光となって解放される。
「そんな……そんな馬鹿な」
魔女が悲鳴を上げる。
でも、まだ終わりじゃない。魔女の本体は鏡の中に隠れている。
「プリズム欠片、今よ!」
立花が小さな水晶の欠片を取り出した。それは以前砕けたアストラル・プリズムの破片だった。
「これを核にして、逆位相の結晶を育てます!」
欠片が光ると、魔女の鏡殻の内側から、きらきらとした結晶が成長し始める。
「内側から鏡を割るのか……」
でも、最後の仕上げには、もう一度永遠の時が必要だった。
ヴァルターが懐中時計を握りしめる。右手の刻印が、めらめらと炎のように熱くなる。
「うっ……」
『やめておけ、ヴァルター』
時の魔女の声が心に響く。
『これ以上続けると、本当に取り返しがつかなくなる』
でも、ヴァルターは首を横に振った。
「みんなを守るためなら……」
「お兄様!」
イヴリンが慌てて駆け寄る。
「そんなに自分を犠牲にしないで!」
「大丈夫だ、イヴリン」
ヴァルターが妹に微笑みかける。
「俺たちは永遠の時を生きてるんだろ? 少しぐらい使ったって……」
そう言いながら、懐中時計に最後の力を注ぎ込んだ。
ばきばきばき!
主鏡が内側から砕け始める。逆位相結晶が鏡殻を完全に破壊したのだ。
「ぎゃああああああああ!」
水鏡の魔女が最後の悲鳴を上げて、光の粒子となって散っていく。
同時に、ヴァルターの右手の刻印が、さらに複雑な模様に変化した。痛みも倍増している。
「これで……終わりか」
 * * *
戦いが終わると、旅館の各鏡から失踪者たちがぽんぽんと吐き出されてきた。
でも皆、妙な症状を見せている。
「あれ? 目が……」
失踪者の瞳孔が、一瞬だけ上下逆さまになる。まるで鏡に映った目玉のように。
「逆さ瞳の後遺症ですね」
立花が確認する。
「でも、イヴリンさんの鈴で治せるはずです」
イヴリンがそっと鈴を鳴らすと、失踪者たちの瞳が正常に戻る。
「ありがとうございました……」
「本当に、ありがとう……」
感謝の声があちこちから聞こえる中、立花は救出者の家族に連絡を取り始めた。
「観測から介入へ……ちゃんと最後まで責任を持たないと」
立花の研究が、血の通った人間性を獲得した瞬間だった。
一方、浜名湖の湖底からは、きらきらと光る粉のようなものが舞い上がっていた。
「あれは……」
『龍神の鱗粉じゃな』
タロウが不安そうに呟く。
『やつらの儀式で、龍神の力が少しずつ目覚めておる。あの粉は天竜川の方へ流れていくぞ』
確かに、光る粉はゆらゆらと天竜川の方角へ向かって漂っていく。
「龍復活のゲージが進んでるってことね……」
イヴリンがため息をつく。
立花がタブレットで地図を更新する。
「五芒星の残り三点の座標も判明しました。秋葉山本宮周辺、二俣城跡、それから佐久間ダム周辺……すべて水脈と信仰と交通の結節点です」
「東の魔女の四天王も、あと二人残ってるのね」
「香炉の魔女と紙縒りの魔女……」
ヴァルターが右手を見つめる。刻印はさらに深く刻まれ、まるで古代の呪文のような複雑な模様になっている。
『でも、今回の勝利は大きいぞ』
タロウがぱたぱたと尻尾を振る。
『それより……約束の鰻はまだか?』
「あ、そうだった!」
イヴリンがぱっと明るい顔になる。
「タロウ、約束通り特大よ!」
四人と一匹は、浜名湖名物の鰻屋に向かった。遅くまで営業している老舗の鰻屋で、湯気のたつ鰻重を囲む。
「乾杯!」
「かんぱ~い!」
勝利の祝祭。でも、ヴァルターだけは右手をテーブルの下に隠している。
「お兄様……」
イヴリンがそっと兄の手を見る。刻印の痛みで、ヴァルターの顔が時々歪むのに気づいている。
「大丈夫だ」
ヴァルターが無理に笑う。
「永遠の時があるんだから、少しぐらい」
でも、その笑顔の奥に、深い不安が隠されているのを、イヴリンは見逃さなかった。
東の魔女との戦いは、確実にヴァルターを蝕んでいる。
このまま続けて、本当に大丈夫なのだろうか……
「でも、今回は本当にすごかったです」
立花が興奮気味に話す。
「立花君の位相バイパス理論、完璧でしたよ」
『おぬしらの倍音攻撃も見事じゃった。
そして我の理の縄も、完璧な仕事ぶりじゃった』
タロウが鰻重をぺろぺろと舐めながら自画自賛する。
「でも、これからが本当の戦いですね」
立花が地図を見つめる。
「東の魔女の真の目的……『永遠の退屈』じゃなくて『極小化された安定』って、どういう意味なんでしょう」
「人間の選択肢を極端に減らすってことかしら」
イヴリンが首をかしげる。
「みんな同じような人生を送って、何も考えないで生きる」
「それって、ある意味では平和かもしれないが……」
ヴァルターが右手をさすりながら呟く。
「でも、それじゃあ人間じゃない」
『次の敵は香炉の魔女か』
タロウが真剣な顔になる。
『記憶を改竄する厄介な相手じゃ。名前を忘れさせられたら、存在そのものが曖昧になってしまう』
「秋葉山本宮……火の神様のお山ね」
イヴリンがぽつりと呟く。
「火が甘い煙に変わるって、どんな現象なんでしょう」
窓の外では、浜名湖が静かに月光を反射している。もう巨大な鏡はない。平穏な湖の姿が戻っている。
でも、天竜川の方角では、まだ薄っすらと光る粉がひらひらと舞っていた。
龍神復活へのカウントダウンは、確実に進んでいる。
「明日から、また新しい戦いが始まるな」
ヴァルターが鰻重を箸でつつきながら呟く。右手の刻印が、また一度ずきりと痛んだ。
でも、彼は仲間たちには言わない。
自分の身体に何が起こっているのか、まだ完全には理解していないから——。
四人と一匹の長い夜は、こうして更けていった。
次なる戦場、秋葉山での香炉の魔女との対決を前に、束の間の平安を味わいながら。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...