僕たちは永遠の時を与えられたので訳アリ魔女を倒してまわることにした

ぜろのいち

文字の大きさ
16 / 19

【第四章―3】「ダムの底で目を開く(零刻共鳴)」(まてまて、けっこうヤバいんじゃないの)

しおりを挟む
紙縒りの魔女が消えた翌朝。立花がタブレットを握りしめて、研究室に駆け込んできた。
「やばいです!佐久間ダムの水位データが……」
息を切らしながらタブレットを三人に見せる。画面には、規則的すぎる波形が表示されていた。
「この脈動……まるで巨大な心臓の鼓動みたい」
イヴリンがぞくりと身震いする。
ヴァルターが右手の刻印を見つめる。昨日の戦いで白髪が一本増えたが、それだけじゃない。刻印の痛みが、だんだん激しくなっている。
「これは……」
『大変じゃ』
時風タロウの毛が逆立つ。
『この匂い……時間が歪んでおる。それも、今までとは桁違いの規模じゃ』
「歪み?」
「恐らく、東の魔女が最終兵器を投入してきたんだ」
ヴァルターが立ち上がる。
「急いでダムに向かおう」
四人と一匹が研究室を出ようとしたその時、ヴァルターの右手が突然激痛に襲われた。
「うっ……」
刻印が真っ赤に光り、まるで焼印を押されたような熱さが駆け抜ける。
『これは……時の魔女様の警告じゃ』
タロウが慌てる。
『何か、とても危険なものがヴァルターを狙っておる』
立花がタブレットで情報を確認する。
「佐久間ダムの放流制御システムに異常が発生してます。まるで何かのプログラムが勝手に動いてるみたい」
「放流システム?」
イヴリンが首をかしげる。
「でも、それと時間の歪みに何の関係が……」
「ダムの放流には一定のリズムがある」
ヴァルターが痛みを我慢しながら説明する。
「もしそのリズムを操作されれば……」
『龍脈と共鳴して、時間そのものを攻撃する兵器になる』
タロウが恐ろしい推測を口にする。
『零刻の矢……東の魔女の対時間兵器じゃ』
 * * *
佐久間ダムに到着すると、そこは異様な光景だった。
ダムの放流口から水が規則正しく噴き出しているが、その水の動きがおかしい。まるでスローモーションと早送りを繰り返しているように、時々動きが不自然になる。
「時間の流れが乱れてる……」
立花が観測機器を確認する。
「ダム周辺だけ、時間の進み方がバラバラです」
管理事務所では、職員の人たちが困惑していた。
「システムが勝手に動いて、止められないんです」
「手動でも自動でも、制御が効かなくて……」
イヴリンが管理室の時計を見て驚く。
「この時計、針が逆回転してる」
確かに、壁にかかった時計の針が、ゆっくりと逆方向に回っている。
『これは本格的にまずいぞ』
タロウが唸る。
『時間兵器が本格稼働する前に、何とかせねば』
その時、ヴァルターの右手の刻印が、また激しく光った。
今度は痛みだけじゃない。刻印から、かすかな声が聞こえてくる。
『ヴァルター……』
「時の魔女……?」
『私は……封印を振り切って……あなたたちの元へ向かっている……』
声は途切れ途切れで、とても弱々しい。
『でも……気をつけて……零刻の矢の照準が……あなたの右手に……』
「僕の右手に?」
『刻印が……受信器官になってしまっている……東の魔女が……それを狙って……』
時の魔女の警告と同時に、ダムの上空に巨大な影が現れた。
「あらあら、まだ諦めていなかったのね」
空から降りてきたのは、先ほど倒したはずの紙縒りの魔女だった。でも、その姿は以前とは全く違う。
全身が機械のような装置に包まれ、背中には巨大な弓のような兵器が装着されている。
「紹介するわ。これは東の魔女様が開発した『零刻の矢』よ。時間そのものを破壊する究極兵器」
魔女が弓を構えると、そこに光る矢が現れた。でも、その矢は普通の矢じゃない。まるで時間の裂け目のように、周囲の空間を歪ませている。
「この矢が命中すると、対象の『時』が完全に消去される。過去も現在も未来も、すべてが無になるの」
イヴリンが青い顔をする。
「そんな……」
「そして、照準はすでに合わせてあるの。あなたの右手の刻印に」
魔女がヴァルターを指差す。
「時の魔女の受信器官を破壊すれば、彼女の力は完全に封じられる。そして、龍神復活の障害もすべて取り除けるわ」
立花が急いでタブレットを操作する。
「ダムの制御システムをハッキングします。ゲート制御を式札化して……」
「立花君」
ヴァルターが静かに制止する。
「間に合わない」
確かに、魔女はもう弓を引き絞っている。零刻の矢が、不気味に光りながらヴァルターの右手を狙っている。
『ヴァルター、避けるのじゃ』
タロウが叫ぶ。
でも、ヴァルターは動かない。
「避けても意味がない。この矢は、時間を操作して必中する設計だ」
イヴリンが兄の前に立とうとする。
「だったら私が……」
「だめだ」
ヴァルターがイヴリンを止める。
「君まで巻き込むわけにはいかない」
その時、ヴァルターの頭の中に時の魔女の声が響いた。
『ヴァルター……私がそちらに到着するまで、あと少し……』
「間に合わない」
ヴァルターが決意を固める。
「なら、こうするしかない」
ヴァルターがクロノス・パルスを取り出し、それを右手で強く握りしめる。
「何をしてるの」
イヴリンが慌てる。
「矢の照準を……僕自身に向ける」
ヴァルターが懐中時計を起動させる。すると、零刻の矢の軌道が微妙に変化した。
右手の刻印だけでなく、クロノス・パルスを握った右手全体が標的になったのだ。
「お兄様、まさか……」
「右手を犠牲にして、刻印だけでも守る」
ヴァルターが苦笑いする。
「時の魔女との通信が完全に断たれるよりはましだ」
「やめなさい」
紙縒りの魔女が慌てる。
「そんなことをしても、結果は同じよ」
「いや、違う」
ヴァルターが振り返る。
「僕が右手を失っても、時の魔女は生きている。いつか必ず、新しい方法を見つけてくれる」
矢が放たれた。
光の筋となって、ヴァルターの右手に向かって飛んでくる。
でも、その瞬間——
ぱあっと眩い光が空から降りてきた。
『間に合った』
時の魔女が姿を現したのだ。全身が透明な光に包まれ、まるで天使のような美しい姿だった。
『ヴァルター、その手を離して』
「でも……」
『信じて』
時の魔女がヴァルターとクロノス・パルスの間に割って入る。
零刻の矢が、時の魔女の身体に命中した。
『うっ……』
時の魔女の身体がひびのように割れ始める。
『これで……あなたは……守れた……』
「時の魔女……」
でも、矢の力は強力すぎた。時の魔女の身体が七つの光の破片に分裂してしまう。
『心配……しないで……』
光の破片が宙を舞いながら、かすかに言葉を紡ぐ。
『私の意識は……消えない……時片として……各地に……散らばる……』
『いつか……必ず……集めて……』
光の破片が、佐久間ダム周辺の様々な場所に散らばっていく。
古い鐘、駅の時計、漁港のサイレン、工場のタイムカード……
『一日に……一言だけ……助言できる……』
時の魔女の最後の言葉と共に、光が完全に散った。
「時の魔女……」
ヴァルターが呆然と呟く。
でも、右手の刻印は無事だった。時の魔女が身を挺して守ってくれたのだ。
「そんな……」
紙縒りの魔女が愕然とする。
「零刻の矢が……無効化されるなんて……」
矢の力を受けて、ダムの制御システムも停止していた。規則的な放流も止まり、龍の背骨ゲージの進行も中断される。
「東の魔女様が……怒る……」
魔女は恐ろしそうに呟くと、光の粒子となって逃げていった。
 * * *
戦いが終わると、ダム周辺に静寂が戻った。
でも、時の魔女を失った喪失感は大きい。
「時の魔女が……」
イヴリンが涙を拭く。
「僕たちのために……」
ヴァルターも悔しそうに拳を握る。でも、右手の刻印がまだ温かいのを感じる。時の魔女の存在は、確かに残っている。
『大丈夫じゃ』
タロウが慰めるように言う。
『時の魔女は本当に死んだわけではない。時片を集めれば、必ず復活する』
立花がタブレットで周辺の異常を検知する。
「確かに、各地で微細な時間の歪みを観測してます。これが時片の在処を示すサインですね」
「じゃあ、時片を集めに行こう」
ヴァルターが立ち上がる。
「時の魔女を復活させるために」
でも、右手の刻印に目をやると、その模様が少し変化している。以前より複雑になっているが、同時に何か新しい力を秘めているような気がした。
「お兄様、右手は大丈夫?」
イヴリンが心配そうに尋ねる。
「ああ、痛みは和らいできた。むしろ、新しい感覚が……」
ヴァルターがクロノス・パルスを握ると、以前より細かい制御ができるようになっているのを感じた。時の魔女との絆が、より深くなったのかもしれない。
『よし、まずは一番近い時片から集めに行こう』
タロウが決意を固める。
『秋葉山の古鐘に時片の気配があるぞ』
立花が地図で確認する。
「時片を三つ集めれば、ヴァルターさんの時の力も部分的に復活するはずです」
「そして七つ集めれば……」
「時の魔女の完全復活」
イヴリンが希望を込めて言う。
四人と一匹は、新たな旅立ちの準備を始めた。
時の魔女を失った悲しみはあるが、それを乗り越えてでも進まなければならない。
時片を集め、時の魔女を復活させ、そして東の魔女の野望を完全に打ち砕く。
それが、今の彼らの使命だった。
夕日がダムの水面を照らす中、四人と一匹は静かに決意を固めていた。
新たな戦いが、今始まろうとしている。
 * * *
その夜、宿に戻った一行は、ささやかな食事を取りながら今後の作戦を練っていた。
「時片回収の優先順位を決めましょう」
立花がリストを作成する。
「一番近い秋葉山の古鐘から始めて、その次は東海道線の駅時計……」
「でも、僕の時の力が弱くなってるから、戦闘能力が落ちてる」
ヴァルターが心配そうに言う。
「それなら、私が前に出るわ」
イヴリンが決意を固める。
「エコー・オブ・クラリティの力も、まだまだ未知数よ」
『我もいるからな』
タロウが頼もしく胸を張る。
『理の縄の使い方も、だいぶ覚えたぞ』
立花も頷く。
「科学的アプローチで、皆さんをサポートします」
四人の絆は、時の魔女を失った今でも、しっかりと結ばれている。
というより、むしろ以前より強くなったかもしれない。
大切な人を守るため、大切な仲間を失わないため。
それぞれが、自分なりの強さを見つけ始めている。
窓の外に、星空が広がっている。
どこかであの光の破片たちが、静かに彼らの到着を待っているのだろう。
時片回収の旅が、明日から始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...