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【最終章―1】時片の音階(完璧を拒む復活術)
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佐久間ダムでの激戦から二週間後。立花の研究室は、まるで音響実験室のように変貌していた。
「七つ目の時片、回収完了です!」
息を切らして駆け込んできたイヴリンが、小さく光る欠片を机に置く。それは浜松駅の古い柱時計から取り出した、最後の時片だった。
「これで全部揃ったのね......」
机の上には、過去二週間で回収した七つの時片が並んでいる。秋葉山の古鐘、東海道線の駅時計、工場のタイムカード、漁港のサイレン、商店街のからくり時計、そして学校のチャイム------それぞれが微かに異なる光を放っている。
「でも、単純に並べただけじゃダメなんですよね?」
立花がタブレットで、過去の復活術式の記録を確認する。
「そうだ」
ヴァルターが右手の刻印を見つめる。佐久間ダムで時の魔女が身を挺して守ってくれた右手には、以前より複雑な模様が刻まれている。
「完璧に揃えると失敗する。それが時の魔女からの最後の警告だった」
『その通りじゃ』
時風タロウが研究室の隅で、巨大な風鈴タワーを組み立てている。立花が設計した高さ三メートルの木製タワーに、大小様々な風鈴がぶら下がっている。
『完全は東の魔女の土俵。我らは不完全を選ぶ』
「不完全って、具体的にはどうするの?」
イヴリンがエコー・オブ・クラリティを手にしながら尋ねる。
「音階化するんだ」
ヴァルターが時片を一つずつ手に取る。
「七つの時片を音階に変換して、同時に鳴らす。でも、一つだけ半音ずらす」
立花がタブレットでシミュレーションを開始する。
「理論的には、不協和音が生まれるはずです。でも、その不協和音こそが......」
「東の魔女の完全主義に対抗する力になる」
ヴァルターが頷く。
風鈴タワーの準備が完了すると、一行は慎重に時片を配置し始めた。
最上段にダムで奪った「無拍の楔片」、そしてその下に七つの時片を音階順に配置していく。
「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ......」
でも、最後の「シ」だけは、意図的に半音下げる。
「準備完了です」
立花が最終確認をする。
「イヴリンさん、連呼の準備はいかがですか?」
「ええ」
イヴリンが深呼吸をする。これから彼女が行うのは、四つの名前を階層的に唱和する大技だった。
神名、地名、人名、そして「時名」------暦や時刻の呼称。
「それじゃあ、始めよう」
ヴァルターがクロノス・パルスを起動する。懐中時計が静かに光ると、風鈴タワー全体が微かに震え始めた。
イヴリンが鈴を鳴らしながら、最初の神名を唱える。
「火之迦具土神!」
風鈴の音に重なって、神様の名前が響く。すると、タワーの最上段から光が降り注いだ。
続いて地名。
「秋葉山、天竜川、浜名湖、二俣町......」
彼らが旅した土地の名前が、美しいハーモニーを奏でる。
そして人名。
「ヴァルター、イヴリン、立花賢雄、時風タロウ......」
仲間たちの名前、そして出会った人々の名前。田中さん、佐藤さん、山田さん......
最後に時名。
「子の刻、丑の刻、寅の刻......甲子、乙丑、丙寅......」
古い時刻の呼び名が、空間に複雑なリズムを刻んでいく。
でも、その時だった。
「あら、また面白いことをやってるのね」
研究室の窓から、紙縒りの魔女がひらりと舞い込んできた。でも、その姿は以前とは違う。全身が機械的な装置に覆われ、まるでサイボーグのような外見になっている。
「東の魔女様の最終命令よ。時の魔女の復活を阻止して、完全なる秩序を実現する」
魔女が手を振ると、風鈴タワーに向かって無数の紙の矢が飛んだ。
しかし------
チリン......
イヴリンの鈴の音が、紙の矢をすべて霧に変えてしまう。
「な、なに?」
「もう君の術は通用しない」
ヴァルターが静かに言う。
「僕たちは『不完全』を選んだ。完璧な攻撃は、不完全な防御に弱いんだ」
その時、風鈴タワーから強烈な光が放たれた。七つの時片と無拍の楔片が共鳴を起こし、空間に巨大な音符のような形が現れる。
でも、それは普通の復活術式ではなかった。
『みんな......』
微かな声が聞こえる。でも、姿は見えない。
『私は......姿を持たない形で戻ることにしたの』
時の魔女の声だった。でも、具体的な形は持たない。風のような、香りのような、温度のような------感覚でしか認識できない存在として現れたのだ。
「時の魔女......」
『完全に戻ったら、また東の魔女に狙われるもの。だから、あえて不完全なまま』
声と共に、研究室にそよ風が吹いた。それは確実に時の魔女の存在を示している。
『これで......最終決戦の準備が整ったわね』
紙縒りの魔女が慌てる。
「そんな......不完全な復活なんて......」
「完璧じゃないから美しいんだ」
立花が微笑む。
「データも完璧すぎると、現実とずれてしまう。少しのノイズがあるから、生きた情報になる」
『タロウ、龍神のところへ案内して』
時の魔女の風が、タロウの毛を優しく撫でる。
『いよいよ、龍を兵器から守り神に変える時よ』
「七つ目の時片、回収完了です!」
息を切らして駆け込んできたイヴリンが、小さく光る欠片を机に置く。それは浜松駅の古い柱時計から取り出した、最後の時片だった。
「これで全部揃ったのね......」
机の上には、過去二週間で回収した七つの時片が並んでいる。秋葉山の古鐘、東海道線の駅時計、工場のタイムカード、漁港のサイレン、商店街のからくり時計、そして学校のチャイム------それぞれが微かに異なる光を放っている。
「でも、単純に並べただけじゃダメなんですよね?」
立花がタブレットで、過去の復活術式の記録を確認する。
「そうだ」
ヴァルターが右手の刻印を見つめる。佐久間ダムで時の魔女が身を挺して守ってくれた右手には、以前より複雑な模様が刻まれている。
「完璧に揃えると失敗する。それが時の魔女からの最後の警告だった」
『その通りじゃ』
時風タロウが研究室の隅で、巨大な風鈴タワーを組み立てている。立花が設計した高さ三メートルの木製タワーに、大小様々な風鈴がぶら下がっている。
『完全は東の魔女の土俵。我らは不完全を選ぶ』
「不完全って、具体的にはどうするの?」
イヴリンがエコー・オブ・クラリティを手にしながら尋ねる。
「音階化するんだ」
ヴァルターが時片を一つずつ手に取る。
「七つの時片を音階に変換して、同時に鳴らす。でも、一つだけ半音ずらす」
立花がタブレットでシミュレーションを開始する。
「理論的には、不協和音が生まれるはずです。でも、その不協和音こそが......」
「東の魔女の完全主義に対抗する力になる」
ヴァルターが頷く。
風鈴タワーの準備が完了すると、一行は慎重に時片を配置し始めた。
最上段にダムで奪った「無拍の楔片」、そしてその下に七つの時片を音階順に配置していく。
「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ......」
でも、最後の「シ」だけは、意図的に半音下げる。
「準備完了です」
立花が最終確認をする。
「イヴリンさん、連呼の準備はいかがですか?」
「ええ」
イヴリンが深呼吸をする。これから彼女が行うのは、四つの名前を階層的に唱和する大技だった。
神名、地名、人名、そして「時名」------暦や時刻の呼称。
「それじゃあ、始めよう」
ヴァルターがクロノス・パルスを起動する。懐中時計が静かに光ると、風鈴タワー全体が微かに震え始めた。
イヴリンが鈴を鳴らしながら、最初の神名を唱える。
「火之迦具土神!」
風鈴の音に重なって、神様の名前が響く。すると、タワーの最上段から光が降り注いだ。
続いて地名。
「秋葉山、天竜川、浜名湖、二俣町......」
彼らが旅した土地の名前が、美しいハーモニーを奏でる。
そして人名。
「ヴァルター、イヴリン、立花賢雄、時風タロウ......」
仲間たちの名前、そして出会った人々の名前。田中さん、佐藤さん、山田さん......
最後に時名。
「子の刻、丑の刻、寅の刻......甲子、乙丑、丙寅......」
古い時刻の呼び名が、空間に複雑なリズムを刻んでいく。
でも、その時だった。
「あら、また面白いことをやってるのね」
研究室の窓から、紙縒りの魔女がひらりと舞い込んできた。でも、その姿は以前とは違う。全身が機械的な装置に覆われ、まるでサイボーグのような外見になっている。
「東の魔女様の最終命令よ。時の魔女の復活を阻止して、完全なる秩序を実現する」
魔女が手を振ると、風鈴タワーに向かって無数の紙の矢が飛んだ。
しかし------
チリン......
イヴリンの鈴の音が、紙の矢をすべて霧に変えてしまう。
「な、なに?」
「もう君の術は通用しない」
ヴァルターが静かに言う。
「僕たちは『不完全』を選んだ。完璧な攻撃は、不完全な防御に弱いんだ」
その時、風鈴タワーから強烈な光が放たれた。七つの時片と無拍の楔片が共鳴を起こし、空間に巨大な音符のような形が現れる。
でも、それは普通の復活術式ではなかった。
『みんな......』
微かな声が聞こえる。でも、姿は見えない。
『私は......姿を持たない形で戻ることにしたの』
時の魔女の声だった。でも、具体的な形は持たない。風のような、香りのような、温度のような------感覚でしか認識できない存在として現れたのだ。
「時の魔女......」
『完全に戻ったら、また東の魔女に狙われるもの。だから、あえて不完全なまま』
声と共に、研究室にそよ風が吹いた。それは確実に時の魔女の存在を示している。
『これで......最終決戦の準備が整ったわね』
紙縒りの魔女が慌てる。
「そんな......不完全な復活なんて......」
「完璧じゃないから美しいんだ」
立花が微笑む。
「データも完璧すぎると、現実とずれてしまう。少しのノイズがあるから、生きた情報になる」
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