僕たちは永遠の時を与えられたので訳アリ魔女を倒してまわることにした

ぜろのいち

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【最終章―2】龍の選択(兵器から守り神へ)

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天竜川の最上流部。佐久間ダムの奥にある秘境で、四人と一匹は龍神と対峙していた。
「うわあ......でかい」
イヴリンが息を呑む。
水面から立ち上がったのは、全長五十メートルはある巨大な東洋の龍だった。でも、その身体は無数の橋の欄干、峡谷の岩壁、ダムのコンクリートでできている。
まさに「背骨(橋)、喉(峡谷)、心臓(ダム)」で構成された、人工的な龍神だった。
「お前たちは何者だ」
龍神の声が水面に響く。その声は、川の流れ、風の音、鳥のさえずりが混じった自然の音だった。
「我々は時の見張り人です」
ヴァルターが一歩前に出る。
「あなたが兵器として使われるのを止めに来ました」
「兵器......?」
龍神が首を傾げる。
「我は治水の神として生まれたはず......」
『その通りじゃ』
時風タロウが理の縄を取り出す。でも、今度は縄の先に小さな首輪のようなものが結ばれている。
『お前は本来、この流域を守る存在。東の魔女に騙されて、兵器に改造されただけじゃ』
「証明してみろ」
龍神が挑戦的に言う。
「我が本当に守り神なら、その証を見せてくれ」
立花が前に出て、タブレットを操作する。
「こちらをご覧ください」
画面に表示されたのは、詳細な洪水シミュレーションだった。天竜川流域で大雨が降った場合の、被害予測データ。
「あなたが治水の神として機能すれば、これらの被害をすべて防げます」
データは「式札UI」として視覚化されており、龍神にも理解しやすい形になっている。
「ふむ......」
龍神がデータをじっと見つめる。
「確かに、これなら我の力で何とかなりそうだ」
「でも、そのためには一つ条件があります」
イヴリンが鈴を鳴らしながら言う。
「流域の人々と、直接契約を結んでいただきたいんです」
「契約?」
「はい。『提案儀式』です」
立花が説明を始める。
「流域に住む人々が、自分の名前の『古い画数の一画』を奉納する。それを龍神様の鱗に刻んで、『揺らぎ紋』を作るんです」
「揺らぎ紋?」
「完璧ではない、でも美しい模様です」
イヴリンが微笑む。
「一人一人が少しずつ違う画数を奉納するから、どの鱗も微妙に違う模様になる」
その時、川の上流から小さなボートがやってきた。乗っているのは、これまで出会った人々だった。
田中さん、佐藤さん、山田さん......浜名湖の旅館の女将さん、秋葉山の神職の方、二俣町の自治会長......
「みなさん......」
立花が感動する。
「私たちも参加します」
田中さんが代表で言う。
「龍神様に、私たちの名前の一部をお渡ししたい」
一人一人が、小さな木の札に自分の名前の画数の一部を書いていく。
「田」の横棒を一本、「中」の縦棒を一本......
「佐」の人偏の一部、「藤」のくさかんむりの一画......
微小な、でも大切な「名前の欠片」が集まっていく。
「これを......我の鱗に?」
「はい」
ヴァルターが時の魔女の風を背に受けながら答える。
「あなたの鱗に、人々の名前の一部が刻まれる。すると、あなたは完璧な龍神ではなく、『少しだけ人間らしい龍神』になる」
「人間らしい?」
「時々間違えたり、感情的になったり、でもそれがあるから愛される」
イヴリンが優しく説明する。
「完璧な神様より、少し抜けてる神様の方が親しみやすいでしょう?」
龍神が低く唸る。
「面白い提案だ......」
札を受け取った龍神は、自分の鱗に一つ一つ画数を刻み始めた。すると、確かに各鱗に微妙に異なる模様ができていく。
完璧な幾何学模様ではなく、手書きの温かさがある「揺らぎ紋」。
「これは......」
龍神の表情が柔らかくなる。
「悪くないな」
その時、タロウが理の縄の首輪を差し出した。
『これは散歩の約束じゃ』
「散歩?」
『主従関係ではない。お前が週に一度、川霧を吐いて水循環の手伝いをする。我らは代わりに、お前の話相手になる』
首輪には「毎週水曜日、夕方五時」と彫られている。
「つまり......定期的な治水業務と、地域住民との交流?」
「そうです」
立花が頷く。
「完全に管理するのではなく、お互いに協力し合う関係です」
龍神がしばらく考え込んでから、ゆっくりと頷いた。
「名の軽さを知った、人の重さを引き受けよう」
その言葉と共に、龍神の身体から兵器的な部品が剥がれ落ちた。代わりに、温かみのある木や石の質感が現れる。
「これで......守り神としての契約成立ですね」
立花が安堵の表情を見せる。
でも、その時だった。
「させるかあああああああ!」
空の向こうから、凄まじい威圧感と共に現れたのは------東の魔女の本体だった。
全身が黒い結晶でできた、巨大な人型の存在。その周りには、完璧な幾何学模様が無数に回転している。
「私の完璧な計画を......不完全な連中が......」
東の魔女の声は、まるで機械のように感情がない。
「すべてを均質化し、すべてを予測可能にし、すべてを管理下に置く。それが私の使命」
『いよいよ本体のお出ましね』
時の魔女の風が強くなる。
『でも、心配しないで。私たちには秘策があるから』
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