○○○で決められるスクールカースト

たっくんちゃん

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○○○で決められるスクールカースト

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「山田7位」
「徳島13位」
「畑中25位」
「谷口30位」
教室には、教師が生徒の順位を読み上げる声と、チョークと黒板の擦れる音だけがこだましていた。
順位を呼ばれた生徒も、そうでない生徒も、一言も話さない。教室の窓からは生ぬるい熱気を帯びた風が入ってくる。
2学期が始まった。日夜部活に明け暮れていたのだろう。海やプールに行っていたのだろう。春の頃とは違い、どの生徒の肌も浅黒く、日焼けしていた。

いつもこの学校では、夏休み明けの初日に、この行事が行われる。
教師は時折、生徒たちの横を歩いては机の上を凝視する。生徒たちは皆、膝に手を置き、顔をこわばらせている。
教室の端から端へ、出席番号順にゆっくりと歩く教師が、ぴたりと足を止めた。
「杉本…忘れたのか?」
 教師は静かに口を開いた。
「す、すいません…確かにやりました! やったんです、信じてください! でも、持ってくるのを忘れてしまって…」
 杉本は、必死に謝っていた。こめかみから汗がつたっている。
「やったかどうかは知らんよ。持ってきてないなら、確認のしようがないだろう? 確認ができないなら、評価もできないな」
 杉本の顔が、みるみるうちに青白くなっていく。
「先生、本当にごめんなさい! 明日必ず持ってきますから! それだけは許してください!」
 教師は腕を組んで、ため息をついた。
「残念だが…校則は校則だ。俺にどうのこうのできる問題じゃない。よって、杉本。お前の順位は『無し』だ。また来年頑張れ」
 杉本は机に拳を付いてすすり泣いた。
「母さん…ごめんよ…俺がドジだったばっかりに」
 
教師はまた、歩き出した。
「寺田…これはなんだ?」
 教師はまた足を止めた。名前を呼ばれた女学生が肩をビクッと震わせる。
「す、すいません…あの、その…ルールを忘れてしまっていて…」
 教師はまた、腕を組んで、ため息をついた。
「寺田。お前は1年生の時、確かクラスで3位だったそうじゃないか。そんな優秀なお前がどうしてこんなことを…夏休みの間、さては遊び歩いてばかりだったんじゃないのか?」
 寺田は、泣きそうになりながら答えた。
「ち、違います! ちゃんと家には帰っていましたし、この行事のこともしっかりと覚えていました…今年もいい成績が取れれば、希望の大学に推薦で行けると…」
「そうだな。お前の成績なら、あの大学も難しくなかったはずだ。だが、これでもう、わからなくなったな。残念だが、お前の順位も『無し』だ」
 寺田の目には涙が浮かんでいた。
「お母さん…ごめんなさい。私がいけないの。私がちゃんとできなかったから…」
 
教師は、また歩き出した。
 教室の隅までたどり着いたとき、教師は足を止めた。
「若杉…お前もか」
 若杉は教師の目も見ずに、ふてくされたように「はい」と答えた。
 教師はしゃがみ込み、若杉と目線を合わせた。
「お前は…自分のやっていることがわかっているのか? みんなこの日のために、必死にやってるんだぞ? それに引き換えなんだ、お前のその態度は?」
 若杉はうざったそうに答える。
「わかってますよ。順位は『無し』になって、指定校推薦もチャラになる…だから後は自力で勉強するしかないってことっすよね。つーか、俺が悪いってより、母ちゃんが…」
 教師が声を張り上げた。
「お前は! その年にもなって親のせいにするのか! 恥ずかしくないのか! 情けないと思わないのか!」
 若杉は教師をにらみつける。
「いやいやいや…どう考えたってやっぱりおかしいでしょ! こんなので成績を決めるって。いや、確かに俺は毎日親の世話になってるけど、それとこれとは関係なくね? みんなも口に出さないだけで、おかしいと思ってるよ! なあ、みんな!」
 若杉は立ち上がり、教室を見渡して叫んだ。
 生徒たちは驚きはしたものの、みんな黙り込んだままだった。
 教師は腕を組んで、ため息をついた。
「若杉。これはお前が招いたミスだ。みんなを巻き込むんじゃない。お前が失敗したんだ。その過ちはお前の順位で償うしかないんだ」
 若杉は教師の胸ぐらをつかんだ。
「いや、やっぱりおかしいって! ふざけんなよ! 昼飯の弁当なんて何食ったっていいだろ! 母ちゃんだってパートで忙しいのに、頑張って作ってくれたんだよ! それがたまたま焼きそばだっただけだろ! それで何が校則違反だよ! ふざけんなよ! なんで白飯じゃなきゃダメなんだよ…」
 若杉は力なく、席に座り込んだ。彼にはわかっていた。学校という絶対的な権力組織には抗えないことを。
「それが校則だ。若杉」
 
教師は再び教壇に戻り、黒板に書き始める。
「みんなはもうわかってることだと思うが、改めておさらいするぞ。いいか、この学校でのあらゆる序列は、すべてこの行事で決まる。みんなが持ってきた弁当の中の…白米の占有率だ。白米の占有率が少なければ少ないほど、順位は高くなる。つまり、たくさんおかずが入っている弁当を持つ生徒が優秀というわけだ。だが、白米が入っていないことや、カレーやのり弁、そぼろ弁当なども禁止だ。白米以外の面積はおかずで埋めるんだ。杉本のように弁当を忘れた生徒や、寺田のサンドイッチや若杉の焼きそばのように、白米以外の食べ物で弁当の面積を埋めることも禁止であり、評価の対象にはできない。」
 教師は、生徒のひとりひとりをまっすぐに見つめる。
「今、ここでみんなの順位を発表した。振るわなかった者も、今日良かった者も決して慢心せず、また来年、いい弁当を持ってきてくれ。そうしたら、お前たちはいい大学に指定校推薦で入学して、本校の教師として、俺と同じように教壇に立てるんだからな」
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