在りし日をこの手に

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日本防衛編

戦え戦士達よ

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 ピピピッ─カチ。

「朝か。」

HRI対プラント部日本支部第四小隊隊員八重筒六郎太やえづろくろうたの朝は早い。生まれ育ちは名門武家であり、認められる強さを得る為に朝の鍛錬を欠かさないからだ。

 まず木刀での素振り300。次に真剣に持ち替え、200。後に10Km走る。終えねば食えぬと、6つの頃から続けてきた習慣だ。
 ここ最近、この習慣も変化してきた。

「よし、やるか八重筒。」

「ボクは今日は控えめにしとこうかな…」

 火祭陸、そして神木蓮が付いてきてくれるようになった。同じ地獄みてきて、初めて出来た心から呼べる友…!

「よし!今日も頑張ろう!」

──
 八重筒に倣って、運動を終えるとシャワーを浴びる。それまでがワンセット。熱った身体を冷水で冷ますと、幸福が溢れ出てくるんだ。

「あー、キマるわ~」

「この為に生きている感じあるよね。」

「お前ら身なりしっかりしとけよ。今日は開会式があるんだしさ。」

 そう。遂に始まるのだ、今後の進展を掛けた戦いHRIランキングが。

──
 メインホール。地下1~10階までを吹き抜けにした円形の大広間だ。プラントが東京に大規模進行した際に都民の避難ができるように構想されているため、常駐する職員2000人が一度に中心を見下ろす事も可能だ。
 この大きさのため年に一度の行事であるランキングは皆集まり、大迫力で試合が出来るのだそうだ。

 メインホール内はざわざわとしている。それもそうだ、これほど大きな空間が一面人で満たされているのだから、それなりに音も大きくなる。

「HRIの戦闘部隊って結構人いるんだな。壁面全員人だぜ?昔家族と野球観戦しに行った時を思い出すな~」
 
「それもそうだ。全国で職員は2万人いて、今日はその半分が来てるらしいぞ。」
 
 1万人…!相変わらずHRIここの規模は大きいな。

「そう言えば八重筒は昔から観てるんだよなランキング。例年ってどうなの?やっぱ達人の戦いって感じ?」

 八重筒六郎太は、記述にある限り1300年前からプラントと戦い日本を守ってきた五つの武家──通称五色家の一つ八重筒家の次男だ。

「そうだなー。確かに決勝戦になったら試合のテンポも早いし、大技も観れて会場も沸くな。」

「ほー」

 この大観衆の歓声か…それを一心に受けて戦えたらどんなに力が湧くだろう。

『そうそう。そして決勝の舞台を一度経験したヤツは1段階確実に強くなるんだぜ。』

「誰だ?!」

 背後から来た男は体格さえ良いが、汚れており飛び跳ねた寝癖はパーマがかっているため疲れているような印象を受けた。

「蓮…この人は─」

─ドンッ!食い気味にその男は俺達の間に割り込む。

「おっと、これは黒方こくほう五色の六郎太様ではございませんか…!遂に今年からが揃うと我々も浮き足だっておりましたぞ!」

 妙に嫌みったらしい口調と八重筒のうんざりとした表情が印象的だった。

「アンタは誰だ?」

「おっと、割り入ってすまないね。私は御影黒曜みかげこくようだ。君達の話で言うところの、去年のランキング体術部門決勝進出者ってヤツだな。」

「ッ!」

 この男が去年の…。確かに、よく見るとデカい!!一歩離れるとその存在感が分かる。背丈は2メートルはある、その巨体に限界まで積み込んだ筋肉にく…!トレーニングをしている俺なら分かる。とてつもない修練の賜物だ。

「ところで君は、誰なんだい?これでも私は第三小隊の副隊長なのだが。敬語も習わないのかね?最近の若者は。」

「失礼しました!私は第四小隊の神木蓮と言います。」

 背を伸ばし敬礼をした。すると、黒曜は大袈裟に笑い出した。

「そうか、そうか!君が蓮か!会いたかったよ。私たち2人だけ、バケモノ達のグループだったからね。」

「御影さん。そろそろ集合時間じゃないんですか?」

「そうでしたね。ありがとうございます六郎太様。では後ほど、な。蓮君も」

 黒曜は人の塊を達人の足運びですり抜けていった。

「トーナメント表を見た時点で言っておくべきだったな、蓮。実はな第二小隊はこのトーナメントで特殊なんだ。強すぎる故固められてる。」

「ん?ってことは俺は第二小隊扱いになってんの?」

 八重筒はコクリと頷く。

「それと去年で好成績の者もだ。圧倒的すぎる故に新しい強者を潰さない制度なんだ。」

「プラントの新芽は潰すのに、HRIランキングこっちは残すのかよ!」

「去年の黒曜もそうだった。一年のうちに急激な成長を遂げたアイツは第二小隊と反対のブロックで決勝に残ったが敗れたんだ。」

 ん?それで黒曜が笑った理由ってのは何なんだ?俺に同情したってワケじゃなさそうだったけど。

「黒曜はお前の初戦の相手だ。」

「!!!」

 第二小隊の面々に気を取られて名前を見ていなかった!

「…蓮、お前笑ってるのか?」

 八重筒に言われて口元を抑えた。確かに口角が硬く上がっている…

「ワクワクしてきたよ。去年準優勝の闘士と一戦交えれるなんて…楽しみったらありゃしない!」

 俺の調子に八重筒は少し引いているようだ。

「お前、やっぱ第二小隊だよ。勝ったらスカウトされるぜ癒瘡木ゆそうぼく隊長に…」

「もう嫌だ!第二ジゴク第四ジゴクも!俺は玲衣さんと紫苑さんがいる第一で生きたい!」

 怯えすぎだろ、と八重筒にも大袈裟に笑わられてしまった。

 談笑していると次第に静かになってきた。時間だ。

『おい見ろよ。あれ本部の隊長達が勢揃いだ。それに五色家が2人もいる…東京はすげーな』

『第一の天竹隊長美人だな…』

『俺、このランキングで好成績残して本部に栄転するんだ…!』

 周りにいるのはどれも見たことがない顔。全国大会って感覚はあながち間違ってないんだな。

「ん、大地所長だ。」

 時間通り。開会の挨拶だな。あの人ほんとうに威厳っていうか、存在感のある人だよな…

『日本HRI本部所長の片麻大地へんまだいちだ。終末の開花ラグナロクから3年が経ち、昨年は半数の支部の参加で再開したHRIランキングも今年は全国の支部から参加できる事を嬉しく思う。』

 メインには200人ほどのスーツを着た偉そうな方達が座り、前方に話者の壇。その左右に隊長達や、五色家の者と思われる男女の重役が座ってる。

「八重筒…あの五色家のヒトってお前の親父さんか?」
 
「父さんは居ないな。あの男の方は青方せいほう五色の青海 稲樹せいがい とうじ。女の方は、白方はくほう五色の…天竹琴音あまたけことねだ。」

「天竹?!それ紫苑しおんさ?と同じか?」

「双子の姉が紫苑さんだ。」

 確かに。髪の色は白色で紫音さんと違うけれどあの顔立ち、紫苑さんの髪をロングにしたみたいで似ている…!

「紫音さん。家系に恵まれてるのに前線で戦うとは、なんてかっこいいんだ。」

「…一応オレもそうなんだけどな。」

『─この数ヶ月。プラントの脅威は指数関数的に増加してきている。いつまた、終末の開花ラグナロクのような大災害が起きるか分からない状況だ。そのためHRI我々はさらに武力を高め、研鑽を積めるこの機会を十分に生かしていこうではないか。戦士よ戦え。在りし日を、この手にするために。』

 所長の挨拶が終わった。気合いは十分に入った。俺もあの平和だった頃を取り戻す為に力をつけよう…

 所長は降段し、司会の言葉と共に見慣れた巨体が登壇する。
 
『第二の癒瘡木ゆそうぼくだ。ルールの確認をする。試合はどの部門でも一辺20mの正方形、コンクリートのステージで行う─』

 ルールについては、前に長瀬と戦った時と変わりなかった。しかし、癒瘡木隊長は最後に心振るわす一言を付け加えた。

『各部門の優勝者には、報酬が出る。』

 広いホールが、1階上のヒトが唾を飲み込む音が聞こえるくらい細かな雑音が消えた。

『望む物なら何でも、人道から外れない限りな。』

──
 開会式終了後、各階の若手衆はまだ手にしていないを何するかと浮き足立つ。しかし、俺達は初戦を恐れてた。そう、火祭の初戦を。

「火祭。緊張してないよな。」

「あいつは大丈夫だ。あの炎で会場を沸かしてくれる。」

 観客席に着き、試合が始まるのを待っていると葉子隊長が俺達に話しかけてくる。

「やーやー君達。調子はどうだい?」

「調整期間があったお陰で筋肉の疲労も見られません。万全です。」

「ほほー。それは良かった。なにせ君達に勝って貰わないと第四小隊の面子はゴミムシ以下になって解散してしまうからね。」

 私の研究費が無くなってしまう、と隊長は嘆いているようだった。それとは裏腹に俺らは奇妙な事を考えてしまう。

「(解散したら実質解放じゃん。)」

 しかし、よく無いことは見抜かれるようだ。

「神木ぃ~今、負けたら解放されるなんて思ったのかい?」

「ま、まさか…、ははっ思ってないですよ…」

 じーっと観察される。
 
「きみは実験という運命は逃れられないよ。上層部は神の子ノアが興味を持つ君に、くびったけなのさ。」

「!!!」

 ポンっと肩を叩かれる。振り返ると…八重筒だ。ハラタツ顔で親指を上に立ててグッジョブしてやがる。

「お前!!」

 掴み掛かろうとしたその時、会場から歓声が沸く。その衝撃に俺は動きを止めてステージの入場口を見た。

「蓮ッ!火祭と長瀬薫だ!」

「遂に始まるのか…!」

 火祭は大衆に怯えて、いない!平常心で入ってきた。火祭がいつも通りだった為、俺の視線はすぐ長瀬に移った。そして違和感を覚える。

「(いつもの長瀬じゃない…)」

 不敵に笑うヤツの雰囲気はすべてを飲み込みそうだった。そう、それはと対面した恐怖に近い。




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