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日本防衛編
第一回戦 2人の新人の戦い
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「火祭陸。君は俺と同じで特殊な力を持っている。だから神木と八重筒と違って君とは仲良くしたかった。」
「僕の心は前と同じだよ。長瀬薫は僕の大事な友達を傷つけた。殺したいとは思わないけど、仲良くしたいとも思わない。」
「残念だよ。」
「…」
火祭は静かにライターの着火部を長瀬に向けた。それに応える様に長瀬も重心を下す。
──
このHRIランキングの[種子型]の戦闘は花形だ。多様な能力が、テンポよく見れるため忙しいお偉いさん方達も見て帰られる。
その初戦。重要な試合を今年2人も現れた新人達が争うのだ。無論、期待も大きい。
「アイツら何話してんだろ。」
「挨拶にしては長いな。」
何度かオレに合わせて話していたことはあったが、2人だけで話すのは初めてだったな。同じ能力を持つ者同士で通じ合う所もあるのだろうか?
…いや、リクはそうじゃないだろう。一時の戯言でも神木蓮を傷付けるようなことを言った長瀬を簡単に許すヤツじゃない。
「どーせなら、派手に倒しちまえ!リク!!!」
俺も歓声という形で戦おう。
──カチャッ!
リクがフリントホイールを回す。瞬間、ライターの炎は巨大化し長瀬へと向かっていく。
「いい炎だ。」
燃えたぎる初撃を長瀬は真っ向から受け──無かった!
ヤツは迫る炎に物怖じせず、自身の能力である爆破の衝撃を利用して近距離回避する。
──ボォン!!
二度目の爆破音と共に長瀬、の進路は右回避から直進。火祭へと向いた。威力は充分、10メートルある間合いを瞬間に詰め寄る。
振りかぶる右手の大技、長瀬はこのまま火祭を仕留める気だ。
──バァアン!
2人の間にあるわずかな距離で爆炎が上がる。壊れたステージのコンクリートが爆風に舞い何も見えない。
「これを耐えるか…」
「思ったより早くて驚いた~。もう蓮に負けたときのキミじゃないんだね。」
「黙れ!!」
逆上した長瀬が左手を振るい、再び爆発を起こす。が、これもまた火祭には届かない。
「君は失敗した。それは僕に近づいた事だ。君のホウセンカの爆発性裂開は、開く物理的な摩擦と油分を合わせることで本来ありえない炎を生み出す。しかしながら、その炎は僕の得意領域なんだよ。」
「ここは湿度が高い!」
やっと長瀬は位置の悪さを自覚する。その後の行動は早く、バックステップで
逃げようとするが、その地面に足を滑らせてしまう。
「ただ火をだしただけで、あんな火を起こせる筈がない。乾燥注意報って知ってるかい?要は乾燥すればするほど、物は燃えやすくなる。」
火祭は倒れながらも距離を取ろうとする長瀬にゆっくり近づく。勝利を確信した狩人の様に。その歩は敵の最後の力を警戒しつつも軽快だ。
「僕の胞子は2種類ある。乾燥と可燃の二つだ。乾燥は水蒸気を溜め込み相手のタバコを湿らせる事もできる。可燃は着火剤だ、配置して思い通りの炎を上げられる。」
指先の火種に顔を照らされ、長瀬を見下す姿に長瀬も、観客も恐怖を抱かざるを得なかった。
『ヨーロッパを燃やし尽くした、神の子アグニ…』
誰かが呟くと、言葉の火種は瞬く間に会場に燃え広がる。なぜならアグニは唯一、HRIによって討ち取られた神の子だからだ。
──三年前ドイツミュンヘン。
その日は酷く乾燥していた。払われ、コンクリートに落ちた汗はジュワッと情けない音を立てて霧散する。
雲ひとつない晴天だった。そのせいだった。何処かで上がった炎は山を登り、木を焼き、民家を、人をも火葬したのだ。
炎は風を喰らいますます成長する。それは波のようで、止まることを知らない。草木から火の手は伸び続け、ついにヨーロッパを覆いつくしたのだ。
異常。それしか普通の人には言えない。しかし、HRIの特殊な力を持つヒトは当時を語る。「あれは奇妙な音だった。クジラが泣く音のような甲高い嫌な音だ。」
発生地を特定するとそこには1人の青年がいる。それがアグニだったのだ存在を目視できたため、HRIは鎮火のために全戦力を注ぎ込む。
天竹紫苑らの日本支部の精鋭達が討伐に成功する。この吉報は人間を奮い立たせたが、同時に多くの仲間を失った。
──そのため、このHRIでは終末の開花の災害の中で特に炎に対して根源的な恐怖を抱くのだ。
「まさか、始祖帰り…?」
あの悪夢が戻ってきたのかのかも知れないと火祭陸を知らぬ者たちは恐れた。
「アイツは違う!!!!俺達の仲間の火祭リクだ!」
恐怖とは未知から訪れる。リクを知らないヤツがアイツを悪く言うな。
「僕は気にしないのに…蓮はマジメだなぁ」
リクは試合を決着させようとする。
「(俺はまた負けるのか…?コイツらに。)」
この空間で1人だけ、恐怖でも信頼でもない感情を持つ長瀬薫。それは焦燥だった。
「変われ、長瀬薫。」
─ドン!
リクが俺を見た一瞬。その隙に長瀬は肉薄し、リクを突き飛ばす。
「オイ、火祭リク。戦いの最中に余所見とは随分と肝が座ってるな。」
「…なが、せ。なのか?」
「全く、目標すら達成していないのに負けてくれるなよ。長瀬薫め。優勝できなきと困るのは私なんだぞ。」
リクは直感で理解した。それは二重人格とか、中途半端なものでは無い。明らかな敵、なのだと。
「(コイツはここで倒さないと!)」
「燃えろ!長瀬ええ!!」
リクの判断は早かった。空気中の胞子を集めて最大火力で焼き払う、それで止めれることに賭けた。
─カチャッカチャカチャ
「なんで?!火が点かない!!」
「お前の能力は、アグニ様と同じ…ただ明暗を分けたのはお前はライターしか起点を持っていないと言うこと。摩擦で火を作るのならそれを失くせばいい。」
ライターを持つ右手に冷たくドロッとした何かが垂れた。
「ス、スライム?長瀬がなんでこんな能力を…」
ライターに気を取られた一瞬に、長瀬はその手を掴み、引き寄せながら火祭のアゴにハイキックを当てた。
白目を剥きリクは膝から崩れ落ちる。初戦の勝者は長瀬薫だった。
『『うおおおおお!!!』』
新人ながら能力を使いこなし、接戦を繰り広げた2人に歓声が沸く。リクは失神して、担架で運ばれるのに対し長瀬は歓声を一身に浴びる対比が酷く印象的だった。
「あちゃー火祭負けちゃったね~。追い込まれてくね~新人三人衆。」
「笑い事じゃないですよ…!」
リクはあの一撃だからな、当分起きないだろう。
それにしてもだ、あの長瀬の変貌は何なのか。体術なんてやって来なかったはずなのに空手の有段者の様な身のこなしになった。
「最後の攻防でリクの様子がおかしかった。」
「確かに、優勢だったのに急に焦り出したよな。」
「火祭陸の能力は、俺と違って恵まれてないからな。当然の結果だよ。」
「長瀬!!!」
いつもの様に憎まれ口を叩きながらヤツは現れた。俺も言い返してやろうと力んだとき、異変に気付く。
長瀬の雰囲気が違う。以前にはなかった威圧感だ、取り入る隙がない様な強者の空気を感じる。
「そう言えば、この大会で優勝したら報酬がもらえるんだったよなぁ?」
「それがどうした…」
不敵に笑むとアイツは俺を指差す。
「決めた。俺が優勝したら、お前に再戦を挑む。火祭陸の様に無様に終わらせてやるよ。神木蓮。」
「やってみろよ。格下が。」
─
「おい蓮、そろそろ準備しとけよ。お前にはお前の戦いがあるだろ」
「…そうだな。行こう。」
まさかアイツが優勝するはずない。精々諸先輩方に分からされるといいんだ。
…でも、今のアイツなら本当に勝ちかねない。あの時対面した選択の神に似ている威圧感。念のためイメージトレーニングでもしておくかな。
「僕の心は前と同じだよ。長瀬薫は僕の大事な友達を傷つけた。殺したいとは思わないけど、仲良くしたいとも思わない。」
「残念だよ。」
「…」
火祭は静かにライターの着火部を長瀬に向けた。それに応える様に長瀬も重心を下す。
──
このHRIランキングの[種子型]の戦闘は花形だ。多様な能力が、テンポよく見れるため忙しいお偉いさん方達も見て帰られる。
その初戦。重要な試合を今年2人も現れた新人達が争うのだ。無論、期待も大きい。
「アイツら何話してんだろ。」
「挨拶にしては長いな。」
何度かオレに合わせて話していたことはあったが、2人だけで話すのは初めてだったな。同じ能力を持つ者同士で通じ合う所もあるのだろうか?
…いや、リクはそうじゃないだろう。一時の戯言でも神木蓮を傷付けるようなことを言った長瀬を簡単に許すヤツじゃない。
「どーせなら、派手に倒しちまえ!リク!!!」
俺も歓声という形で戦おう。
──カチャッ!
リクがフリントホイールを回す。瞬間、ライターの炎は巨大化し長瀬へと向かっていく。
「いい炎だ。」
燃えたぎる初撃を長瀬は真っ向から受け──無かった!
ヤツは迫る炎に物怖じせず、自身の能力である爆破の衝撃を利用して近距離回避する。
──ボォン!!
二度目の爆破音と共に長瀬、の進路は右回避から直進。火祭へと向いた。威力は充分、10メートルある間合いを瞬間に詰め寄る。
振りかぶる右手の大技、長瀬はこのまま火祭を仕留める気だ。
──バァアン!
2人の間にあるわずかな距離で爆炎が上がる。壊れたステージのコンクリートが爆風に舞い何も見えない。
「これを耐えるか…」
「思ったより早くて驚いた~。もう蓮に負けたときのキミじゃないんだね。」
「黙れ!!」
逆上した長瀬が左手を振るい、再び爆発を起こす。が、これもまた火祭には届かない。
「君は失敗した。それは僕に近づいた事だ。君のホウセンカの爆発性裂開は、開く物理的な摩擦と油分を合わせることで本来ありえない炎を生み出す。しかしながら、その炎は僕の得意領域なんだよ。」
「ここは湿度が高い!」
やっと長瀬は位置の悪さを自覚する。その後の行動は早く、バックステップで
逃げようとするが、その地面に足を滑らせてしまう。
「ただ火をだしただけで、あんな火を起こせる筈がない。乾燥注意報って知ってるかい?要は乾燥すればするほど、物は燃えやすくなる。」
火祭は倒れながらも距離を取ろうとする長瀬にゆっくり近づく。勝利を確信した狩人の様に。その歩は敵の最後の力を警戒しつつも軽快だ。
「僕の胞子は2種類ある。乾燥と可燃の二つだ。乾燥は水蒸気を溜め込み相手のタバコを湿らせる事もできる。可燃は着火剤だ、配置して思い通りの炎を上げられる。」
指先の火種に顔を照らされ、長瀬を見下す姿に長瀬も、観客も恐怖を抱かざるを得なかった。
『ヨーロッパを燃やし尽くした、神の子アグニ…』
誰かが呟くと、言葉の火種は瞬く間に会場に燃え広がる。なぜならアグニは唯一、HRIによって討ち取られた神の子だからだ。
──三年前ドイツミュンヘン。
その日は酷く乾燥していた。払われ、コンクリートに落ちた汗はジュワッと情けない音を立てて霧散する。
雲ひとつない晴天だった。そのせいだった。何処かで上がった炎は山を登り、木を焼き、民家を、人をも火葬したのだ。
炎は風を喰らいますます成長する。それは波のようで、止まることを知らない。草木から火の手は伸び続け、ついにヨーロッパを覆いつくしたのだ。
異常。それしか普通の人には言えない。しかし、HRIの特殊な力を持つヒトは当時を語る。「あれは奇妙な音だった。クジラが泣く音のような甲高い嫌な音だ。」
発生地を特定するとそこには1人の青年がいる。それがアグニだったのだ存在を目視できたため、HRIは鎮火のために全戦力を注ぎ込む。
天竹紫苑らの日本支部の精鋭達が討伐に成功する。この吉報は人間を奮い立たせたが、同時に多くの仲間を失った。
──そのため、このHRIでは終末の開花の災害の中で特に炎に対して根源的な恐怖を抱くのだ。
「まさか、始祖帰り…?」
あの悪夢が戻ってきたのかのかも知れないと火祭陸を知らぬ者たちは恐れた。
「アイツは違う!!!!俺達の仲間の火祭リクだ!」
恐怖とは未知から訪れる。リクを知らないヤツがアイツを悪く言うな。
「僕は気にしないのに…蓮はマジメだなぁ」
リクは試合を決着させようとする。
「(俺はまた負けるのか…?コイツらに。)」
この空間で1人だけ、恐怖でも信頼でもない感情を持つ長瀬薫。それは焦燥だった。
「変われ、長瀬薫。」
─ドン!
リクが俺を見た一瞬。その隙に長瀬は肉薄し、リクを突き飛ばす。
「オイ、火祭リク。戦いの最中に余所見とは随分と肝が座ってるな。」
「…なが、せ。なのか?」
「全く、目標すら達成していないのに負けてくれるなよ。長瀬薫め。優勝できなきと困るのは私なんだぞ。」
リクは直感で理解した。それは二重人格とか、中途半端なものでは無い。明らかな敵、なのだと。
「(コイツはここで倒さないと!)」
「燃えろ!長瀬ええ!!」
リクの判断は早かった。空気中の胞子を集めて最大火力で焼き払う、それで止めれることに賭けた。
─カチャッカチャカチャ
「なんで?!火が点かない!!」
「お前の能力は、アグニ様と同じ…ただ明暗を分けたのはお前はライターしか起点を持っていないと言うこと。摩擦で火を作るのならそれを失くせばいい。」
ライターを持つ右手に冷たくドロッとした何かが垂れた。
「ス、スライム?長瀬がなんでこんな能力を…」
ライターに気を取られた一瞬に、長瀬はその手を掴み、引き寄せながら火祭のアゴにハイキックを当てた。
白目を剥きリクは膝から崩れ落ちる。初戦の勝者は長瀬薫だった。
『『うおおおおお!!!』』
新人ながら能力を使いこなし、接戦を繰り広げた2人に歓声が沸く。リクは失神して、担架で運ばれるのに対し長瀬は歓声を一身に浴びる対比が酷く印象的だった。
「あちゃー火祭負けちゃったね~。追い込まれてくね~新人三人衆。」
「笑い事じゃないですよ…!」
リクはあの一撃だからな、当分起きないだろう。
それにしてもだ、あの長瀬の変貌は何なのか。体術なんてやって来なかったはずなのに空手の有段者の様な身のこなしになった。
「最後の攻防でリクの様子がおかしかった。」
「確かに、優勢だったのに急に焦り出したよな。」
「火祭陸の能力は、俺と違って恵まれてないからな。当然の結果だよ。」
「長瀬!!!」
いつもの様に憎まれ口を叩きながらヤツは現れた。俺も言い返してやろうと力んだとき、異変に気付く。
長瀬の雰囲気が違う。以前にはなかった威圧感だ、取り入る隙がない様な強者の空気を感じる。
「そう言えば、この大会で優勝したら報酬がもらえるんだったよなぁ?」
「それがどうした…」
不敵に笑むとアイツは俺を指差す。
「決めた。俺が優勝したら、お前に再戦を挑む。火祭陸の様に無様に終わらせてやるよ。神木蓮。」
「やってみろよ。格下が。」
─
「おい蓮、そろそろ準備しとけよ。お前にはお前の戦いがあるだろ」
「…そうだな。行こう。」
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