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日本防衛編
警戒態勢
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「さて諸君。避難隊の役割だが、先程言ったように民間人への被害を如何に減らすか、ということが肝になる。」
台風のルートは太平洋から千葉東京と流れていくものだった。国の中枢を打ち抜く流れに、事の顛末を知るHRIの職員達は国の存続を憂いた。
「幸いにも、終末の開花以降からは都市排水システムも厳重に用意されることになった。だが、限度はあるよな。」
葉子は徐ろに本を取り出す。
「ところで、君達は"ノアの方舟"という神話の一説を知ってるか?簡単に言えば大雨が降ったから舟作って浮こうという話だ。」
隊員の全員は頭にハテナを浮かべる。突飛な話だから当然である。
「我々が、第四小隊の技術班達が、何もせず滅亡を待ってるとでも?」
──別の会議室にて。
「先見達は小笠原にて風速を計測している。」
本隊の癒瘡木が仕切る。
「結果は?」
第一の副隊長、東雲巻が机に頬杖をつきながら聞く。
「秒速79.2メートル。観測史上最大に迫る暴風だ。あと、姿勢ぐらいはちゃんとしろ。」
「へいへい。」
「巻さん!また天竹さんに迷惑掛けちゃいますから!」
「あの人にそんな株ないでしょ。お株強制ロスカットよ、強さしかないから。」
東雲のお付き佐藤は止めようとするも無駄だった。癒瘡木は軽く溜息を吐くと気を取り直し進行を始める。
「到着予定時刻は今より14時間後だ。もう既に南の空は雲で覆われている。もうすぐノアが本土へ侵入してくるぞ。」
大量の雨を引き連れてヤツはやってくる。だから我々がノアと相対するのは山、台風の進路に直撃する地点で無くてはならない。
「我々は千葉県清澄山にてヤツを迎え討つ。」
清澄山、標高377メートル。最も海に近い山であり宗教的にも大きな意味を持つ地点である。
本隊の人間は覚悟を深く決める。
ある者は武器を磨き、ある者は戦術を組み、ある者は精神を整えた。
神木蓮もそうだった。この作戦、千葉より後ろに台風を、ノアを通してしまえば日本は壊滅してしまう。確実に勝つ為の力が必要である。
だが、今更訓練しても意味がない。今持てるモノを最大に行使できることがこの戦いに求められる。
【作戦開始まで10時間】
本隊、奇襲部隊の面々は最後の晩餐を摂ることとなる。避難隊はすでに動き始めている。
「そんな質素な食事でいいのか蓮。」
八重筒がステーキの切りながら問いかける。最後の晩餐は各人好きなモノを頼める。
「ああ、これがいいのさ。」
焼き魚にお浸し。いつか食べたあの味。神木蓮が頼んだのはシンプルな和食。
「先輩の顔が浮かぶんだ。」
そうか。八重筒は納得したように呟くと、自分のステーキを切り分けた半分をドンっと蓮の和食に乗せた。
「でも、カロリーは必要だ。だろ?」
「ハハッそうだな!」
──先見達は海を見張る。いつ、台風の中にノアが現れるか分からないからだ。現状最も命の危険がある部隊。
荒れた海を監視する彼らは遂に兆候を見つける。
「なんだアレ…おいっ!本部に連絡しろ!海から何か出てくる!!」
遠目からでも分かる巨大さ。それは人の形をしていた。波のように不明確な輪郭をしている。
それでも、ソレが人類の敵であることは恐怖に震える身体が教えた。
『こちら、本部。何があった。』
「不審な物体が上陸してきます。20メートル近い大きさです…」
『分かった。貴様らは直ちにその場を離れろ。』
命を案じてオペレーターは告げた。
「いえ、このまま監視を続けます。覚悟は出来ているのです。」
『…貴様の覚悟に敬意を表する。物体の形状などの情報を集めてくれ。』
「了解。」
それは風速が80mに近い嵐の中でも微動だにしない。ゆっくりと観測者の元へ近づいてくる。
人の形をしたモノは雷雲に顔を照らされた。一部を除き、人の顔のそれだった。高い鼻、欧州のモノの顔立ちだ。眼球が無いことを除けば、だが。
先見達に緊張が走る。逃げない、と言えば聞こえはいいが。彼らは既に逃げられなかった。恐怖か何かわからないが、この未知との遭遇が原因だろう。
双方の距離はもう10メートルも無い。片や20メートルを超える巨人。もう離れられない。
「お前は何者だ!!!」
無謀とも取れる勇敢な者が巨人に問う。
──ザザーン。
返事は無い。巨人はゆっくり距離を詰める。
「ノアの仲間か?!」
──ピタリ。 巨人は動きを止める。ガタガタと奇妙な音を鳴らして何かを話そうとする。
『ワれハ、ノアの使者でアル。ヒトニ選択を与えニキた。』
「本部に連絡を!」
情報は迅速に伝わる。本部は動き始めた。本部の回答は、使者の言を聞き逃すな。
『ノアの選択ダ。絶滅か、降伏選べ。ニンゲンよ。』
一言一句違わず、本部に入る情報。血の気が引くような怖い選択だ。
『返答には気をつけろ。眼がない神話は碌なモノがない。』
「オペレーター、分かってますよ。奴らは降伏したとしても、人間を生かしたりはしない。」
『あぁ。仲間の仇を討つぞ。』
──
『決マッたか?』
1人、先見隊から歩み出る。その瞳は強く、巨人を睨みつける。恐怖を恐れぬニンゲンの誇りがそこにはあった。
「おい!デカブツ!!オレらの選択は、お前らの絶滅だだ!」
『ソウカ。』
グシャッ!殴る音と潰れる音、両方が入り混じる音が流れた後、通信はそれ以降取れなくなった。
「先見がやられた勇敢な最期だった。そして、ノアより先に倒さなければならない奴が出てきた。」
総隊長天竹が告げる、代表を務める本隊に。
「我々が確実に倒します。」
10月11日未明。本隊出動。
台風のルートは太平洋から千葉東京と流れていくものだった。国の中枢を打ち抜く流れに、事の顛末を知るHRIの職員達は国の存続を憂いた。
「幸いにも、終末の開花以降からは都市排水システムも厳重に用意されることになった。だが、限度はあるよな。」
葉子は徐ろに本を取り出す。
「ところで、君達は"ノアの方舟"という神話の一説を知ってるか?簡単に言えば大雨が降ったから舟作って浮こうという話だ。」
隊員の全員は頭にハテナを浮かべる。突飛な話だから当然である。
「我々が、第四小隊の技術班達が、何もせず滅亡を待ってるとでも?」
──別の会議室にて。
「先見達は小笠原にて風速を計測している。」
本隊の癒瘡木が仕切る。
「結果は?」
第一の副隊長、東雲巻が机に頬杖をつきながら聞く。
「秒速79.2メートル。観測史上最大に迫る暴風だ。あと、姿勢ぐらいはちゃんとしろ。」
「へいへい。」
「巻さん!また天竹さんに迷惑掛けちゃいますから!」
「あの人にそんな株ないでしょ。お株強制ロスカットよ、強さしかないから。」
東雲のお付き佐藤は止めようとするも無駄だった。癒瘡木は軽く溜息を吐くと気を取り直し進行を始める。
「到着予定時刻は今より14時間後だ。もう既に南の空は雲で覆われている。もうすぐノアが本土へ侵入してくるぞ。」
大量の雨を引き連れてヤツはやってくる。だから我々がノアと相対するのは山、台風の進路に直撃する地点で無くてはならない。
「我々は千葉県清澄山にてヤツを迎え討つ。」
清澄山、標高377メートル。最も海に近い山であり宗教的にも大きな意味を持つ地点である。
本隊の人間は覚悟を深く決める。
ある者は武器を磨き、ある者は戦術を組み、ある者は精神を整えた。
神木蓮もそうだった。この作戦、千葉より後ろに台風を、ノアを通してしまえば日本は壊滅してしまう。確実に勝つ為の力が必要である。
だが、今更訓練しても意味がない。今持てるモノを最大に行使できることがこの戦いに求められる。
【作戦開始まで10時間】
本隊、奇襲部隊の面々は最後の晩餐を摂ることとなる。避難隊はすでに動き始めている。
「そんな質素な食事でいいのか蓮。」
八重筒がステーキの切りながら問いかける。最後の晩餐は各人好きなモノを頼める。
「ああ、これがいいのさ。」
焼き魚にお浸し。いつか食べたあの味。神木蓮が頼んだのはシンプルな和食。
「先輩の顔が浮かぶんだ。」
そうか。八重筒は納得したように呟くと、自分のステーキを切り分けた半分をドンっと蓮の和食に乗せた。
「でも、カロリーは必要だ。だろ?」
「ハハッそうだな!」
──先見達は海を見張る。いつ、台風の中にノアが現れるか分からないからだ。現状最も命の危険がある部隊。
荒れた海を監視する彼らは遂に兆候を見つける。
「なんだアレ…おいっ!本部に連絡しろ!海から何か出てくる!!」
遠目からでも分かる巨大さ。それは人の形をしていた。波のように不明確な輪郭をしている。
それでも、ソレが人類の敵であることは恐怖に震える身体が教えた。
『こちら、本部。何があった。』
「不審な物体が上陸してきます。20メートル近い大きさです…」
『分かった。貴様らは直ちにその場を離れろ。』
命を案じてオペレーターは告げた。
「いえ、このまま監視を続けます。覚悟は出来ているのです。」
『…貴様の覚悟に敬意を表する。物体の形状などの情報を集めてくれ。』
「了解。」
それは風速が80mに近い嵐の中でも微動だにしない。ゆっくりと観測者の元へ近づいてくる。
人の形をしたモノは雷雲に顔を照らされた。一部を除き、人の顔のそれだった。高い鼻、欧州のモノの顔立ちだ。眼球が無いことを除けば、だが。
先見達に緊張が走る。逃げない、と言えば聞こえはいいが。彼らは既に逃げられなかった。恐怖か何かわからないが、この未知との遭遇が原因だろう。
双方の距離はもう10メートルも無い。片や20メートルを超える巨人。もう離れられない。
「お前は何者だ!!!」
無謀とも取れる勇敢な者が巨人に問う。
──ザザーン。
返事は無い。巨人はゆっくり距離を詰める。
「ノアの仲間か?!」
──ピタリ。 巨人は動きを止める。ガタガタと奇妙な音を鳴らして何かを話そうとする。
『ワれハ、ノアの使者でアル。ヒトニ選択を与えニキた。』
「本部に連絡を!」
情報は迅速に伝わる。本部は動き始めた。本部の回答は、使者の言を聞き逃すな。
『ノアの選択ダ。絶滅か、降伏選べ。ニンゲンよ。』
一言一句違わず、本部に入る情報。血の気が引くような怖い選択だ。
『返答には気をつけろ。眼がない神話は碌なモノがない。』
「オペレーター、分かってますよ。奴らは降伏したとしても、人間を生かしたりはしない。」
『あぁ。仲間の仇を討つぞ。』
──
『決マッたか?』
1人、先見隊から歩み出る。その瞳は強く、巨人を睨みつける。恐怖を恐れぬニンゲンの誇りがそこにはあった。
「おい!デカブツ!!オレらの選択は、お前らの絶滅だだ!」
『ソウカ。』
グシャッ!殴る音と潰れる音、両方が入り混じる音が流れた後、通信はそれ以降取れなくなった。
「先見がやられた勇敢な最期だった。そして、ノアより先に倒さなければならない奴が出てきた。」
総隊長天竹が告げる、代表を務める本隊に。
「我々が確実に倒します。」
10月11日未明。本隊出動。
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