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日本防衛編
日本沈没
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「ノアの反応を確認。東京へ到達しました…」
無線から伝わる危機的状況、それは直ぐに天竹紫苑へと届いた。
「マズイかも。」
凄まじい速度で敵を切り刻む紫苑だったが、いかんせん数が多い。今直ぐにでも東京に向かいたいのに宮城県─仙台のプラントの数は一向に減らないのだ。民間人の被害を考えると、ここを放置するのもまた危険である。
「私も硬樹みたいなパワーがあればなぁ。」
幸いここ一帯は避難のため人払いが済んでいる。
「よし、やるか。」
─ドシン!!!
紫苑が動こうとした時、地震のような大きな衝撃が街を襲った。
ドシン、ドシンと紫苑に近づくように音は大きくなりソレはビルの群れから頭を見せた。
『見つけたゾ人間!!』
巨人だ。紫苑も本隊の連絡からサイクロプスとかいう巨人が現れていたのを知っている。
「(確か、玲衣の機転で破壊できたけどかなり硬い鎧だったんだっけ。ラッキー。)」
紫苑の脳内でとある戦いの結末が構築される。
『ヨトゥンサマ!ヤッチまっテクダせぇ!』
『ヨトゥン!ヨトゥン!!』
巨人の出現と共に、大小様々なプラントが姿を現し始めた。ザッと数えて百を超える物量だ。
植物どもは喧しいヨトゥンコールを叫び続ける。そのうち、紫苑とヨトゥンとの距離は10メートルも無くなった。
『名乗れ、か弱きニンゲン。』
「プラントのクセに騎士道精神なんて持ってるなんて意外ね。」
『ノア様の命だ。天竹紫苑は生け取れとな。殺す前に聞いておかねば、間違えぬだろう?』
「それもそうね。でも生憎、植物如きに名乗る軽い女じゃないの。」
『ソウか…なら同胞の仇を取らせて貰おう。』
巨人の速度は凄まじかった。カミナリの様な速度で紫苑に拳を振るう。巨体からは想像できない機敏さをヨトゥンは持っていた。
『サイクロプスは力、我は速度で貴様らを屠ろう。』
「あらそう?」
ヨトゥンは衝撃を感じた。自慢の速度が、初見で見破られたのだ。地面に刺さる自分の拳の上に乗る小さき人間の女にそこ知れぬ恐怖を覚えた。
「触れたら、私の勝ちね。」
『?!?』
サイクロプス程ではないがヨトゥンの体表もヒトの大砲を通さないぐらいには硬いはずだ。
腕の皮膚を貫通して感じる鋭利な痛み。ズキズキと何かが体内を侵入してくる。
『何をしたキサマッ!!』
手を振るって紫苑を飛ばそうとしたが既に彼女はおらず腕の痛みは心臓へと達そうだった。
「竹花壊花。私の戦いを見た者はそう表現した。」
─刹那、ヨトゥンの状態は弾けた。内から盛り上がる何かに身体が耐えられなかったのだ。
それは青々とした竹。凄まじい成長速度で巨人の身体を喰い荒らしたのだった。
『…』
沈黙。手下どもは何も話せなかった。圧倒的有利が瞬く間に崩れてしまったからだ。
「次はお前達だ。」
ヨトゥンの返り血を浴びて、紫苑は目をギラつかせた。雨で冷えた空気のせいで映る紫苑の吐息でさせ、物を知らぬ雑草どもを震え上がらせた。
「もう遅いけどね。彼硬かったから、派手に撒き散らしてくれたもの。」
雑草は紫苑の姿を見て気づく。自分たちも浴びているのだ。
『ウオオオ!!』
意味を理解した者は決死の突撃を選んだ。しかし、勿論何も出来ぬ者もいた。双方に与えられた結末は何よりも酷いモノだった。
連鎖。それは感染に近いと言えるだろう。ヨトゥンから撒き散らされた血は紫苑の能力の媒体となった。
─パァン!パァン!
次々に雑草どもは破裂する。そして破片は二次感染を引き起こす。そして5分も経たぬうちに紫苑の数的不利の戦いは決着した。
『本部?今終わったから別働隊寄越して。引き継ぎしたらソッチ向かうよ。』
歓声が湧いた。絶望的と言われた東の防衛戦が終わったのだ。それに加えて最高戦力の関東防衛戦の参戦。部隊の士気を上げるには充分すぎる戦果である。
──
「聞いたか蓮。天竹隊長来るってよ。」
吉報に湧く者もいれば、そうでない者も居る。本隊で先陣を切って戦った者は不甲斐なさに肩を下ろした。
「らしいな。チクショウ。また紫苑さんに迷惑かけちまうのか。」
八重筒は癒瘡木とノアを迎え撃つ手筈だった。しかし、予想外の前衛の消息不明により戦況の変化。先に癒瘡木が出撃することになってしまった。
後から駆け付けた八重筒が見たのは、倒された玲衣、癒瘡木、蓮の姿だった。
三人とも怪我は深い。特に癒瘡木。能力の相性でノアに負けたという事実が重くのしかかっていた。
「分析が甘かった。バアルと同系統なら、身体の構造を変化させられると予想を立てておくべきだった。私の攻撃は何一つ入らなかった。」
「隊長…」
「しかし、私は負けていない。」
八重筒は驚いた、癒瘡木とあろうものが言い訳をするのかと思ったからだ。癒瘡木は腕を見せる。傷一つ無い、筋肉の掘りが深い腕だ。
「アイツの攻撃も私に通用していない。支援が必要だった。アイツの身体を固定し、俺の攻撃を当てるためのサポートだ。」
「…私が、やります。」
「玲衣!」
玲衣が目を覚ました。しかし、彼女の身体はまだ数時間の休息を必要としている。
「それだけでは足りん。蓮、俺がここに飛んできたのはお前の力も必要だからだ。」
「バアルとの戦闘で、俺は…」
理由は知らないが玲衣の力を使えた。癒瘡木隊長はそれを期待しているのだろう。
「現在ノアは東京に足を踏み入れた。山地とは異なりビルを利用した立体的な戦闘ができるだろう。」
─
「阿波木副隊長が待機してるんですね。」
癒瘡木は静かに頷く。
「完全な初見殺し。一撃で仕留めなければ我々に次はない。」
こうして作戦会議は終わった。目的は一つ、ノアを完全に封殺して勝つ。それだけだ。
「時間が惜しい。お前達、乗れ。」
癒瘡木隊長は大きな背中を見せた。俺たちは彼の背中に乗ると、隊長は素早い移動を始めた。嶺を一飛びで移り続けて、気付けば東京湾に到着。若干酔いかけたが、そういうのを無視すれば飛行機にも負けない移動手段だろう。
「しっかり掴まれよ。」
大きくしゃがむ隊長。雨音ではない奇妙な音が聞こえた。ギチギチと、弓を引くような鈍い音。
隊長の太腿が丸太のような太さになっていた。その力が解放されるや否や、身体に凄まじい負荷が掛かる。
そして負荷に身体が慣れると衝撃の光景を目の当たりにした。
「人3人抱えて走ってる!!」
パシィ!パシィ!と水面を弾く音がするたびに身体が浮く感覚がした。
「訓練すればお前もできる!!」
「アンタは人間じゃない!」
気付けば対岸が見えた。
「この勢いで合流地点に向かう。できる限り気配を殺すんだ。ノアに悟られないように。」
癒瘡木隊長はおおよそ200キロ近い重荷を抱えて高速移動をしたが、着地の音は静音で、美しさを感じる程の繊細な動きで市街地を滑走した。
「先回りできたみたいだな。」
「死ぬかと思いました…」
「うっ…」
元々肌色が白い玲衣の顔が真っ青だ。ここまで弱る玲衣は初めて見た。1番ダメージを負っていたから仕方ないことだが。
「蓮と玲衣はここで待機。出番に備えろ。俺達は阿波木と合流する。行くぞ六郎太。」
「はい。」
八重筒は筒を携えて決戦へと向かった。
「うわ、2階まで冠水じゃん。」
高層の建物に俺と玲衣は陣取っため、意識しないと気付けなかった。これから小休止、俺達は体力を回復しなければならない。
「…」
寒い。もうすぐ夜明けが訪れる最も暗い時間だ。HRIの手引きにより、一帯の住民は居ない。この街を暖める人はいないのだ。
「蓮。こっち来て。」
壁に背を預け座り込む玲衣は隣を指差す。俺は何も言わずに隣に座った。
「寒いから。」
そう言うと彼女は肩を合わせてきた。左半身に暖かく、柔らかい感触がする。
「…あの、玲衣?」
「何?」
流石に俺も男だから、隣で美少女がこんなことをして来たら恥ずかしい。
少しの沈黙の末、俺は口を開く。
「ノアとの因縁の話、聞いたよ。」
「…」
玲衣の身体が強張った。こんなに近くに居るんだ。普段、感情を表に出さない彼女でも、何を考えているか分かってしまう。
「貴方になら、話してもいいのかもしれない。」
「?」
「私とノアの間にある奇妙な繋がりのことよ。」
無線から伝わる危機的状況、それは直ぐに天竹紫苑へと届いた。
「マズイかも。」
凄まじい速度で敵を切り刻む紫苑だったが、いかんせん数が多い。今直ぐにでも東京に向かいたいのに宮城県─仙台のプラントの数は一向に減らないのだ。民間人の被害を考えると、ここを放置するのもまた危険である。
「私も硬樹みたいなパワーがあればなぁ。」
幸いここ一帯は避難のため人払いが済んでいる。
「よし、やるか。」
─ドシン!!!
紫苑が動こうとした時、地震のような大きな衝撃が街を襲った。
ドシン、ドシンと紫苑に近づくように音は大きくなりソレはビルの群れから頭を見せた。
『見つけたゾ人間!!』
巨人だ。紫苑も本隊の連絡からサイクロプスとかいう巨人が現れていたのを知っている。
「(確か、玲衣の機転で破壊できたけどかなり硬い鎧だったんだっけ。ラッキー。)」
紫苑の脳内でとある戦いの結末が構築される。
『ヨトゥンサマ!ヤッチまっテクダせぇ!』
『ヨトゥン!ヨトゥン!!』
巨人の出現と共に、大小様々なプラントが姿を現し始めた。ザッと数えて百を超える物量だ。
植物どもは喧しいヨトゥンコールを叫び続ける。そのうち、紫苑とヨトゥンとの距離は10メートルも無くなった。
『名乗れ、か弱きニンゲン。』
「プラントのクセに騎士道精神なんて持ってるなんて意外ね。」
『ノア様の命だ。天竹紫苑は生け取れとな。殺す前に聞いておかねば、間違えぬだろう?』
「それもそうね。でも生憎、植物如きに名乗る軽い女じゃないの。」
『ソウか…なら同胞の仇を取らせて貰おう。』
巨人の速度は凄まじかった。カミナリの様な速度で紫苑に拳を振るう。巨体からは想像できない機敏さをヨトゥンは持っていた。
『サイクロプスは力、我は速度で貴様らを屠ろう。』
「あらそう?」
ヨトゥンは衝撃を感じた。自慢の速度が、初見で見破られたのだ。地面に刺さる自分の拳の上に乗る小さき人間の女にそこ知れぬ恐怖を覚えた。
「触れたら、私の勝ちね。」
『?!?』
サイクロプス程ではないがヨトゥンの体表もヒトの大砲を通さないぐらいには硬いはずだ。
腕の皮膚を貫通して感じる鋭利な痛み。ズキズキと何かが体内を侵入してくる。
『何をしたキサマッ!!』
手を振るって紫苑を飛ばそうとしたが既に彼女はおらず腕の痛みは心臓へと達そうだった。
「竹花壊花。私の戦いを見た者はそう表現した。」
─刹那、ヨトゥンの状態は弾けた。内から盛り上がる何かに身体が耐えられなかったのだ。
それは青々とした竹。凄まじい成長速度で巨人の身体を喰い荒らしたのだった。
『…』
沈黙。手下どもは何も話せなかった。圧倒的有利が瞬く間に崩れてしまったからだ。
「次はお前達だ。」
ヨトゥンの返り血を浴びて、紫苑は目をギラつかせた。雨で冷えた空気のせいで映る紫苑の吐息でさせ、物を知らぬ雑草どもを震え上がらせた。
「もう遅いけどね。彼硬かったから、派手に撒き散らしてくれたもの。」
雑草は紫苑の姿を見て気づく。自分たちも浴びているのだ。
『ウオオオ!!』
意味を理解した者は決死の突撃を選んだ。しかし、勿論何も出来ぬ者もいた。双方に与えられた結末は何よりも酷いモノだった。
連鎖。それは感染に近いと言えるだろう。ヨトゥンから撒き散らされた血は紫苑の能力の媒体となった。
─パァン!パァン!
次々に雑草どもは破裂する。そして破片は二次感染を引き起こす。そして5分も経たぬうちに紫苑の数的不利の戦いは決着した。
『本部?今終わったから別働隊寄越して。引き継ぎしたらソッチ向かうよ。』
歓声が湧いた。絶望的と言われた東の防衛戦が終わったのだ。それに加えて最高戦力の関東防衛戦の参戦。部隊の士気を上げるには充分すぎる戦果である。
──
「聞いたか蓮。天竹隊長来るってよ。」
吉報に湧く者もいれば、そうでない者も居る。本隊で先陣を切って戦った者は不甲斐なさに肩を下ろした。
「らしいな。チクショウ。また紫苑さんに迷惑かけちまうのか。」
八重筒は癒瘡木とノアを迎え撃つ手筈だった。しかし、予想外の前衛の消息不明により戦況の変化。先に癒瘡木が出撃することになってしまった。
後から駆け付けた八重筒が見たのは、倒された玲衣、癒瘡木、蓮の姿だった。
三人とも怪我は深い。特に癒瘡木。能力の相性でノアに負けたという事実が重くのしかかっていた。
「分析が甘かった。バアルと同系統なら、身体の構造を変化させられると予想を立てておくべきだった。私の攻撃は何一つ入らなかった。」
「隊長…」
「しかし、私は負けていない。」
八重筒は驚いた、癒瘡木とあろうものが言い訳をするのかと思ったからだ。癒瘡木は腕を見せる。傷一つ無い、筋肉の掘りが深い腕だ。
「アイツの攻撃も私に通用していない。支援が必要だった。アイツの身体を固定し、俺の攻撃を当てるためのサポートだ。」
「…私が、やります。」
「玲衣!」
玲衣が目を覚ました。しかし、彼女の身体はまだ数時間の休息を必要としている。
「それだけでは足りん。蓮、俺がここに飛んできたのはお前の力も必要だからだ。」
「バアルとの戦闘で、俺は…」
理由は知らないが玲衣の力を使えた。癒瘡木隊長はそれを期待しているのだろう。
「現在ノアは東京に足を踏み入れた。山地とは異なりビルを利用した立体的な戦闘ができるだろう。」
─
「阿波木副隊長が待機してるんですね。」
癒瘡木は静かに頷く。
「完全な初見殺し。一撃で仕留めなければ我々に次はない。」
こうして作戦会議は終わった。目的は一つ、ノアを完全に封殺して勝つ。それだけだ。
「時間が惜しい。お前達、乗れ。」
癒瘡木隊長は大きな背中を見せた。俺たちは彼の背中に乗ると、隊長は素早い移動を始めた。嶺を一飛びで移り続けて、気付けば東京湾に到着。若干酔いかけたが、そういうのを無視すれば飛行機にも負けない移動手段だろう。
「しっかり掴まれよ。」
大きくしゃがむ隊長。雨音ではない奇妙な音が聞こえた。ギチギチと、弓を引くような鈍い音。
隊長の太腿が丸太のような太さになっていた。その力が解放されるや否や、身体に凄まじい負荷が掛かる。
そして負荷に身体が慣れると衝撃の光景を目の当たりにした。
「人3人抱えて走ってる!!」
パシィ!パシィ!と水面を弾く音がするたびに身体が浮く感覚がした。
「訓練すればお前もできる!!」
「アンタは人間じゃない!」
気付けば対岸が見えた。
「この勢いで合流地点に向かう。できる限り気配を殺すんだ。ノアに悟られないように。」
癒瘡木隊長はおおよそ200キロ近い重荷を抱えて高速移動をしたが、着地の音は静音で、美しさを感じる程の繊細な動きで市街地を滑走した。
「先回りできたみたいだな。」
「死ぬかと思いました…」
「うっ…」
元々肌色が白い玲衣の顔が真っ青だ。ここまで弱る玲衣は初めて見た。1番ダメージを負っていたから仕方ないことだが。
「蓮と玲衣はここで待機。出番に備えろ。俺達は阿波木と合流する。行くぞ六郎太。」
「はい。」
八重筒は筒を携えて決戦へと向かった。
「うわ、2階まで冠水じゃん。」
高層の建物に俺と玲衣は陣取っため、意識しないと気付けなかった。これから小休止、俺達は体力を回復しなければならない。
「…」
寒い。もうすぐ夜明けが訪れる最も暗い時間だ。HRIの手引きにより、一帯の住民は居ない。この街を暖める人はいないのだ。
「蓮。こっち来て。」
壁に背を預け座り込む玲衣は隣を指差す。俺は何も言わずに隣に座った。
「寒いから。」
そう言うと彼女は肩を合わせてきた。左半身に暖かく、柔らかい感触がする。
「…あの、玲衣?」
「何?」
流石に俺も男だから、隣で美少女がこんなことをして来たら恥ずかしい。
少しの沈黙の末、俺は口を開く。
「ノアとの因縁の話、聞いたよ。」
「…」
玲衣の身体が強張った。こんなに近くに居るんだ。普段、感情を表に出さない彼女でも、何を考えているか分かってしまう。
「貴方になら、話してもいいのかもしれない。」
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