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日本防衛編
話、聞いてよ。
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雨音だけがよく聞こえる。夜明けを待ち侘びる。明かりは手元の携帯灯のみ。
時間が止まったかのような空気を割る音がした。玲衣の呼吸、言葉を発する用意。
「ノアは私の姉を奪った。」
作戦開始前に癒瘡木隊長から聞いた。彼女は目の前で植物硬化病であった姉が苦しむ姿を見ており、俺のように人がプラントに変様する姿を見てしまったのだ。
プラント、プラントと言うのも己を正当化するみたいだがそうでもしないとこの仕事は出来ない。だって、俺らがしてるのは人殺しなのだ。
硬化病の末、芽が巨大化しヒトの人格を奪う。それは現在はウイルスのようなものだと考えられている。人格を奪われた人間は凶暴性を増し、人間を襲うようになる。それを防ぐのがHRI。
結局は、ヒトなのである。ゾンビに人権はあるのか、という倫理的問いに近い。襲われたから、命を奪う。そんな単純な話ではない。
「今までノアとは3回交戦した。」
12歳の時、17歳の時、そして式典の時。と玲衣は指を折って数える。
「ノアは私を殺せるのに殺さなかったの。憶えている。毎回アイツの手は震えていた。」
玲衣は何か期待しているような声で語る。声はなんだが上擦っていた。俺はあえて彼女から目を離す。
「私ね、おねーちゃんがまだ生きてるんじゃないかってずっと思ってるの…」
淡い希望。まだ20歳に満たぬ大人にもなれない少女が生きる理由だ。
「…蓮?」
玲衣泣いていた。
そして俺は考えるより先に彼女を抱き寄せた。
「ごめん。こんな状況じゃないよな。でも、こうしなければ玲衣は救われないと思ったんだ。」
「やめてよ…私貴方に優しくなかったでしょ。」
「関係ない。俺がこうしてあげたくなったんだ。」
雨で濡れた服が一滴、ニ滴と暖かくなる。玲衣が俺の腰に手を回し、抱き返してきた。
「うっ…ぐ…」
「1人で辛かったよな。いつもよく頑張ってるよ。」
慰める最中、俺の脳裏にある考えが廻る。
『玲衣のお姉さんを戻せるかも知れない』
プラントは人間が植物硬化病に罹ることで現れる超常的な存在である。大抵は知性を失い、人を襲うまで凶暴化する。
だが、神の子に関してはどうだ?アイツらは生前の記憶を得ている。つまり脳を共有しているのだ。
肉体の主導権が別の人格、つまりは「ノア」に奪われているのなら取り除けば戻るのではないか。
一通り落ち着いた玲衣にそれを伝えてみる。
「本当に貴方は優しいのね。でも、私はもう諦めてるわ。…姉は帰らない。だから今、より多くの人を傷つける前に止めなくちゃいけないの。」
彼女の決意は俺の単略な思考では覆せないほどの硬いものだったらしい。
──ガガガ…
『実に興味深い話だ。』
無線の奥から俺たちに語りかける女の声がした。
「葉子隊長?!」
『違う。その姉の花子だ。』
「どうして急に…」
『ふむ。今しがた神木蓮、君はノアから人格を抽出できるのではないかという仮説をたてたね?』
「はい。それがどうかしましたか?」
『私も概ね賛成なのだよ。』
「「?!」」
俺達は驚く。だって彼女は、花子さんはプラント研究の第一人者であるのだから。
『ところで、神木蓮。君に一つ問おう。プラント被害を根絶するにはどうしたいい?』
「根絶…植物硬化病の予防ですか?」
『そうだ。そして私は植物硬化病のワクチンの最終段階に進んでいる。』
「本当ですか!!凄い…それができたらもう、プラントの増加は気にしなくていいようになりますね!」
だが、と花子さんは渋る声をだす。
『最後の1ピースが足りないのだ。遺伝子、あえて設計図と呼ぼう。コイツらは特殊な形でね。樹木の様に幹を中心とした構造を取ると予想している。』
「予想?断定できてないんですか?」
『発見できていないのだ。今まで被験体としていたのは働き蟻で種族の中で最も数が多い役割だ。上位の役割と乖離があるんだよ。』
上位の役割。プラントなら、知性がありワーカーを従える存在。
「神の子!ノア!」
『そうだ!君達にはノアを捕まえて貰いたい!ヤツの身体には我々が得られなかった設計図が得られるのだッ!』
花子は恐れ多くも神の肉体を望む。
「待ってよ。それじゃあ姉は…」
それが意味するのは、姉の身体の利用である。氷室玲衣が抵抗を覚えるのは仕方がないことである。
「花子さん。現場にいる者にとってその後が重要だ。約束してくれ、玲衣のお姉さんを助けると。」
「蓮…」
『当たり前だ。彼女にはプラントから人への再生の実験台になってもらうのだからな。お前達こそ、勢い余って殺すなよ。』
良い報告を待っていると、花子は無線を切る。
─
「なぁ聞いたか?六郎太。生捕りだとよ。」
豪雨の中、レインコートから阿波木が笑い口調で八重筒に問う。コート内の手元では作戦で使う弾丸を一つ一つ詰め込んでいた。
「学者の言うことは無茶ばかりですね。悪くて相打ちもありえるんですよ?」
八重筒は筒の調子を伺う。いつも通りの日本刀が現れニヤリと笑んだ。
「だが、不可能な話ではない。最高のパフォーマンスと共に幸運が我々に回ってくれば良い。祈る神を殺し、運命の天秤を握るぞ。」
癒瘡木は拳を握った。分厚い革手袋が鈍く軋む。
──
「いち、にー、3人ね。人類の命運をかけた戦いにしてはモノ寂しいね。あ、ボクが殺したのか。」
雨の波に乗り、神はやってくる。これでヤツを止められなければ日本は、いや世界は機能を停止する。
最終試練。ノアの討伐は東京のビル街の屋上にて開戦した。
時間が止まったかのような空気を割る音がした。玲衣の呼吸、言葉を発する用意。
「ノアは私の姉を奪った。」
作戦開始前に癒瘡木隊長から聞いた。彼女は目の前で植物硬化病であった姉が苦しむ姿を見ており、俺のように人がプラントに変様する姿を見てしまったのだ。
プラント、プラントと言うのも己を正当化するみたいだがそうでもしないとこの仕事は出来ない。だって、俺らがしてるのは人殺しなのだ。
硬化病の末、芽が巨大化しヒトの人格を奪う。それは現在はウイルスのようなものだと考えられている。人格を奪われた人間は凶暴性を増し、人間を襲うようになる。それを防ぐのがHRI。
結局は、ヒトなのである。ゾンビに人権はあるのか、という倫理的問いに近い。襲われたから、命を奪う。そんな単純な話ではない。
「今までノアとは3回交戦した。」
12歳の時、17歳の時、そして式典の時。と玲衣は指を折って数える。
「ノアは私を殺せるのに殺さなかったの。憶えている。毎回アイツの手は震えていた。」
玲衣は何か期待しているような声で語る。声はなんだが上擦っていた。俺はあえて彼女から目を離す。
「私ね、おねーちゃんがまだ生きてるんじゃないかってずっと思ってるの…」
淡い希望。まだ20歳に満たぬ大人にもなれない少女が生きる理由だ。
「…蓮?」
玲衣泣いていた。
そして俺は考えるより先に彼女を抱き寄せた。
「ごめん。こんな状況じゃないよな。でも、こうしなければ玲衣は救われないと思ったんだ。」
「やめてよ…私貴方に優しくなかったでしょ。」
「関係ない。俺がこうしてあげたくなったんだ。」
雨で濡れた服が一滴、ニ滴と暖かくなる。玲衣が俺の腰に手を回し、抱き返してきた。
「うっ…ぐ…」
「1人で辛かったよな。いつもよく頑張ってるよ。」
慰める最中、俺の脳裏にある考えが廻る。
『玲衣のお姉さんを戻せるかも知れない』
プラントは人間が植物硬化病に罹ることで現れる超常的な存在である。大抵は知性を失い、人を襲うまで凶暴化する。
だが、神の子に関してはどうだ?アイツらは生前の記憶を得ている。つまり脳を共有しているのだ。
肉体の主導権が別の人格、つまりは「ノア」に奪われているのなら取り除けば戻るのではないか。
一通り落ち着いた玲衣にそれを伝えてみる。
「本当に貴方は優しいのね。でも、私はもう諦めてるわ。…姉は帰らない。だから今、より多くの人を傷つける前に止めなくちゃいけないの。」
彼女の決意は俺の単略な思考では覆せないほどの硬いものだったらしい。
──ガガガ…
『実に興味深い話だ。』
無線の奥から俺たちに語りかける女の声がした。
「葉子隊長?!」
『違う。その姉の花子だ。』
「どうして急に…」
『ふむ。今しがた神木蓮、君はノアから人格を抽出できるのではないかという仮説をたてたね?』
「はい。それがどうかしましたか?」
『私も概ね賛成なのだよ。』
「「?!」」
俺達は驚く。だって彼女は、花子さんはプラント研究の第一人者であるのだから。
『ところで、神木蓮。君に一つ問おう。プラント被害を根絶するにはどうしたいい?』
「根絶…植物硬化病の予防ですか?」
『そうだ。そして私は植物硬化病のワクチンの最終段階に進んでいる。』
「本当ですか!!凄い…それができたらもう、プラントの増加は気にしなくていいようになりますね!」
だが、と花子さんは渋る声をだす。
『最後の1ピースが足りないのだ。遺伝子、あえて設計図と呼ぼう。コイツらは特殊な形でね。樹木の様に幹を中心とした構造を取ると予想している。』
「予想?断定できてないんですか?」
『発見できていないのだ。今まで被験体としていたのは働き蟻で種族の中で最も数が多い役割だ。上位の役割と乖離があるんだよ。』
上位の役割。プラントなら、知性がありワーカーを従える存在。
「神の子!ノア!」
『そうだ!君達にはノアを捕まえて貰いたい!ヤツの身体には我々が得られなかった設計図が得られるのだッ!』
花子は恐れ多くも神の肉体を望む。
「待ってよ。それじゃあ姉は…」
それが意味するのは、姉の身体の利用である。氷室玲衣が抵抗を覚えるのは仕方がないことである。
「花子さん。現場にいる者にとってその後が重要だ。約束してくれ、玲衣のお姉さんを助けると。」
「蓮…」
『当たり前だ。彼女にはプラントから人への再生の実験台になってもらうのだからな。お前達こそ、勢い余って殺すなよ。』
良い報告を待っていると、花子は無線を切る。
─
「なぁ聞いたか?六郎太。生捕りだとよ。」
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「だが、不可能な話ではない。最高のパフォーマンスと共に幸運が我々に回ってくれば良い。祈る神を殺し、運命の天秤を握るぞ。」
癒瘡木は拳を握った。分厚い革手袋が鈍く軋む。
──
「いち、にー、3人ね。人類の命運をかけた戦いにしてはモノ寂しいね。あ、ボクが殺したのか。」
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