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日本防衛編
ノアの最終試練その2
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八重筒は恐怖していた。腕を切ってやった、足を落としてやった、胴を割ってやった。それなのに目の前の生き物は活動を停止しない。血は流れるのに、呼吸を止めない。
「(この刀はいくら斬っても刃こぼれしない。でも、体力の消耗が心配だ。)」
敵は適当に腕を振るだけだが、八重筒は違う。一太刀一太刀を相手の鱗を通す繊細さで振るっているのだ。集中も段々と奪われていく。
「(今までは生物だと思っていた。だがこの異常な耐久…核がある。)」
その特徴はプラントであった。歪な人型でしか存在が確認されていなかったプラント。動物型は新種となる。
人型であれば話は簡単だ。大抵が頭部に核を置いている。
片や新種のプラント。手探りで戦うしかない。
「幾億の鍛錬はこの為に…!!!」
八重筒六郎太の身体はその気概に応えた。何時間も、何日も、何年も。築き上げて来た身体は戦闘時間の経過とともに疲労を重ねるどころか速度が増す。
──
『オマエの太刀は本気を知らない。』
在りし日に八重筒武蔵、父に言われた言葉だ。
どういうことだろう、六郎太は首を傾げる。父との鍛錬で手を抜くことなど出来ない。常に本気なのだ。
父、武蔵は【黒方五色】の当主であり五色の中で唯一名乗ることを許された戦神の称号を持つ。家宝─【八式大筒】を用いて、あらゆる武器を操り幾万通りの戦術を行う。
「(昔からこの言葉だけは分からなかった。親父は俺に何を伝えたかったのか。)」
戦場には何でもあった。不安定な足場、頬を撫でる隙間風。そして、相性の悪い敵、その目線、息遣い。
敵と自分。その二つしかなかった六郎太の世界が広がった。あらゆる情報が手に入る。
『その足場を踏み抜け。』
視線の先には崩れそうな瓦礫があった。誰の言葉か分からないが、不思議と疑問は抱かなかった。
─ダッ!!
背後へのステップ。その一歩で足場はさらに脆くなる。
『ギャウ?!』
罠のようだった。キメラは偶然か、六郎太が脆くした足場を踏み抜いたのだ。
姿勢が大きくブレる。それはキメラの意識が六郎太から外れることを意味していた。その隙を達人の六郎太は見逃すはずがない。
「フゥ…」
高く挙げた刀は避雷針。全てが集まる引力の矢印。キメラは恐れ、八重筒六郎太は鬼神となる。
『奥義"断斬身刀神楽槌"』
その時、舟から音が消えた。嫌になる程、寂しい空間に刹那として雷線が走る。遅れてやってくる風切り音と共に、金色の線がキメラの胴と頭との繋がりを断った。
船体は大きく傷つく。光源の少なかった戦場に、六郎太の斬撃によって出来た割れ目から光が侵入する。
敵の血すらつかない高速の太刀により、刀身の銀の煌めきが際立つ。
─カチャリ。納刀。
「討伐完了。」
時間にして僅か5分の攻防。その中で六郎太は確実に成長した。
だが、敵はプラントである。まだ息絶えていない。癒瘡木に追いつこうと背を向けた隙を、狩りをするケモノの如く、息を殺して待っていた。
頭は飾り、核ではなかったのだ。
音もなく腕を上げる。あとは小さき生き物に叩きつけるだけ───
『キシャー!!』
最速の一撃。不意打ち。六郎太は負けるのか。
「否。俺が気付かないと思ったか?」
先程の戦いで六郎太は知っていた。本当の核の位置も、それを相手が曝け出す【狩り】の瞬間も。
「ヌンッ!」
六郎太が最後に放った縦一閃。それは海を開いた奇怪な跡のような美しさ。
それは敵だったものを両断するに至る。
「尻尾の蛇が怪しいと思ったんだよね。手でしか攻めてこなかったから背中に核があると予想できた。」
今度こそ勝敗が着く。八重筒六郎太の完全勝利である。
「父さんが言ってたこと少し分かったかもな。」
戦闘の中、神経が空間に広がったかのような錯覚に陥った。今までは気づけなかった環境も利用できるほどに、余裕をもって戦えた。
「俺もまだまだ成長できるんだな。嬉しいよ。」
──
片腕を膨張させた男、癒瘡木硬樹。牛歩ではありながらも着実に船内を攻略する。壁を壊し、敵を跳ね除け、積み重ねた敵の亡骸で次の回への階段も作った。
『好き勝手してくれるじゃネーノ。ニンゲン。』
もうそろそろでノアの待つ甲板に辿り着こうという時。若い男が立ち塞がる。
『ノア様の命令で、ここから先はトオシチャ──』
「──手短に聞く。オマエの役割は?敵はあと何体いる?ノアの能力はなんだ?」
敵の口上すら聞かぬ癒瘡木の傲慢。もちろん、その無礼は敵の逆鱗に触れてしまった。
『そりゃヨォ…失礼ってヤツじゃねぇのカ?』
「知らん。時間がないんだ。さっさと答えろ。」
『そうかよ──シネッ!!!!』
刺突であった。名前も知らぬプラントの男は実にしなやかな体質をしておりそれを歪め力を溜め、一気に放つことで初速を最大にすることを可能にしていた。
─ズドン!!
尖鋭な掌が癒瘡木の胸板に刺さる。プラントは勝利を確信した。「これを食らって生きていた奴はいない。」それほどの自信があるからだ。
「オマエの攻撃も無礼じゃないのか?」
『バ、バカな?!』
貫通していない。それどころか、自身の指先が酷く折れ曲がっているではないか。プライドもへし曲げられたプラントだが、切り替え早く癒瘡木から距離を取ることを選んだ。
『(手を抜くんダッ!!)ッ?!』
「オイオイ寂しいじゃないか。やっとこんなに近づけたのにサァ…」
手が離れない。密着しているのだ。癒瘡木の胸板は分厚く、モノを掴める。彼が少し力を加えるだけで挟んだものは取れなくなってしまう。
『ハナセッ!ハナセッ!!』
「あぁイイぜ。だが、少々手荒いから生き残ってみせろよ?」
相手を挑発するような半笑いの口調、憤慨するプラント。今に癒瘡木に飛び掛かろうと大口を開けるが乱暴に扱われると感情と共に慣性に置いていかれる。
丸太の様な腕が持ち上げられた。愚かな植物は、自身の行く末を悟る。すりつぶし、スムージー、ミキサー、粉微塵。今の自分が小さくなることを示す言葉ばかりが思い浮かんだ。
「やめっ!ヤメテくだ──」
──ドオオオン!!
「癒瘡木隊長!!大きな音しましたけど…って、あぁ可哀想に。」
「やっと来たか六郎太。無事に倒せたようだな。」
「隊長…新種相手に新人一人にさせないで下さいよ。」
泣き言に癒瘡木は豪快に笑ってみせた。
「見れば分かるぞ。オマエはアイツに負けない。それに、掴めたんじゃないか?」
「…ええ。おかげさまで。」
一つ成長した六郎太の顔を見ると満足げに笑む。
「行くぞ。この先で神の子ノアが待っている。」
二人は目を合わせ静かに扉に向かった。船底から最奥、侵入者となった人間は遂にノアに相対す。
─ブワッ!
凄まじく重い扉を開け放つと、身を打つ上空の風。雨水も滝のように身体を叩く。
「これが最後になるかもだし、格好つけてもいいかな?」
「ふん。勝手にしろ。」
『ボクは選択を司る神の子!母なる地球の七割根源である青を纏い、蒼に命を与える。母に与えられた名は【ノア】である!!』
マストに一つ雷が落ちる。その瞬間、ノアの顔は照らされ、遂に両者は目を合わせることとなる。
「選べ。ボクを殺すか、ニンゲンの絶滅か。」
八重筒は剣先をノアに向け、癒瘡木は拳を突き出した。
「「オマエを殺す。」」
答えは出た。実行できるか、失敗に終わるかは全て運次第。
「(この刀はいくら斬っても刃こぼれしない。でも、体力の消耗が心配だ。)」
敵は適当に腕を振るだけだが、八重筒は違う。一太刀一太刀を相手の鱗を通す繊細さで振るっているのだ。集中も段々と奪われていく。
「(今までは生物だと思っていた。だがこの異常な耐久…核がある。)」
その特徴はプラントであった。歪な人型でしか存在が確認されていなかったプラント。動物型は新種となる。
人型であれば話は簡単だ。大抵が頭部に核を置いている。
片や新種のプラント。手探りで戦うしかない。
「幾億の鍛錬はこの為に…!!!」
八重筒六郎太の身体はその気概に応えた。何時間も、何日も、何年も。築き上げて来た身体は戦闘時間の経過とともに疲労を重ねるどころか速度が増す。
──
『オマエの太刀は本気を知らない。』
在りし日に八重筒武蔵、父に言われた言葉だ。
どういうことだろう、六郎太は首を傾げる。父との鍛錬で手を抜くことなど出来ない。常に本気なのだ。
父、武蔵は【黒方五色】の当主であり五色の中で唯一名乗ることを許された戦神の称号を持つ。家宝─【八式大筒】を用いて、あらゆる武器を操り幾万通りの戦術を行う。
「(昔からこの言葉だけは分からなかった。親父は俺に何を伝えたかったのか。)」
戦場には何でもあった。不安定な足場、頬を撫でる隙間風。そして、相性の悪い敵、その目線、息遣い。
敵と自分。その二つしかなかった六郎太の世界が広がった。あらゆる情報が手に入る。
『その足場を踏み抜け。』
視線の先には崩れそうな瓦礫があった。誰の言葉か分からないが、不思議と疑問は抱かなかった。
─ダッ!!
背後へのステップ。その一歩で足場はさらに脆くなる。
『ギャウ?!』
罠のようだった。キメラは偶然か、六郎太が脆くした足場を踏み抜いたのだ。
姿勢が大きくブレる。それはキメラの意識が六郎太から外れることを意味していた。その隙を達人の六郎太は見逃すはずがない。
「フゥ…」
高く挙げた刀は避雷針。全てが集まる引力の矢印。キメラは恐れ、八重筒六郎太は鬼神となる。
『奥義"断斬身刀神楽槌"』
その時、舟から音が消えた。嫌になる程、寂しい空間に刹那として雷線が走る。遅れてやってくる風切り音と共に、金色の線がキメラの胴と頭との繋がりを断った。
船体は大きく傷つく。光源の少なかった戦場に、六郎太の斬撃によって出来た割れ目から光が侵入する。
敵の血すらつかない高速の太刀により、刀身の銀の煌めきが際立つ。
─カチャリ。納刀。
「討伐完了。」
時間にして僅か5分の攻防。その中で六郎太は確実に成長した。
だが、敵はプラントである。まだ息絶えていない。癒瘡木に追いつこうと背を向けた隙を、狩りをするケモノの如く、息を殺して待っていた。
頭は飾り、核ではなかったのだ。
音もなく腕を上げる。あとは小さき生き物に叩きつけるだけ───
『キシャー!!』
最速の一撃。不意打ち。六郎太は負けるのか。
「否。俺が気付かないと思ったか?」
先程の戦いで六郎太は知っていた。本当の核の位置も、それを相手が曝け出す【狩り】の瞬間も。
「ヌンッ!」
六郎太が最後に放った縦一閃。それは海を開いた奇怪な跡のような美しさ。
それは敵だったものを両断するに至る。
「尻尾の蛇が怪しいと思ったんだよね。手でしか攻めてこなかったから背中に核があると予想できた。」
今度こそ勝敗が着く。八重筒六郎太の完全勝利である。
「父さんが言ってたこと少し分かったかもな。」
戦闘の中、神経が空間に広がったかのような錯覚に陥った。今までは気づけなかった環境も利用できるほどに、余裕をもって戦えた。
「俺もまだまだ成長できるんだな。嬉しいよ。」
──
片腕を膨張させた男、癒瘡木硬樹。牛歩ではありながらも着実に船内を攻略する。壁を壊し、敵を跳ね除け、積み重ねた敵の亡骸で次の回への階段も作った。
『好き勝手してくれるじゃネーノ。ニンゲン。』
もうそろそろでノアの待つ甲板に辿り着こうという時。若い男が立ち塞がる。
『ノア様の命令で、ここから先はトオシチャ──』
「──手短に聞く。オマエの役割は?敵はあと何体いる?ノアの能力はなんだ?」
敵の口上すら聞かぬ癒瘡木の傲慢。もちろん、その無礼は敵の逆鱗に触れてしまった。
『そりゃヨォ…失礼ってヤツじゃねぇのカ?』
「知らん。時間がないんだ。さっさと答えろ。」
『そうかよ──シネッ!!!!』
刺突であった。名前も知らぬプラントの男は実にしなやかな体質をしておりそれを歪め力を溜め、一気に放つことで初速を最大にすることを可能にしていた。
─ズドン!!
尖鋭な掌が癒瘡木の胸板に刺さる。プラントは勝利を確信した。「これを食らって生きていた奴はいない。」それほどの自信があるからだ。
「オマエの攻撃も無礼じゃないのか?」
『バ、バカな?!』
貫通していない。それどころか、自身の指先が酷く折れ曲がっているではないか。プライドもへし曲げられたプラントだが、切り替え早く癒瘡木から距離を取ることを選んだ。
『(手を抜くんダッ!!)ッ?!』
「オイオイ寂しいじゃないか。やっとこんなに近づけたのにサァ…」
手が離れない。密着しているのだ。癒瘡木の胸板は分厚く、モノを掴める。彼が少し力を加えるだけで挟んだものは取れなくなってしまう。
『ハナセッ!ハナセッ!!』
「あぁイイぜ。だが、少々手荒いから生き残ってみせろよ?」
相手を挑発するような半笑いの口調、憤慨するプラント。今に癒瘡木に飛び掛かろうと大口を開けるが乱暴に扱われると感情と共に慣性に置いていかれる。
丸太の様な腕が持ち上げられた。愚かな植物は、自身の行く末を悟る。すりつぶし、スムージー、ミキサー、粉微塵。今の自分が小さくなることを示す言葉ばかりが思い浮かんだ。
「やめっ!ヤメテくだ──」
──ドオオオン!!
「癒瘡木隊長!!大きな音しましたけど…って、あぁ可哀想に。」
「やっと来たか六郎太。無事に倒せたようだな。」
「隊長…新種相手に新人一人にさせないで下さいよ。」
泣き言に癒瘡木は豪快に笑ってみせた。
「見れば分かるぞ。オマエはアイツに負けない。それに、掴めたんじゃないか?」
「…ええ。おかげさまで。」
一つ成長した六郎太の顔を見ると満足げに笑む。
「行くぞ。この先で神の子ノアが待っている。」
二人は目を合わせ静かに扉に向かった。船底から最奥、侵入者となった人間は遂にノアに相対す。
─ブワッ!
凄まじく重い扉を開け放つと、身を打つ上空の風。雨水も滝のように身体を叩く。
「これが最後になるかもだし、格好つけてもいいかな?」
「ふん。勝手にしろ。」
『ボクは選択を司る神の子!母なる地球の七割根源である青を纏い、蒼に命を与える。母に与えられた名は【ノア】である!!』
マストに一つ雷が落ちる。その瞬間、ノアの顔は照らされ、遂に両者は目を合わせることとなる。
「選べ。ボクを殺すか、ニンゲンの絶滅か。」
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