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猫舌と珈琲。

9話

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 ふたりっきりのデートというものに憧れる。

 成人女性が、男子高校生と付き合っているなんて、ちょっと世間の目をはばかるのだ。
 とりあえず、今の段階では織部くんは高校生で、わたしよりもずっと年下で、世間から見ればきっとわたしが真面目な男子学生を誑かした悪い大人となるはずだ。
 それに有名進学校の生徒さんで、弓道部で……って、だからこんなに肩が広いのかしら。
 さらに礼儀正しく頭がよくって、本当に非のつけどころのない人なんだけど、じつはわたし以外の女の子と付き合ったことがないのだという。
 もしかしたら、初めて付き合う異性だから、彼は勘違いしてしまっているのかもしれない。
 恋をしたことない織部くんが、たまたま身近にいたわたしをその対象としただけだとしたら?
『年上の女』ちょっと珍しいだけのそんな存在なのかもしれない。
 世間一般では、わたしのような立場の女のことを『悪の権現』というんだろうな。
 それとも、免疫のない男の子につけこむ恋人気取りの『バカな女』。
 確かに、その通りだ。

 このことがバレたら社会的に断罪されてしまう。
 そんなことになる前に、さっさと身を引くべきなのは、判っている。
 ただ、これの気持ちだけは、今さらどうしょうもない。
 せめて、彼が大学生になれば、もう少し状況は変わってくるのかも。
 それが希望的観測だとしても、今は、もう少し、もう少しだけでいいから、彼と離れたくない。それだけだ。
 どうして、こんなことになったのか……自分でも判らない。
 高校生の男の子に、本気の恋をするなんて。



「バカか?」
 わたしが真剣に考え込んでいると、織部くんは決まってそういうのだ。

「本当にバカだな。お前」
 バカって……わたし、あなたより、けっこう年上なんですが……。
 そこには頓着しないのね。織部くん。

「誑かしたのは俺のほうだ。だが、優衣を困らせるようなことはしない。約束しただろう」
 彼は気を使ってくれる。
 人前では決して手を繋いだりしないし、会う場所だって、よくよく考えてくれている。
 まるで、不倫中みたいだけど。

 そんなわけで、二人で喫茶店に入ることなどほとんどないものの遠出をしたデートの時は、こっそり喫茶店に入ってみたりする。
 できるだけ、若い子の入らないような渋いお店。
 でないと、他の学校の子に見つかってしまう。
 彼の学校は男子校らしいけど、近くの高校の女の子に告白されたりするのだ。その現場を目撃したことがあるから、少しも油断ができない。
 織部くんは、無口で無愛想なくせに意外ともてる。
 黙っていると高校生に見えないくらい落ち着いているせいかもしれない。
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