23 / 34
ルイスの手紙を犬に奪われました
1
しおりを挟む
ルイスが書いた手紙や書簡をリリーがいつものように王宮郵便物へ届けに行った時だった。
王族が直筆で書いた手紙は、一般の郵便物とは異なり王宮の専門の配達夫たちが手紙を配達した。そして社交パーティーの返事くらいなら王宮配達夫たちが配達するが、公式な書簡となると数人の衛兵が直接手渡しで届ける。
(田舎にいたとき、ルイスが送ってきた手紙は書簡ではなかったけど毎回手渡しだったものね。私の場合、手紙だけじゃなくて何かしら贈り物がついていたからかもしれないけれど。あんな辺鄙な場所まで直接手渡しって、よくよく考えてみたら大変よね)
同じ王宮内であってもルイスのいる執務室から王宮の郵便物を、すべて預かり分類し配達員に渡す建物に持ってくるだけでも、結構な労働になるのだから。それが正式な書簡となると手渡しで王族から書簡を預かり、目的の人物に手渡すまでが仕事なのだから、衛兵たちの責任も重大である。
間違って無くしたり、落したり、はたまた奪われでもすれば大事になってしまう。
「やぁ、リリー。王子の手紙はこれで全部かい?」
郵便物の受付を行っている部屋に入ると、真っ先に初老のロビンがリリーに声をかけてきた。まだ郵便物の分配の仕方や渡し方について全く知らなかったリリーに、丁寧にやりかたを教えてくれたのもロビンだ。
事前に執務室でロイドと手分けして分類した手紙と、贈り物を入れた箱。これを人の手に抱えて長い廊下や階段を歩いて落としてはいけないので、ローラーのついたカートを使って運ぶ。お陰で女の非力であっても問題なく大量の手紙を運ぶことが出来た。
「今日の手紙はこれでしょ。あとこっちは贈り物付きの手紙」
「相変わらずルイス王子への手紙は大量だな。毎日のようにパーティーやお茶会への誘いの手紙が送られてくる。これに毎日返事を書くロイド様も大変だろうな」
箱に山のように盛られた封筒を見て、ロビンは呆れつつも大事にその手紙の箱を受け取る。
(本当なら直筆で断りの手紙書かないといけないんでしょうけど、こんな量を1人で返事を書くなんて無理だし、そもそもルイスは他に大事な仕事が沢山あるものね)
貴族夫人のように手紙を書いたり、パーティーを仕切ることが仕事ではないのだ。ルイスが直筆で返事を書くのは、報告書の返事かそれこそ稀に<出席する>時の返事くらいのものだ。
(まぁ、私の手紙がいつも直筆だったのは今ならちょっと感謝してもいいわよ……ちょっとだけだけど……)
ルイスの多忙具合を傍で見ているからこそ、手紙一通書く時間がどれくらい貴重なのか、リリーはようやく分かった。もっとも本人の前では恥ずかしいから絶対に言わないけれど。
「リリーもだいぶ仕事に慣れてきたかい?」
「ぼちぼちかな。でも慣れたと思って気を抜くとすぐミスしちゃうから」
「仕事なんて何でもそんなもんだ。慣れたと思ったときが落とし穴ってな。だがルイス様ならそうそうお怒りはしないだろう?あの方は昔から使用人にも分け隔てなく接してくださるお優しい方だ」
「え?そうなの?」
つい、本音が口に出てしまって、リリーは慌てて口を両手で塞いだ。
(ちょっとお茶が温いだの薄いだの、棚にほこりがあるとかお辞儀の角度が浅いとか、私にはチクチク言ってくるわよ?それに事あるごとにからかってくるし)
自分以外の使用人たちには優しいのだと思うと、胸の中が急にもやもやしてくる。
それに、ふと気を抜くと思い出してしまう。
いきなり夜に部屋へ来いとルイスが言ってきたのは驚いた。男の人の部屋に女が行くなどはしたないことだとずっと言われていた。けれど結局お茶を飲んでお父様や村のことをお話ししだだけで、とくに変な意味は無かったらしい。一人で勝手にびくびくして、後で考えると恥ずかしさしかなかった。
(でも話しているうちに眠くなって、いつのまにか寝ちゃってルイスのベッドで朝まで寝ていたのはダメよね…もっとしっかりしなくちゃ…目が覚めたら目の前にルイスの顔があってほんとびっくりしたわ……)
それだけでなくルイスに腕枕までされていた。
瞳は閉じて長い睫が頬に影を落とし、静かな呼吸音を立て、腕の中は温かで、ルイスの胸の鼓動も聞こえてきた。
「ルイス様への次の手紙はこいつだ。よろしく持って行って、おや、この手紙は……」
ロビンの声にはっと我に戻ってリリーは顔を上げた。手紙は出すものと届いたものを交換するように受け取る。ロビンの手には昼に届いたのだろうルイス宛ての一通の手紙があるが、リリーには他の手紙と大差ないように見える。
そしてふと、机の前に立つ横に、もふもふの毛並みを感じて振り返った。
「犬?」
綺麗に手入れされた毛の長い白い犬。しかも、大きい。背伸びして襲いかかられたらその体重で押し倒されてしまうだろう。
(この犬どこから紛れこんだの?王宮で犬なんて。誰かが連れてきたとか?それか番犬)
羊飼いの犬が王宮で必要とは思えない。しかし王宮に迷いこんだにしては、まるで王宮に住んでいるかのように建物に慣れた様子だ。
しかしどこから来た犬だろうとリリーが思っていると、ロビンが手に持っている手紙に犬は噛み付き奪ってしまった。
(うそっ!?ルイスの手紙なのに!)
「あっ!手紙!!」
「任せて!自分が取り返すから!」
慌てるロビンに自分が取り返すとリリーは手を振り、手紙を咥えて逃げる犬を走り追いかけた。
王族が直筆で書いた手紙は、一般の郵便物とは異なり王宮の専門の配達夫たちが手紙を配達した。そして社交パーティーの返事くらいなら王宮配達夫たちが配達するが、公式な書簡となると数人の衛兵が直接手渡しで届ける。
(田舎にいたとき、ルイスが送ってきた手紙は書簡ではなかったけど毎回手渡しだったものね。私の場合、手紙だけじゃなくて何かしら贈り物がついていたからかもしれないけれど。あんな辺鄙な場所まで直接手渡しって、よくよく考えてみたら大変よね)
同じ王宮内であってもルイスのいる執務室から王宮の郵便物を、すべて預かり分類し配達員に渡す建物に持ってくるだけでも、結構な労働になるのだから。それが正式な書簡となると手渡しで王族から書簡を預かり、目的の人物に手渡すまでが仕事なのだから、衛兵たちの責任も重大である。
間違って無くしたり、落したり、はたまた奪われでもすれば大事になってしまう。
「やぁ、リリー。王子の手紙はこれで全部かい?」
郵便物の受付を行っている部屋に入ると、真っ先に初老のロビンがリリーに声をかけてきた。まだ郵便物の分配の仕方や渡し方について全く知らなかったリリーに、丁寧にやりかたを教えてくれたのもロビンだ。
事前に執務室でロイドと手分けして分類した手紙と、贈り物を入れた箱。これを人の手に抱えて長い廊下や階段を歩いて落としてはいけないので、ローラーのついたカートを使って運ぶ。お陰で女の非力であっても問題なく大量の手紙を運ぶことが出来た。
「今日の手紙はこれでしょ。あとこっちは贈り物付きの手紙」
「相変わらずルイス王子への手紙は大量だな。毎日のようにパーティーやお茶会への誘いの手紙が送られてくる。これに毎日返事を書くロイド様も大変だろうな」
箱に山のように盛られた封筒を見て、ロビンは呆れつつも大事にその手紙の箱を受け取る。
(本当なら直筆で断りの手紙書かないといけないんでしょうけど、こんな量を1人で返事を書くなんて無理だし、そもそもルイスは他に大事な仕事が沢山あるものね)
貴族夫人のように手紙を書いたり、パーティーを仕切ることが仕事ではないのだ。ルイスが直筆で返事を書くのは、報告書の返事かそれこそ稀に<出席する>時の返事くらいのものだ。
(まぁ、私の手紙がいつも直筆だったのは今ならちょっと感謝してもいいわよ……ちょっとだけだけど……)
ルイスの多忙具合を傍で見ているからこそ、手紙一通書く時間がどれくらい貴重なのか、リリーはようやく分かった。もっとも本人の前では恥ずかしいから絶対に言わないけれど。
「リリーもだいぶ仕事に慣れてきたかい?」
「ぼちぼちかな。でも慣れたと思って気を抜くとすぐミスしちゃうから」
「仕事なんて何でもそんなもんだ。慣れたと思ったときが落とし穴ってな。だがルイス様ならそうそうお怒りはしないだろう?あの方は昔から使用人にも分け隔てなく接してくださるお優しい方だ」
「え?そうなの?」
つい、本音が口に出てしまって、リリーは慌てて口を両手で塞いだ。
(ちょっとお茶が温いだの薄いだの、棚にほこりがあるとかお辞儀の角度が浅いとか、私にはチクチク言ってくるわよ?それに事あるごとにからかってくるし)
自分以外の使用人たちには優しいのだと思うと、胸の中が急にもやもやしてくる。
それに、ふと気を抜くと思い出してしまう。
いきなり夜に部屋へ来いとルイスが言ってきたのは驚いた。男の人の部屋に女が行くなどはしたないことだとずっと言われていた。けれど結局お茶を飲んでお父様や村のことをお話ししだだけで、とくに変な意味は無かったらしい。一人で勝手にびくびくして、後で考えると恥ずかしさしかなかった。
(でも話しているうちに眠くなって、いつのまにか寝ちゃってルイスのベッドで朝まで寝ていたのはダメよね…もっとしっかりしなくちゃ…目が覚めたら目の前にルイスの顔があってほんとびっくりしたわ……)
それだけでなくルイスに腕枕までされていた。
瞳は閉じて長い睫が頬に影を落とし、静かな呼吸音を立て、腕の中は温かで、ルイスの胸の鼓動も聞こえてきた。
「ルイス様への次の手紙はこいつだ。よろしく持って行って、おや、この手紙は……」
ロビンの声にはっと我に戻ってリリーは顔を上げた。手紙は出すものと届いたものを交換するように受け取る。ロビンの手には昼に届いたのだろうルイス宛ての一通の手紙があるが、リリーには他の手紙と大差ないように見える。
そしてふと、机の前に立つ横に、もふもふの毛並みを感じて振り返った。
「犬?」
綺麗に手入れされた毛の長い白い犬。しかも、大きい。背伸びして襲いかかられたらその体重で押し倒されてしまうだろう。
(この犬どこから紛れこんだの?王宮で犬なんて。誰かが連れてきたとか?それか番犬)
羊飼いの犬が王宮で必要とは思えない。しかし王宮に迷いこんだにしては、まるで王宮に住んでいるかのように建物に慣れた様子だ。
しかしどこから来た犬だろうとリリーが思っていると、ロビンが手に持っている手紙に犬は噛み付き奪ってしまった。
(うそっ!?ルイスの手紙なのに!)
「あっ!手紙!!」
「任せて!自分が取り返すから!」
慌てるロビンに自分が取り返すとリリーは手を振り、手紙を咥えて逃げる犬を走り追いかけた。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる