婚約破棄の条件は王子付きの騎士で側から離してもらえません

ミチル

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ルイスの手紙を犬に奪われました

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「こら!待ちなさい!手紙を返しなさいったら!」

 普通に考えるなら四本足の犬に人間がおいつけるわけがなかった。壁や柱、そして庭の木々が植えられ入り組んだ造りになっている建物なら尚更のこと難しい。

 しかしリリーは手紙を咥えた犬を見失わずにいた。リリーの足が速かったわけでも、先回りをしたわけでもない。犬が一定距離を離れると後ろを振り返り、リリーが追いつくのを待って、近づくとまた走って逃げるの繰り返しだ。

「ワフッ!ワウッ!」

 手紙を咥えたまま、喉の奥で犬が吼える。
 その尻尾は千切れんばかりに左右に振っていた。

(腹が立つわ!あの犬、絶対私をからかってる!!)

 犬にからかわれていると思ったら、余計に腹立たしくなってきて息が上がるのも構わずリリーは追いかけた。子供の頃から山や野を走って遊び、足腰はそこらへんの王都育ちの貴族子弟より鍛えられているつもりだ。

 チャンスがあるとすれば、やはり先回りするしかない。石積みの柱や壁があってはダメだ。犬の背丈より高く、人間の目線より低い生垣。できれば薔薇のアーチがあればもっといい。

(何故だか分からないけれど、この犬、庭の方へ行こうとしているわ。建物の方に戻らないつもりならこっちにも分はある!人間様を舐めないでちょうだい!)

 犬が振り返るだいたいの距離とタイミングはもうつかめている。だったら振り返るときにフェイントを入れればいい。右に行くと見せかけて、左に回りこむように。
でも本命は右でも左でもない。生垣の左右どちらから出てきてもいいように犬は真ん中にいる。

 (だから真ん中をつっきる!生垣を綺麗に手入れしている庭師さん!ごめんなさい!)

生垣の枝が折れてしまうのも構わず、リリーは飛び込んで裏側に隠れている犬に飛び掛った。

「捕まえた!!逃がさないわよ!」
「ワウッ!?」

胴体は捕まえられなかった。けれど尻尾の先でも捕まえたのならもう逃がさない。
これで手紙も取り戻せるとリリーが見上げた先は、犬の顔だけではなく、

 「あらあら、マルスを捕まえるなんて貴女がはじめてよ。可愛らしい侍従さん」

 ガーデンチェアに座り、リリーに微笑む夫人がリリーを優雅に見下ろしていた。他にもすぐ傍には侍従も控えており、夫人にお茶を淹れつつ、こちらを見て、ニコと微笑まれた。
庭の真ん中に開けたスペース。周囲は手入れされた庭木に囲まれ、季節の花が咲き誇っている。まるで皇太子宮でルイスがお茶をする庭のようだ。
 犬を追っているうちに、今まで足を踏み入れたことがない王宮の奥の庭にまで入り込んでしまったらしい。

(恥ずかしいッ!私なんて格好見られたの!?)

 いくら男装しているとはいえ、服の乱れは言うまでもなく、生垣に突っ込んだときについた葉っぱが髪に沢山絡み乱れてしまっている。落ち着きをもって行動しなければならない侍従にあるまじき格好だった。

 「えっと………。すいません……。犬に大事な手紙をとられてしまいまして、手紙を取り戻しましたらすぐに出て行きますので、お邪魔しました……」

 顔を真っ赤にしてリリーはお茶の邪魔をしたことを謝り、尻尾を捕まえている犬から手紙を取り返し、お情け程度でも皺くちゃになってしまった手紙を伸ばす。
 ルイス宛の手紙の箱の中に入っていた手紙だ。誰からの手紙かは知らないけれど、これを見たルイスはきっと溜息をつくだろう。

(全部お前が悪いんだからね!)

 我関せずで尻尾を振りながらガーデンテーブルの下で丸くなった犬にリリーは内心恨み言を言う。手紙を両手で持って深くお辞儀をして去ろうとしたリリーに、

「いえいえ、貴女が来て下さるのを待っていたのよ。アレク、彼女にもお茶を。美味しいスコーンがありますわ。ジャムは私がこの庭の木苺を摘んで作りましたの。せっかくですから是非食べていかれて」
「かしこまりました」
「えっ!?えっ!?でもっ!」

 リリーが断る前に、夫人はアレクと呼んだ従者にお茶の追加を頼み、アレクもリリーにお茶を淹れ、向かいの席に差し出してきた。
 庭でゆっくりお茶を楽しんでいたところを邪魔してしまったのは自分だ。非礼をしてしまったのにそんな自分に出してくれたお茶まで断っていいものかリリーは迷う。

「さぁ、お座りになって。一緒にお茶を飲んでくださる方がいらっしゃると私も嬉しいですわ」
「では、少しだけ……。失礼いたします……」

 ここまで言われてしまっては断れない。乱れてしまった服や髪の毛を正し、お茶の出された向かいの椅子にリリーは座った。
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