昭和のおっさんタロウの異世界物語は東の国から

うしさん

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第3章 西の大陸

第12話 囮り

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 ソラの件で時間もかかったので少し駆け足で宿まで戻った。
 ノアがもう待ちきれないでいることだろうし、ミルキーももう帰ってきているだろう。

 三人で急ぎ宿に着くと、ミルキーではなくミルキーから変わったアトムがいた。部屋では二人、ノアとアトムが待っていた。

 アトムたちの帰りが遅くなった理由を聞こうと思ったが、もう時間も遅く、宿の人が早く食べてくれと催促に来ていたらしいので、先に食事を摂ることにした。
 食事を摂り、部屋に戻るとアトムから説明を始めてくれた。


 町を散策していると、妙に怪しい連中がいるのにミルキーが気づいたのだそうだ。
 人攫いの話を聞いていたので、私の役に立てるだろうと思い、ドレミに変身して罠を張ったらしい。
 人攫い共がまんまとドレミに食いついたので捕まった振りをしてアジトまで行って、アトムに変身してアジトを壊滅させて来たので遅くなったという。今、アジトは全員気絶させて縛られている状態らしい。
 アジトの場所を聞くと、ソラの時の人攫いに聞いたところと同じようだ。

 人攫い達のアジトでは、全員を一つの部屋に閉じ込めて、自力では出入りができないようにしてきたから、他のメンバーが帰ってきてもどうすることもできない状態になってるそうだ。閉じ込めた部屋の入り口も偽装していて見つからないだろうとのこと。ボスらしい奴もいたので、多少雑魚が逃げても問題とはならないでしょうだとか。

 アトムはかなり優秀な仕事をして来たようだが、それはいい。それはいいんだが。

「ちょっとアトム。そこに座りなさい」
 アトムは言われたとおりに座った。

「正座!」
 慌ててアトムが正座に変わる。
 アトムが正座になった事を確認し、私は話し始めた。

「アジトを壊滅させたことは誉めてやろう」
「ありがとございます」
「その後の対処もまぁいいだろう。大したもんだ」
「あ、ありがとうございます」
 アトムも私の雰囲気がいつもと違う事に気付いたようだ。

「だがな、うちのドレミちゃんに何させてやがんだ、お前らは! もしもドレミちゃんに何かあったらどうするんだ! これは誰が考えたんだ? お前か! ミルキーか!」
 タジタジになってドモリながら答えるアトム。

「い、いえ。ど、どちらがというか、ドレミも強くなっておりますし、その……」
「わかってるよ! 一応ケルベロスだしな! だが、ダメだろう! ドレミちゃんだぞ? あの可愛らしいドレミちゃんなんだぞ? お前たちのやったことは犯罪だ! オレのいた世界じゃれっきとした犯罪だ! そんなのを私が許すと思ってんのか!」
「最近ではドレミの弓剣術の腕も良いもの持っておりますし、人間程度にはまず負けない程度にも……」
「そんなことは知ってんだよ! だからと言って…」
「知ってるのですか? タ、タロウ様?」
「いや…そんなことはどうでもいいんだよ! お前たちがドレミを囮に使ったことを言ってんだよ!」

 ドレミが強い事は知っている。弓が得意なものは剣も習った方がいい。矢が無くなった時には弓を剣のように使う武術もあるそうで、隠れて弓剣術の稽古をしてるドレミを見て、凄腕だと驚いたもんだ。しかーし! それとこれとは話が別だ!

 私からの説教は延々と続く、途中ミルキーに変わらせ、ミルキーにも説教をする。

 途中、気が付いた時には私とミルキーだけになっていた。
 説教が終わったのは夜中十二時を回っていた。まだまだ説教が続きそうだったので、観念したミルキーが変身してドレミ出したのだ。
 ドレミちゃんは怒れないよねー。

 次の日の朝食はドレミだった。ミルキーもアトムも出てきませんでした。
 誰が食っても一緒だろうけど、ドレミの場合は食べる量が少ないのにね。

 宿を出ると、ドレミを抱っこしたまま、報告のためギルドに向かった。私は上機嫌だった。
 ギルド登録はミルキーでしているので、ギルドに入る前に泣く泣くミルキーに変身させる。
 断っておくが、私はロリコンではない。誰だって可愛いと思うよ、うちのドレミは。
 親馬鹿と呼ばれてもいい、本望だ!! 爺バカでもいいぐらいだ!


 ギルマスを呼び出してもらうと、すぐにマスタールームに通される。
 昨夜のソラとアトムの件と、アジトの件を説明をする。
 アジトに人攫いどもを捕えてはいるが、人質の解放はしていないので付いて来てもらおうと思ったのだ。
 結構な人数がいるようなので、私たちだけでは運べないからな。
 運ぼうと思えば運べなくもないのだが、それぐらいは冒険者ギルドにやってもらってもいいだろう。


「もう解決か! 早すぎるぞ!」
 マスタールームで事情を説明すると、ギルマスから興奮気味に叫ばれた。

「解決かどうかはわかりませんが、一度人攫い達のアジトまで一緒に行ってほしい。依頼者の子供がいるかどうかの確認もお願いしたいですから」
「分かった、ではすぐに出よう。今の時間は幸い朝だから冒険者も多い。手が空いてるものは全員連れて行こう。役所には誰かを伝言に出すことにする。馬車もいるな、すぐに手配する」

 ギルマスの対応は早かった。偉そうにしてても、仕事はやるみたいだ。
 全員でアジトに行くから、誰もいなくなるんで受付の者でも問題ないからと、受付のお姉さんに役所へ伝言役を頼むと、冒険者全員でアジトに向かった。
 帰ってきていた雑魚が何人かいたが、冒険者達の前では相手にもならず、すぐに捕まった。
 人攫い達を捕えていた部屋は、扉をアトムがうまく偽装していて、パッと見分からなかった。本当にいい仕事をしたようだ。
 全員まだ意識を取り戻してないのか、偽装部屋からは声も出してないし、さっき捕らえられた戻っていた連中も、今日は人が少ないなぁぐらいに思ってたそうだ。
 いい仕事してるんだけどねぇ、アトムは。ドレミを囮に使わなければな。
 知ってるよ、ドレミだってこのアジトを壊滅できるぐらいの力を持っていることは。でもねー。

 アジト壊滅、全員捕縛、人質解放完了。
 人攫いのアジトから全員で役所に行き、そのまま冒険者ギルドに戻ってきた。

「タロウさん、ありがとう」
 マスタールームでギルマスが頭を下げる。機嫌はすこぶる良さそうだ。

「今回は偶々です。こちらとしても、いい情報が手に入ったからこっちも満足してますよ」
「それは僥倖。ではこれが報酬だ、収めてくだされ。討伐報酬と指定の人質解放で金貨五〇〇枚と五〇〇枚だ」
「多いですね、この程度の仕事でいいんですか?」
「そんなことはないんだがタロウさんに掛かれば、この程度なのでしょうな。ま、受け取ってくだされ」
「ではありがたく」
「それでこれからどうされますのかな? まだタロウさんに頼みたい仕事はあるのだが、Sカードの抱えてる仕事が優先なのは分かりますから無理強いはできませんな」
「Sカード?」

 しまった! と表情を変えるギルマス。

「私はCランクのはずですが、Sカードとはなんでしょう」
「い、いや…そのな。特別なカードという意味ですな」
 煮え切らないギルマスに、更に尋ねた。

「特別なもなにも、私は普通のCランク冒険者です。Sカードとは何か教えて頂きたい」
 これだけ早期解決できるものが普通など。と、ギルマスが言っていたが関係ない。自分の事ならハッキリとさせておきたい。

「ギルマス」
「う……分かった。分かったから、もう睨まないでくださるか。Sカードというのはな、Aランク以上の冒険者にこっそりと与えるランクですな」
「こっそりと? それは本人にも伝えずに、ですか?」
「いや、普通は告知してからですな」
 仕方が無い。と、首を振り、ギルマスが話を続けた。

「まずカードの確認を。Cの横に小さくSの文字があるでしょう」
 確認すると確かにCの横の右上あたりに小さく+Sとあった。

「そのSが付いているカードはSカードと言いまして、Aランク冒険者より上の実力を持っていることを意味します。単独で、Aランクが四人以上いるAランクパーティに勝てる実力者に与えられるものです。裏カードのようなものですな。見た目はCランクカードですし」
 それは困ったな。これだとカードを見ただけで実力者だと分かってしまう。
 更にギルマスが続けた。

「今、冒険者ギルドではAランクが最高ランクとされています。だが、Aランク冒険者でも手に余る依頼はありますからな。通常は低ランクを装っていて、有事に活躍して頂きたい人に付けるランクですな。もちろんAランク冒険者の中にもSカード保持者はいますぞ。そちらの方が主流と言っていい。タロウさんのようにCランクでSカードは非常に稀なケースだと思いますぞ」
 稀なケースかどうかは知らないが、これだとどの町の冒険者ギルドに行っても特別依頼を受ける事になるのではないか?

「このSカードの事を知ってるのは?」
「ギルドマスター、副ギルドマスター、それに現在Sカードを持ってる冒険者ですな。存命のSカードの冒険者で引退した者はいませんからな」
 知ってる者は小数だと分かったのはいいが、やはりギルマスは入ってるんだな。

「これを持ってると、初めて行った町などでは、やはりこうやって呼び出されるのでしょうか」
「呼び出されるでしょうな。どの町でも焦げ付き案件は抱えておりますからな」ハッハッハー
 全然笑い事ではないのだが……

「しかし、そんな説明はありませんでしたが」
「恐らく、ロンレーンのアラハンが勝手に付けたのでしょうな。タロウさんとは会って数日ですが、あなたの感じからすると、受けてもらえなさそうですしな」ハッハッハー
 だから私にとっては笑い事ではないのだが。

「付けたんでしょうなって。そんなことは許されるのですか?」
「普通は許されませんな。しかし、もう付いてしまっている。しかもカード発行日からするに冒険者になってまだ一ケ月もなってないようタロウさんがですぞ? ちょっと信じられない事ですが、これだけ信じがたいことばかりだと、逆に信じるしかありませんなー。しかし、タロウさんを見る限り、私でも同じことをするかもしれませんなー」ハッハッハー
 もう勝手に笑ってろ。
 
「今の話を聞く限り、私にはデメリットしか感じられない。何かメリットは無いのですか? 無いのならこの場で冒険者を辞めようと思いますが」
「な! ちょっとお待ちを。それは困る。うーん、メリットか……そう! 必要経費が使い放題だ。もちろん使命依頼に限った事だが、今回ロンレーンで受けた依頼なら経費として通ると思いますな」
 そうか、いい事を聞いた。アラハンさんに思いっきり吹っ掛けてやろう。

「あと一ついいですか?」
「な、なんですかな」
「何か事ある毎にマスタールームに呼び出されたくないのですよ。次から新しく訪れた町でいきなりマスタールームへの呼び出しをされた場合、冒険者を辞めますので。各支部へ通達しておいてください」
「うぐっ! い、いや、それは……」
「私は冒険者など、いつ辞めてもいいのですよ。それは今すぐにでもです」
「……わ、わかった。通達は出しておく」
「では、私達はこれで失礼します」
「う、うむ。もう、すぐに立つのか」
「そうですね、一度ロンレーンに戻らないといけなくなりましたので」

 西の森に行くのなら、一度ロンレーンに戻った方がいいからな。

 私達には収納がある。宿に置いてきた荷物も無いので、その足で町の外に出た。
 もう一日ぐらいゆっくり町見物をしてみたかったが、先に依頼を終わらせないと落ち着いて見物もできないからな。

 冒険者ギルドを出る時には、冒険者たちにお礼を言われた。全員、今回の件で臨時ボーナスが入ったようだった。
 もう今日は仕事終わりだと、ほとんどの連中が飲み始めていた。
 私たちも誘われたが、何とか断り、ノーライザの町を出た。


 町を出ると、真っ直ぐ南のノーライザに向けて進んだ。
 来る時は、私の全力疾走で来たが、帰りはノアに乗せてもらって近くまで行けばいいだろう。
 だが、その前に、魔物の肉が少し心許なくなって来たので、狩りをして補充しなければならない。
 今まで獲って来たものもまだあるが、かなりの量を冒険者ギルドで売ってしまったので少し心許ないのだ。

 『サーチ』で周辺を確認すると、ちょうどいい具合に高めのランクの魔物が多くいる地点を見つけた。
 街道から少し森に入る事になるが、私としては誰かに見られる方が困る。町に入ってだいたい分かって来たが、他の人間はそんなに強くない。私から見れば弱いとも言えるだろう。
 少し強いと騒がれるようだし、もう遅いかもしれないが、少し自重して強さを隠す必要も出てくるだろう。
 それから考えれば、この街道は元々人通りの少ないし、森に入ってしまえば誰にも見られないだろう。
 私はちょうどいいと考え、ここで狩りをする事に決めた。

「ご主人様? どうなさいました?」
 森の方をずっと見ながら歩いてたからか、ココアが心配して声を掛けてきた。

「うむ、少し狩りをしようと思うんだが、どこにしようかと狩場を探してたんだ」
「まぁ、狩りですか。では」
 スチャっと薙刀を実体化させて手に出すココア。
 ココアに釣られてソラも薙刀を出した。
 ノアとミルキーも臨戦態勢に入った。

「そう逸るな、ここじゃ無い」
 四人から、えっ? という目を向けられた。
 命令、即斬。みたいな感じになってるが、私はそんな軍団を持った覚えはない。

 だが、今のを見て思ったが、ノアとミルキーには武器が無いな。今まで武器無しでやって来たんだし、必要ないのか?

「ノアとミルキーは武器は無しでいいのか?」
わらわは既にこれを頂いております」
 と、扇子を見せるノア。
 それが武器ねぇ。そういう武芸者もいなくはないけど、魔物相手に通用するのか?

「私は三人それぞれ武器を持っています。私は槍、アトムは短剣、ドレミは弓です。ですが、大した武器ではありませんので、いい物があるようでしたら欲しいですね」
 一応持ってるんだな。だが、町でいい物があれば買ってやらないとな。

「分かった、町に行ったら見てみよう」
「ありがとうございます」
「それから、狩場はもう少し先だ。街道沿いで昼食を食べたら開始するからな」

 全員が了解をし、もうしばらく歩いた後、昼食を摂った。

「ここから少し森に入った所を拠点とする。木を伐採して広場を作るから、倒した魔物はそこに運んでほしい。制限時間は二時間、終了は『念話』で伝えるから、それまでに食える魔物を多く獲ったものが優勝だ」
「ゆーしょー?」
「優勝とは勝つという事です。という事はご主人様、何か賞品があるのでしょうか。わたしは添い寝で……」
「賞品じゃと! ならばわらわは酒なのじゃ!」
「ノアさんはもう勝ったつもりですか? 私は三人分働きますから間違いなく私が勝ちます。賞品は、やはり小判ですね」
「三人とはいえ、戦うのは一人なのじゃ。式具を持つわらわの勝ちで決まりなのじゃ」
「必殺技でゆーしょー?」
「いいえ、ご主人様の添い寝は譲りません」
「酒なのじゃ」
「小判です」
「薬草~?」

 どうにも収集が付かなくなって来たな。賞品は決めて無かったが、頑張ってもらうんだ、何か褒美は用意してやろう。

「待て待て、賞品は何も考えてなかったから、今回に限り褒美として何か一つ希望を聞いてやろう。だが、私も参加するからな。私にも勝たないといけないぞ」
「賞品のためです。僭越ながら勝たせて頂きます」
「酒は頂いたも同然なのじゃ」
「この辺りは私の縄張りに似た森です。負けるはずがありません」
「いっぱい獲るー」

 意外と私は見くびられていたようだな。本気でやってやるか。

「人の横取りは無しだぞ。私だけ収納があるから、ハンデとして私は一番遠くに行ってやろう。まずは場所を決めるから、皆でここを整地するぞ」

 整地はすぐに終わった。整地してる間に『周辺探知サーチ』で確認し、効率的に倒せるよう相性を【那由多】と相談し、それぞれが向かう方面を説明した。
 この辺りは、『地図マップ』に出てる赤点も多いので、どこに向かっても魔物の数は変わりないようだ。赤点の大きさも、まぁまぁ大きめが多い。一部大きいのもあるが、うちの連中なら楽に勝てるだろう。

 『スタート』と同時に各方面に走り出す仲間。皆、真剣だ。戦闘に関してはいつも本気の仲間だが、今日は褒美も掛かっているのでいつもより本気度が高い。
 煽り過ぎたか? でも、この辺りに人はいないし大丈夫だと思う。


 そして、二時間後……

 ……
 ……
 ……確かに、私が提案した。それは間違いない。
 だが、ものには程度というものがあるだろう! 整地した広場に入りきれてないじゃないか!
 私が獲ってきた魔物を出す場所が無いぞ! 獲り過ぎだ! 周辺探知サーチで見ると、ほとんど赤点が無くなってるじゃないか! そして、なぜ全員ドヤ顔なんだ!

 このままだと判定ができないので、一旦私が収納し、【那由多】に集計を任せた。

 全員、僅差ではあったが、トップは意外にもソラだった。本人曰く、必殺技『壱号』が炸裂したそうだ。ソラだからな。関わりたくは無いが、少し見てみたい気もする。
 だが、【那由多】の判定では、私がダントツのトップだった。

 そりゃ、私だって負けたくない。頑張りましたとも、ああ、頑張りましたとも。

 実は数だけで言うと、ココアが一番だった。だが、ソラは龍を三体も狩っていたのだ。全員、龍を一体ずつだったので、その差が判定に繋がったようだ。【那由多】の総評ではそのように批評された。
 龍って……と、思わなくも無いが、かくいう私も実は龍を五体倒していたのだ。
 龍と言っても、ノアのように話す古代種エンシェントでは無かった。一応、声は掛けてみたが、ただ吼えられるだけだったので、サクっと斬ってやった。私も強くなったもんだ。というか、奴らは上位種の魔物より隙が多いのだ。
 毎回ブレスで決着しようとするし、ブレスを吐いてる時は隙だらけだし、少々鱗が硬いがそれだけだ。ブレスを避け、隙だらけの首に力いっぱい虎刀牙の刀を振るうだけ。
 今日は競争だったので解体はしなかった。さっさと収納して【那由多】の勧める方向に進み倒していった。結果、トップのソラの倍近い討伐数&龍が五体。私の圧勝だった。

 しかし、取りすぎだ。大型ばかりだから数は思ったほど多くは無いが、一人五○体オーバー……解体…しないといけないよな。
 解体の件は、後で時間を作ろう。今はロンレーンの町まで戻るのが先決だ。まだ、もう一つ依頼が残ってるからな。
 本当に、自分でも律儀によく放り出さずに遂行してると感心するよ。勤勉な日本人が身に染み込んでるからなぁ。だが、これだけ働いてればもっと給料も上がっただろうか。いや、もしそうだとしても遠慮するだろうな。今ほど身体能力が高かった

 結局、一位にはなれなかったが、従者の中ではトップだったソラには本人の希望ではなく、私から何かあげる事にした。一応、二位なのだから。
 小休憩の後、ロンレーンを目指す。またノアに頼んで運んでもらい距離を稼いだ。
 陽も暮れかけてきたし、今日中に町に入りたかったので、出来る限り町に近い場所まで運んでもらった。
 町に入る門が閉まるまでに町に入ってしまえば、冒険者ギルドは遅くまで開いている。だから、見つかる恐れはあったが、少し無理をして町の近くまでノアに行ってもらった。
 幸い、この北と繋ぐ街道でこちらに向かう人影は無い。行きも帰りもまだ誰とも会っていない。周辺探知サーチ範囲に人が確認いない事を確認しつつ、町から歩いて三〇分程度の場所に降りた。ここなら町からも発見されないだろう。

 そこからは少し急ぎ足で門まで向かった。
 閉門まではまだ余裕があった、無理してノアに近くまで運んでもらってよかった。狩りを辞めるか早く切り上げればよかったのだろうが、食材確保は大事なのだ。この世界の飯は不味いのだから。

 ここまで急いだ理由としては、冒険者ギルドで報告をして相談したかったのもあるが、一番の理由は小屋だ。
 現在、ニーベルトさんの工房で作ってもらった小屋は三つある。居住用、食堂用、風呂用の三つだ。
 問題は居住用だ。
 ニーベルトさんに小屋内の空間を大幅に広げてもらったのだが、五人で寝るには少し手狭なのだ。しかも、従者達は魔物とはいえ、全員女性の姿をしている。さすがに、五人で雑魚寝というのは私の中で問題がある。
 今日は、町に入って宿を取りたかったのだ。小屋に関しては、また明日にでもニーベルトさんに相談する事になるだろう。

 なので、今日の所は、宿の確保と冒険者ギルドでの相談と情報交換だ。
 時間も遅いので二組に分かれた。
 冒険者ギルドには私とノアとミルキー。ソラとココアには宿の手配に走ってもらった。


「お久し振りです」
「そうでもないですよ。まだ、五日しか経ってませんからね。ノーライザでの活躍は伺っています。既に火龍とケルベロスの件も終わっているとか。どうやって移動したかなどと野暮な詮索はしませんが、どうやって解決したかはお聞かせ願えますよね? 解決はしたんですよね?」

 マスタールームに入るなり、いきなり嫌味な言葉で歓迎された。訝しく思ってると、その理由はすぐに分かった。

「前と連れている女性が変わってますが、おモテになるのですね。前回のお子様達と違って随分とお美しい方たちをお二人も。本当に依頼をされてたのか信用なりませんね」

 アラハンさんは依頼もせずに私が女にうつつを抜かしてたとでも思っているのだろうか。だが、アラハンさん。あなたが美しいと思っている女性は、神龍とケルベロスなのだが。

「依頼は三つの内、二つは終わりました。ですが、どう証明をすればいいか困ってるんです」
「やはり、思った通りですね。それで、どんな言い訳を考えて来たのですか? 言い訳のために美女を連れて来たのですか? 一人で十分だったと思いますが?」

 それ見ろ、とばかりに煽ってくるアラハンさん。もし、ここにココアがいたらタダじゃ済まなかったぞ。
 ノアとミルキーに視線を向けるが、二人は他人事のように知らん振りをしている。ココアのようにならないので安心はしたのだが、従者なら助言ぐらいはしてくれてもいいんじゃないかと思ってしまう。

「言い訳というかですね、ここじゃ見せられないのです。アラハンさんの空いてる時間で結構ですので、町の外まで付き合って頂けますか」
 流石に町中でノアとミルキーの本当の姿は見せられないからな。

「我が主ぃ、わらわは一向に構わぬが、なぜいけないのかえ?」
「はい、それで解決するのでしたら、一番早い方法ではないかと」
 それが出来れば苦労しないんだけどな。それをやってしまうと、私は人類の敵認定を受けてしまうのだよ。

「何を見せてくれるのかは知りませんが、タロウさんが時間を置きたいというのでしたら、私は待ちますよ」
 アラハンさんは余裕を見せて、私の提案に乗ってくれた。
 私にとっても、あなたにとっても、いい判断だと思います。

 このタイミングで秘書のマリオンさんがジュースを持ってきてくれた。アラハンさんは紅茶に口をつけて一泊置いてから、余裕を持って話し始めた。

「では、明日時間を作りましょう。冒険者が賑わう時間帯が落ち着いた頃でよろしいですか?」
 この余裕ある話し方には少しイラつくものを感じるな。ま、それも明日、ノアとミルキーの正体を見るまでだろうが。
 そう思い直して、私も余裕で応じた。

「ええ、分かりました。では、その頃に来ましょう。それとは別に、一つお伺いしたいのですが」
「なんでしょう。何でもおっしゃってください」
 本当に余裕だな。これなら少々大袈裟な事を言っても聞くかもしれない。

「ノーライザのギルマスから聞いたのですが、必要経費が認められるのですか?」
「ええ、そうですね。今回の場合、指名依頼と言ってもいいですから。何かありましたか?」
「ええ、野宿の時に便利なものを購入しまして。それが経費で認められないかと」
「ええ、ええ。結構ですよ、達成証明できた暁には認めましょう」
「ありがとうございます」
 よし、言質は取ったぞ。

「それと、もう一つ。Sカードとは何ですか?」
「ブッ! S…カード…ですか?」
 さっきまでの余裕が無くなり、慌てだすアラハンさん。私に内緒で付けた事がバレてないと思ってたのだろう。
 いきなりSカードの話題を振られて紅茶を吹き出していた。

「詳細は、ある程度ノーライザのギルマスから聞いてます。消してくれますか?」
 ボルダールの奴めぇ……と愚痴るアラハンさんだが、まだ隠そうとしてた事に呆れてしまう。

「こんなものを勝手に付けられると困ります。消してください」
「す、すみません。そのSは一度付けると消せないのです」
「そうですか。では、まだ依頼が一つ残ってるので、途中で辞めるのは中途半端です。この依頼が完了したら冒険者を辞める事にします」
「な、な、な、何を言ってるのですか! 辞めるなんて認めませんよ! ええ、認めませんとも!」

 認められないと辞められないものなのだろうか。身分証明書として勧められたのと、魔物を売るなら冒険者ギルドがいいと言われ登録をしただけなのだ。他に身分を証明するものがあるのなら、別に冒険者に拘る必要はない。

「別に辞めなくとも依頼を受けなければいいだけなので構いません。身分証明にはなりますからね」
「それは、もっと認めません! Sカードの者はギルマスからの直接依頼を断ってはいけないのです!」
「そういう説明は一切受けていませんが」
「……すみません」
「では、妥協案として、気に入らない依頼なら断ってもいいという事と、ノーライザでも言いましたが、毎回マスタールームに呼ぶのを禁止して頂ければ冒険者を続けましょう」
「そ、それは……」
「では、やはり辞める事になりそうですね」
「いや、ちょ、ちょっと待ってください。マスタールームへの呼び出しの件は了解しました。ノーライザのギルドからも通達がありましたので、私からも押しておきましょう。ただ、断れる権利というのは……」

 ほぅ、ノーライザのギルマスは約束を守ってくれたんだな。

「ダメだ」
「では、断れる権利を一回だけ行使できるというのはどうでしょう」
「少ない」
「では二回」
「無理」
「ええい! パス三まで使えればどうでしょう! マスタールームにも呼び出せないのですから、直接ギルマスに会う機会も減ります。なんとかこれで!」

 もう必死だな。私の価値がそこまであるとは自分では思えないのだが。
 だが、まだ上乗せできそうだな。

「わかりました。パスは三で妥協しましょう。あとは…」
「まだあるのですか!」
「折角なので、この二人にも同じSカードを発行してください。同じCランクでね。パーティにも入れておいてください」
「この美女二人がS?」
「ええ。実力は保証しますよ」

 火龍とケルベロスなのだ、実力は問題ないだろう。

「タロウさんが認める実力ですか……分かりました。Sカードで作り直しましょう」
 これで言いたい事は全部言ったし、退散するとしようか。

「では、経費の件。忘れないでくださいね」
「……わかりました」

 経費の件の念を押し、マスタールームから受付フロアに下りて来た。
 すると、フロアではソラとココアが待っていた。宿の手配を終えて、既にこちらに来ていたようだ。

「ご苦労さん、宿は取れたかい?」
「はい、もちろんです!」
「とうぜんー」
 一応、部屋割りも聞いてみた。

「それで、何部屋取ったんだ?」
「もちろん一部屋です!」
「とうぜんー」
 ……やっぱりか。
 正体を知ってるから、どうこうなるとは思えないが、周りからの視線が痛いのだよ。
 美女二人に美少女二人。周りからどう思われてるのかと思うと、逃げ出したくなるのだ。会う人、会う人に、本当の事を言って回りたい衝動に駆られるのだから。


 受付でノアとミルキーの冒険者カードを更新してもらい、重い足取りで宿へと向かうのだった。
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