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第06章 伝説の剣
第07話 スカウト
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すみません、大変遅くなり申し訳ありませんでした。
―――――――――――――――――――――――――――――
ゼパイルさんに家に入り、ゴミ? を片付けそれぞれの居場所を確保すると、「酒は?」みたいな感じでゼパイルさんが空の酒樽を俺の前に出した。
えー! もう飲んじゃったの? この樽って凄く大きいよ? 四斗樽ってやつだろ? 鏡開きでよく見るやつ。一斗で一升瓶一○本分だったはずだよな?
この人、一ヶ月も経ってないのに一升瓶四○本も飲んじゃったの? ずっと飲んでんじゃない?
まずは話を聞いてもらうため、終わったら出してあげると約束をして、こっちの話を切り出した。
「ゼパイルさんには話が二つあるんです。ついでにもう一つあるんですけど、大きくは二つです。先に一つ目から話しますね」
「おうよ、言える事ならいくらでも言ってやるよ。言えない事は言えないが、それでも酒は頂くぜ」
「……」
はいはい、初めから渡すつもりで用意してるからいいけどね。酒に対する執着心が凄いね、ドワーフって皆こうなのかな。
「…じゃあ、まず情報から聞きたいので、知ってる事を教えてください」
ゼパイルさんが肯いた事を確認して話を続けた。
「エルダードワーフについての情報がほしいんです。北隣のベルガンド王国の山中にエルダードワーフの隠れ里がある事まで分かったんですが、山中といっても広過ぎるので何か知ってる事でもあれば教えてほしいんですが」
まずはこっちの件からね。ゼパイルさんが知ってれば儲けものぐらいなんで、知らなくても別にいいんだよね。
「! ……なぜその名前を知ってんだ」
あれ? ゼパイルさん、何か知ってる?
「先日、ハイグラッドの町に行った時に偶然知ったんです。『伝説の剣』【七月剣】があるとかで、それを探す事になったんです。その隠し場所にエルダードワーフが関わってるみたいなんで、まずはエルダードワーフを探そうかと思ってるんです」
「【七月剣】の事まで知ってやがんのか……イージ! その事を広めやがったらタダじゃおかねーからな!」
「広める気は無いけど、エルダードワーフの事をゼパイルさんは知ってたんだね」
ダメ元だったけど、これはヒットかもしれないぞ。
「そうさのぅ、あれは…パシャックを見つけた時じゃった」
え!? いきなり物語が始まるの? しかも、じゃった、って……なんで老人風になるの?
「儂の打った『ミスリルの剣』が本当に『魔剣』になったのか、パシャックは間違いなく本人なのか、操られてるんじゃなかろうか。それを確かめるために、魔人討伐のパーティに潜り込ませてもらってベンガルド王国の山中を探索し、ようやくパシャックを見つけたんじゃが、返り討ちにされてしもうてのぅ。パーティは全滅してしもうたのじゃ。儂だけは、自作の自慢の防具で何とか命は取り止めたのじゃが、それでも瀕死状態じゃった」
おーい! キャラ変わってんぞ? 気になって内容が入って来ねーよ!
その後、何とか集中して、内容だけは把握できた。
瀕死の状態で気絶していたゼパイルさんが気がつくと、ベッドの上で寝かされていた。身体中、包帯でグルグル巻きにされたゼパイルさんは、見知らぬドワーフに助けられていた。
一目見ただけでドワーフと分かる容貌なんだが、内に秘めるオーラが凄いと感じたそうだ。
また一つだけドワーフとして大きく異なる点があった。
毛がすべて青いのだ。
髪の毛はもちろん、眉毛や髭も真っ青な色をしていた。助けてくれたドワーフの髪や髭の色はゼパイルさんの知る同属には存在しない毛色をしたドワーフだったのだ。
通常、ドワーフは鉱山を好んで洞窟の中を住まいとする。
鍛冶職を得意とするので火の精霊を崇めている。
それ故に、髪の色も茶系や金髪、赤や緑が多いが、水を苦手とするドワーフには青い髪をした者はいない。いや、ゼパイルさんは見た事が無かった。
そしてその正体がエルダードワーフだと分かった時には、大層驚いたそうだ。
伝説やお伽噺でしか聞いた事がないエルダードワーフ。
ドワーフから見ても祖なのか進化なのか分からない存在。そもそも実在しているとは思わなかった存在が目の前にいたのだから、ゼパイルさんの驚きも相当なものだったみたいだ。
そうして九死に一生を得たゼパイルさんは回復のため、何日もエルダードワーフの里で世話になり、回復後はすぐに里を後にした。
エルダードワーフの鍛冶技術は相当なもので、ゼパイルさんは里にいる間、卓越した鍛冶技術に、自分の傑作を上回る作品を見た。それこそ、伝説級と呼ぶに相応しい武具の数々だった。
今までのゼパイルさんなら迷わずに弟子入りを申し出ていただろう。
だが、何日もベッドに伏せっていた間に決意した事があった。俺にも告白してくれた「パシャックの魔剣を折るまでは槌を持たない」ってやつだ。
だから、身体が回復するとすぐに里を出たそうだ。長居して心変わりをするのが怖かったとも打ち明けてくれた。
相当な覚悟だったんだろうね、ドワーフは鍛冶仕事に命をかけるってイメージがあるもんな。昔のゼパイルさんも『封魔の剣』ぐらい作れるって言ってたし、ザ・鍛冶屋って感じだったんじゃないのかな。
そんな覚悟をしてる人に、もう折っちゃったって魔剣を出したらどんな顔をされるんだろ。
スッゲー出しにくいんだけど。
でも、話を進める上で出さない訳にも行かないし、何とかタイミングよく出したい所だね。
「それで、エルダードワーフの里の場所は分かるの?」
「当たり前だ、だが簡単に教えるわけにはいかん。恩人の里だからな」
簡単に教えられないって、どうやったら教えてくれるんだろ。やっぱり酒かな?
ドン! と『龍王の杯』を樽で出してみた。
「むほっ!」
ゼパイルさんが鼻息荒く樽に手を出そうとしたので素早く収納した。
「なにするんだ!」
ゼパイルさんが烈火の如く叫んだ。
それはこっちのセリフだって!
「いや、まだ差し上げるとも言ってませんし、ゼパイルさんこそ何で手を出すんですか」
「ここは俺の家だ。その俺の家にある酒は俺のもんだ。手を出して何が悪い」
すっげー自己都合な方程式だな、おい。
ずっと黙って聞いているキッカまで、いつも俺に向けているジト目をゼパイルさんに向けてるよ。
キッカから見てもそうだよね? 俺の常識がこの世界でも常識でよかったよ。
俺は呆れて溜息を一つ吐き、話を続けた。
「安心してください。お酒は差し上げます」
初めから渡そうと思って持って来たものだからあげてもいいんだけど、この盗られるって感じが納得行かないね。
「ならさっさと出せ!」
うん、やっぱり素直に出したくなくなるね。
「その前にこの地図で場所を教えてください」
衛星に頼んで描いてもらってた地図を出した。
ゼパイルさんは「なんだ、この精密な地図は!」とか文句を言いながらも地図に印を付けてくれた。
やっぱり隣の国になるみたいだな。
ゼパイルさんが少し大きめだけど、○を付けてくれた地図を確認していると、また酒の催促をしてくる。
もうウザいんで、さっさと出してやろうかと思ったけど、まだ話が終わって無いのでもう少し焦らす事にした。
だって、酒を出したらそこから話にならないような気がしたから。
「まだ話は終わってないですよ。お金の件はいいんですか?」
「おーそうだ! さっさと貸せ! そして酒も出せ!」
なんなんだろ。ドワーフだからこうなのか? 貸したく無くなって来たけど、そうも行かないよな。俺の思惑も一つあるし、もう少し我慢して話してみるか。
「お金を貸すのはいいんですが、返すあてはあるんですか? 仕事はしてないんですか?」
「返すあてってなんだ。今、情報をやったじゃないか!」
さっきの情報でチャラになってる? ダメだ、この人を普通と思ってたらこっちがおかしくなってくる。
「じゃあ、お酒は無しですね?」
「なぜだ! さっきくれると言っただろ!」
「前にゼパイルさんが言ってましたけど、『龍王の杯』って凄く高いお酒なんですよね?」
「ああ、白金貨一枚はするだろうな」
「さっきの情報ってそれだけの価値があるんですか?」
「……」
「でも、銀貨九〇枚なら出してもいいとは思ってます」
「……」
「するとお酒の分は出ませんよね? そこで提案なんですけど、その前に見て欲しいものがあるんです」
納得行かない風のゼパイルさんだったが、俺が出した物を見ると、目と口を大きく見開き声も出せずに驚いていた。
そう、魔族のパシャックを倒した時に折った剣を出したんだ。
ゼパイルさんが過去に作った渾身の作品だと言っていた『ミスリルの剣』だ。
以前に、この剣を折ってやるまでは鍛冶仕事はしないって言ってたから、これで鍛冶仕事を再開してくれるんじゃないかと思って出してみたんだ。
出すタイミングとしては良かったんじゃないかと思う。
「……これは……俺の打った剣だという事を分かってて見せたんだな?」
「はい」
「……礼を言う。すまない」
「い、いえ」
ゼパイルさんは、さっきまで酒の事で文句を言ってた人とは思えないほど神妙な顔で俺に向かって頭を下げた。
ちょっと意表をつかれて戸惑ってしまったけど、本題はこの後なんだ。
さっき思いついたんだけど、領主様の封魔の剣『ファルシロン』の補修も含めて、【星の家】の近くで鍛冶仕事をしてくれないかと誘おうと思ったんだ。
だって、鍛冶屋さんが専属でいるって便利だろ? しかも、その鍛冶屋の腕がいいなら放って置くのは勿体無いよね。
「それで…どうするんですか? 鍛冶仕事を再開するんですか?」
「……」
まだ整理が付いてないのか、ゼパイルさんから返事は無かった。酒の事も……それは忘れてないみたいだ。空の樽は離してないよ、この人。
「もし、再開するんでしたらスカウトしたいんです。もちろん酒は鍛冶の報酬とは別に付けましょう」
「乗った!」
早っ! そこまで酒の比重が大きいのか? 凄っごく悩んでたんじゃないの?
俺としては助かるけど、それでいいの?
キッカも呆れて溜息ついてるよ。
「じゃあ、職場と家は用意しますから、ここを出て引越ししてください。いつから行けますか?」
こういうのは決定、即実行しないと時間を掛けるほど動きにくくなってくるからね。住み慣れた家だろうし、決めたのならすぐに動いた方がいいと思うんだよね。
そう思って、後押しの意味も込めて酒樽を出した。
「そうだな……この樽を飲み干したら……お、おい!」
もちろん即収納してやったよ。このおっさんには逆効果だったようだね。
文句を言うゼパイルさんの言葉は聞き流して、金貨を一枚を渡し、衛星に収納バッグを作ってもらって引越しのために貸してあげた。
明日、迎えに来るから準備を済ませておいてほしいと伝えたあと、ゼパイルさんからの要望も聞いておいた。
工房にどんなものが必要なのか俺には分からないから聞いておかないとね。
酒の効果は絶大だったみたいで、ゼパイルさんももう鍛冶師モードになっていて、必要なものは言われた通り紙に書いていき、窯などは絵に描き起こして俺にも分かりやすく説明してもらった。
あとは衛星に作ってもらうだけだね。
この後、元孤児院に寄って、さっさと帰って工房を作らないとね。
―――――――――――――――――――――――――――――――
PCが無くなり、少し燃え尽きた感があったので、PC復活後も更新が遅れました。
気持ちの方も徐々に復活しつつありますが、もう少しかかりそうです。
少し企画してるものもあるので、これでテンションを上げられないかと考えています。
少しの間、投稿の間隔も開くかもしれません。
ご迷惑お掛けしますが、よろしくお願いします。
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ゼパイルさんに家に入り、ゴミ? を片付けそれぞれの居場所を確保すると、「酒は?」みたいな感じでゼパイルさんが空の酒樽を俺の前に出した。
えー! もう飲んじゃったの? この樽って凄く大きいよ? 四斗樽ってやつだろ? 鏡開きでよく見るやつ。一斗で一升瓶一○本分だったはずだよな?
この人、一ヶ月も経ってないのに一升瓶四○本も飲んじゃったの? ずっと飲んでんじゃない?
まずは話を聞いてもらうため、終わったら出してあげると約束をして、こっちの話を切り出した。
「ゼパイルさんには話が二つあるんです。ついでにもう一つあるんですけど、大きくは二つです。先に一つ目から話しますね」
「おうよ、言える事ならいくらでも言ってやるよ。言えない事は言えないが、それでも酒は頂くぜ」
「……」
はいはい、初めから渡すつもりで用意してるからいいけどね。酒に対する執着心が凄いね、ドワーフって皆こうなのかな。
「…じゃあ、まず情報から聞きたいので、知ってる事を教えてください」
ゼパイルさんが肯いた事を確認して話を続けた。
「エルダードワーフについての情報がほしいんです。北隣のベルガンド王国の山中にエルダードワーフの隠れ里がある事まで分かったんですが、山中といっても広過ぎるので何か知ってる事でもあれば教えてほしいんですが」
まずはこっちの件からね。ゼパイルさんが知ってれば儲けものぐらいなんで、知らなくても別にいいんだよね。
「! ……なぜその名前を知ってんだ」
あれ? ゼパイルさん、何か知ってる?
「先日、ハイグラッドの町に行った時に偶然知ったんです。『伝説の剣』【七月剣】があるとかで、それを探す事になったんです。その隠し場所にエルダードワーフが関わってるみたいなんで、まずはエルダードワーフを探そうかと思ってるんです」
「【七月剣】の事まで知ってやがんのか……イージ! その事を広めやがったらタダじゃおかねーからな!」
「広める気は無いけど、エルダードワーフの事をゼパイルさんは知ってたんだね」
ダメ元だったけど、これはヒットかもしれないぞ。
「そうさのぅ、あれは…パシャックを見つけた時じゃった」
え!? いきなり物語が始まるの? しかも、じゃった、って……なんで老人風になるの?
「儂の打った『ミスリルの剣』が本当に『魔剣』になったのか、パシャックは間違いなく本人なのか、操られてるんじゃなかろうか。それを確かめるために、魔人討伐のパーティに潜り込ませてもらってベンガルド王国の山中を探索し、ようやくパシャックを見つけたんじゃが、返り討ちにされてしもうてのぅ。パーティは全滅してしもうたのじゃ。儂だけは、自作の自慢の防具で何とか命は取り止めたのじゃが、それでも瀕死状態じゃった」
おーい! キャラ変わってんぞ? 気になって内容が入って来ねーよ!
その後、何とか集中して、内容だけは把握できた。
瀕死の状態で気絶していたゼパイルさんが気がつくと、ベッドの上で寝かされていた。身体中、包帯でグルグル巻きにされたゼパイルさんは、見知らぬドワーフに助けられていた。
一目見ただけでドワーフと分かる容貌なんだが、内に秘めるオーラが凄いと感じたそうだ。
また一つだけドワーフとして大きく異なる点があった。
毛がすべて青いのだ。
髪の毛はもちろん、眉毛や髭も真っ青な色をしていた。助けてくれたドワーフの髪や髭の色はゼパイルさんの知る同属には存在しない毛色をしたドワーフだったのだ。
通常、ドワーフは鉱山を好んで洞窟の中を住まいとする。
鍛冶職を得意とするので火の精霊を崇めている。
それ故に、髪の色も茶系や金髪、赤や緑が多いが、水を苦手とするドワーフには青い髪をした者はいない。いや、ゼパイルさんは見た事が無かった。
そしてその正体がエルダードワーフだと分かった時には、大層驚いたそうだ。
伝説やお伽噺でしか聞いた事がないエルダードワーフ。
ドワーフから見ても祖なのか進化なのか分からない存在。そもそも実在しているとは思わなかった存在が目の前にいたのだから、ゼパイルさんの驚きも相当なものだったみたいだ。
そうして九死に一生を得たゼパイルさんは回復のため、何日もエルダードワーフの里で世話になり、回復後はすぐに里を後にした。
エルダードワーフの鍛冶技術は相当なもので、ゼパイルさんは里にいる間、卓越した鍛冶技術に、自分の傑作を上回る作品を見た。それこそ、伝説級と呼ぶに相応しい武具の数々だった。
今までのゼパイルさんなら迷わずに弟子入りを申し出ていただろう。
だが、何日もベッドに伏せっていた間に決意した事があった。俺にも告白してくれた「パシャックの魔剣を折るまでは槌を持たない」ってやつだ。
だから、身体が回復するとすぐに里を出たそうだ。長居して心変わりをするのが怖かったとも打ち明けてくれた。
相当な覚悟だったんだろうね、ドワーフは鍛冶仕事に命をかけるってイメージがあるもんな。昔のゼパイルさんも『封魔の剣』ぐらい作れるって言ってたし、ザ・鍛冶屋って感じだったんじゃないのかな。
そんな覚悟をしてる人に、もう折っちゃったって魔剣を出したらどんな顔をされるんだろ。
スッゲー出しにくいんだけど。
でも、話を進める上で出さない訳にも行かないし、何とかタイミングよく出したい所だね。
「それで、エルダードワーフの里の場所は分かるの?」
「当たり前だ、だが簡単に教えるわけにはいかん。恩人の里だからな」
簡単に教えられないって、どうやったら教えてくれるんだろ。やっぱり酒かな?
ドン! と『龍王の杯』を樽で出してみた。
「むほっ!」
ゼパイルさんが鼻息荒く樽に手を出そうとしたので素早く収納した。
「なにするんだ!」
ゼパイルさんが烈火の如く叫んだ。
それはこっちのセリフだって!
「いや、まだ差し上げるとも言ってませんし、ゼパイルさんこそ何で手を出すんですか」
「ここは俺の家だ。その俺の家にある酒は俺のもんだ。手を出して何が悪い」
すっげー自己都合な方程式だな、おい。
ずっと黙って聞いているキッカまで、いつも俺に向けているジト目をゼパイルさんに向けてるよ。
キッカから見てもそうだよね? 俺の常識がこの世界でも常識でよかったよ。
俺は呆れて溜息を一つ吐き、話を続けた。
「安心してください。お酒は差し上げます」
初めから渡そうと思って持って来たものだからあげてもいいんだけど、この盗られるって感じが納得行かないね。
「ならさっさと出せ!」
うん、やっぱり素直に出したくなくなるね。
「その前にこの地図で場所を教えてください」
衛星に頼んで描いてもらってた地図を出した。
ゼパイルさんは「なんだ、この精密な地図は!」とか文句を言いながらも地図に印を付けてくれた。
やっぱり隣の国になるみたいだな。
ゼパイルさんが少し大きめだけど、○を付けてくれた地図を確認していると、また酒の催促をしてくる。
もうウザいんで、さっさと出してやろうかと思ったけど、まだ話が終わって無いのでもう少し焦らす事にした。
だって、酒を出したらそこから話にならないような気がしたから。
「まだ話は終わってないですよ。お金の件はいいんですか?」
「おーそうだ! さっさと貸せ! そして酒も出せ!」
なんなんだろ。ドワーフだからこうなのか? 貸したく無くなって来たけど、そうも行かないよな。俺の思惑も一つあるし、もう少し我慢して話してみるか。
「お金を貸すのはいいんですが、返すあてはあるんですか? 仕事はしてないんですか?」
「返すあてってなんだ。今、情報をやったじゃないか!」
さっきの情報でチャラになってる? ダメだ、この人を普通と思ってたらこっちがおかしくなってくる。
「じゃあ、お酒は無しですね?」
「なぜだ! さっきくれると言っただろ!」
「前にゼパイルさんが言ってましたけど、『龍王の杯』って凄く高いお酒なんですよね?」
「ああ、白金貨一枚はするだろうな」
「さっきの情報ってそれだけの価値があるんですか?」
「……」
「でも、銀貨九〇枚なら出してもいいとは思ってます」
「……」
「するとお酒の分は出ませんよね? そこで提案なんですけど、その前に見て欲しいものがあるんです」
納得行かない風のゼパイルさんだったが、俺が出した物を見ると、目と口を大きく見開き声も出せずに驚いていた。
そう、魔族のパシャックを倒した時に折った剣を出したんだ。
ゼパイルさんが過去に作った渾身の作品だと言っていた『ミスリルの剣』だ。
以前に、この剣を折ってやるまでは鍛冶仕事はしないって言ってたから、これで鍛冶仕事を再開してくれるんじゃないかと思って出してみたんだ。
出すタイミングとしては良かったんじゃないかと思う。
「……これは……俺の打った剣だという事を分かってて見せたんだな?」
「はい」
「……礼を言う。すまない」
「い、いえ」
ゼパイルさんは、さっきまで酒の事で文句を言ってた人とは思えないほど神妙な顔で俺に向かって頭を下げた。
ちょっと意表をつかれて戸惑ってしまったけど、本題はこの後なんだ。
さっき思いついたんだけど、領主様の封魔の剣『ファルシロン』の補修も含めて、【星の家】の近くで鍛冶仕事をしてくれないかと誘おうと思ったんだ。
だって、鍛冶屋さんが専属でいるって便利だろ? しかも、その鍛冶屋の腕がいいなら放って置くのは勿体無いよね。
「それで…どうするんですか? 鍛冶仕事を再開するんですか?」
「……」
まだ整理が付いてないのか、ゼパイルさんから返事は無かった。酒の事も……それは忘れてないみたいだ。空の樽は離してないよ、この人。
「もし、再開するんでしたらスカウトしたいんです。もちろん酒は鍛冶の報酬とは別に付けましょう」
「乗った!」
早っ! そこまで酒の比重が大きいのか? 凄っごく悩んでたんじゃないの?
俺としては助かるけど、それでいいの?
キッカも呆れて溜息ついてるよ。
「じゃあ、職場と家は用意しますから、ここを出て引越ししてください。いつから行けますか?」
こういうのは決定、即実行しないと時間を掛けるほど動きにくくなってくるからね。住み慣れた家だろうし、決めたのならすぐに動いた方がいいと思うんだよね。
そう思って、後押しの意味も込めて酒樽を出した。
「そうだな……この樽を飲み干したら……お、おい!」
もちろん即収納してやったよ。このおっさんには逆効果だったようだね。
文句を言うゼパイルさんの言葉は聞き流して、金貨を一枚を渡し、衛星に収納バッグを作ってもらって引越しのために貸してあげた。
明日、迎えに来るから準備を済ませておいてほしいと伝えたあと、ゼパイルさんからの要望も聞いておいた。
工房にどんなものが必要なのか俺には分からないから聞いておかないとね。
酒の効果は絶大だったみたいで、ゼパイルさんももう鍛冶師モードになっていて、必要なものは言われた通り紙に書いていき、窯などは絵に描き起こして俺にも分かりやすく説明してもらった。
あとは衛星に作ってもらうだけだね。
この後、元孤児院に寄って、さっさと帰って工房を作らないとね。
―――――――――――――――――――――――――――――――
PCが無くなり、少し燃え尽きた感があったので、PC復活後も更新が遅れました。
気持ちの方も徐々に復活しつつありますが、もう少しかかりそうです。
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