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第07章 チームエイジ
第15話 護送
しおりを挟むボッシュールと魔族を拘束したまま放置し、フィッツバーグの町に戻るとすぐに領主様に報告した。
ユーは同行を拒否したので、俺だけで城に行き報告を済ませた。
領主様は、王都に連絡をつけ、日程を合わせてボッシュールで落ち合う約束を取り付けた。
今回の連絡方法は手紙でのやり取りだが、使い魔を召還できる者が王都にいて、その使い魔が手紙を届けてくれたので、掛かった日数は二日で情報交換ができた。
領主様側からは鳥を何羽か飛ばしたようだけど、丸一日は掛かったようだ。それを受けた王都からは数時間で届いたのだから使い魔は鳥の何倍も速かった事になる。
落ち合う日は今日から一週間後。ボッシュールの町で落ち合って、そのまま罪人を連れて王都に向かう予定だ。
なぜか俺も同行を命じられた。国家公認冒険者の俺に領主様からの指名依頼だそうだ。
こういう時に公式依頼して逃げられなくされるんだよな。邪魔な肩書きだ。
どうせ、王都で魔族の尋問になるからエイジを同行させろと、ジュレ公爵のサイン入りの手紙に書かれてたのも依頼された理由に入っていた。
冒険者ギルドのトップの命令だから、拒否はできない。拒否する勇気もないんだけどね。
ジュレ公爵って俺に国家公認冒険者カードを発行してくれた人だし、逆らうなんてできないって。
出発は三日後、馬車で三日の距離だそうだが、余裕をもって出発する予定だ。
領主様自らの出発なので、護衛は大勢付く。総勢百名の行軍だ。という事は行軍スピードもグッと下がるはずなんだが、予定通り三日でボッシュールの町に到着した。さすがに、よく鍛えられていた。
だったら、この前領主様と二人でハイグラッドの町に行ったのは何なんだって話なんだが、あれは非公式だって開き直られた。
俺に凄んでもどうにもならないのに、なんかいつもより偉そうだった。
腰にファルシロンを下げてるせいかもしれない。偽物なのにね。
ボッシュールの屋敷に到着したが、あれから五日経っている。食事などを衛星に頼まなかったから見るのが怖い。
入るのは最後にしよう。
「領主様! 全員かなり衰弱しております。回復薬と食事が必要です」
偵察に入った兵士から報告が入った。
そりゃそうだよね、予想できたよ。誰も死んでなけりゃいいんだけど。
「それと……」
「なんだ、急いでるのではないのか。急いでる時に報告を躊躇するな」
「は、はい! 実は、拘束が…拘束をしている縄が解けないのであります! 申し訳ありません!」
「……あぁ、あれか……」
報告を受けた領主様は、過去を思い出すように遠い目をした後、俺に視線を向ける。
あー、と俺も思い出しだ。
初めて領主様と会った時に拘束した魔族と間者を縛った縄が解けなかったと苦情を言われた事を。
言われたのはターニャとケニーだったけど、領主様も当事者だったからね。
領主様にも目で促され拘束を解除に向かった。
「この者を連れて行け。この者が拘束を解いてくれる。他はいいが魔族の拘束は絶対に解くな。あと目隠しも忘れるな」
「はっ」
兵士に付いて行くと五日前と状況は変わってない。変わったのは全員の元気が無い事だろうか。
そりゃ五日も何も食わずにいたんだ、同情してしまうな。元凶は俺だけど、元の原因は奴らにあるから罪悪感は薄いけど、誰も死ななくてよかったと思う。
「お前ぇ――」
あ、元気そうな奴がいた。魔族の弱いほうだ。
「この縄はなんだ! 魔眼も発動しねぇし【倍加】してもビクともしねぇ。なんだってんだ、こりゃぁよお」
ほー、魔眼が発動しないんだ。衛星の拘束術もどんどん凄くなってるな。
「……臭っ」
「臭いって言うな! お前が拘束して放置しやがるから全員垂れ流しなんだよ! お前のせいじゃねぇか、臭いって言うんじゃねー!」
うるさなぁ。臭いもんは臭いんだから、つい口から出ちゃったんだよ。
「早く何とかしやがれ!」
ホントうるさい。こいつだけに何か……いい事思いついた! できるかどうかは衛星次第だけど、衛星ならできるだろ。
『タマちゃん、拘束してる奴らの排泄物処理と臭い処理をしてあげて。部屋の匂いも消臭してね」
『Sir, yes, sir』
部屋に充満してた臭いが消えていく。憔悴して転がってる間者達の表情も柔らかくなって行くようだ。
『それでさ、その回収した汚物をギュ――っと圧縮して丸薬ぐらいまで小さく出来る?」
『Sir, yes, sir』
目の前にコトンと黒い小さな丸薬のようなものが落ちた。臭っ!
『この今作ったものを、あの煩い奴の鼻に詰めてやって』
『Sir, yes, sir』
「ふんが―――――! 臭っせ――――――!」
両方の鼻に詰めたら、フン! ってされると飛んで行っちゃうからね。片側だけなら両手を拘束されてるから飛ばせないし呼吸もできて臭さ倍増。
魔族の…ヘリアレスだったな。得したなお前、臭さ倍増だぜ! はは
ふご――――!! と、のた打ち回るヘリアレス。
余計に煩くなった。でも、元気だな。魔族だから体力もあるのかな?
煩い魔族はそのまま放置。体力が切れるか匂いに慣れたら大人しくなるだろ。
もう一人の魔族、ビランデルの方はやけに静かにしていて不気味な雰囲気を漂わせている。あっちのバカとは格が違うようだ。
ま、衛星に拘束されてるから大丈夫だろうけど、拘束を外す事になったら要注意だな。
その日の夜に王都からの兵士も到着した。こちらは速度重視で山越えを来たので精鋭の先行部隊が六○名が先着した。
この領地の横からすぐに始まるファーナリア連峰があるため、南のハイグラッドの町までグルっと迂回する予定だ。さすがに山越えは過酷すぎて逮捕者を連行しては登れないので大きく迂回するしかないのだそうだ。
今回の山越えでも精鋭とはいえ四○名程の犠牲者が出たらしい。
初めてファーナリア連峰を越える時の事を思い出してみる。
壮行会をしてもらった後、天馬達でこの山を越えたんだけど、色々と話を聞いていた。
魔物のレベルが高いとか、険しい山なので魔物がいなくても一週間は掛かるとか、もちろん魔物はいるので一ヶ月は掛かるとか、過酷な条件過ぎるので辞めておけとか。
俺達は天馬達がいたので迷わず山越えルートを選んだけど、そんな超難関ルートを態々来る事ないのに。しかも三日で来るとは……誰も助けられないで見捨てられたんだろうな。
そんなに過酷なら日程をずらして一ヵ月後以上後でも構わないから待ち合わせを遅らせればよかったのに。犠牲になった奴も災難だったよな。可哀相に、みんな何を焦ってるんだろうな。
別部隊がその迂回ルートで向かって来ていて、途中で合流するらしいけど、それなら全員で迂回ルートで来ればよかったのにと思う。無駄な犠牲だよな。
捕らえていた間者は拘束を解き、食事を与え回復薬も投与され、兵士に拘束された。衛星がやったようなグルグル巻きではなく、両手だけの拘束だった。鉄格子付きに荷台だったので逃げられはしないだろう。
魔族は二人共グルグル巻きのまま馬車の荷台に積まれていた。ヘリアレスは騒ぐ元気も無いぐらいグッタリしていた。
魔族の担当は俺が任命され、そのまま衛星に丸投げした。
間者については、お世話係を領主様側で、護衛は全体護衛も含め王都側が行なうと決め、行軍を開始した。
先頭や殿と途中にも分散して王都の精鋭達が全体を護衛する形になり行軍している。
なんだろう、主導権を主張していると感じられるんだけど、そんな事をして意味あるのか?
「王都の軍も焦っているのだ。対魔族に関してはフィッツバーグ領の後塵を浴びているからな」
後塵を浴びるってフィッツバーグってそんなに活躍してたっけ。
「まず儂の偽物を捕まえてエ……イージが王都で尋問に成功。先日は儂とファルシオンで倒した。そして今回もフィッツバーグ領の者が魔族を捕らえた。王都の軍としては面目丸潰れなのだ」
それって全部俺が関わってんだけど。バレてないと思うけど、パシャックも俺が倒してるんだよね。合計四回の戦闘(?)で、六人の魔族を倒してるな。実は俺の実績って凄いかも。
魔物は衛星がやっつけてしまうので倒した事は無いけど(未だに見た事も無い)、魔族は六人とも見たな。その内四人は生きてるんだよな。しかも二人が奴隷とか……実は俺って魔族の天敵?
でも、そんな面子のために兵士に犠牲を出すのは辞めてほしいな。別に優位に立とうなんて全然思ってないのにな。
「貴族とは面子を一番に考える誇り高き者達なのだ。エ……イージも見習えよ」
さっきから俺の名前を言おうとしてる?
そう思ってジッと領主様を見てみると、照れたように向こうを向いた。
「……んん~」
咳払いのあと、領主様がボソリと呟いた。
「エイジ」
「あっ! 言えてる……」
「一言目というのは中々恥かしいものだな。少しの練習ですぐに言えるようになったぞ。少しだぞ、ほんの少しだけ練習してやったぞ」
少しを強調するのが怪しいけど、どっちにしても嬉しいな。
どんどん俺の名前を言える人が増えてくる。それって仲間が増えてるって事なのかな。
だったら俺もお返ししなくちゃね。その前にやり忘れてる事はないよね? お礼をしようと思ってるのに、頼まれてた事や忘れてしまった事があると格好悪いよね。
やっておかないといけない事は……ない? と思うんだけど。 【星菓子】の支店は砂糖の件が落ち着いてからだし、砂糖の工場は建ててくれるから俺は関係ないし、そこに置く機械は収納バッグ毎渡してきてるし、居住区はもう俺がいなくても回せるだろうし、【星の家】も特に用はないな。
ゼパイルさんは勝手にやってるだろうな。酒は足りなくなるだろうけど、予定してたより既に多く渡したんだから足りなくなっても自己責任で何とかしてほしい。
クラマとマイアはちょっとだけ気になるが、あいつらは放っておいても適当にやってるだろ。
でもまだ何か忘れてる気がするんだよなぁ……
今回は同行者がいないから聞ける人がいないんだ。あ、タマちゃんに聞けばいいか。
『タマちゃん、現在進行形の案件で、対処を忘れてるものって無かった? 何か滞ってるようなやつ』
『たくさんあります』
いっ? たくさんあるの? そんなはずは無いんだけど。
『ゴメン、教えてください』
『はい、地図八と一枚の未探索があります。【星菓子】の女性とのデート未達成があります。空間魔法、重力魔法、付加魔法の修練が止まっています。バーンズに商人を紹介してもらう話が済んでません。居住区の区長を決めていません。ユーと結婚式を挙げていません。シェルとプリームのロンド姉弟の処遇を決めていません。【月の指輪】の配布がされてません。ベンガームンド、通称ベンさんとの再会を果たせていません。レベルアップも出来ていません』
……結構あるな。確かに地図の事は後回しになってた。
バーンズさんにも『七月剣』を渡しただけで、まだ行ってない。
魔法は嫌になって放り投げてるのもあるけど、弓と基本魔法の練習は毎日じゃないけどよくやってるんだよ。
ユーとの結婚はもう少し後でいい? まだ落ち着けてないし。
ロンド姉弟は俺に関係ある? 勝手に居ついてるみたいだけど、放置でいいんじゃない?
居住区の区長か…ロジャーかロイドのどっちかでいいんじゃない? やっぱり俺が決めるのか?
【月の指輪】ね、確かに配らないと勿体無いね。
ベンさんかぁ。懐かしいな、会いたいけど、どこにいるんだろ。別れた後は北に向かったはずだけど、どこにいるんだろうな。
レベルアップね……お前が言うな! 衛星のせいでレベルアップできないんじゃないか。ただ、今から戦えって言われても、もう今更無理な気がする。もう戦いは衛星に任せっきりだから、戦いたいって気にならないんだ。
でも、弓や魔法の訓練は続けていこうか。損にはならないだろうしね。
ボッシュールの町を出て一週間後、ハイグラッドの町の近くを通った時、俺だけ少し抜けてバーンズさんの所に寄る事にした。
応援ありがとうございます!
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