『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

文字の大きさ
11 / 442
「最強姉からの逃走」編

11話 「初めての女の子との会話!」

しおりを挟む

「いらっしゃいませ。今日もいろいろと仕入れてきましたよ」


 その言葉で、やはりこのテントが行商のものであることがわかった。

 売っているものは食料と日用雑貨が中心であり、人々が楽しそうに買い物をしていることから、ここが平和な場所であることもわかる。


(殺し合いにならなくてよかった。それなら安心していろいろと見てみるかな)


 いきなり怖いことを言ったが、これが火怨山クオリティーなのだ。

 魔獣が跋扈する火怨山で暮らしていたアンシュラオンたちにとっては、「身内以外は全部敵」「敵は殺す」が通常の思考である。

 ただ、さすがに一般人の村人に対して攻撃態勢を取る必要はない。落ち着いて辺りを見回す。


(大規模な耕作をしている様子はない。この村の主産業は林業かな? この村に生産品があるとすれば、狩猟で仕入れた肉の加工品とか森で採れる植物とかか? もしくは何かしらの特産品があるのかもしれないが、あまり豊かじゃなさそうだし、さほど高価なものじゃないだろう)


 こういった知識は当然、前世の記憶から引き出しているものだ。

 ようやく人の気配に慣れたので、改めてテントの品々を見てみる。


(このフライパンは鉄かな? あっちの斧は、もうちょっと硬そうだな。ちゃんと鉄鋼技術はあるみたいだ)


 火怨山で使っていたフライパンなどの道具は、すべて魔獣の素材によって作られていた。魔獣の中には鉄よりも硬い金属質の皮膚を持つものもいるので、それを加工していたのだ。

 もちろん素手で。

 火が必要ならば戦気を化合して『火気』を生み出せばいい。おかげで火属性は苦手なのだが、調理のために火気だけは使えるようになった。

 姉などは火気の最上位属性である臨気りんきを軽々扱い、破壊を楽しんでいたものだ。実に恐ろしい。

 一方のアンシュラオンは基本的に温和で理知的なので、得意とするのは水である。

 単に生存のことを考え、回復効果のある水の最上位属性である命気を覚えたかったにすぎないのだが、そのあたりにも性格が出ているといえる。

 話は戻り、それなりに普通に鉄鋼技術は使われているようであり、質も高い。

 そう思った理由は、手に取ってみた包丁にある。


(これは、すごいな。手打ちだな。たぶん、ちゃんと人が打ってる)


 特に知識はないが、包丁の切れ味がなんとなくわかる。これは良いものだ。

 大量生産品だとプレスで造ることもあるが、鍛造たんぞうで造られたものは、やはり違う。包丁一つ一つに職人の気概を感じるほどに美しく、強い。


(これくらいの包丁なら硬めの魔獣の皮も切れるな。皮焼きは、よく姉ちゃんにも作っていたもんだ。パリパリで美味しいんだけど、オレの場合は姉ちゃんの咀嚼物だからドロドロだったな。せっかく辛くしても、姉ちゃんの唾液で甘くなるという理不尽さだ。今となれば懐かしい思い出だけどね)


「あの…」

「………」

「ええと、その。気に入りました?」

「…え? オレ!?」

「はい。包丁をずっと見ていましたから、気に入ったのかなと」


 一瞬、誰に話しかけているのかわからなかったが、どうやら自分のようだ。姉の咀嚼物の思い出が強烈すぎて自分がいた場所をすっかりと忘れていた。

 顔を上げれば、売り子の少女が笑顔でこちらを見つめている。

 深い紫色の髪の毛の可愛い女の子だ。やはりまだ幼さが残っている。


(包丁をずっと見ていたら、そりゃ危ないやつに見えるか)


「いやその、良いものだなと思いまして」

「わかりますか? ちゃんと工房から仕入れたものなんですよ!」

「工房?」

「はい。アズ・アクスっていう工房製で、有名な職人さんの手作りなんです。本当は高いんですけど、お安く仕入れさせてもらってます。もともとは武器の工房なんですが、最近は包丁も作り始めていて、その試作品なんです」

「なるほど。だから安いのか」


 持ってみると妙に手に馴染むのがわかる。

 これは剣士の因子が道具(武具)の質を自動的に判断するからだ。無意識のうちに【剣気】を流してみて、その伝導率を計測するのだ。

 あまり剣士としての練習をしていないアンシュラオンも因子は高いため、無意識のうちにそれを行っていた。


「どうですか? 質を考えればお安いと思いますが…」

「そうですね……あっ」

「え?」

「いえいえ、何でもないです!」


 ここで二つのことに気づく。


(あれ? オレ、普通にしゃべってるな)


 一つは、言語が通じること。何の違和感もなく普通にしゃべっている。

 周囲の声を拾ってみてもわかることだが、多少のイントネーションの違いはあれ日常会話は普通に交わしている。これは朗報である。

 しかし、もう一つは悲報だ。


―――お金が無い


(金なんて持ってないよな。山では金は使わないし。そもそもこの世界に金はあるのか? 見たところ、みんなちゃんと金を払っているようだが…あれは硬貨かな? ふむ、札もありそうだ)


 山では自給自足が基本である。必要なものは自分で見つけ、手に入れ、加工する。それもまた修練である。

 よって、無一文だ!


(この村だけなのか外でも使えるのかは不明だけど、『貨幣』があるのは確定だな。買えないけど物価くらいは見ておくか。えーと、大根みたいなのは、一本10ゴールド。フライパンは100ゴールド。よくわからないけど、1ゴールド=10円でいいかな? 大根が百円、フライパンが千円、まあ、もう少し上かもしれないが、安く見積もってこんなもんだろう)


 あくまで日本の状況に合わせて考えれば、感覚的にそれくらいだろう。ここでは細かい物価のことはわからないので、自分に合わせて考えることにする。

 鉄が貴重ならばもっと高い値段になるはずなので、これだけ安いとなれば鉄鋼技術もかなり進んでいるのかもしれない。

 そして面倒なのでこれ以後、基本的にはすべて【円表示】にする。

 恒例の仕様である。


(包丁は一万円。工房製以外のものは二千円くらいからあるが、これと比べると質は相当落ちるな。…と、それより金だ)


 ここに経済という概念がある以上、まずは金を手に入れねばならない。

 むしろ金で解決できるのならば、それに越したことはない。奪い取ることなく物資を得ることができるからだ。


(自給自足に慣れてるし、今後そこまで金に困ることはないと思うけど…欲しいものもある。そう、たとえばあれだ)


 目の前には【地図】が売っている。

 一番安いもので、値段は五百円。


(地図は欲しいな。ここがどこかわからないのが一番困る。しかし、金がない。ここの人たちは好い人みたいだし、窃盗や強盗は極力避けたいかな。ならば、まっとうな方法で金を手に入れるしかないか)


 では、どうやって手に入れるか、である。

 それには一つ、心当たりがあった。


(たまにゼブ兄が師匠に命じられて下山することがあった。しつこく問い詰めたら、たしか魔獣の素材を売って山で手に入らない日用品などを買う、と言っていた)


 陽禅公の自宅には街で売っているような娯楽品もあったので、弟子には厳しく自分に甘い師匠であった。

 本当はもっと大量のアダルト雑誌もあったのだが、パミエルキがアンシュラオンに発見されないように即座に燃やしていた。

 師匠は泣いたが、パミエルキには逆らえず、そっと枕を涙で濡らしていたようだ。どちらが師匠かわからない。


(オレが正当な手段で金を得られるとすれば、これしかない。訊いてみよう!)


「ところで魔獣の素材なんかは…買い取ったりはしています?」

「はい、あちらでやっていますよ」


 普通にいけた。

 アンシュラオンは、まさに一世一代の賭けともいえる覚悟で言ったのだが、実にあっさりとした答えである。

 少女はテントの隣、やや大きい広場に設置された違うテントを指差す。

 そこでは男たちが獣やらを持ち込んで解体作業を行っていた。


(やったー! 助かったー!! 自由になっていきなり犯罪者は嫌だったからな。よかった!)


「ありがとうございます!」

「いえいえ、どういたしまして」

「そういえば、その宝石…」

「え?」


 アンシュラオンは、少女の首のチョーカーにかけられた『緑の宝石』を見つめる。

 最初に見た時から、ずっと気になっていたものだ。


(いや、いきなり訊くのは失礼かな。この歳の子が付けていても、そんなにおかしいってわけじゃないし。気になるけど、今はいいや)


「あっ、やっぱりなんでもないです。いろいろとありがとう、可愛いお嬢さん。素材を売ったら、また来ますよ」

「はい、お待ちしていま…って、ぷっ、ふふ」

「え? な、何かおかしなこと言いました?」

「いえ、あなたも若かったので、ちょっと可笑しかっただけですよ」

「あっ、ああ…そうですか。そうです…ね……たしかに。オレって何歳に見えます?」

「うーん、十二歳か十三歳くらい? 私と同じくらいですかね? 違います?」

「…まあ、そんなところです。はは、ははは…」


(やっぱりそう見えるかぁ。そりゃそうだよな)


 自分の見た目はまだ少年のものだ。この容姿でお嬢さんとは、さすがにおかしいか。

 それに話し方も丁寧すぎる。

 初めての接触で緊張し、ついつい大人の対応になってしまったが、これくらいの年齢ならば、もっと気軽に話したほうがいいかもしれない。


(合計すれば、八十近いんだよな。精神年齢的には)


 この世界に来てから最低でも二十三年以上は経っているはずだ。正確な日数は数えていないのでわからないが、少なくとも成人であることは間違いない。

 それに加え、死んだのは五十代後半だったので、合計すればそれくらいになるだろうか。

 さらに霊界での日々を加えれば何百年にもなるが、あそこは時間の感覚が地上とは違うので別とする。


(年金もらう前に死んじまったしな。ああ、なんかもう懐かしい。というか、もうあまり思い出せないな。まるで霞がかかったようで…かろうじて知識はあるんだけど、思い出や感情がついてこない)


 従来、再生を行うと記憶は潜在意識の中に格納され、思い出せなくなる。

 それは、そのほうがよいからだ。

 仮に以前の人生で殺人を行って、それを贖罪する新しい人生であった場合、記憶があると弊害が出るだろう。

 母親もかつて殺人犯であった赤子を愛せるかと問われると、なかなか感情的には難しくなる。だからこそ、これは慈悲なのである。

 そういった普通の人間と違い、アンシュラオンには過去の記憶がある。前の人生の記憶が一応ながら存在している。

 ただそれも、この世界に生まれてから相当希薄になっている。こちらの体験が鮮烈すぎたからだ。

 不思議なことに転生というのは新鮮なもので、新しい身体になれば精神構造も変わるのか、少年時代のようなドキドキを今も感じている。

 こうして初めての場所、初めての接触には特に心躍る。


(姉ちゃんとの初めての時なんて、ものすごい興奮したしな。恥ずかしい記憶だが、身体が若返るってのはこういうことなんだよな)


 歳を取れば、大学生くらいの女性でも子供にしか見えない。

 それがさらに下になれば、もう恋愛感情や性欲などは湧かないが、今の身体になってからは、そういったことも歳相応に反応するようだ。

 目の前の少女は異性としてもなかなか可愛いと思えるのが、その証拠だ。


「よし、魔獣の素材を売って金を手に入れようか」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

処理中です...