『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

文字の大きさ
61 / 441
「白い魔人と黒き少女の出会い」編

61話 「ガンプドルフと少年 その2『少年の性質』」

しおりを挟む

「ベルを放せ!」

「まったくあんたは、お決まりの台詞ばかり言うね。ある意味で尊敬するよ。そうだな。領主ってのはこれくらい傲慢でなくちゃいけないし、これはこれで面白い余興だと思えてきてさ。で、どうすればあんたが苦しむのか考えた結果、これが一番いいかなと思ってね」

「ど、どういう意味だ?」

「娘に甘いんだってな。だからこんな痛いやつに育つんだよ。教育を怠った親の責任だ」

「わたくしは痛くないですわ!」

「おっ、痛くないのか? ぐにぐにぐにっ」

「いたたたたたたたたた!!!」

「動くなって。トマトになりたいのか?」

「トマト?」

「そう、ぐちゃっとしたトマトだ」

「そ、それってまさか…」

「悪い。ミートソースの間違いだ。脳みそはドロっとしているからな」

「ひぃいいいい!! そっちのほうが怖いですわあああ!」


 いつでもイタ嬢の頭を潰せるように掴んでいる。

 その気になれば本当にあっという間にミンチだろう。


「お嬢様!」

「お姉さんは動かないでね。この距離じゃ間に合わないよ」

「はぁはぁ、す、素敵な笑顔ですよ! ナイス泣き顔!!」

「うぇええええーん!! ファテロナの馬鹿ぁああああ!」


 違った。助けようとすらしていない。


「おっさんも動かないでね。あんたに動かれると本当に手元が狂うかもしれない」

「スレイブが目的なのだろう。彼女を放してくれないか」

「この子も当事者でね。反省の色もないし、これくらいのことは必要だよ」

「若気の至りだ。若い頃は誰だってミスを犯す。そうだろう? 誰だって環境によって左右されてしまうものだ。自分の意図しないところで性格が歪んでしまうことはある。彼女もそういった被害者にすぎない」

「…たしかに。それはあるね」


 少年は、少し思い出すそぶりをしてから何度か頷く。身に覚えがあるのかもしれない。


「まったく、面倒事ばかりだ。オレはただ、この子が欲しかっただけなのにさ。こんなことをしたくはなかった。目立ちたくもなかった。こいつらが横取りしなければ、すべて順調だった」

「まだ間に合う。穏便に済ませられる。お互いに血を見なくても済むはずだ」

「あんたはそう思っていても、この子とそいつは違うんじゃないのか?」


 領主がこちらを睨んでいる。

 娘を人質に取られたのだから怒り心頭である。が、怒り心頭なのは少年も同じであるようだ。

 それを知っているガンプドルフは、必死に説得を開始する。

 まずは元凶である領主に対して。

 これ以上馬鹿なことをされては困るからだ。


「領主殿、ここは引いていただきたい。お嬢様のためにも見逃してやってほしい」

「わしの領地だ! わしの家だぞ! ルールは領主が決めるものだ!」

「わかっております。しかし、お嬢様はあなたにとって大事な存在。違いますか? 目に入れても痛くないほどだ」

「それは…当然だ」

「たかがスレイブ一人ではありませんか。代わりなど、いくらでもおります。お嬢様と対等なわけがない。所詮、使い捨ての道具です」

「うむ…」

「聡明なあなたならば、おわかりのはずだ。大事な娘さんのことで頭に血が上ったのでしょうが、ここは落ち着くべきところです。より大きな利益のために」

「利益…か」

「そう、利益です。お嬢様が助かり、揉め事がなくなれば我々も助かります。残るは領主殿のお気持ちだけですが、統治者の度量を示すときでありましょう。相手はまだ少年です。お嬢様とそう変わらない。羽目を外すこともある。礼節を知らぬこともありましょう。それにいちいちかまって、余計なリスクを取るのは割に合いません」

「…ふむ」

「時にはこういうこともあります。しかし、そのつど冷静に利益を選択するべきだ。その積み重ねが大きな成功を呼ぶのです。この都市も、そうやって発展してきたはずです」


(領主は現実主義者だ。説得はできる)


 領主の怒りが少し収まったのを感じた。頭の中でいろいろと計算をしているのだろう。

 ガンプドルフとしても、ここで争って変な噂が飛び交うのは避けたい。素性が判明すれば他国からの介入があるかもしれないのだ。それ以前に本国に伝わっては困る事情がある。


「わかった。いいだろう。だが、高くつくぞ」

「心得ております」

「話は終わった?」

「そうだ。終わったのだ。少年、彼女を放してくれないか?」


 これで少年が領主の娘を放せば、すべてが解決する。

 そう誰もが思ったが、事態はそう上手く運ばない。

 少年が少年ゆえに、彼は他のことに興味を示さないのだから。


「肝心なことを忘れているようだけど、オレはまったく納得していないよ?」

「なっ…まだ不満があるのか?」

「そりゃそうでしょう。こっちのことを無視して上から目線で納得されてもね。そういうのって本当にムカつくよ。よくあるんだよ。そっちが悪いのに『許してやろう』的な態度でくるやつがさ。そいつらって自分がお偉いさんだと思っているようだけど、実際はナイフ一本で死ぬ程度のやつらなんだよね。ははは、お笑いぐさだよ」


 地球でも、そういったやつらは大勢いた。だが、所詮は人間。ナイフで心臓を刺せば死ぬ程度の存在にすぎない。

 現実を理解していないで傲慢な態度に出れば、いつしか自分に刃が降りかかってくるというのに、それを意識できない実に哀れな存在である。

 領主を見ていると、そんな連中を思い出して笑えてくる。

 【力こそがすべての世界】で、その行為がどういう結果を生むのか教えてやりたくなる。


「オレは納得していないよ? さぁ、どうするの? どうやって場を収めてくれるのかな? 早くしないとイタ嬢が死んじゃうけど、いいの?」

「あだだだだだっ! 本気で痛いですわあああ!」

「痛くしているんだ。当たり前だろうが。くくく、あはははは。それにしても虫ケラふぜいが偉そうになぁ! はははは! お前たちは面白いよ! 愉快だ!」


 少年は嘲笑っていた。

 弱くて矮小な存在が喚く姿を楽しむような。

 あえて混乱を求めるような。

 抵抗してくれたほうが面白いといったような残忍な色合いだ。


(なんという少年だ)


 ガンプドルフは本気で背筋が震えた。

 この少年は自己のことを理解している。深く理解している。していながら暴力的なことを受け入れている。力を力として使うことを知っている。

 力こそが、もっとも強いのだと知っている。

 それが何から生まれた感情なのかはわからないが、ただただ怖ろしい。


「どうすれば…納得してくれるのだ?」

「領主が土下座して謝るなら許してやってもいいよ」

「ふざけるな! そんなことができるか!」


 領主が声を荒げる。だが、切り札を握っているのは少年である。


「あっそ。じゃあ、イタ嬢様はトマトかな」

「ひぃいいっ!」

「いや、待てよ。こいつを『ラブスレイブ』にするのも面白い。顔は可愛いから、痛いやつだってわかっても人気はあるだろう。どこぞの好色家に売り飛ばせばそれなりにすっきりするし、損害も回収できるかな。領主の娘なら高く売れそうだ」

「ベルはわしの娘だ! スレイブとは違う!」

「何を言ってるのかなぁ。何の差もないよ。オレからすれば、みんな同じだよ。力を入れれば、バンッと弾ける。脳みそをぶちまけて死ぬ。ね? 同じでしょう?」

「ひっ…ううっ…」


 少年の手に冷たいものが満ち、娘が震える。

 それは純然たる殺気。

 目の前に迫ったリアルな死に、娘の身体が凍り付いて硬直した現象である。

 脅しではない、という明確な意思表示だ。


「で、土下座する? まあ、オレは土下座されたって何の自尊心も満たされないけど、弱いやつが這いつくばるのは面白いからね。ほら、さっさとやりなよ」

「ぐぬううう! ふ、ふざけおって!!」

「領主殿、落ち着くのだ!」

「これが落ち着いていられるか!! ベルを放せ!!」

「会話が通じそうもないね。それじゃ、バイバイ。こいつはラブスレイブにして売り飛ばすよ」


 少年から戦気が放出され―――天井が吹っ飛んだ

 そして、跳躍。

 屋根に出て一気に逃げていく。


「ま、待て!!」

「領主殿、ここは私にお任せください!」

「ガンプドルフ殿! 頼む! あの子はわしの宝なのだ!! 絶対に取り戻してくれ!」

「わかっております!」


 ガンプドルフは少年を追う。


(少年、どういうつもりなのだ? これは君にメリットがある行動なのか? 何か意図があるのか? それとも暴力と破壊を求めているだけなのか?)


 その心に不安と疑念を抱きながら。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

処理中です...