『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

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「英才教育」編

124話 「馬車の旅、ロードキャンプへ」

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 ハピナ・ラッソから次の都市である『ハピ・ヤック』は、約千二百キロメートルの旅路である。

 これが舗装された道路ならば、クルマでかっ飛ばせば一日で移動できる距離であるが、この荒れた大地ではそうもいかない。

 今までの道程よりはましとはいえ、山あり谷あり、上ったり下ったり、折れ曲がったりを繰り返さねばならず、夜は野営もするので移動はたびたび中断する。

 結果、おおよそ一ヶ月の旅になる予定であった。


「ねえ、ブシル村からグラス・ギースまでって、ほとんど平坦だったよね。だからロリコンたちも移動が楽だったんでしょ?」

「ああ、そうだな。魔獣にさえ気をつければ、さくさく進めたな」

「なんで?」

「なんでと言われてもな…そういう地形だからじゃないのか?」

「そう言われるとそうなんだけど、あっちと比べてこっちはあまり整備されていないからさ。なんか山道も多いし移動が大変だよね」

「べつにブシル村からのルートも整備はされていないぞ」

「そのわりに綺麗なのが気になるんだよね」

「変なことを気にするやつだな。考えたこともなかったよ」

「一回誰かが整備したのかと思ってさ。人の手が入ったようなところもあったよね?」

「グラス・ギースが整備した可能性はあるな。昔はけっこう栄えていたみたいだしな」

「それもそっか。こっちはハピ・クジュネの管轄だから違うのかな。なんでハピ・クジュネはここを整備しないんだろうね」

「大変だからだろう? 金もかかるしな」


 簡潔にして明快。まさにその通りだ。

 道路の舗装が当たり前に感じるのは日本にいるからである。発展途上国や貧困国では舗装された場所のほうが少ない。


(その理論からすると、昔のグラス・ギースは随分とすごかったことになる。あんなに離れた場所まで開拓したんだもんな)


「ハピ・クジュネは黙っていても南から人が来るから、無理に北側に金をかけなくても十分やっていけるんだろうな。それに本格的な輸送業者は東ルートを選ぶだろうさ」

「東側から行くルートもあったね。ロリコンはあっちは使わないの?」

「強い魔獣が多いから時間をかけても西ルートのほうがいいんだよ。荷物と違って命は一回失ったら終わりだからな。こっちはこっちで人が多いから、道中にいろいろな商人と出会える。それも醍醐味だ」

「なるほどね。こうしていると行商人も面白そうだね」

「面白いぞ。お前もやってみるといい」

「気が向いたらね。よし、そろそろ走るか」

「…こくり」


 アンシュラオンとサナは馬車を降りて走り出す。

 ただ走るのではなく、馬車を追い越したり、ぐるっと回ったりして負荷をかけていく。馬車の速度では物足りないからだ。

 また、左右に跳ねる動きを加え、より実戦に近い形を取り入れたりもした。これは長距離攻撃を仕掛ける相手に対して接近するための訓練だ。


(あんな機関砲があるくらいだしな。もし距離があるところから撃たれたらサナだと対処が難しい。今のうちから鍛えておこう)


 これもギャングとの戦いで学んだことだ。ジリーとの一戦も、長刀が戦いにくい室内でなければ勝てていたかわからない。

 学ぶことは、まだまだたくさんあるのだ。


「サナちゃん、疲れたら乗ってね」

「…こくり。ふー、ふー」


 ロリ子がサナに声をかけるが、彼女は倒れるまで走り続ける。

 やはりロリコンたちには、それが異様に思えるらしい。


「子供に走らせて大人が馬車に乗るなんて、なんだか不思議な光景だよな。本当にこれでいいのか?」

「いいんだよ。サナは特別な子なんだ。強くなるために身体を作り変える必要があるからね」

「うーん、やっぱり生きる世界が違うんだな。武人ってのは変な連中だ」

「それは否定しないけどね。それにしても、ハピ・ヤックまでかなり長い旅路だよね。物資は足りる? オレたちはいいけど、馬が途中で死んだりしたら大変じゃない?」

「物資はかなり補充してきたから大丈夫だろうが、どのみち途中で『ロードキャンプ』に寄るから、馬車が壊れても何とかなるさ」

「ロードキャンプ? 普通のキャンプとは違うの?」

「交通ルートの途中にある大きなキャンプのことだ。ブシル村からグラス・ギースに行く間にもいくつかあっただろう?」

「地図に載っていない集まりのこと?」

「そうだ。あれは村でもないし集落でもない。俺みたいな商人たちが集まって、自然発生的に生まれるキャンプをロードキャンプっていうんだ」


 ハピナ・ラッソからハピ・ヤックまでは、かなりの長さだ。普通の道路でも遠いのに、危険な荒野であればなおさら遠く感じるだろう。

 そのため都市や街といったレベルには至っていないが、それなりに大きな集まりが途上にはいくつも存在している。

 最初は誰かが作ったであろうキャンプ跡から始まり、次に訪れた誰かがそこを改造し、さらに訪れた誰かが改築と増築を繰り返す。

 資材も無償で提供され、自然と旅する者たちが一休みできる休憩所が生まれていく。

 ロードキャンプはみんなで生み出したキャンプなので、今まで見た都市や街のように所有者がいないことが最大の特徴だ。

 荒野では、こうして助け合っていないと生きてはいけないのである。


「ここから二百キロくらい先にロードキャンプがある。まずはそこまで行く予定だ」

「へー、いいね。これだから旅は面白い」


 見るもの聞くもの、そのすべてが目新しい。これぞ旅の醍醐味だろう。

 そして五十キロ進んだあたりで、今日は夜営をすることになった。

 夜になると、ホロロが料理を作ってくれるのが地味に嬉しい。


「アンシュラオン様、いかがでしょうか?」

「うん、美味しいよ。ホロロさんの料理は綺麗で上品だね」

「ありがとうございます。ホテルの真似事で恐縮です」

「それができるだけすごいんだよ。サナも美味しいよな?」

「…こくり。もぐもぐ、ぱくぱく」

「サナ様、おかわりはいくらでもありますので、いつでもお命じください」


 ホロロは、とても満たされた幸せな顔をしていた。

 初めて見た時の憂鬱そうな表情は、すでにない。


「ホロロったら、もうすっかりメイドになった気分でいるね。アンシュラオンさん、こんな娘でよろしかったら、もらってやってくれませんか?」

「お、お母さん!」


 そんな会話を楽しみながら食事を終える。

 当然だが、新しい人間が加われば変化が生まれるものだ。ここでもまた今までと違うことが起きる。


「…とことこ。むぎゅ」


 歯を磨き、風呂に入ったサナが向かう先は、ホロロのところだ。

 ぎゅっと抱きつき、顔を胸にうずめると静かに寝息を立て始める。


「…すー、すー」

「またそこに行っちゃうんだなぁ。ホロロさん、ごめんね」

「いえ、気に入っていただけてとても嬉しいです。サナ様はとても可愛いですね」


 ホロロも優しくサナの頭を撫でる。

 親子と言われても差し支えない年齢差なので違和感はないが、どちらかといえば保母に近い印象だろうか。


(そりゃ気持ちいいよな。柔らかいしムチムチだし温かいし、そんな素晴らしいものはほかに存在しない。寝床としては最適だ。うう、お兄ちゃんのところにはもう来てくれないのかなぁ…)


 それまでは一緒に寝ていたのに、ホロロが加わってからというもの、サナはいとも簡単にアンシュラオンを裏切った。

 ご飯を食べる時もホロロの膝の上に乗り、後頭部をあの豊満な谷間にすっぽりと埋めていることが多くなった。どうやら安心するらしい。

 だが、それを責める気にはなれない。自分だってあそこで寝たいのを我慢しているのだ。男女関係なく本能には逆らえない。

 そして、こういった光景を見ていると、いろいろと思うこともある。


(…そうだよな。サナはまだ小さいんだ。お母さんに甘えたい時だってあるだろう。親…か。サナの両親っているのかな? こんな厳しい世界じゃ、もう死んでいるかもしれないな。でも、もし生きていたらどういう関係性になるんだろう? まあ、そもそもオレの両親自体を知らないからな…ここはそういう場所なんだ)


 人が生きていくには厳しい土地だ。

 地球でもそうだが、特に女子供は犠牲になりやすい。


(オレがサナにしてやれることなんて、ほんの少しでしかない。金は得たし、次の街までは修行もそこそこにして、人との触れ合いを重視させるかな。おやすみ、サナ。いい夢を見るんだぞ)


 ホロロに抱かれて穏やかに寝る姿があまりに可愛くて、それだけで笑顔になってしまう。


「ロリコンも先に寝ていいよ。オレは普段寝ないから夜番は任せてよ」

「おう、悪いな」

「ねぇ、馬車って武装しないの? 機関砲とか付けていい?」

「駄目駄目! 何言っているんだ。重くて動けなくなるだろう」

「ちぇ、ケチだな。馬車で魔獣と戦いたかったのになぁ。夜は何かしていないと暇なんだよね」

「だからって重武装化はやめろよ。戦うためのものじゃないからな。そんじゃ、また明日な」

「うん、おやすみ。しょうがない、自分の修行でもするか」


 夜番をしながら戦気術の鍛錬を行う。

 以前もやったように、戦気を昇華させるだけでもそこそこの修練にはなるだろう。

 今夜は、やや苦手な『闘気』や『剛気』を集中的に鍛錬してみた。実戦になれば最低でも十二時間は維持する必要があるので、アンシュラオンも学ぶべきことはまだ多い。

 が、単独での修練に限界があるのは事実だ。


(修行不足…か。クロップハップには偉そうに言ったけど、オレも少し鈍っているかもしれない。でも、こればかりは相手がいないとどうしようもないな。ゼブ兄とまでは言わないけど、あの剣士のおっさんくらいの練習相手がいると助かるんだけど…。そういえばゼブ兄は元気かな?)


 自分が下界に来たのならば、彼も下っていておかしくはない。

 仮にそうでも、ゼブラエスみたいな武の化身がいたら目立つはずなので、どうやら南には来ていないように思える。


(オレが南に来たのは、たまたま免許皆伝の試験の場所が南側だっただけの話で、用事がなければ違う方向でもいいんだよな。まあ、そのうち出会うこともあるだろう。その時にちょっと修練に付き合ってもらおうかな)


 強すぎて練習相手もいない。なんとも贅沢な話である。



 こうしてあっという間に五日が経過。

 交通ルートに沿って移動していると、昼前にはロードキャンプが見えてきた。

 ロリコンに聞いた通り、すべてが寄せ集めの資材で作られた小さな集落といった場所で、適当に拾った石や木はもちろんのこと、クルマやら武器や防具、タイヤやら棒やらベッドやらの一部も資材として使われており、不恰好な建造物がいくつも作られていた。

 それ以外にも地面に大きな穴があいていたり、逆に変な像が彫られていたり、誰が作ったのか小さな塔まである。


「うわー、カオスだなー」

「同じキャンプは一つもない。それがロードキャンプだ」


 何の目的もなく、ただ集まった人々が好き勝手作ったキャンプ。

 それこそロードキャンプの面白さであった。


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