『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

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「海賊たちの凱歌」編

157話 「ギアスの解除」

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「マキさん、落ち着いた?」

「ええ…もう大丈夫よ。ありがとう、助かったわ。でもね、ここまで来るのに本当に大変だったのよ。置いていくなんて酷いわ」

「それはその…マキさんたちを巻き込みたくなかったから…」

「むー」

「…ご、ごめん」

「あなたに言いたいことがあったの。聞いてくれる?」

「な、何かな?」


 マキはアンシュラオンの目を見つめる。

 ずっと言わねばならないことがあったのだ。

 高鳴る胸の鼓動を感じながら、ついにその言葉を発する。



「私、あなたのことが好きよ。愛しているわ」



 今まではアンシュラオンからのアプローチだったが、いまだ自分から好意の言葉を述べたことはなかった。

 そのことに気がつき、ようやくマキにも覚悟が決まったのである。


「私にとってアンシュラオン君は、世界のすべてなの。逆に離れてみてよくわかったわ。私はあなたと一緒にいないと、もう何もできない女になってしまったのね。だからもう離さない。こんな私でも受け入れてくれる?」

「…うん。今回の一件でも、マキさんの性格はよくわかったよ。真っ直ぐで、どこまでも情熱的で諦めない芯の強さがある。ある意味においてオレとは正反対だ。だからこんなにも惹かれるんだろうね。オレにはすごく眩しく見える」

「あなたに足りないものがあるのならば、私が支えるわ。あなたのために尽くして、あなたが望むことは何でもしてみせる」

「オレもマキさんに報いられるようにがんばるよ。愛想を尽かされないか少し怖くもあるけどね」

「そんなことは絶対にないわ。何かあったら納得いくまで話し合いましょう。触れ合いましょう。そうしてわかり合いたいの」

「マキさん…」

「アンシュラオン君…」


 二人が見つめ合う。


「えー、こほん。これは結婚式なんですか?」

「えっ…!?」

「マキ様も好きな男性に対しては、本当に乙女になっちゃうんですね。新しい一面が見れて私は嬉しいです」

「い、イリージャ! ああ、そうだったわ! 私ったら浮かれてしまって…! いやだわ、もうっ!」


 マキが顔を真っ赤にして恥らう。

 年齢的には三十路前ではあるが、恋愛経験がほとんどないので乙女そのものだ。そんなところも愛らしい女性である。


「サナちゃんもよろしくね」

「…こくり! ぎゅっ」

「うふふ、どうしたの? そんなに顔をすりつけて。いい子いい子ね」


 サナもさっそく、おっぱい枕の具合を確認しているようだ。

 ホロロは武人ではないため、身体から胸まで全体的な柔らかさを体感でき、マキの場合は引き締まった身体と柔らかい胸を交互に触れることで、飽きさせない楽しみを与えてくれる。

 マキは『母性本能』も持っているため、サナにとっても重要な人物になってくれるだろう。


(本当にマキさんは素敵な女性だな。オレにはもったいないくらいだ。今までなら重く感じていたけど、もう全部受け入れていこう。それに、これだけの武人が身内になってくれるのはありがたい。こうしてホロロさんたちと分かれることもあるから、そっちのカバーの意味でも期待できる)


「さて、ちょっと詳しい話を訊かせてもらえるかな? 小百合さんから聞いてはいるんだけど、わからないこともあるからね」


 二人から今までのことを訊く。

 マキは最初イリージャのことを隠そうとしたが、当人自らがすべてを語ってくれた。

 それに対するアンシュラオンの見解はこうだ。


「マキさんは許しているんだよね?」

「ええ、私はもういいわ。彼女は自分の意思を見せてくれたもの。私も衛士として多くの悪いやつを見てきたけど、更生できる人とそうでない人の違いは、『変わっていこうとする努力』だと思うの」

「なるほどね。変わろうとしなければ永遠に変わらないからね。オレも新しい環境を求めて飛び出た身だし、それに気づくまでが大変なんだよね」

「その通りよ。あいつらみたいに最初から考えもしないんじゃ、善悪の判断もつかないまま獣になってしまうもの。でも、イリージャは違うわ」

「マキお姉様…」

「よし、じゃあこれでお仕舞いだ。もし何かいちゃもんをつけるやつがいても、オレが君を許すよ。どうやら君は自分で始末をつけたようだしね。流され続ける連中より何倍も立派だ」

「…マキ様が惹かれる理由がわかる気がします。器が大きい人ですね」

「ふふ、そうでしょう。私もこれからたくさん寄りかかるつもりだもの。あー、疲れてうごけなーい。アンシュラオン君、抱っこしてぇー」

「マキさんも甘えん坊なんだなぁ。はいはい」

「うふふ…ぎゅー」

「むぅ、なんておっぱいだ! ふんふんふんっ!」

「あははは! くすぐったいー」


 身長差があるので、抱っこすると顔が胸に埋まることになるうえに、なんだか滑稽な感じはする。

 と、イリージャの視線が若干気になるので、いちゃつくのは街に戻ってからでいいだろう。


「これからどうするのかしら?」

「外はだいぶ静かになったね。ここに来る前にシンテツのおっさんを軽く援護しておいたから、万一にも負けることはないかな。今頃は掃討戦に移っているはずだよ。オレたちは少し女性たちの様子を見ようか。と、その前に…これ、もらっていいかな?」


 ハプリマンの腕から引き抜いた『ジャークガンヘッド〈血溜まりの海鮫うみざめ〉』を見せる。

 鉄化が有効なのは細胞分裂する生物のみなので、この術具自体には効果がなく、そのまま残っていたのだ。


「マキさんが嫌じゃなければ、サナ用にもらっておこうと思うんだけど」

「かまわないわ。今となってはアンシュラオン君と再会できた記念の品だもの」

「ありがとう。変わった武器だし、どこかで使い道はありそうだよね。ところで、やつらはスレイブ・ギアスを使っていたそうだね。機械はどこかな?」

「私、知ってます。案内しますね」


 イリージャの案内で拷問部屋に行き、奥の部屋でスレイブ・ギアスの機械を発見する。


「ふむ、モヒカンが持っていたものと同じだ。あいつの話だと非売品で、スレイブ商会の正規店でしか取り扱っていないらしいけど…」

「小百合さんも同じようなことを言っていたわ。裏側に商人が絡んでいるのかしら?」

「機械だけ奪った可能性もあるけど、スレイブ商なんてもともと人身売買業者みたいなものさ。絡んでいてもおかしくないね。ただ、実態は流通ルートを調べてみないとわからないから、素直にハピ・クジュネ軍に任せておこう。で、これももらっていいかな?」

「え? ギアスの機械を?」

「シンテツのおっさんとは取引して取り分と便宜を要求したけど、これは間違いなく軍に押収されちゃうだろうからね。オレもギアスに関しては研究中だから機械が欲しかったんだよ。ハピ・クジュネ軍は信じているけど、横流しされたらまた大変だしね」

「…それはあるわね。人が多くなるとルールを守らないやつも出てくるものね」

「それにオレ、ギアスを使ってマキさんを【愛の奴隷】にしたいんだ。オレだけを愛して、オレの言うことを何でも聞いてくれる女性にしたい! 自分だけのものにしたいんだ!」

「あ、アンシュラオン君…そんな…今でも私、あなたの言うことなら何でも聞くわ。その、望むなら本当に何でも…」

「それをオレは形にしたいんだよ! マキさんとの【愛の証】が欲しいんだ! それこそ結婚指輪にも勝るものだと思わない!? 世界で一つしかないオレとマキさんの愛の結晶なんだよ!!」

「っ―――!! 考えたこともなかったわ! 世界で一つだけの…私とアンシュラオン君の絆。でも、そんなことになったら私…毎日愛されちゃうわ…ど、どうしましょう。恥ずかしくて死んじゃうかも…うう」


 ということで、さりげなくスレイブ・ギアスの機械をゲット。


(これは大収穫だ! 実は小百合さんに話を聞いた時から、これも目的の一つだったんだよね。モヒカンから予備を奪ってもよかったけど、足がついたら嫌だったしラッキーすぎるな)


 本来ならばスレイブ商人しか手に入らないものかつ、商人でさえリース形式で本部から借りているだけだ。

 それを個人所有できるメリットは大きい。ついでに『思念液』と空のスレイブ用の緑色のジュエルもダースでゲットする。

 しかし、実際に女性に使う前にはいくつかの実験が必要になるので、ホロロたちにギアスを付ける時は、ハピ・クジュネのスレイブ館でやったほうが無難だろう。

 そしてもう一つ、重要なアイテムをゲット。


「やっぱりあった! ギアスの【解除用】機器だ!」


 ギアスが付与できるのならば、その解除もできるのは道理であろう。

 こちらはそこまで大きなものではなく、マジックハンドのようなスティック状のアイテムで、自分だけでもジュエルに機器をセットして外すことが可能なものだ。


(なんでオレが一ヶ月もモヒカンのところにいたのか。それはギアスのノウハウを学ぶためだ。解除条件もしっかりと把握済みだ)


 あくまでモヒカンが知っているだけの知識だが、ギアスの解除条件は二つある。

 一つは、ギアスをかけた者(付与者)とかけられた者(被付与者)のうち、その双方または一方に契約継続の意思がなくなり、双方の合意がある場合。または、契約内容に反故や違反がある場合。

 もう一つは、第三者が解除を行う場合、当事者である付与者が死んでいるか、または生存時の場合は、解除者の精神の値が付与者より高く、なおかつ被付与者の同意が必要であること。


(一つ目の条件は簡単だ。あくまでギアスとは『雇用条件』のようなものだ。もし違反があれば効果を発揮せず、かけられた者は反発するだろう。その段階で亀裂が入って術式が機能しなくなるようにできている)


 スレイブ商人がかけるギアスは『同意型の精神術式』であり、双方が納得のうえで契約をする。だからこそア・バンドも、女性たちに同意させるために拷問をしていた。

 もし強引にギアスをかけても、相手の精神の受け入れの準備が整わず、契約は失敗してしまうからだ。


(二つ目は、雇用者が死んだ場合だな。すでに契約が終了しているのだから、これは問題なく外すことができる。だが、一番最後が厄介だ。かけた者がまだ生きているのに、それを他の誰かが強引に解除できるかどうかは、サナに関しても極めて重要な問題となるだろう)


 サナがさらわれて無理やり違うギアスをかけられる。これが一番怖れていることだ。

 そして、実際にこれは可能である。

 もしさらった者がアンシュラオンより『精神の値が高く』、なおかつ『サナの同意』があればできてしまうらしい。


(ここは若干矛盾している面はあるが…契約内容次第って感じだな。もし絶対服従とかでない普通の雇用契約ならば、より条件の良い雇い主に雇われたいと思うかもしれない。オレの場合も、サナが妹をやめたいとか思ったら…そうなっちゃうのかなぁ)


 アンシュラオンがサナと契約した内容は、『絶対服従』と『妹になる』ことである。

 絶対服従に関しては、命令においては絶対であるも、意見を訊いたり彼女が先に意思を提示することは可能である。(だいたいサナから意思を示した場合は、嫌われたくないので受け入れることが多い)

 ただ、今後サナに自我が芽生えて、この条件が嫌になった際は、ギアスを解除することが可能である。あるいは言葉で誘導されたり洗脳されて、そう思い込ませることもできるだろう。


「サナ、オレの妹であることに不満はないか?」

「…こくり」

「そうか。オレもお前に愛されるお兄ちゃんになれるようにがんばるよ。サナに見放されたら生きていけないからね」


 スレイブはあくまで契約だ。だからこそ互いの絆は大事なのである。

 双方が納得するからこそギアスには意味があり、より強い力を発揮する。ギアスはその保険であり、まさに結婚指輪のようなものだろう。それを見て当時の感情を思い出すのだ。

 それから新兵たちと合流して、女性たちのギアスの解除を開始する。


(マキさんから聞いた情報だと、これは『代理契約』だな。実際の契約は牢の番人がやっていて、ハプリマンという幹部に従うようにさせていたものだ。両方とも死んでいるし、今回は問題ないかな)


 アンシュラオンが女性のスレイブ・ギアスに触れると―――ボロボロ

 解除用の機械を使うまでもなく、簡単にジュエルが崩れ去る。


(まただ。サナの時と同じ現象だよ。いったいどういう理屈なんだ?)


 解除におけるもう一つの特殊な事象が、サナの時にも起こった【ギアスの自壊現象】だ。

 今回は付与者が死んでいるのでまだわかるが、あの時はベルロアナが目の前にいたにもかかわらず、自壊する現象が起きている。

 おそらくはサナ自身がアンシュラオンを選んだ段階で、解除条件が満たされた可能性が高いが、やはりジュエルそのものが自壊することには違和感が残る。


(うーん、わからん。もしかしたら無意識に精神術式に干渉して破壊している可能性はある。戦艦の術式を破壊した時も、オレ自身には自覚がなかったしね。その衝撃が強すぎて壊れるのかな? そもそもこの緑のジュエルはあまり頑丈そうには見えないからね。ホロロさんはやっぱり違うジュエルがよさそうだな)


「大丈夫かい? 身体に痛いところはない?」

「は、はい。ありがとう…ございます。大丈夫…です」

「みんなの解除が終わったら健康診断も行うからね。少し待っててくれる?」

「…はい」


 女性は、ぽーっと頬を赤らませてアンシュラオンに見惚れる。

 年下ではあるが、魅力Aでも十分魅了効果があるらしい。

 こうして女性全員のギアスを解除し、ついでに健康診断でおっぱい博士による胸の調査も行いつつ、ここでの作業は終わる。

 そして、女性を連れ出すために外の状況を探ろうと、表に出た時であった。

 慌てた様子で伝令がやってくる。


「た、大変です! こちらに【魔獣の軍勢】が向かっています! 今すぐ退避を!」

「魔獣? まあ、このあたりは荒野だからね。魔獣くらいはいるだろうけど…軍勢って?」

「そ、それが…山から大量の魔獣たちが下ってきているのです! 非常に危険な魔獣たちです!」

「魔獣なんてそんなに珍しくもないけど、軍勢っていうのは言いすぎじゃない? ただの群れでしょ?」

「いいえ、軍勢なのです! 観測所からの報告では、ハピナ・ラッソにも魔獣が押し寄せているようです。まだ推測ではありますが、ハビナ・ザマとグラス・ギースにも向かったかもしれません」

「え? どういう状況?」

「こちらも完全に把握できておりませんが、さきほどから伝書鳩がどんどん到着しておりまして…。シンテツ様より急ぎアンシュラオン殿にお伝えするようにと命令を受けております!」

「まだこっちは退避すら終えていないのに…せわしいな。わかった。とりあえず一度スーサンたちと合流しよう。マキさんはこのまま女性たちの脱出を手伝ってもらえるかな?」

「わかったわ。でも、魔獣の軍なんて聞いたこともないわね。いったいどうなっているのかしら?」

「オレも初耳だよ。正直、驚いている。ただ、こっちにも向かっているようだから、まずは自衛を優先しよう」

「そうね。多少強引でも女性たちは移動させるわ。任せておいて」


(魔獣は群れごとに統率はされているけど、他の種族や違う群れとは敵対関係にあることが大半だ。連動した行動は取れないと思うんだけど…あえて軍勢と呼ぶからには理由があるはずだ。気になるな)


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