『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

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『翠清山の激闘』編

228話 「グランハムとの対話 その2『ハングラスの狙い』」

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「想像はしていたけど、ストレートだね」

「お前は頭が良く機転も利くが、遠回しな表現は嫌うのではないか?」

「オレの性格をよく理解しているみたいだね」

「こうして話していればわかる。基本的に単純さを好み、欲望に忠実な男なのだろう。傭兵にはよくいるタイプだ」

「じゃあ、あんたはどうなの?」

「私も同じだ。お前と同じように闘争と酒を好む単純な男だ。ただし、唯一違う点があるとすれば『規範』だろう。どんなに強い力も無軌道では混乱しか招かない。安定した流れ、安定した力がもっとも大事にされる。私が主に評価されている点も、おそらくはそうした部分だ。お前という人間にはそれが欠けている気がする。違うか?」

「自分がひねくれ者だという自覚はあるよ。そうでなければスレイブになんて興味を抱かないさ」

「逆に言えば、それだけ闇に慣れているともいえる。ファテロナのような人間と普通に話せることだけでも、ある種の才能だ。ベルロアナ嬢にしてもグラス・ギースでは腫れ物扱いだったが、お前は見事に扱いこなしている。それだけでもたいしたものだ」

「あれはあいつが馬鹿なだけだよ。あの時に干渉しなかったのは、それを確かめるため?」

「それもあるが、人間同士ではそういう付き合い方もあるのかもしれない、と思っただけだ。あの金は領主の金であって、彼女のものではない。だが、その金がどこから来たのかも含めて、彼女はもっと世の中を知る必要がある。だから領主たちも外に出したのだろう」

「まるで親戚のおじさんみたいな言い方だ」

「あながち間違ってもいない。グラス・ギースでは各派閥同士で婚姻関係を結んでいることが多い。もう千年以上も存在しているのだ。誰もが親戚のようなものだろう。ゼイシル様もベルロアナ嬢のことを姪っ子くらいの感覚で見ているはずだ」

「そういう甘い環境がイタ嬢を作ったんだね。まあ、今後も適度な距離であしらうとするよ。それより、もっと詳しい話を訊かせてくれない? オレと手を組みたいってどういうこと?」

「私がここに来た最大の理由が、お前との接触だった。もともと交渉する予定で来たのだ。護衛はついでにすぎない」

「へー、ハングラスがねぇ。ゼイシルの命令だよね?」

「むろんだ。わが主は、お前との協力関係を求めている」

「それはオレの武力が欲しいってこと?」

「それもある。残念ながらハングラスは、そこまでの戦力を有しているわけではない。我々警備商隊を除けば、ゼイシル様直属の『黒狐隊くろこたい』しか存在していない。お前の力はぜひ欲しい」

「それ以外にも理由があるような口ぶりだね。自分で言うのもなんだけど、オレが秀でているところなんて武力以外にないと思うよ」

「武は極めて重要な要素だが、武だけでは駄目だ。古来より武に秀でた者は山ほどいたが、それだけで大成した者はいない。人間は老いて衰える宿命を背負っている。どんなに強かろうが、いつか必ず負けるか自滅して終わる日がやってくる。私もお前が単なる武だけの男ならば、この話は持ちかけないつもりだった。だが、昼間の闘いを見て決断した」

「だからあのタイミングでの接触だったのか。べつにあんな目立つところじゃなくてもよかったんじゃない?」

「スザクが手紙を渡していただろう? あれに対する牽制でもある」

「ああ、なるほど。あいつの場合は単に急いでいただけっぽいけど、周りから見ると違う印象を受けるよね」

「お前がハピ・クジュネとどういう密約を交わし、どう判断を下すかはともかく、我々は独自に契約を交わしたいと思っている。どうだ? 興味はあるか?」

「内容と報酬次第かな。で、オレのどこが気に入ったの?」

「お前には人を惹きつける力がある。そして、強く心を動かす力がある。つまりは『指導者』としての力がある」

「そんな柄じゃないけどね」

「お前自身がどう思っていても、誰もがお前を見てしまう。この私でさえもな。ゼイシル様に足りないのは、そういったカリスマ性なのだ」

「あんたの主人でしょ。それを言ったらかわいそうじゃない?」

「これはゼイシル様自身が認めているところだ。さきほどお前が世俗の評価を語ったが、どんなに能力があっても他者を強く惹きつけなければ高い評価はされない。その点がジングラスとの差となって表れている」

「美人でアイドルのプライリーラと冴えないおっさんとじゃ、さすがに勝負にならないよね。世間は厳しいなぁ。…というか、オレに何を求めているのさ? まさか客寄せパンダになれとか言うわけじゃないよな?」

「言い得て妙だな。あれだけの集客力があるのならば、そういう使い方もできるかもしれん。…というのは冗談だが」

「いや、真顔で冗談とか言うなよ。グランハムって、さっきから全然表情変わらないんだよなぁ。冗談か本気かわかりにくいよ」

「そうか? まあ、私の顔の話はどうでもいい。話を戻すが、我々はいくつかの大きなプロジェクトを抱えている。が、どれもグラス・ギースの財力では厳しいのが本音だ。ゼイシル様も案として温めておくことしかできなかった。しかし、ここにきてチャンスが巡ってきた。それが翠清山制圧作戦だ」

「でも、乗り気じゃないって言ってなかった?」

「従来の戦力で実行した場合は十中八九、失敗していたはずだ。その余波はグラス・ギースにまで及ぶと推測していた。だから反対だったのだ。負け戦に加わる理由はない」

「たしかに厳しい戦いだろうけど…少し悲観的な観測じゃないの?」

「街が破壊されて住民感情を煽ることには成功したが、後手に回ったことは事実だ。もしグラス・ギースの全戦力が参加できれば可能性はあるかもしれないが、こちらも一枚岩ではない。まず無理だろう。しかし、お前が加わったことで初めて勝ち筋が見えてきた」

「それを見越しての参加申請ってことか。オレもやれることはやるけど、あまり過大評価しないほうがいいよ」

「それは逆だな。お前が自身を過小評価しているのだ。そこでだ、我々は『目的を変更』することにした。この勝負、勝ちにいく」

「勝負?」

「忘れたのか? スザクとベルロアナ嬢の勝負だ」

「あれってファテロナさんの遊びじゃないの?」

「やつにとってはそうだろうが、形式上とはいえ五千の兵を得た。ファテロナの隊と我々が加われば六千に迫る。まだ十日あるのならば、さらに増やすことも可能だろう」

「ハイザク軍は計算に入れないとしても、スザクのほうだけでも正規軍を含めて一万近いじゃん。勝負にならないよね? それ以前にオレのポイントは加算されないよ?」


 今回は参加したメンバー全員に、特殊なカードが配布されている。

 ハローワークが提供しているハンターカードと同種のものであるが、この作戦だけで使用される特別製だ。そこに倒した敵の生体磁気が記録されることで、誰がどれだけ倒したかがわかる仕組みだ。

 本来は特別報奨金のためのシステムだが、二人の勝負にも利用されることになっていた。


「それは知っている。だからわざわざ、こうして話し合いをしているのだ」

「あっ、ズルするつもりだな。さっき規範がどうこう言っていたのに汚いやつだ」

「人聞きの悪いことを言うな。これは勝つための戦略だ。ここで重要な点は【グラス・ギースの分け前】だ。ハピ・クジュネが全都市共闘を謳った以上、論功行賞はあってしかるべきではないか?」

「それはあるだろうね。無かったら大問題だ」

「だからハピ・クジュネは傭兵を多く集めて、独自の軍だけで制圧を行いたかった。できるだけグラス・ギースに分け前を与えたくないからだ。ファテロナの策は、それを邪魔した形になる。勝ち筋が見えた以上、これを利用しない手はない」

「秘密裏に手助けしろって言いたいの? やろうと思えばできるけど…そもそもハングラスの狙いは何? まずはそれを聞いてからだよ」

「ふむ…いいだろう。我々の狙いは【優先採掘権】だ」

「文字通り、資源を採掘する権利のことだよね?」

「そうだ。もともと結果がどうあれ、これだけの数が参加したのならば利権の一部はグラス・ギースに入る。そしてそれは、実質的にハングラスが手に入れることになるだろう。物流に関してはハングラス派閥が独占することが決まっているからだ。いくら領主であっても、派閥の利権に手を出すことはできない」

「翠清山には食材だってたくさんあるよね? ジングラスも潤うんじゃない?」

「今は資源のほうが重要だ。スザクも言っていたはずだ。これからいくつもの防塞を建造する、と。街も拡張するのならば、いったいどれだけの資源が必要になると思う?」

「たしかにね。今は何よりも資源が欲しいか。公共事業で使うんだから値も釣り上がるに違いない。さっきあんたが言ったように、都市が大きくなればなるほど物の消費が増えて、それがハングラスの利益になるのか」

「その通りだ。我々が特需に参加できれば莫大な富が手に入る。それでプロジェクトを推進できるし、グラス・ギースでの地位も上がるだろう。…いや、これはグラス・ギースだけにとどまった話ではない。もっと大きな流れになっていくはずだ。そのために良質な鉱物が大量に採れる場所が欲しいのだ」

「だいたいのことはわかったけど、いくつか問題があるよね。この作戦がハピ・クジュネ主導で行われる以上、良い場所は相手が先に取っちゃうんじゃない? グラス・ギースに回されるとしても残り物になるはずだ。最悪は魔獣の勢力がまだ残っている地域を押し付けられるかもしれない」

「ハピ・クジュネ側からすれば当然だな。おそらくそう考えているだろう」

「打開策があるって顔だね。その心は?」

「お前はアズ・アクスの鍛冶師を確保するのが目的らしいな」

「…どこで聞いたの?」

「そう警戒するな。我々とて馬鹿ではない。それなりに情報網を持っている。そして、鍛冶師ならば良い鉱物が採掘できる場所を知っているはずだ。幸いながら我々は制圧前の山に入ることができる。鍛冶師からの情報収集と現地での調査をすぐに行うことができるだろう。もちろん、それは相手側も同じ条件だが―――」

「一番最初に接触するオレの協力があれば断然有利になる、か。でも、確証はないよね? 知らない場合はどうするの?」

「それはありえない。なぜライザックほどの男が鍛冶師を放置していたのか疑問を抱かなかったか? やつらの中には『ライザックの息がかかった者』がいる」

「内通者…いや、そもそも最初からそれが目的か」

「そういうことだ。翠清山の状況を伝えるための諜報員として、あえてディムレガンを送り込んだのだ。普通に考えて、今まで人里で暮らしていた者たちが山で暮らしたいと思うか? ある程度の交流があったとはいえ、わざわざ危険な魔獣が占拠している翠清山に行く必要性はないはずだ」

「オレもそこは疑問だったよ。タイミングと場所が合いすぎだもんね」

「あくまで我々の推測だが、一年前の海軍と魔獣の衝突は、その地質調査の過程で起きたことだと考えている。同時に目的の場所が、かなり深い場所にあることを示してもいるがな」

「それなら、もうすでにハピ・クジュネ側は場所を知っているんじゃないの?」

「かもしれんが、この一年でさらに情報を得た可能性もあるし、場所を知っているだけでは意味がない。だから我々も情報を得るために、その人物を確保したい」

「全員が知っているわけじゃないの?」

「かなり危険な役割だ。少人数…もしかしたら一人か二人かもしれん。問題は、それが誰かわからない点だ」

「駄目じゃん」

「さすがにそこまではわからぬ。だからこそ一番最初に接触するお前に見極めてほしい」

「なかなか面倒な依頼だね。ただ、ライザックだって黙っていないよ。救出部隊が一緒についてくるからね」

「確保が難しいのならば、情報を訊き出してもらえれば十分だ」

「そう簡単に教えてもらえるとは思えないな。内通者が裏切る理由がないよ。それ以前に、仮に情報がわかってもハピ・クジュネが素直に場所を明け渡すとは思えないけど?」

「当然ハピ・クジュネ側は拒否するだろうが、先にこちらが現地を押さえて権利を主張すれば、相手も過激なことはできまい。もしそんなことをしたら、スザクの演説が嘘だったことになる。グラス・ギースの権益を侵害するのならば、他派閥とて黙ってはいないはずだ。一丸となって立ち向かうだろう」

「都市間での戦争は避けてほしいな。また面倒になる」

「それを一番嫌うのは、南部の情勢が気になっているハピ・クジュネ側だ。北と南に敵がいる状況では安心はできないだろう」

「グラス・ギースが普通に負けたりはしないの?」

「さきほど私は『表面的には戦力はいない』と言ったが、表面的ではない戦力はある。…という噂はある」

「あやふやじゃん」

「それこそ都市の深部に関わることだ。私程度ではわからん。が、マングラスの勢力が都市にいる以上、制圧は簡単ではない。それに加えて、こちらには魔剣士たちもいる。あまり頼りたくはないが上手く巻き込めば抵抗は可能だ。どちらにしても北部全体で協調する理想も夢のまま潰え、ハピ・クジュネには相当な痛手となるだろう」

「北部全体の危機にならない?」

「そこを引き合いにして揺さぶりをかける。多くを求めることはない。十あるうちの良質な一つを確保すれば十分だ」


(レアメタルを独占するってことか。そうなれば相手は嫌でもハングラスと取引するしかなくなるな。最低限の労力で最大の結果を得ようとするのは、さすが現実主義者ってところか。まあ、そんな場所が本当にあればの話だけど…それ自体を知るためにも情報が欲しいんだろう)


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