『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

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『翠清山の激闘』編

238話 「作戦開始 その2『救出部隊と赤鳳隊』」

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 アンシュラオンたちが馬車で外に出ると、さっそく何十もの輸送船が待っていた。

 軍用のものだけでは足りないため、商人たちが使っている輸送船をレンタルして急ピッチで用意したものだ。

 多くの傭兵たちは番号に応じた各輸送船に入っていくが、アンシュラオンの馬車だけ列から外れる。

 向かった先には他の輸送船より一回り以上大きく、なおかつ武装されている黒い輸送船があった。

 そして、そこにはライザックが派遣したディムレガン救出部隊が待っていた。


「待っていたぞ。我々が例の作戦に参加する部隊だ。私はライザック様親衛隊『ファルコ・ルーシ〈舞い降りる海鷲〉』、第二番隊隊長のロクゼイだ。部下五十名も含めてよろしく頼む」

「隊長なんだね。何番隊まであるの?」

「六番隊まで存在している。各隊ごとに役割が違うので一概には言えんが、数字が低いほど優れた隊であることを示している」

「二番だから優秀なんだね」

「その自負がなければ、あの御方と一緒には戦えぬよ」


(ライザックのやつ、さすがに優れた兵を用意してきたな。このおっさん、けっこう強いぞ)


 隊長のロクゼイと名乗った男は、黒い甲冑を身にまとった屈強な海兵であった。

 年齢は四十代後半で、武人としてもっとも充実した年代といえる。実力的にはマキに準ずるレベルの強兵だろう。

 他の者たちも目が据わっており、「任務達成のためならば命などいらぬ!」といった精兵ぞろいであった。


「オレたちはあの輸送船に乗ればいいの?」

「そうだ。これより先は基本的に一緒に行動させてもらう」

「確認しておくけど、ロクゼイのおっさんは彼らと接触したら、すぐに救出するつもり?」

「当然その予定だ。そして、即座に最短距離で山を離脱する」

「まあ、そうなるよね。そのための部隊だもんね」

「何か問題があるのか?」

「いいや、頼もしいと思っただけさ。面倒な作業は全部任せていいんだよね?」

「彼らを乗せる救出艇やソリは用意してある。すべて任せてくれてかまわない」

「もしもだけど、彼らが抵抗したらどうするの? 魔獣に協力しているかもしれないんでしょ?」

「残念だが、緊急事態において彼らに発言権は存在しない。強引にでも連れ戻せと命令されている」

「それでますますライザックとの関係は悪くならない? 特に火乃呼さんとかが怒りそうだよね」

「それはライザック様が決めることだ。我々が考えることではない」

「命令には絶対服従か。気持ちいいくらいに軍属だ」

「むろんだ。完璧にあるじの意に沿うのが軍人だからな」


 半ば予想通り、ライザックは有無を言わせずディムレガンを連れていくつもりだ。

 これだけの強兵を派遣したのも、火乃呼が暴れることを想定してのことだろう。


(ライザックはディムレガンの中にスパイを送り込んでいるが、全員確保するのが一番確実だ。多少強引な手法でも危険な山に置いておくよりはいいだろう。だが、オレとしては彼らが連れていかれる前に、スパイを特定して情報を訊き出す必要がある。まあ、特定に関しては大丈夫だとは思うが…その時間があるかどうかだな)


 アンシュラオンが期待しているのは『情報公開』だ。

 これを使えば素性はある程度わかるので、相手のスキルを見ながら怪しい者を見分ければよいと考えている。

 がしかし、この強兵たちを見て若干の不安が出てきた。訊き出す時間がなければ、さすがに対応は難しい。


(情報料の二十億は欲しい。できれば成功報酬の二十五億も欲しい。やはり夫が稼いでこそ家庭の秩序は守られる。いつまでも小百合さんのインサイダー取引に頼ってばかりはいられないからね。そのうち摘発されそうだよ。罪を被せられたハローワークの支部長か課長あたりが)


 彼らが処分されるのはかまわないが、そこからライザックの保護を貫いて小百合にまでこられると面倒だ。

 できれば早めに収入を得て女性たちを安心させたいものである。金はあればあるほどよいのだ。

 そんなことを考えていると、もう一つの集団が輸送船に向かってきた。

 全員が『赤い装束』を着込んだ怪しい一団だが、先頭の一人がフードを外すと見覚えのある顔が現れた。


「アンシュラオンさん、私も同行させていただきますよ」

「…ソブカ? なんだその格好は?」

「一応、これは正装なのですが…お気に召しませんか?」

「怪しすぎるだろう。どんなセンスだよ。暗殺者にでも転職したのかと思ったぞ」

「ここにしっかりとラングラスの紋章がありますよ」


 若干誇らしげに装束の背中を見せる。

 そこにはラングラスを象徴する『不死鳥』が描かれていた。

 どうやら本当に正装らしいが、頭部から膝まですっぽり隠れてしまうので、どう見てもヤバイ連中にしか見えない。


「一緒に来ると言っても、お前は傭兵じゃないだろう?」

「これでもグラス・ギースの関係者ですからねぇ。作戦の成功を高めるために微力ながら参加しようと思った次第ですよ。それに、山にはさまざまな珍しい植物もありそうです。何か薬に使えるものがあるか探したいのです」

「ラングラスは医薬品を担当しているんだったな。どうせ非合法な薬も扱っているんだろう?」

「すべてのものには意味があります。医療麻薬も必要だから存在しているのです」

「物は言いようだな。で、そっちの連中は?」

「私の部下たち、『赤鳳隊せきほうたい』のメンバーです」


 ソブカの背後には、同じく装束を着た七人の人物が立っていた。

 そのさらに背後には、二十人ばかりの武装した者たちもいる。彼らも装束を着てはいるものの顔は出していた。

 誰もがなかなか良い面構えをしていることから、熟練の戦闘構成員か傭兵あたりだと思われる。


「赤鳳隊? ハングラスの『黒狐隊くろこたい』に似ている名前だな」

「ほぼ同じものです。各派閥にはそれぞれ独自の戦力があり、名前の最初に色がつくのが特徴です」

「それでラングラスは赤か。…待てよ。たしか黒狐隊はゼイシル直轄の親衛隊とか言っていたな。派閥の長ならばわかるが、どうしてお前がラングラスの親衛隊を率いているんだ?」

「それはいろいろと理由がありますが…」

「ソブカ様が、それに相応しい器だからだ」

「また君か」

「またとはなんだ。私がソブカ様の傍にいるのは当然かつ自然なことだ」


 ソブカに一番近い距離にいた装束の人物がフードを外すと、そこにはいつも通り仏頂面のファレアスティがいた。


「君も参加するの? 素直に残っていたほうがいいんじゃない?」

「余計なお世話だ。我々には我々の目的がある」

「そうなんだ。それなら別々に行動してもいいんじゃない? 勝手にやりなよ」

「私とて一緒にいたいわけでは―――」

「ファレアスティ、ややこしくなるので少し黙っていてください」

「………」

「やーい、怒られたー」

「くっ…!」


 いくら美人でも、なびかない美人には興味がない。

 遠慮なく、からかわせてもらう。


「ファレアスティが失礼をしました。しかし、私はいろいろな面で役に立つと思いますよ。どうです? 試してみませんか?」

「具体的にどんな面で?」

「あなたに無くて、ハピ・クジュネに有るもの。それは『知略』です。あなたは武に特化していますが、そこまで策謀を巡らせるタイプではない」

「今のところ必要ないからね」

「今はそうかもしれませんねぇ。しかし、いずれ必要になります。あなたほど聡明な人物ならば、情報がどれだけ大切かわかるでしょう」

「もちろん知っている。問題は、お前が信用できるかどうかだ。いや、オレ自身があまり他人を信用しないたちでね。信頼関係は築けないかもしれないぞ?」

「慣れ合う必要はありません。互いに利用すべき良きパートナーであれば十分です」

「利用か。そういうドライな関係は嫌いじゃない。…いいだろう。試してやる。でも、ついてこられなかったら置いていくよ。危なくなっても助けないかも」

「それでもかまいません。そのための赤鳳隊ですからねぇ。では、中核メンバーを紹介します」


 他の六人もフードを外す。

 が、最初に外した人物は、その下にまた『覆面』を被っていた。


「いやいや、どこまで隠したいんだよ。プロレスラーか」

「ああ、彼はちょっと特殊でしてね。ラーバンサーという古くからキブカ商会に尽くしてくれている古参の武人です」

「………」

「ちなみに無口なのは気にしないでください。あとは、たまに鼻息が荒くなるので、それも気にしないでいただければ助かります」

「コーホー、コーフー、フシューー、フーー、フー」

「普通に呼吸困難じゃないか。大丈夫なのか?」

「彼は優秀ですよ。では、次は彼女です」

「初めまして、雀仙じゃくせんと申します」

「あっ、女の人もいるんだ。よかったぁ!」

「私も女だが?」

「まあ、そうなんだけど…」


 ファレアスティに睨まれながらも、次にフードを外した人物は、サナのように少し浅黒い肌をした女性であった。

 ぱっと見て一番気になるのが、額にある『赤い点』だ。

 よくインド人が額に『ビンディ』と呼ばれる赤い染料を塗るが、ほとんどそれと同じだと思っていいだろう。

 雀仙は柔和な表情で微笑んでいるので、ファレアスティとは印象が正反対だ。笑顔は大事なのだと思い知る。


「俺はクラマだ。よろしくな」


 続いて顔を見せたのは、この中で一番背丈が小さい赤い髪をした少年だった。


「ソブカ、子供がいるぞ?」

「子供じゃねえ! お前だって子供だろう!」

「馬鹿め。オレは大人だ! 見るがいい、オレの精神注入棒を!」

「げっ! でか!?」


 子供におとなげない対応をして、見事先制パンチをくらわせる。

 見た目は子供! あそこは大人! それがアンシュラオンである!

 だが、ファレアスティが剣に手をかけたので、おとなしくしまうことにした。


「で、こいつは?」

「彼はクラマ。才能豊かな子ですよ」

「やっぱり子供じゃないか」

「ぐぬぬっ…! 俺はこの隊で一番腕がいいんだからな!」

「それは逆に心配になる情報だな」

「くそ! ホワイトハンターだからって馬鹿にしやがって! 見てろ、今見せて―――ぐえっ!」


 腰の刀を抜こうとしたクラマの首根っこをソブカが引っ張る。


「ソブカ、何するんだ!」

「控えなさい、クラマ。制御できない剣は私には不要だと言ったはずです。従えないのならば帰りなさい。また実家に戻りたいのですか?」

「くう…わかったよ」

「申し訳ありません。この子は私の遠縁の子なのです。まだまだ子供で礼儀を知りませんが、どうか許してやってください」

「べつにいいよ。でも、ガキは馬鹿なことをしでかすから、ちゃんと首輪と縄を付けておけよ」

「わかっています」

「ソブカ殿、挨拶の途中で悪いが、こちらも時間で動いている。そろそろ出立したいのだが?」


 ここでロクゼイが催促。

 実際に他の輸送船は動き出しているので、ぐずぐずしていると取り残されてしまう。


「これは失礼いたしました。では、続きは輸送船の中でいたしましょう。あの赤い輸送船が我々の船です。さぁ、どうぞ」

「お待ちいただこう。アンシュラオンは我々の輸送船に乗る」

「どうせ同じ場所に向かうのです。挨拶も途中ですし、こちらに乗っても問題ないのでは?」

「我々は救出作戦を共に遂行する仲間だ。今からお互いのことをよく知ることで、作戦の成功率を高めることができる。貴殿は貴殿でご自由になさるとよろしいが、こちらに干渉しないでいただこうか」

「おやおや、私もライザックと志を同じくする者ですけどねぇ。アンシュラオンさんに同行する以上、作戦を手伝いますよ。手伝い必要でしたら気兼ねなく言ってください」

「気遣いは無用。我らだけで十分こなしてみせる。貴殿の役割はその知能にある。むやみに戦場に出て怪我をされると困る」

「こう見えても鍛えているのですがねぇ」

「無用なものは無用」


 ソブカとロクゼイが、睨み合う。

 ロクゼイは海兵らしく威圧的に。

 ソブカは静かな中に鋭い刃をもって。


(ライザックの傍にいたけど、単なる仲良し倶楽部ってわけじゃないんだな。まあ、今のたるんだ空気より、これくらいのほうが引き締まっていいけどね)


「では、アンシュラオンさんに決めてもらうのはどうでしょう? どちらの船に乗りますか?」

「我々の輸送船に決まっている。そうであろう?」

「うーん、どっちでもいいんだけどなぁ…」

「ファレアスティ、頼みます」

「なっ…!? 私に何をしろとおっしゃるのですか!?」

「あなたも女性なのですから、淑やかさも学ばねばなりませんよ。たまには媚びてみてはどうですか?」

「女であることを利用して誘惑しろと!? 絶対に嫌です! 特にこの男は生理的に無理です!」

「オレのことを嫌いすぎでしょ。そんなに嫌われているなら、おっさんのほうでいいかな…」

「うむ、歓迎しよう」

「仕方ありませんねぇ。雀仙、お願いします」

「アンシュラオン様、どうかこの弱い女に力をお貸しください。移動中はご命令くだされば、何でもお望み通りにいたします」

「君に決めた!!」


 雀仙が恭しくひざまずき、頭を垂れる。

 それは演技とはいえ、とても自然で嫌味なところがなかったのが決め手だ。


「ちょっ!? アンシュラオン、どういうつもりだ! 我々は仲間であろう!」

「おっさんは悪くない。でも臭いのが悪いんだ!!」

「臭い!? 加齢臭! 加齢臭なのか!!? たしかに娘が一緒に風呂に入ってくれなくなったが、それが原因なのか!!」

「そういうことなんで、またあっちで会おうな!」


 あっさりとロクゼイを裏切ってソブカにつく。

 どっちも胡散臭いなら、どう考えても女性がいるほうがいいに決まっている。そこに迷いはない。


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