『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

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「翠清山死闘演義」編

308話 「五重防塞攻略戦 その1『魔獣の要塞』」

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 侵攻開始、四十八日目。

 混成軍は、雪が積もる道なき道を進み、ようやく銀鈴峰の中腹にまで到着した。

 銀鈴峰は、すでに嫌というほど味わっているように雪山であり、その大きさも他の山とは比較にならないほど大きい。

 ただし、今まで進んできた崖道とは異なり、比較的平坦な起伏をしていることだけが救いであった。

 一行は、目の前に広がる銀世界を黙々と歩く。

 この山を登り終え、次の大きな山を越えれば、ようやく標的の熊神がいる銀鈴峰の頂上エリアに到着する。

 その前に次の山で拠点を作ることになっており、そこが熊神決戦前の最後の拠点にして最大の規模になる予定であった。

 目的地が近いことを知り、混成軍にわずかな緊張感と希望が入り混じる。

 その後に戦いが待っているとはいえ、終着点が見えたことは非常にありがたいものだ。強行軍でもあったので、一度休息が取れる期待感も大きかった。

 しかしながら、その希望は即座に絶望へと落ちていく。


「冗談ではない」


 山を登り、頂上から『それ』を見たグランハムが、思わず歯軋りする。

 目の前に広がる大きな山、混成軍が本来拠点を建造する場所には、もうすでに『別の拠点』が存在していたのだ。

 スザク軍やハイザク軍が作ったものではなく、それ以前に人間が作ったものですらなかった。

 向こうの山には、傾斜の中間に段々畑のような五つの台地が存在している。台地自体の面積もかなり広く、春になれば緑も増えるため、さまざまな魔獣が集まる憩いの場になっていた場所だ。

 がしかし、現在そこにあったものは【巨大な要塞】。

 要塞は一つから成り立っているわけではなく、それぞれの台地に一つずつ建造されており、全体で一つの巨大な要塞として成り立っていた。

 グランハムたちがいる場所はまだ要塞からだいぶ距離があるものの、それがいかに大きなものかは、見ればすぐにわかるだろう。


「まさか魔獣たちが、あんなものを作っているとはな。まるでグラス・ギースの城壁だ」

「単純な巣作りってわけじゃなさそうだね。意図的にあの形にしているみたいだ。さしずめ『五重防塞』ってところかな」


 アンシュラオンも、その様子を見学。

 防塞は岩を積み上げて作っているので、かなり歪な形をしているが、機能的には問題がなさそうだ。

 まさにグラス・ギースの防壁そのものであり、それが五つ並んでいるようなものだった。


「魔獣がこのようなことをする事例はあるのか?」

「撃滅級魔獣の中には芸術を愛する種族もいるけど、魔獣単体が自発的にあんなものを作るとは思えないな。となれば、単純に『命令されて作った』んだろうね」

「ついにやつらも組織立って動いてきたということか。森での戦いはお遊びだったわけだ」

「森の魔獣は強制的に集められただけの烏合の衆だった。つまりは利用されただけの普通の動物さ。でも、山にいる魔獣は誰かの命令で動いているのは間違いないね。今までの連中は足止めだった可能性が高い」


 以前戦ったクロックホーンたちもそうだが、奇襲は単発のものが多く、どちらかといえばこちらを殲滅させるものではなかった。

 あくまで最小限の戦力で、最大の時間を稼ぐことが目的だったように思える。

 その結果がこの要塞の完成だったとすれば、ある程度は納得できる行動といえるだろう。


「問題は誰が命じたかだね」

「ここは銀鈴峰だ。命令したとなれば、熊神のボスである『セレプローム・グレイズリー 〈銀盾錦王熊〉』ではないのか?」

「その熊がマスカリオンくらい頭が良ければ可能だろうけど、魔獣と人間とじゃ知能の発達具合が違う。何の予備知識もなく、あそこまでしっかりとした要塞を作れるとは思えないんだよ。そもそも魔獣は、あまり建造物を必要としないからね」

「ふむ、作るとしてもせいぜい巣穴くらいか。そう考えると不自然だな」


 人間は知能が高くなれば、さまざまな新しい創造物を生み出す。場合によっては存在しない空想のものすら考え出すほどだ。

 一方で魔獣は、知能が高くなっても創造活動をあまりしない。知識は知識として受け入れつつも、自然を自然のまま受け入れる傾向にある。もともとの魔獣の役割が自然界の発展と保護にあるからだ。

 だからマスカリオンが人語を解するほど利発でも、攻撃方法は比較的原始的なものばかりなのだ。

 しかしながら、目の前にあるものからは『ひどく人間的』な印象を受ける。


「あの形を見なよ。石垣に反りがある。どう考えても対人用だし、基本設計は人間がしているよね」

「まさか人間側に裏切者がいるのか?」

「魔獣側に味方して利益を得る者か。北部に成長してほしくない連中なら南部がそうなんだろうけど…現実的に考えれば設計図をどこかから入手したのかも。ただ、その場合も、ある程度は人間的な思考が必要になるんだよなぁ…」


 仮に設計図を入手したとしても、魔獣の知能と常識ならば理解不能だろう。下手をすると設計図の意味すらわからないかもしれない。

 それがあそこまで見事に造られていることを考えると、普通の魔獣の仕業ではないことがわかる。


(南部勢力の画策? 絶対に無いとは言わないけど、まずありえない。あれだけ人間に敵意を抱いている魔獣と話し合いなんてできるはずもないんだ。誰かが作り方を教えた可能性はゼロじゃないんだが…うーん、微妙だな。いまいちしっくりこない)


 と、いろいろ考えることはできるが、悠長に考えている暇はなかった。

 要塞のほうに動きがあったと思ったら、何やら大きな棒状の物がこちらに向けられる。


「え? まさかあれは…」


 アンシュラオンも思わず驚きで動きが止まってしまう。


 そこに―――発射!


 直径150センチはありそうな『砲弾』が、真っ直ぐに向かってきた。

 砲弾はこちら側の山の頂上からやや下に命中し、大きな揺れが発生。

 その衝撃は反対側の斜面にまで振動を与え、軽い雪崩が起きて、まだ山を登り終えていない者たちが呑まれていく。

 幸いながら山の頂上付近まで登っていたこともあり、雪崩そのものの影響はあまり受けなかったようだ。

 しかし、相手に発見されたのは間違いない。


「全隊、後退だ! 来た道を戻れ!」


 グランハムが号令を出した直後には、二回目の砲撃。

 砲弾はあさっての方角に飛んでいき、違う山に激突して山肌を破壊する。

 その間に来た道を引き返し、山を盾にしたグランハムが再び苦々しい表情を浮かべた。


「要塞の次は『砲台』だと? ふざけてくれる!」

「あれって、大きさから考えると戦艦の主砲だよね?」

「…そのようだな。かなり口径が大きいようだ」


 魔獣の要塞から発射されたのは、間違いなく『砲弾』である。

 直撃した場所が大きく抉れ、破壊痕がまざまざと刻まれていることから、おそらくは【戦艦の主砲】だ。


「命中精度がかなり低いみたいだけど、どうして?」

「そこまでは知らぬ」

「『火器管制システム』が接続されていないからでしょう」


 そこにソブカが合流。

 気になったので自ら見てきたようだ。


「遠かったので型番や系統まではわかりませんが、かなり古いタイプの砲台のようです。所々にも破損の形跡がありましたから、どこかで拾ったか、壊れた戦艦から引っぺがしてきた可能性が高いですねぇ」

「魔獣に戦艦の価値がわかるのか?」

「わかっているから使ったのでしょう。ですが、高度な使い方は理解していないようです。戦艦で完璧に主砲を使う場合は、射撃統制システムの自動制御に加えて、敵の位置を探り出すレーダーと微調整を行う観測員が必要になります。優れた射手がいる場合は手動で発射する場合もありますが、今現在の西側の技術では半自動射撃が一般的です。それらがないのですから、命中精度は相当低いのは当然ですよ」

「詳しいな、キブカラン」

「ああいう機械兵器には少々興味がありましてねぇ」

「たしかに戦艦の砲撃は、あんなものじゃなかった。五キロの距離で初撃から五メートル単位で合わせてきたからね。それと比べると酷いもんだ」

「その口ぶりからすると、実際に撃たれた経験があるのか?」

「まあね」


 アンシュラオンもソブカに同意。

 ガンプドルフの戦艦との遭遇の件も、今となっては懐かしいものである。


「でも、これではっきりしたよ。誰かがあいつらに入れ知恵しているのは間違いない。それは少なくとも人間の文化や兵器に精通した存在だ」

「やはり人間が助力しているのか」

「そうとは限らないよ。知識がある存在ならば、誰だってあれくらいは使えるからね。それにもし人間だったら、もう少しましな使い方をしそうなものさ。どっちにしろ術式武具を使うような相手だ。翠清山の魔獣は特殊だと思ったほうがいいね」

「原因の究明はあとからでもよいでしょう。この状況をどう打破しますか?」

「打破と言われてもな。よもや敵があれだけの拠点を作っているとは想定外だった。敵の数にもよるが、この状況下では防衛側が圧倒的に有利だ。普通に攻めるのは危険すぎる」

「そうですねぇ。あれだけのものを作った以上、かなりの戦力を配備しているはずです。正面からはありえません。せめてこちらも主砲があれば別ですが」

「主砲か…。遠距離から強烈な一撃を加えることができれば、たしかに付け入る隙を生み出すことができるだろう。当然そんな武器はないがな」

「武器はありませんねぇ。しかし、それ以外のものでも問題はありません」

「そうだな。同じようなことができるやつがいれば問題はない」


 ソブカの期待の眼差しがアンシュラオンに注がれる。

 隣を見れば、グランハムからの視線も痛い。


「なにその視線? オレがやるの?」

「何のためにお前を一ヶ月半も休ませたと思っている。そろそろ働いてもらうぞ。こういうときのためにとっておいたのだ」

「ですねぇ。向こうの山まで相当な距離があります。どんなに急いでも十数分の間、我々は常に上を取られているわけですから、甚大な被害が出るのは間違いありません。それを打開できる『切り札』は一つしかありませんよ」

「いやいや、この距離だよ? オレって近距離戦が得意な戦士なんだけど?」

「お前ならなんとかできるのだろう? あれだけの闘人が使えるのだ。手段はいくらでもあるはずだ」

「デアンカ・ギースを倒した英雄なのです。アンシュラオンさんならば、できると信じておりますよ」

「まったく、好き勝手言ってくれるなぁ。わかったよ、給料分くらいの仕事はするさ。でも、まずは相手の陣容を見てからだ。その間に戦闘準備と具体的な戦術を練ってくれ」

「了解した」

「んじゃ、行ってくる」


 アンシュラオンは単独で山を越えると、大ジャンプ。

 一気に数百メートルほど落下し、岩場にすたっと着地してから要塞の全貌を確認する。


(一番下の防塞が幅千メートルくらいで、上にいくごとにサイズは小さくなっているが…山の一部を改造しているのか? 上の防塞は完全に山に食い込んでいるな。最初から籠城するつもりだったのは確定か。そして、オレたちの作戦も『バレている』ってことだ)


 魔獣たちは人間が作るよりも大きな拠点を建造していた。

 ここから見た分だけではなく、銀鈴峰の中腹の内部にまで手を入れているようだ。それを考えると五重防塞の大きさは見た目以上だろう。

 だが、それ以上に問題なのは、こちらが銀鈴峰を狙っていることを知っていた点にある。

 これに関しては伝書鳩がマスカリオンに確保されていることもあり、すでにこちらの進軍ルートは相手側に筒抜けだと思ったほうがよい。

 いまさら作戦の変更はできないので、ここは押しきるしかない。要衝にあんなものがあれば邪魔でしかないからだ。


(さて、敵の兵力だが…さすがに波動円の範囲外だからわからないな。どれくらいいるか少しつついてみるか。一番下の防塞までの距離は約3500メートルかな? まあ、当てるだけなら問題はないか)


 アンシュラオンは、掌を一番下の防塞に向ける。

 通常の技の有効射程距離は、およそ三百から六百メートルであり、それ以上となると途中で搔き消えるか、どんどん質量を失っていきダメージを与えられなくなる。

 アンシュラオンも有効射程距離は三百メートルと名言しており、剣気を使わない状態では、これが基本的な戦闘距離といえるだろう。

 しかし、武人に戦場いくさばは選べない。

 さまざまな状況に対応するために多くの引き出しを持つからこそ、熟練した武人は怖いのである。


(普通にやったら届かないが、数値を調整して技を遠距離仕様にカスタマイズすればいい)


 準備を終えたアンシュラオンが、戦弾を発射。

 放たれた戦弾は千メートルを超え、二千メートルを超えていく。

 直径一メートルほどの戦弾は普段の球状ではなく、やや細長いミサイルの形をしていた。

 進めば進むほど後ろから縮んでいくが、これは後部のエネルギーの大半を推進剤として利用しているからだ。

 そして、三千メートルを超えると、ついに防塞の岩に激突。

 通常の戦弾とは違って弾けることで爆散させることはできないが、先端が銃弾の弾体部分と同じく硬質化させているため、当たった岩を破砕する。

 とはいえ、全体からすれば微々たるかすり傷程度。防塞自体はびくともしていない。


(意外と壁が厚いな。たぶん岩をいくつも重ねているか、あるいは溶かして固めている可能性がある。陣容が見たいから、もう少し脅かしてやろう)


 これだけでも相手は攻撃が届いたことに驚いているだろうが、今のは様子見。あくまで距離を測ったにすぎない。

 ここからが本番だ。


「戦弾の雨をくれてやるぞ! たっぷり味わえ!」


 アンシュラオンが両手の掌を向けて、戦弾のマシンガン。

 今度はさきほどの倍の大きさ、身体の二倍はある大きなものを大量に放出。

 まるで軍用機が放つフレアのごとく美しい線を描きながら、戦弾の雨が防塞に殺到して―――激突!

 大きさが二倍ならば、込めた戦気の量も二倍だ。

 余剰分の戦気は爆散に回したため攻撃力も二倍になり、予想以上の爆発と衝撃に防塞全体が揺れる。


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