384 / 441
「琴礼泉 制圧」編
384話 「野心の女性 その5『これは大金星よ!』」
しおりを挟む
ベ・ヴェルが遥かに格上の左腕猿将を、片手一本で圧倒する。
当然ながら、その秘密は武器にあった。
彼女が持っている大剣の名は『暴剣グルングルム』。ディムレガン製の術式武具である。
ユキネが『残殷刀・白影命月』をもらっているのを見たベ・ヴェルが、自分にも何かないかと爐燕と交渉してもらったものだ。
白影命月が斬撃能力を強化するのに対し、この剣は斬ることよりも【叩き潰す】ことを目的として作られている。
潰すだけならばハンマーでもよいため、剣士でも剣気の放出が苦手な者や、武器戦士タイプの武人が扱うことを前提に思案された実験武器の一つといえるだろう。
(こいつはいいね! 片手で軽々と振れるのに、与えるダメージはすごいよ! ははは、猿も面食らっているじゃないか! トリックみたいなもんだからねぇ。そりゃ驚くさ!)
ほぼ打撃武器であるこの剣にとって、重要な要素は『速度と重量』である。
もともと大振りな重金属剣のため、何もしないでも三十キロくらいの重さがあるが、これくらいならばベ・ヴェルの腕力でもブンブンと振り回すことが可能だ。そこでまずは十分な速度を得る。
ただし、この状態で叩きつけても、左腕猿将にはたいしたダメージは与えられないだろう。この程度の重さでは頑丈な筋肉によって弾かれてしまうはずだ。
では、さらなる重量をどうやって得るかといえば、それこそこの剣の真骨頂。
暴剣グルングルムの能力は―――【重力変化】!
物語序盤でパミエルキがワンパンで倒した『グラビガーロン〈たゆたいし超重力の虚龍〉』のように、重力を操る魔獣もごくごく稀に存在し、この剣の素材にも(強さは圧倒的に下だが)同系統の魔獣が選ばれている。
この能力のおかげで普通に使えば三十キロ程度のものが、インパクトの瞬間には十倍以上の、およそ三百キロを超える重さになる。
それが高速で叩きつけられるのだから、トラクターくらいならば簡単に圧砕してしまう威力へと変貌する。これならば猿神にも十分通用する威力だ。
しかも左腕猿将は実際にベ・ヴェルと対戦して、彼女の力があまり強くないことも知っている。
だからこそ、『脳がバグる』。
振り回す時は軽く見えるのに、当たった時にはやたら重い。そのちぐはぐさに混乱して身体がこわばってしまうのだ。
また、重さを利用することで、彼女の防御力の低さも若干ながら改善されている。
なんとか打開しようと滅茶苦茶に振り回した左腕猿将の拳を、剣を盾代わりにして防御。
敵の攻撃力の大半を重さが吸収するため、彼女自身への被害は軽微となる。
(あたしはサリータみたいに、ただ受け止めることなんてできない! ユキネみたいに、ただかわすだけも無理さね! なら、攻撃も防御も一緒にやってやるよ!!)
ベ・ヴェルは攻撃型戦士なので、ひたすら攻めることを得意とする。
攻撃型には、パミエルキやガンプドルフといった強力な武人が多いが、姉は最強の防御力も持ち合わせる化け物で、ガンプドルフは鎧気術や頑強な重鎧を併用することで、その防御の欠点を埋めている。
しかしながらベ・ヴェルの場合は、重鎧を装備すると関節の可動域が制限され、独特な動きに支障が出てしまう。体力的にも長時間の戦闘は、やや厳しいだろう。
となれば、もう鎧での防御は諦めるしかない。
その代わり、とことん殴る!!
敵の身体はもちろん、相手が放った拳にも剣を叩きつけて、『敵の攻撃すら攻撃で迎撃』!
(この山の雰囲気は、故郷を思い出させる! そうさ、平地に出て鈍っちまった感覚を今、あたしは取り戻している! 泥臭い殺し合いの中で生存本能を研ぎ澄ますのさ!!)
ベ・ヴェルの出身は、翠清山に似た巨大な山脈で暮らす山岳部族であり、女子供も当たり前のように戦う戦闘民族でもある。
その野性的な感覚と動作も自然の中で培ったもので、どちらかといえば人間よりも魔獣、目の前にいるグラヌマの動きに近い。
ユキネのように跳ね回るのではなく、最短距離で強烈な打撃を連続して叩き込むのが特徴的で、回転数を上げることで烈風の如き勢いと化す。
その『暴風』に手が付けられず、左腕猿将も思わず下がってしまう。
(このまま圧しきって、あたしが仕留める!)
ベ・ヴェルが勝機を見い出し、さらに前に詰める。
が、ここで二つの不運が起きてしまう。
まず一つが、彼女自身が短気であり、勝負を急ぐ傾向にあること。
もう一つが、この武器の性質にある。
グルングルムが、なぜ暴剣と名付けられているのかといえば、その扱いが非常に難しいからだ。
この剣の仕組みは、柄にある触媒から身体に流れる電気信号を読み取り、刀身の魔獣素材に指令を出すことで重力変化を引き起こしている。
簡単にいえば、相手に振り下ろす時に膨れ上がる筋肉への信号を察知して、能力発動の合図としているのだ。
それがいつも通りの状態ならばよいのだが、下手に力むと『武器が誤作動』してしまい、意図しないタイミングで重くなることがある。
今回もベ・ヴェルに無駄な力がかかりすぎたことで―――ズゥンッ!
「お―――もっ!?」
落下の軌道に乗る前に刀身がいきなり重くなり、腕の振りが止まってしまう。
直後の筋肉の弛緩によって重さはすぐに戻ったものの、その隙を敵が逃すはずがない。
左腕猿将の拳が、ベ・ヴェルの腹に迫る!
「ちっ!」
ベ・ヴェルは咄嗟に暴剣を盾にするが、ここでも重さの調整が上手くいかないまま、直撃!
凄まじい衝撃を受けて吹っ飛び、腹の中に熱いものが込み上げる。
「げぼっ…ごぼっ……! くそ…が! 使いにくいったら…ありゃしないねぇ!」
肋骨が砕け、内臓も複数損傷。
鉄の味とともに血反吐を撒き散らす。
暴剣とベ・ヴェルの相性は良いが、まだまだ手に入れたばかり。使いこなすことは簡単ではない。
「ギィーー! フーーーッ! フーーッ!」
さらにここで、左腕猿将がついに『カーストリミッター〈序列強制の呪斧〉』を持ち出した。
腰に巻き付けていたのでいつでも使うことはできたが、相手を甘く見ていたこともあって温存していた、彼の切り札である。
格下にコケにされまくったことで、これ以上の権威の失墜は許さないと、グラヌマの将が本気になってしまったのだ。
だが、ベ・ヴェルは逆に笑う。
「へへ…いいねぇ。ようやく敵として認めてくれたってわけだ。でもね、こっちはハナから本気なんだよ!! なめてかかって勝てると思うんじゃないさね!! さぁ、きなよ! どっちかが死ぬまで戦いは終わらないよ!」
ベ・ヴェルの挑発を左腕猿将が受け、真っ直ぐに突き進んでくる。
放たれる斧の一撃は空気を切り裂き、かろうじて回避したベ・ヴェルの真横にあった地面に入り込んで、消し飛ばす!
その衝撃だけでベ・ヴェルの身体が浮き上がるほどだ。
(これが全力の一撃かい! しかも利き腕じゃないってんだから、ヤバすぎだねぇ! 普通の人間が勝てる相手じゃないよ!)
魔獣なので当たり前だが、このレベルになれば最初から人外の領域に入っている。
そんな左腕猿将が、絶対に負けられないと気迫を見せれば、まだ戦気すら満足に扱えないベ・ヴェルに対抗できるわけがない。
しかし、腕力で及ばずとも、人には知恵がある。
ベ・ヴェルが暴剣を振ったタイミングで、手を放して投げつける。
左腕猿将が暴剣を斧で弾いた瞬間には、彼女はポケット倉庫から大きな盾を取り出していた。
何やらブツブツの表面をした怪しげな盾だが、左腕猿将はかまわず振り切る!
盾はあっさりと破壊されて真っ二つ。さすがのパワーである。
ただし、ベ・ヴェルはすでに背後に跳んでおり、攻撃を回避していた。
わざわざ取り出したのに、盾としての機能をまったく果たしていないが、これでいい。
直後、破壊された盾が爆発!
「ッ―――!?」
表面のブツブツすべてに『大納魔射津』を仕込んだ『爆破盾』である。
本来は押し付けて破裂させるものだが、爆発は爆発。
目の前で起きたいくつもの爆風に、左腕猿将の視界が塞がる。
その背後に―――白刃の輝き!
密かに近寄っていたユキネが跳躍して剣硬気を放つ。
ベ・ヴェルが注意を引いて、背後から仲間が攻撃するコンビネーションプレイだ。
すでに視界にユキネが映り込んでいたことで、咄嗟に勝率が高い方法に切り替えたのである。このあたりもプライドを捨てたベ・ヴェルらしい割り切り方といえる。
そして、白影命月の力によって強化された今ならば、サンロすら超える強烈な一撃となる。
左腕猿将は野生の勘で身を捻って回避。
右耳が切り落とされたものの、かろうじて致命傷は避ける。
「キイイッ!」
耳を落とされて激怒した左腕猿将は、ユキネに向かって能力を発動。
イカ墨のような黒い霧が襲いかかる。
「なにこれ!? きしょっ! 絶対危ないじゃない!」
ユキネは一目でこれが危険なものと判断し、回避を選択。
しかし、一度標的を定めた霧は彼女を追尾。左腕猿将も距離を詰めて逃がさないように追いかける。
厄介なことに霧は分散して広がることもできるので、ユキネは逃げ場を失って捕まってしまった。
(毒…じゃない? でも、あいつの雰囲気からして、長時間この状態でいるのは得策じゃないようね。遅行性かもしれないわ)
術式武具の怖いところは、初見では特殊能力がわからない点だ。
ユキネも黒い霧が何かわからず対応に困っており、せいぜい『毒消紋』を使うくらいしか打つ手がなかった。
(こっちに余力はないわ! 一気に仕留める!)
ユキネは仕方なく、短期決戦を仕掛けようと突っ込んでいく。
逃げ出すという選択肢がない彼女にとっては、これしかできないのだ。
「キキキキッ」
一方、必勝パターンに持ち込んだ左腕猿将は、ニヤリと笑う。
一度この術式にかかれば、射程距離外に出ない限りは逃れるすべはない。
ハイザクにやったように防御主体の構えになり、ユキネの攻撃を受け流していく。
その猿の様子と、自らの動きの変化でユキネも異変に気づいた。
(足が…重い? 身体のキレも悪いわ。…なるほどね、相手を弱らせる系の能力なのね。あなたの身体能力でこれをやられたら、ほとんどの相手は勝てないでしょうね)
ユキネのステータスで一番高いのは『回避値』であるため、少しずつ攻撃がかわしにくくなる。
ギリギリで回避できていた一撃も肌を擦るようになり、皮膚がめくれて肉が見えていく。
「キキイッ!」
左腕猿将は、十分に呪いが機能したのを確認。
圧力をかけて逃げ道を塞ぎつつ、全力の斧を振り下ろした。
「一騎討ち三連戦」をもってしてもなお、左腕猿将には余力がある。この段階で個としては敗北したと考えてよいだろう。
ただし、まだ終わらない。
左腕猿将が強く左足を踏み込んだ瞬間、地面が―――抜ける
片足がずっぽりと、地面にはまってしまって動けない。
そのうえ大量の針が付いた金属板が、左右から襲いかかって足に突き刺さる。
「キッ!? キーーッ!!」
左腕猿将は必死に足を抜こうとするが、針が食い込んで簡単には放さない!
これは『対重刺縛陣』と呼ばれる対魔獣用の術式罠の一つで、ソブカが使った『破仰無罫陣』と同じ系統に属する強力な封印術式である。
針の一つ一つは剣の刀身に匹敵する大きなもので、それが大量に突き刺さることで、討滅級魔獣でも動きを封じ込めることが可能だ。
『トラバサミ』に引っかかった猿に対し、今度はユキネがニヤリと笑う。
「あなた、素直すぎるのよね。浮かれた男を誘導するなんて、女からしたら簡単なの。さっきの戦いで学ばないなんて、やっぱり脳ミソは猿なのね」
ユキネは逃げるふりをして、罠を仕掛けた場所にまで誘導していた。
すでに翠清山で幾多の魔獣と戦い、人喰い熊戦を経験した彼女は、罠が有効であることも学んでいる。
動けない相手ならば、避ける必要もない。
間合いの外から剣硬気で滅多切り!!
いくら『斬撃耐性』があるグラヌマとはいえ、ほぼ無抵抗でこれだけの剣気に斬られれば、損害は深刻。
顔や身体に深い切り傷が刻まれる。
「ゴギギギギギギギリリリイリッ!!」
そのたびに左腕猿将の顔が真っ赤になり、激しい歯軋りの音が響く。
たかが人間に。
たかが雌の個体に。
どうしてこの俺様がコケにされる!!
ふざけるな! ふざけるな! こんなことは認められない!!
「ギキイッ―――(認められ―――)!」
この罠も『破仰無罫陣』同様に、討滅級レベルだと十秒程度しか拘束できない。
左足を強引に引き抜き、針に抉られてボロボロになりながらも立ち上がると、ユキネに憎悪の視線を向ける。
ユキネは動きが鈍っているので、次の攻撃はかわせないだろう。
が、やはりかわす必要はない。
「う―――おおおおおおおおおおお!!」
「ッ!?」
真横から飛び出してきたサリータが、爆熱加速で左腕猿将に体当たり。
まさかここでサリータが再度突貫してくるなど、誰も想像しないはずだ。
彼女の身体は骨折だらけで、到底体当たりを仕掛けられる状態ではない。左腕猿将も相手が瀕死だとわかっていたので、完全に意識から外れていた。
だが、それが油断。
退いたと思わせて再び突っ込み、完全に不意打ちの一撃を頭にくらわせる!
「ぐっ…!」
その代償は大きく、サリータは今度こそ完全に動けなくなった。
もし戦気を学んでいなければ、そもそも突撃すら難しい状態だったので、これが本当に最後の一撃である。
「ありがとう、サリータさん! 最高のタイミングよ!」
脳震盪を起こし、左足に踏ん張りが利かない左腕猿将が、ぐらりと倒れて前のめりになる。
そこにユキネが渾身の一撃!
喉に白影命月の刃が食い込み、そのまま振り切る!
喉はぱっくりと分かれて、血管も切れて大量出血。地面が真っ赤に染まる。
「グギギギギッ!」
それでもまだ左腕猿将は死なない。
力が入らない状態でも斧を横薙ぎにして、攻撃直後のユキネを狙う。
「死にぞこないは、さっさと死になぁあああああああ!」
がしかし、そこに背後から、ベ・ヴェルが暴剣で脳天にフルスイングの一撃!
『カーストリミッター〈序列強制の呪斧〉』の能力は強力だが、敵対象者一体にしか効果がないのが最大の欠点だ。
能力はユキネに使っているため、ベ・ヴェルはまだまだ健在。
こちらも完全にノーマークのところに直撃したため、頭蓋骨が陥没して、さすがの左腕猿将も意識が飛びそうになる。
「まだ死なないのかい! なら、こいつで終わりさね!!」
そんな彼の目に最後に映ったのは、自身の『左腕』。
ベ・ヴェルが、拾ってきた腕棍棒を振り回し、顔面に叩きつけた。
しかも、その腕には大納魔射津を噛ませていたので―――ドォオーーーンッ!
左腕猿将の顔面が爆裂。
眼球が吹き飛び、鼻が削げ、唇も焼け焦げる。
「ユキネ!」
「任せて!」
最後はユキネが、すでに目が失われて空洞になっている眼窩に剣をぶっ刺して、脳を破壊。
「ゴ……キギ……キッ……」
左腕猿将の身体は、その後も何度も激しく痙攣しながら、しばらくは動いていた。
が、脳という司令塔を失った今、それはただの生ける屍にすぎない。
ユキネとベ・ヴェルが慎重に遠距離から攻撃を続け、ついに肉体も動かなくなった。
「やった…のかい?」
「ええ、死んだようね」
左腕猿将は、絶命。
一度失った信頼と権威は簡単には戻らない。
あがけばあがくほど、どんどんドツボにはまっていく。
彼は左腕を失った時には、もう死んでいたのだ。
しかし、あがく努力をしなければ、浮き上がることも永遠にありえない。
両者に違いがあったとすれば、やはり最後に頼る者の差だろう。
「ふー、アンシュラオンさんには感謝しないといけないわね」
「そりゃ感謝はするけどねぇ。倒したのはあたしらだよ。そこは誇ってもいいんじゃないかい?」
「あなた、まだまだ周りが見えていないのね」
「ん? どういうことだい?」
「まあいいわ。首を切り落として持っていきましょう。私はグロいのは嫌だから、作業は野蛮なあなたに任せるわ」
「目に剣をぶっ刺した女の台詞かねぇ」
ベ・ヴェルは押し付けられたことに不満を漏らしながらも、慣れた手つきで首を切断していく。
ついでに多少焼け焦げたが、左腕猿将としての証拠になる左腕と心臓も確保。
「ふふふーん、アンシュラオンに見せるのが楽しみさね」
「やれやれ…ね」
楽しそうにしているベ・ヴェルを傍目に、ユキネはため息をつく。
彼女も嬉しいには嬉しいが、『真実』に勘づいているからこそ、ベ・ヴェルほどの喜びはないのだ。
(まったく、どうしてこんな大猿が単独で行動していたのか、何も疑問に思わないのかしら?)
ユキネたちが勝利できたのは、『奇跡的に都合よく、相手が単独だったから』である。
しかしながら、猿は群れで動くもの。
ソブカたちが多くの猿に襲われたように、この近くには百頭を超える左腕猿将の群れがいるはずだ。
ではなぜ、その群れはボスのピンチに助けに入らなかったのだろう?
ボスの威厳を守るためであれ、死亡したら群れ全体が危険に陥る。助太刀をしてもよいはずなのに誰も割って入ってこなかった。
となれば、答えは一つ。
すでに【何者かに排除されていた】と考えるべきだろう。
少なくとも分断や隔離があったことは間違いない。そうでなければ、奇跡などそうそう起きるものではないのだ。
(お膳立てされて、この苦戦ぶりじゃあね。微妙な戦果よね。…いいえ、それでもいいわ。私は何も知らないふりをして、『こんな大きな獲物を狩ったのよ! 褒めて、褒めて!』って満面の笑みで主人に抱きつけばいい。そのほうが賢しい女よりも可愛いものね)
彼が求めるのは、きっと可愛い女性のはずだ。従順で愛らしく、支配欲を満たしてくれる女が好みに違いない。
ならば演じよう。
それで強くなれるのならば。愛されるのならば。
ともあれ、名有りの大猿を倒したことには変わりない。喜べる時に喜ぶのも大事なことである。
「これは大金星よ! やったわぁああああああああああ! いやっほおおおおおお!」
「あ、あの、まだ走るのはちょっと…」
「甘ったれたことは言わないの! 早く行くわよ!」
「は、はい…! か、身体中が…ゴギゴギ…しますけど……がんばります!」
猿の首が入った袋を振り回しながら、ユキネたちは走っていった(全身骨折のサリータは泣きながらダッシュ)
当然ながら、その秘密は武器にあった。
彼女が持っている大剣の名は『暴剣グルングルム』。ディムレガン製の術式武具である。
ユキネが『残殷刀・白影命月』をもらっているのを見たベ・ヴェルが、自分にも何かないかと爐燕と交渉してもらったものだ。
白影命月が斬撃能力を強化するのに対し、この剣は斬ることよりも【叩き潰す】ことを目的として作られている。
潰すだけならばハンマーでもよいため、剣士でも剣気の放出が苦手な者や、武器戦士タイプの武人が扱うことを前提に思案された実験武器の一つといえるだろう。
(こいつはいいね! 片手で軽々と振れるのに、与えるダメージはすごいよ! ははは、猿も面食らっているじゃないか! トリックみたいなもんだからねぇ。そりゃ驚くさ!)
ほぼ打撃武器であるこの剣にとって、重要な要素は『速度と重量』である。
もともと大振りな重金属剣のため、何もしないでも三十キロくらいの重さがあるが、これくらいならばベ・ヴェルの腕力でもブンブンと振り回すことが可能だ。そこでまずは十分な速度を得る。
ただし、この状態で叩きつけても、左腕猿将にはたいしたダメージは与えられないだろう。この程度の重さでは頑丈な筋肉によって弾かれてしまうはずだ。
では、さらなる重量をどうやって得るかといえば、それこそこの剣の真骨頂。
暴剣グルングルムの能力は―――【重力変化】!
物語序盤でパミエルキがワンパンで倒した『グラビガーロン〈たゆたいし超重力の虚龍〉』のように、重力を操る魔獣もごくごく稀に存在し、この剣の素材にも(強さは圧倒的に下だが)同系統の魔獣が選ばれている。
この能力のおかげで普通に使えば三十キロ程度のものが、インパクトの瞬間には十倍以上の、およそ三百キロを超える重さになる。
それが高速で叩きつけられるのだから、トラクターくらいならば簡単に圧砕してしまう威力へと変貌する。これならば猿神にも十分通用する威力だ。
しかも左腕猿将は実際にベ・ヴェルと対戦して、彼女の力があまり強くないことも知っている。
だからこそ、『脳がバグる』。
振り回す時は軽く見えるのに、当たった時にはやたら重い。そのちぐはぐさに混乱して身体がこわばってしまうのだ。
また、重さを利用することで、彼女の防御力の低さも若干ながら改善されている。
なんとか打開しようと滅茶苦茶に振り回した左腕猿将の拳を、剣を盾代わりにして防御。
敵の攻撃力の大半を重さが吸収するため、彼女自身への被害は軽微となる。
(あたしはサリータみたいに、ただ受け止めることなんてできない! ユキネみたいに、ただかわすだけも無理さね! なら、攻撃も防御も一緒にやってやるよ!!)
ベ・ヴェルは攻撃型戦士なので、ひたすら攻めることを得意とする。
攻撃型には、パミエルキやガンプドルフといった強力な武人が多いが、姉は最強の防御力も持ち合わせる化け物で、ガンプドルフは鎧気術や頑強な重鎧を併用することで、その防御の欠点を埋めている。
しかしながらベ・ヴェルの場合は、重鎧を装備すると関節の可動域が制限され、独特な動きに支障が出てしまう。体力的にも長時間の戦闘は、やや厳しいだろう。
となれば、もう鎧での防御は諦めるしかない。
その代わり、とことん殴る!!
敵の身体はもちろん、相手が放った拳にも剣を叩きつけて、『敵の攻撃すら攻撃で迎撃』!
(この山の雰囲気は、故郷を思い出させる! そうさ、平地に出て鈍っちまった感覚を今、あたしは取り戻している! 泥臭い殺し合いの中で生存本能を研ぎ澄ますのさ!!)
ベ・ヴェルの出身は、翠清山に似た巨大な山脈で暮らす山岳部族であり、女子供も当たり前のように戦う戦闘民族でもある。
その野性的な感覚と動作も自然の中で培ったもので、どちらかといえば人間よりも魔獣、目の前にいるグラヌマの動きに近い。
ユキネのように跳ね回るのではなく、最短距離で強烈な打撃を連続して叩き込むのが特徴的で、回転数を上げることで烈風の如き勢いと化す。
その『暴風』に手が付けられず、左腕猿将も思わず下がってしまう。
(このまま圧しきって、あたしが仕留める!)
ベ・ヴェルが勝機を見い出し、さらに前に詰める。
が、ここで二つの不運が起きてしまう。
まず一つが、彼女自身が短気であり、勝負を急ぐ傾向にあること。
もう一つが、この武器の性質にある。
グルングルムが、なぜ暴剣と名付けられているのかといえば、その扱いが非常に難しいからだ。
この剣の仕組みは、柄にある触媒から身体に流れる電気信号を読み取り、刀身の魔獣素材に指令を出すことで重力変化を引き起こしている。
簡単にいえば、相手に振り下ろす時に膨れ上がる筋肉への信号を察知して、能力発動の合図としているのだ。
それがいつも通りの状態ならばよいのだが、下手に力むと『武器が誤作動』してしまい、意図しないタイミングで重くなることがある。
今回もベ・ヴェルに無駄な力がかかりすぎたことで―――ズゥンッ!
「お―――もっ!?」
落下の軌道に乗る前に刀身がいきなり重くなり、腕の振りが止まってしまう。
直後の筋肉の弛緩によって重さはすぐに戻ったものの、その隙を敵が逃すはずがない。
左腕猿将の拳が、ベ・ヴェルの腹に迫る!
「ちっ!」
ベ・ヴェルは咄嗟に暴剣を盾にするが、ここでも重さの調整が上手くいかないまま、直撃!
凄まじい衝撃を受けて吹っ飛び、腹の中に熱いものが込み上げる。
「げぼっ…ごぼっ……! くそ…が! 使いにくいったら…ありゃしないねぇ!」
肋骨が砕け、内臓も複数損傷。
鉄の味とともに血反吐を撒き散らす。
暴剣とベ・ヴェルの相性は良いが、まだまだ手に入れたばかり。使いこなすことは簡単ではない。
「ギィーー! フーーーッ! フーーッ!」
さらにここで、左腕猿将がついに『カーストリミッター〈序列強制の呪斧〉』を持ち出した。
腰に巻き付けていたのでいつでも使うことはできたが、相手を甘く見ていたこともあって温存していた、彼の切り札である。
格下にコケにされまくったことで、これ以上の権威の失墜は許さないと、グラヌマの将が本気になってしまったのだ。
だが、ベ・ヴェルは逆に笑う。
「へへ…いいねぇ。ようやく敵として認めてくれたってわけだ。でもね、こっちはハナから本気なんだよ!! なめてかかって勝てると思うんじゃないさね!! さぁ、きなよ! どっちかが死ぬまで戦いは終わらないよ!」
ベ・ヴェルの挑発を左腕猿将が受け、真っ直ぐに突き進んでくる。
放たれる斧の一撃は空気を切り裂き、かろうじて回避したベ・ヴェルの真横にあった地面に入り込んで、消し飛ばす!
その衝撃だけでベ・ヴェルの身体が浮き上がるほどだ。
(これが全力の一撃かい! しかも利き腕じゃないってんだから、ヤバすぎだねぇ! 普通の人間が勝てる相手じゃないよ!)
魔獣なので当たり前だが、このレベルになれば最初から人外の領域に入っている。
そんな左腕猿将が、絶対に負けられないと気迫を見せれば、まだ戦気すら満足に扱えないベ・ヴェルに対抗できるわけがない。
しかし、腕力で及ばずとも、人には知恵がある。
ベ・ヴェルが暴剣を振ったタイミングで、手を放して投げつける。
左腕猿将が暴剣を斧で弾いた瞬間には、彼女はポケット倉庫から大きな盾を取り出していた。
何やらブツブツの表面をした怪しげな盾だが、左腕猿将はかまわず振り切る!
盾はあっさりと破壊されて真っ二つ。さすがのパワーである。
ただし、ベ・ヴェルはすでに背後に跳んでおり、攻撃を回避していた。
わざわざ取り出したのに、盾としての機能をまったく果たしていないが、これでいい。
直後、破壊された盾が爆発!
「ッ―――!?」
表面のブツブツすべてに『大納魔射津』を仕込んだ『爆破盾』である。
本来は押し付けて破裂させるものだが、爆発は爆発。
目の前で起きたいくつもの爆風に、左腕猿将の視界が塞がる。
その背後に―――白刃の輝き!
密かに近寄っていたユキネが跳躍して剣硬気を放つ。
ベ・ヴェルが注意を引いて、背後から仲間が攻撃するコンビネーションプレイだ。
すでに視界にユキネが映り込んでいたことで、咄嗟に勝率が高い方法に切り替えたのである。このあたりもプライドを捨てたベ・ヴェルらしい割り切り方といえる。
そして、白影命月の力によって強化された今ならば、サンロすら超える強烈な一撃となる。
左腕猿将は野生の勘で身を捻って回避。
右耳が切り落とされたものの、かろうじて致命傷は避ける。
「キイイッ!」
耳を落とされて激怒した左腕猿将は、ユキネに向かって能力を発動。
イカ墨のような黒い霧が襲いかかる。
「なにこれ!? きしょっ! 絶対危ないじゃない!」
ユキネは一目でこれが危険なものと判断し、回避を選択。
しかし、一度標的を定めた霧は彼女を追尾。左腕猿将も距離を詰めて逃がさないように追いかける。
厄介なことに霧は分散して広がることもできるので、ユキネは逃げ場を失って捕まってしまった。
(毒…じゃない? でも、あいつの雰囲気からして、長時間この状態でいるのは得策じゃないようね。遅行性かもしれないわ)
術式武具の怖いところは、初見では特殊能力がわからない点だ。
ユキネも黒い霧が何かわからず対応に困っており、せいぜい『毒消紋』を使うくらいしか打つ手がなかった。
(こっちに余力はないわ! 一気に仕留める!)
ユキネは仕方なく、短期決戦を仕掛けようと突っ込んでいく。
逃げ出すという選択肢がない彼女にとっては、これしかできないのだ。
「キキキキッ」
一方、必勝パターンに持ち込んだ左腕猿将は、ニヤリと笑う。
一度この術式にかかれば、射程距離外に出ない限りは逃れるすべはない。
ハイザクにやったように防御主体の構えになり、ユキネの攻撃を受け流していく。
その猿の様子と、自らの動きの変化でユキネも異変に気づいた。
(足が…重い? 身体のキレも悪いわ。…なるほどね、相手を弱らせる系の能力なのね。あなたの身体能力でこれをやられたら、ほとんどの相手は勝てないでしょうね)
ユキネのステータスで一番高いのは『回避値』であるため、少しずつ攻撃がかわしにくくなる。
ギリギリで回避できていた一撃も肌を擦るようになり、皮膚がめくれて肉が見えていく。
「キキイッ!」
左腕猿将は、十分に呪いが機能したのを確認。
圧力をかけて逃げ道を塞ぎつつ、全力の斧を振り下ろした。
「一騎討ち三連戦」をもってしてもなお、左腕猿将には余力がある。この段階で個としては敗北したと考えてよいだろう。
ただし、まだ終わらない。
左腕猿将が強く左足を踏み込んだ瞬間、地面が―――抜ける
片足がずっぽりと、地面にはまってしまって動けない。
そのうえ大量の針が付いた金属板が、左右から襲いかかって足に突き刺さる。
「キッ!? キーーッ!!」
左腕猿将は必死に足を抜こうとするが、針が食い込んで簡単には放さない!
これは『対重刺縛陣』と呼ばれる対魔獣用の術式罠の一つで、ソブカが使った『破仰無罫陣』と同じ系統に属する強力な封印術式である。
針の一つ一つは剣の刀身に匹敵する大きなもので、それが大量に突き刺さることで、討滅級魔獣でも動きを封じ込めることが可能だ。
『トラバサミ』に引っかかった猿に対し、今度はユキネがニヤリと笑う。
「あなた、素直すぎるのよね。浮かれた男を誘導するなんて、女からしたら簡単なの。さっきの戦いで学ばないなんて、やっぱり脳ミソは猿なのね」
ユキネは逃げるふりをして、罠を仕掛けた場所にまで誘導していた。
すでに翠清山で幾多の魔獣と戦い、人喰い熊戦を経験した彼女は、罠が有効であることも学んでいる。
動けない相手ならば、避ける必要もない。
間合いの外から剣硬気で滅多切り!!
いくら『斬撃耐性』があるグラヌマとはいえ、ほぼ無抵抗でこれだけの剣気に斬られれば、損害は深刻。
顔や身体に深い切り傷が刻まれる。
「ゴギギギギギギギリリリイリッ!!」
そのたびに左腕猿将の顔が真っ赤になり、激しい歯軋りの音が響く。
たかが人間に。
たかが雌の個体に。
どうしてこの俺様がコケにされる!!
ふざけるな! ふざけるな! こんなことは認められない!!
「ギキイッ―――(認められ―――)!」
この罠も『破仰無罫陣』同様に、討滅級レベルだと十秒程度しか拘束できない。
左足を強引に引き抜き、針に抉られてボロボロになりながらも立ち上がると、ユキネに憎悪の視線を向ける。
ユキネは動きが鈍っているので、次の攻撃はかわせないだろう。
が、やはりかわす必要はない。
「う―――おおおおおおおおおおお!!」
「ッ!?」
真横から飛び出してきたサリータが、爆熱加速で左腕猿将に体当たり。
まさかここでサリータが再度突貫してくるなど、誰も想像しないはずだ。
彼女の身体は骨折だらけで、到底体当たりを仕掛けられる状態ではない。左腕猿将も相手が瀕死だとわかっていたので、完全に意識から外れていた。
だが、それが油断。
退いたと思わせて再び突っ込み、完全に不意打ちの一撃を頭にくらわせる!
「ぐっ…!」
その代償は大きく、サリータは今度こそ完全に動けなくなった。
もし戦気を学んでいなければ、そもそも突撃すら難しい状態だったので、これが本当に最後の一撃である。
「ありがとう、サリータさん! 最高のタイミングよ!」
脳震盪を起こし、左足に踏ん張りが利かない左腕猿将が、ぐらりと倒れて前のめりになる。
そこにユキネが渾身の一撃!
喉に白影命月の刃が食い込み、そのまま振り切る!
喉はぱっくりと分かれて、血管も切れて大量出血。地面が真っ赤に染まる。
「グギギギギッ!」
それでもまだ左腕猿将は死なない。
力が入らない状態でも斧を横薙ぎにして、攻撃直後のユキネを狙う。
「死にぞこないは、さっさと死になぁあああああああ!」
がしかし、そこに背後から、ベ・ヴェルが暴剣で脳天にフルスイングの一撃!
『カーストリミッター〈序列強制の呪斧〉』の能力は強力だが、敵対象者一体にしか効果がないのが最大の欠点だ。
能力はユキネに使っているため、ベ・ヴェルはまだまだ健在。
こちらも完全にノーマークのところに直撃したため、頭蓋骨が陥没して、さすがの左腕猿将も意識が飛びそうになる。
「まだ死なないのかい! なら、こいつで終わりさね!!」
そんな彼の目に最後に映ったのは、自身の『左腕』。
ベ・ヴェルが、拾ってきた腕棍棒を振り回し、顔面に叩きつけた。
しかも、その腕には大納魔射津を噛ませていたので―――ドォオーーーンッ!
左腕猿将の顔面が爆裂。
眼球が吹き飛び、鼻が削げ、唇も焼け焦げる。
「ユキネ!」
「任せて!」
最後はユキネが、すでに目が失われて空洞になっている眼窩に剣をぶっ刺して、脳を破壊。
「ゴ……キギ……キッ……」
左腕猿将の身体は、その後も何度も激しく痙攣しながら、しばらくは動いていた。
が、脳という司令塔を失った今、それはただの生ける屍にすぎない。
ユキネとベ・ヴェルが慎重に遠距離から攻撃を続け、ついに肉体も動かなくなった。
「やった…のかい?」
「ええ、死んだようね」
左腕猿将は、絶命。
一度失った信頼と権威は簡単には戻らない。
あがけばあがくほど、どんどんドツボにはまっていく。
彼は左腕を失った時には、もう死んでいたのだ。
しかし、あがく努力をしなければ、浮き上がることも永遠にありえない。
両者に違いがあったとすれば、やはり最後に頼る者の差だろう。
「ふー、アンシュラオンさんには感謝しないといけないわね」
「そりゃ感謝はするけどねぇ。倒したのはあたしらだよ。そこは誇ってもいいんじゃないかい?」
「あなた、まだまだ周りが見えていないのね」
「ん? どういうことだい?」
「まあいいわ。首を切り落として持っていきましょう。私はグロいのは嫌だから、作業は野蛮なあなたに任せるわ」
「目に剣をぶっ刺した女の台詞かねぇ」
ベ・ヴェルは押し付けられたことに不満を漏らしながらも、慣れた手つきで首を切断していく。
ついでに多少焼け焦げたが、左腕猿将としての証拠になる左腕と心臓も確保。
「ふふふーん、アンシュラオンに見せるのが楽しみさね」
「やれやれ…ね」
楽しそうにしているベ・ヴェルを傍目に、ユキネはため息をつく。
彼女も嬉しいには嬉しいが、『真実』に勘づいているからこそ、ベ・ヴェルほどの喜びはないのだ。
(まったく、どうしてこんな大猿が単独で行動していたのか、何も疑問に思わないのかしら?)
ユキネたちが勝利できたのは、『奇跡的に都合よく、相手が単独だったから』である。
しかしながら、猿は群れで動くもの。
ソブカたちが多くの猿に襲われたように、この近くには百頭を超える左腕猿将の群れがいるはずだ。
ではなぜ、その群れはボスのピンチに助けに入らなかったのだろう?
ボスの威厳を守るためであれ、死亡したら群れ全体が危険に陥る。助太刀をしてもよいはずなのに誰も割って入ってこなかった。
となれば、答えは一つ。
すでに【何者かに排除されていた】と考えるべきだろう。
少なくとも分断や隔離があったことは間違いない。そうでなければ、奇跡などそうそう起きるものではないのだ。
(お膳立てされて、この苦戦ぶりじゃあね。微妙な戦果よね。…いいえ、それでもいいわ。私は何も知らないふりをして、『こんな大きな獲物を狩ったのよ! 褒めて、褒めて!』って満面の笑みで主人に抱きつけばいい。そのほうが賢しい女よりも可愛いものね)
彼が求めるのは、きっと可愛い女性のはずだ。従順で愛らしく、支配欲を満たしてくれる女が好みに違いない。
ならば演じよう。
それで強くなれるのならば。愛されるのならば。
ともあれ、名有りの大猿を倒したことには変わりない。喜べる時に喜ぶのも大事なことである。
「これは大金星よ! やったわぁああああああああああ! いやっほおおおおおお!」
「あ、あの、まだ走るのはちょっと…」
「甘ったれたことは言わないの! 早く行くわよ!」
「は、はい…! か、身体中が…ゴギゴギ…しますけど……がんばります!」
猿の首が入った袋を振り回しながら、ユキネたちは走っていった(全身骨折のサリータは泣きながらダッシュ)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います
リヒト
ファンタジー
不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?
「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」
ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。
何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。
生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。
果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!?
「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」
そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?
自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる