『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

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「琴礼泉 制圧」編

394話 「火乃呼の矯正 その2『刀剣対決、開始』」

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 翌日。

 琴礼泉に建てられたアンシュラオンのコテージでは、臨時の作戦会議が行われていた。


「現在、敵軍は『三袁峰』の北東に集結しているようです。おそらくですが、グラス・ギース側の脅威がなくなったため、『灸瞑峰きゅうめいほう』の戦力を吸収していると思われます」


 ソブカが机の上に置いた地図に、木材で作った駒を置く。

 そこには三つの大きな赤い駒と、小さいが色が違う紫の駒があった。


「三大魔獣を中核とした軍勢が三つ。その数は、およそ二十万とも考えられます」

「雑魚を含めて、だけどな」


 アンシュラオンが、サナを抱っこしながらソブカの説明を聞いている。

 二十万という数字に対しても、その表情にさしたる変化はない。


「低級魔獣とはいえ、数が集まれば脅威になります。事実、森林部では敵の数に散々苦しめられました」

「侮っているわけじゃない。敵の情報を正しく分析できれば、怖れることはないと言っているんだ。で、こちらの戦力は?」

「我々混成軍は、さきの防塞での戦いで負傷者が出ましたので、実質的な戦力は六千あるかないかでしょう。スザク軍もかなり強行軍で来ています。三千から四千を想定すべきです」

「およそ一万、二十分の一程度ならば、ちょうどいいか。数が多すぎても敵が警戒するし、少なくても目立たない。新ボスはオレが倒すから、雑魚を引き剥がすには十分な戦力だ」

「心強いお言葉ですが、場合によっては新たなボスを倒しても敵が止まらない可能性があります。その際は、統率された部隊より危険な存在になるかもしれません」

「それはその時だ。戦うにしても逃げるにしても、どのみち一度はぶつかるしかない。最初から選択肢は一つしかないんだ。それを傭兵連中にわからせる必要がある」

「たしかに。今のままでは撤退すら危ういですからねぇ」


 山に登るだけでも難しいが、下りるのもまた難しい。今のように雪が降っている状況では、なおさらだろう。

 今日に入ってさらに気温が落ち、琴礼泉にも霜が降りてきた。銀鈴峰は今頃、かなりの積雪量になっていると思われる。

 むやみに撤退を選択して背後を強襲されるよりは、ぶつかって相手の気勢を崩すほうが安全なケースもあるのだ。


「大規模集団戦闘において大事なことは、互いの『位置情報』だ。スザクの現在地はどうなっている?」

「すでに銀鈴峰には到着しているはずですが、とどまることなく『清翔湖せいしょうこ』に向かっていると推測されます」

「地図にある大きな湖だな」

「はい。熊神の軍勢がいないとわかれば異常を察知して、すぐに行動するはずです。あそこは食料確保の観点からも重要な拠点ですからねぇ」


 スザクやハイザクたちからすれば緊急時の合流地点ではあるのだが、他の者たちから見ても清翔湖は極めて重要な拠点だ。

 気温が下がっているので水面は凍っているだろうが、湖の魚は貴重な食糧源にもなるし、水源自体を確保できるのもありがたい。

 強行軍でやってきたスザク軍からすれば、絶対に押さえたいポイントといえる。


「一方、混成軍の動きは不明です。防塞戦自体がイレギュラーでしたので、無理はしないと思いますが…」

「安全第一のグランハムのことだ。まずはモズたちの帰還を待つだろうな。急がせたから明日には到着するはずだ。その際に『手紙』を渡してもらえれば、だいたいの事情は伝わるだろう」

「『説得』はグランハムさんに任せる方向でよろしいですか?」

「ああ、あいつならなんとかするだろう。今までの戦いでオレの力も見せている。あくまで陽動だと強調すれば納得する連中も多いはずだ。まあ、帰りたいやつは好きにさせればいい。死んでも知らんがな」


 モズたちは昨日の間に琴礼泉を離れている。彼らには武器を届ける大事な任務があるからだ。

 ただし、二小隊だけで帰すのは危険なため、護衛兼移動手段として『命虎』を貸し与えていた。

 命虎は炸加たちを運んだように機動力に優れるが、戦闘力もモグマウスの十倍以上はある。万一魔獣に襲われても撃退は容易だ。

 混成軍の傭兵たちがどんな判断を下すかはわからないものの、最悪はマキとアルと警備商隊、それとベルロアナ隊が動いてくれれば問題はないと判断していた。


「スザクが清翔湖に向かったのならば、進むにせよとどまるにせよ、上手く敵が釣れるかもしれないな。あいつのことだ。兄貴を見捨てて逃げることはしないだろう。可能な限り、進軍か迎撃を試みるはずだ」

「さすがに戦力差がありすぎませんか? 負け戦になって敗走にでもなれば、敵が混成軍に押し寄せる可能性もあります」

「四の五の言っている状況じゃない。スザクもすべて承知の上だろう。ハイザクの戦死は確認されていないな?」

「フクロウさんたちは知らないそうです。すでに魔獣軍の中枢には潜り込めない状況らしいですねぇ」

「だからこんな場所をうろうろしていたのか。そのほうが都合が良いから、オレたちとしては問題ないがな」


 ケウシュは三大魔獣用の武具を届けたあと、すでにお役御免状態になっていたようだ。

 その理由は、クルルがハイザクの身体を手に入れて完全体に近づいたため、他種族間での広範囲の意思疎通が可能になったからだ。


「何はともあれ最大の標的は、やはりこいつだ」


 アンシュラオンが、紫の小さな駒を軽く指でつつく。


「こいつを仕留めれば戦況は一変する。それは間違いない」

「孤立させられれば倒せるのですよね?」

「敵の力量次第だが、撃滅級だと想定してもまず負けることはない」

「それは…素晴らしいですね」

「一般的に魔獣の力は大きさに比例することが多い。しかし、ケウシュの話では、そいつは少なくとも山のように大きい個体ではないそうだ。大きさに力が比例しないのは特異能力タイプに多い。その場合、いかに相手の強みを消すかが重要になる」

「集団を操作する能力ですね」

「それだけではない可能性もあるが、まずは最大の長所を潰す。オレがやつと戦っている間は、他の魔獣を操作することはできないはずだ。いや、させないつもりだ。そこが勝負の分かれ目でもある」

「なるほど。それならばだいぶ弱体化できそうですね。ですが、敵から攻撃を仕掛けてくる可能性もあるのでは? たとえば琴礼泉に大群を送り込むということは?」

「少なくともオレたちが琴礼泉に滞在している間は、やつは動かない。絶対の確証があるわけじゃないけどな。確率は高いと踏んでいる」

「例の『監視』ですか?」

「ああ、すでにやつはオレを視ていないようだ。しばらく前から視線を感じなくなっている」

「敵はアンシュラオンさんを危険視している様子。簡単に監視を外すとは思えません。自慧伊さんたちが、アラキタさんを殺したことが関係しているのでしょうか? 彼も操られていたと聞きましたが…」

「そのようだな。あらかじめ羽根の情報を得ていれば、救ってやることもできたかもしれない。が、どうせよそのスパイだ。結果は同じだったか。拷問されずに死ねただけ幸せだな」


 先日のアラキタ殺害後、自慧伊とジュザの姿が見えなかったが、しっかりと影に潜んで仕事をしてもらっていた。

 彼らには交渉が失敗して乱戦になった場合、サナたちを琴礼泉から逃がすための脱出路を確保させていたのだ。

 これに関しては、アンシュラオンがすぐに合流したので意味はなかったが、常にサナたちの安全を考えていることがわかる。


「話は戻すが、やつは今、何かしら動けない状況にある。第二海軍を叩いた直後だから消耗が激しいのはわかるが、やや不可解だ。もしかしたら『操作範囲が狭まっている可能性』もある」

「力を集中している、ということでしょうか?」

「普通に考えればな。オレだって遠くの闘人を操るのは難しい。五キロ以上離れると細かいところまでは制御ができなくなる。より強い軍を作るために、今までのような広範囲での操作は諦めて、比較的近い距離で動こうとしているんだろう。そのほうが効率的でもある」

「では、ますます敵軍からボスだけを引き離すのは難しくなりますね」

「考え方によってはこちらのほうがいい。オレが一番困るのが、敵軍がバラバラになって各都市に向かうことだ。あれをまたやられると被害を防ぎようがなくなる。敵がまとまって山に残っていてくれたほうが楽だ」

「手ごわくなる一方、固まってしか動けないのならば移動ルートも読みやすい。『罠』にはめやすくなりますねぇ」

「そうだ。大きな軍勢だからこそ隙間が必ず生まれる。やり方によっては分断はそう難しくない。ただし一番厄介なのが、マスカリオン率いるヒポタングルたちだ。空を飛ばれると、こちらの動きが丸見えになる。猿や熊よりも何倍も危険な相手だ」


 この世界の戦いは、『人間が空を飛べない』ことで原始的な地上戦が主流となっている。

 地球でも飛行機や戦闘機が生まれてからは、戦争のやり方が一変した。空を飛べることは、それだけ大きなメリットなのである。


「だからこそ、マスカリオンたちをスザクに引き付けてもらいたい。どうせ索敵をするのはヒポタングルの役目だ。先行して最初にぶつかるとすれば、やつらの可能性が高い」

「スザク軍がどれだけもつか、ですか。混成軍からも援軍を送りたいところですねぇ」

「オレからも少数だが闘人を送る。なんとか耐えてもらうしかない。しかし、マスカリオンを抑えることができれば、勝率はぐっと高まるだろう。ここでも大事なことは『連携』だ。スザクにも手紙を送っておこう。いくら空からでも『地中』には手出しできないからな」


 敵が空を制しているのならば、こちらはモグマウスに地中を移動させて対抗する。

 これならば敵はこちらの動きに気づかない、あるいは気づくのが遅れるはずだ。

 そもそも油断しているのならば、ヒポタングルの警戒網も緩んでいる可能性があるが、できるだけ細心の注意を払っていたほうがよいに決まっている。

 できることはこちらの意思と意図を伝えることだけなので、最終的にはスザクとグランハムの状況判断能力に任せることになるが。


「では、残りは二軍。そこをどう崩すかですね。鍵はやはり『地形』ですか?」

「敵は自分たちがホームだと思っている。そこが逆に狙い目になるはずだ。細かい作戦は任せるが、今度は焦ってとちるなよ」

「ふっ、精進するとしましょう」

「さて、オレはそろそろ行く。向こうの【準備】ができたようだからな」


 アンシュラオンが窓から外を見ると、そこには若猿とケウシュがいた。

 若猿は、件の大怪我をして助けられた若い個体で、今では火乃呼のボディーガードのように従順に付き従っている。

 彼らは『火乃呼の使い』としてやってきたのだ。


「一応は女性です。お手柔らかにお願いしますよ」

「放っておいても火種になるだけだし、ここで一回叩き直したほうがいいだろう。サナ、行くよ」

「…こくり」


(対応はできる。今のままでも勝てはするが…相手の力が未知数である以上、『最悪のケース』も考えておかないといけない)


 ソブカには弱気にさせないように強気に言ったものの、どれくらいの損害が出るかはわからない。

 この勝負は、ただ勝てばよいというものではない。

 アンシュラオンたちだけ生き残っても、他が滅びてしまえば北部は終わりだ。ハピ・クジュネの力を必要以上に落とすわけにはいかず、グランハムたちも生かす必要がある。


(より安全に勝つためには、あと『一手』足りない。それをどう補うか…。本当に危ない場合は、オレが全力で敵軍を排除するしかないが、力を全部使ってしまうと、もし想定外の敵が出てきたときに対応ができない。それではリスクが大きすぎる。…やれやれだな)


 そもそも負け戦を勝ち戦にするためには、通常の何十倍もの労力が必要になる。それを単独で補うのだから無理が出るのは仕方ない。

 いろいろと頭を悩ますが、今は火乃呼の件が先だ。

 アンシュラオンとサナがコテージを出て、若猿たちの案内で彼女の工場に向かう。

 琴礼泉自体は直径二キロ程度しかないので、すぐに到着。

 工場の近くにあった川辺に火乃呼と一緒に、十数頭のグラヌマがいた。

 彼らは若い個体ではなく、左腕猿将の群れにいた成熟した者たちだ。足元には頭数分のさまざまな形をした刀剣類が突き刺してある。


「案外準備に時間がかかったな」


 アンシュラオンが、腕組みをしながらこちらを睨んでいる火乃呼に話しかける。


「うるせぇ。いきなり準備ができるわけねぇだろう。勝負を吹っ掛けられたのは昨日なんだからよ」

「いきなり勝負とか言い出したのは、お前だけどな」

「ああ!? おれに喧嘩を売っただろうがよ! 忘れたとは言わせないぜ!」

「喧嘩を売ったつもりはない。事実を述べたまでだぞ」

「それが喧嘩を売っているってことなんだよ!」

「いやいや、おかしいだろう。事実を聞いて怒るなら、それを認めたってことじゃないのか?」

「細けぇことはどうだっていいんだよ! てめぇはおれを否定した! だったら喧嘩だ!」

「直情的なやつだなぁ。炬乃未さんとは正反対だ」

「おれはおれだ! 炬乃未じゃねえ! 当たり前だろうが!」


 火乃呼の眼光はかなり鋭く、親の仇でも見るようだ。

 やはり職人。彼女にとっては鍛冶こそ人生のすべてなのだろう。それこそ親と触れ合うよりも多くの時間を費やしているのだ。


「で、勝負方法は?」

「そもそも剣の優劣なんて簡単にはつけられねぇ。やるなら単純にぶつけ合うしかねえよ」

「なんだ、ただの馬鹿じゃないみたいだな」

「ああ!? 馬鹿だぁ!? ざけんなよ、てめぇ!」


(ほとんどチンピラかそこらの傭兵だな。慣れてるから扱いやすくていいけど)


 当然のようにメンチを切り、威嚇してくる姿は、混成軍でもよく見かける傭兵たちに似ている。

 ただし、女性かつ相当な美人であることには変わりがないため、クソみたいな男連中とは一線を画すのは間違いない。

 そして、勝負の方法は『斬り合い方式』に決まる。

 互いに得物を持って剣同士を叩きつけ合うシンプルなやり方だ。


「こっちはオレがやるとして、そっちは猿を使うのか?」

「おれは鍛冶師であって、剣士じゃねえ。ここに来てからは、ずっと猿用の武器ばかり作っていたから人間用のがねぇんだよ。文句はねえよな?」

「なんでもいいさ。ただ、それならばオレは、剣気を使わないほうがよさそうだな」

「剣士が剣気を使わないで戦うだぁ? それでいけんのか?」

「見ていればわかる。じゃあ、さっそく始めようか」

「おい、卍蛍じゃねえのか?」

「傷が付いたらもったいないだろう? 今のお前じゃ修復も難しそうだしな」

「…てめぇ、なめんのも大概にしろよ!」

「ほら、誰でもいいから早くこいよ」


 アンシュラオンは火乃呼を無視して、剣を抜く。

 それは卍蛍ではなく普通サイズの長剣だった。ただし、そこらの店で買うような安物でもない。


(あれは爐燕の剣か。悪くもないが、特段いいってわけじゃねえな。ランク的にはCかDってところだ)


 このあたりは一流の刀匠と呼ばれるだけはある。即座にその剣が爐燕作であることを見抜いた。

 卍蛍と黒千代が総合ランクでいえば「B」に該当するので、その一つか二つ下のランクの剣だ。それでも世間では上質な剣といえるだろう。

※卍蛍は希少価値としては「Aランク」だが、刀剣としてまとまった性能に調整されているので、その評価に落ち着いている(準魔剣のような強力な特殊効果がなく、剣士の力量に左右されるため)

※対して『侯聯こうれん』シリーズの総合ランクは、一流以外の剣士が使っても高威力を発揮するので「A」になっている。


「猿、行け! 左端からでいい!」

「キィッ…」


 あまり乗り気ではない様子で、元左腕猿将の部下が剣を引き抜いて前に出る。

 琴礼泉に残ったグラヌマの数は、約八十頭。

 昨日の乱戦で死亡した個体はもちろん、戦意喪失してやる気を失ってしまった者は使い物にならないので、そのまま離脱させている。

 おそらくは戦いが終わるまで身を潜めるのだろう。魔獣とはいえ個性はそれぞれだ。戦いが苦手な者もいる。

 また、ここに残った者たちは、単にアンシュラオンを畏怖しているだけではなく、【子猿の保護】を条件に協力する形になっていた。

 もともと琴礼泉は非戦闘区域として認識されており、子猿たちの避難所の一つである。

 炸加たちが触れ合っていた子猿は一部で、実際は数百頭以上の子猿と、その倍の雌の個体がいる。(雌も剣を使わないわけではないが、剣を持って戦うのは主に雄)

 その件に関しては、火乃呼もアンシュラオンの行動を理解しかねていた。


(どういうつもりだ? 覇王の弟子だかなんだか知らねえが、どうして魔獣まで庇う? おれらを懐柔するためにやってんのか?)


 いまだ火乃呼は、アンシュラオンに懐疑的であった。

 それも含めて、この戦いで見極めてやろうと目を凝らす。

 両者が前に出て、剣を振りかぶり―――ガキンッ!

 互いの刀身が激突して火花が散る。

 が直後、猿の手から剣が吹っ飛んで、川沿いにあった岩に突き刺さる。

 気の抜けた一撃に対し、アンシュラオンが剣を突きつけながら警告を発する。


「何やってんだ。ちゃんと振れ。次は腕ごとへし折るぞ」

「…ッッ」


 猿の右手が、ぐわんぐわんと痺れている。

 アンシュラオンが、パワーだけで軽々と猿を上回った証拠である。

 しかも猿の剣は、人間用よりも二回り以上は大きい。重量も倍近いはずだ。


「猿! 本気でいけ! おれの剣を使ってんだ! なめられてんじゃねえぞ!!」

「キ、キキッ!!」


 猿は剣を引き抜き、改めて攻撃開始。

 今度は本気の一撃で豪快に振り抜く。

 が、アンシュラオンはそれも軽々と受け止め、さらに少しずつ力を弱めて敵と同等になるように調整。

 それによって、ようやく斬り合いらしくなる。


(あいつ…! なんてパワーをしてやがる! あのサイズの猿の腕力なら、人間の武人だって一捻りのはずなのによ! ライザックに勝ったって話は本当なのかもしれねぇ…)


 火乃呼は今まで、クジュネ家の武人が最高だと考えていた。

 事実、ガイゾックやハイザクは上位の武人であり、知略を好むライザックも肉体派といえる。人たらしのスザクも資質としてはシダラたちを圧倒する逸材だ。

 しかしながら、アンシュラオンは武人としての桁が違う。

 大きくて広くて、どこまでも続く空のように、底がまったく見えない。

 その姿に、一瞬だけ胸が高鳴りそうになる。

 なぜならば彼女も派手好きで、より大きなものを好む性質があるからだ。

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