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零章 第二部『バーン来襲、アピュラトリス外周制圧戦』

三十二話 「RD事変 其の三十一 『オブ・ザ・バーンという象徴』」

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 話は会議場の騒動より少し前に戻る。

 アピュラトリス外周では、まさに衝撃の光景が広がっていた。ホウサンオーのナイト・オブ・ザ・バーンとガガーランドのドラグ・オブ・ザ・バーンは、互いに塔を逆方向に回りながら【纖滅】を開始。

 そう、纖滅。
 たった二人。たった二機。
 だが、それが止められない。

 ナイト・オブ・ザ・バーンが一度長い刀を振るえば、一気に百メートルが扇状に斬り裂かれていく。MGも戦車も関係ない。一撃だ。兵士たちはもはや、その光景に戦意を失い、半数は逃げ出す。

 もう半数は果敢にも向かってくるが、対戦車ロケットはナイト・オブ・ザ・バーンに当たる気配がない。ナイト・オブ・ザ・バーンは比較的大きいタイプのMGで、こうして何十発も発射していれば一発くらいは当たりそうなものである。

 惜しいシーンはいくつかある。
 かすめるような瞬間もあるのだが、やはり当たらない。

「ほれほれ、さっさと逃げんか」
 ホウサンオーはそうした抵抗をあしらいながら、まるで蟻を追い払うかのように刀を動かして、兵士たちに逃げるチャンスを与える。抵抗していた兵士たちも攻撃が当たらないことに恐怖を覚え始め、次第に散っていく。

「うむうむ、それでええ。無理に死ぬことはないからの。ワシも面倒がなくてよいわ」
 ホウサンオーが無用な殺生を嫌うこともあるが、もともとナイト・オブ・ザ・バーンは対人用に設計されているわけではない。

 長い刀はあくまで対MG用に用意されたものであり、地面を這いずり回る人間相手にはそもそも使いにくい。すでに黒神太姫の調整は終わりつつあるので、これ以上生身の兵士にかまうのは御免でもあるのだ。

(あまり弱い相手の癖をつけたくないからのぉ)
 いくら強い武人であっても、弱い相手とばかり戦っていれば無意識にブレーキをかけてしまうものである。それはAIにおいても同じで、黒神太姫ほど高性能なものとなると【雑魚戦】に慣らすのはもったいないのである。

 本来ナイト・オブ・ザ・バーンは対特機用の機体であり、敵の中核戦力を叩く最強の剣の役割を果たすものなのだ。一騎当千の武人がいるならばともかく、この状況では本来のポテンシャルは発揮できない。

 こうした理由もあり、ホウサンオー側の兵士は比較的高い生存率を維持できていた。だが、反対側のガガーランド側は、それこそ正反対の惨事であった。彼もまた誇り高い戦士であるが、そもそもの戦い方が違うのだ。

 ドラグ・オブ・ザ・バーンが拳を地面に叩きつけると、地鳴りとともに激しい衝撃波が大地を席巻する。三十五メートル級のビルのようなMGが放つ一撃は、相手がMGであろうが人間であろうが関係ない。

 一撃で彼を中心とした半径二百メートルが吹き飛んでしまう。これをもらって唯一無事なのは、サカトマーク・フィールドを展開しているアピュラトリスのみである。

「弱い。弱すぎる。これでは慣らしにもならん」
 ガガーランドは不満そうに、侮蔑の視線を周囲に送る。

 ナイト・オブ・ザ・バーンと違い、ドラグ・オブ・ザ・バーンにはMGと戦車の砲撃が直撃している。これだけ大きいとさすがに回避は難しい。

 それ以前にガガーランドは、回避そのものをしていない。陸軍が放つすべての攻撃を正面からも背後からも受けている。それでもまったくの無傷である。

 この機体にもタオが付けた障壁がそなわっており、その規模はナイト・オブ・ザ・バーンよりも上なのだ。ということは、現状のMGの中で【最強の防御力】を誇っているということである。

 しかし、ガガーランドはホウサンオー同様にその機能を切っていた。あっさりと切っていた。そんなガガーランドにタオから苦情が来る。

「やっ、こら。ドラグまで障壁切ったらいけないんだなー。しかも全部当たってるしね!」
 ホウサンオーは避けているからまだしも、ガガーランドは全部直撃をもらっている。それならば障壁を使ってもいいんじゃないのかね、とタオは言っているのだ。

 タオ当人は、自分の作ったシステムの実証データが欲しいので必死である。陸軍に囲まれた、こんなおいしい場面を逃す手はないのだ。

 だが、ガガーランドはあっさり断る。

「オレには必要ない」
「やっ、壊れたら、直すのはお姉さんなんだぞー。部品だって集めるの大変なんだな」
 機体設計はタオがやっているが、部品などは各地の下町工場に発注していることが多い。

 輸送には、いくつものダミーやペーパーカンパニーを経由して最大限の警戒をもってあたっている。経費はともかく、手間と時間という面ではかなり厳しい状況なのは間違いない。できれば破損は少ないほうがいいに決まっているのだ。

 そう、ラーバーンの技術は、こうした小さな町工場まちこうばによって支えられている。当然ながら大手のMG企業に頼るわけにはいかないので、必然的にそうした相手になるわけだが、技術的にも彼らのほうが勝っていることが多い。

 彼らのような職人は口が堅く、新しい技術にも関心がある。装甲に術式を組み込む新しい技術も、彼らから考案されたものなのだ。そして、ラーバーン側からの発注は、彼らにとって非常に価値あるものである。新しい技術、潤沢な資金を与えてくれ、自由に仕事をさせてくれる素晴らしいパートナーなのだ。

 シッポリート博士が手作業で作っているブラックボックスを除いて、オブザバーンシリーズの精密機器や装甲は彼らが製造を手がけている。手がけたのは【技術の国】として有名なグレート・ガーデンの町工場である。

 よってハムジェルクの感想は、部分的だが正解していたといえる。グレート・ガーデンは非常に規制が緩く、ルシアの国家機密からそこらの三流テロリストの仕事まで簡単に引き受けてしまう。他の常任理事国からは規制強化を毎度打診されているが、グレート・ガーデンは無視。

 なぜならば、それこそが彼らの強みなのだ。

 あの国には世界各国の技術が集まり、自由な発想と多様性が生まれる。それこそ技術の国が愛する力であり、最大の【売り】となる。結局、他の常任理事国も最高の技術のお世話になるしかなく、グレード・ガーデンは今日も職人や芸術家を好きにさせているのだ。

 悪魔が使っている戦艦ランバーロも賢人の技術を使っているが、組み立てたのは町工場の職人である。彼らの自由な発想、探求心がラーバーンを支えているといってもいい。

 といっても、やはり輸送には気を遣うので部品は貴重である。ラーバーンは明確な拠点を持たないのが強みである一方、それが補給には不利になることもある。

 と、こうして長々とタオが正論を言っても、この男が聞くわけもないのだが。

「機械屋ふぜいが、バーンの戦いに口を出すな。戦うのはオレたちの役割だ」
 そのガガーランドの言葉も正論である。むしろラーバーン内においては、唯一絶対の【掟】に近いほど厳格だ。

 ラーバーンには役割が存在している。

 こと戦闘においては、バーンの意見と決断が最優先される。仮にメラキがいても最終決定はバーンが行う決まりである。主宰であるゼッカーはもちろん、序列が高い順に決定権が与えられている。

 この作戦においては、ゼッカーの直接の命令がない限り、序列二位のホウサンオーの意見が絶対的に優先される。それに次ぐガガーランドもしかりである。造ったのはタオであるが、どう使うかはバーンの自由なのだ。

 というのはバーン側の言い分。

「なにを―――! MGがなければ戦えないんだぞー! もっとこっちに配慮するんだな!」
 タオはかまわず激高。技術屋には技術屋の言い分があるものだ。

「ふん、MGだろうが何だろうが、武人の戦いに道具の優劣は関係ない」
 ドラグ・オブ・ザ・バーンの装甲は厚いうえに、ガガーランドの戦気が上乗せされている。これがあまりに強固ゆえに、装甲には傷一つついていないのだ。

 通常、障壁なしでここまで強固な防御力は生まれない。まさに武人としての圧倒的な力量が反映されている稀少な例であるといえる。

 さらにダイレクトフィードバックシステム、カノン・システムを起動させ、感覚を機体と共有していた。これはナイト・オブ・ザ・バーン同様、感覚、思考のすべてが機体とシンクロするので、自分の身体のようにMGを扱える利点がある。

 ただし、感覚を共有するということは、【痛みさえも共有】することになる。

 仮に腕が落ちれば、ガガーランドもそれと同じ痛みを感じることだろう。それは錯覚ではあるが、神経をジュエルモーターとつなげているので実際の痛みとなり、その痛みが現実に肉体を損傷させる。

 人の精神とは、それだけ強い力を持つのだ。
 なぜならば肉体は、精神の道具であるからだ。

 そもそも戦気そのものが精神の強さの表れである。これだけの強い戦気を生み出すガガーランドの精神力が強くないわけがない。

 並外れているのだ。桁が違うのだ。

 その圧倒的な戦気の量はホウサンオーすら上回る。いや、バーン最強である。おそらく彼は、休みなく一年間以上戦い続けることができるだろう。精神が完全に肉体を制御してしまうので、寝る必要もなく食事も必要ない。

 ただただ圧倒的なのだ。精神そのものが彼そのものでもある、といえるほどに。それがドラグ・オブ・ザ・バーンの力をさらに引き出しているのは間違いないだろう。

「壊れたら自分で直すんだな!」
「どうせ黙ってはいないくせに。できないことを言うものではないな」
「チクショー! ドラグの適合者がほかにいれば、こんな苦労はないんだな!」

 ドラグ・オブ・ザ・バーンは、タオにとって息子のようなものだ。それが壊れたら黙って見ているわけがない。率先して直すに決まっているのだ。

 タオがこんなに苦労しているのも、ドラグ・オブ・ザ・バーンを操れるのがガガーランドしかいないせいである。そこは泣き寝入りするしかない。MGは乗る武人がいてこそ意味があるのだから。

(タオ・ファーラン…か。たかだか二十数年しか生きていないくせに、これだけの才能を持つとは)
 タオがガガーランドの強さを受け入れるしかない一方、ガガーランドもタオの才覚を認めていた。一流の人間は一流を知るのである。

 ガガーランドは道具の優劣は関係ないとは言ったが、ドラグ・オブ・ザ・バーンの出来には感嘆していた。優れた演奏家は、くたびれたウクレレであっても良い演奏ができるが、超一級品のバイオリンであったほうが最高の曲が弾けるのは当然のこと。

 優れた武人に優れたMGを与えてこそ意味があるのだ。
 それでこそ名機なのだ。

 ナイト・オブ・ザ・バーン。
 ドラグ・オブ・ザ・バーン。

 この【オブザバーンシリーズ】は、ゼッカーがガネリア動乱で使用していたアンバーガイゼル【杭打ちの悪魔】の技術を受け継いだ機体である。その中枢の構築においては、アンバーガイゼルを造ったシッポリート博士の協力を受けたものの、その他の動力とフレーム設計はすべてタオがやったものだ。

 その腕、まさに天才的。
 その発想、まさに狂乱的。
 孤高の芸術家と呼ぶに相応しいセンスである。

 彼女のような人間を評価してこなかった五大国家は、大きなミスを犯したとしか言いようがない。ガガーランドでさえ、もしタオが敵側に回ったと思うと嫌なものである。変人ではあるが、それだけの逸材なのだ。

 そして、天才タオが生み出した機体の中で、「オブザバーン」の名を持つ機体には特別な意味がある。

 バーンを体現するもの。
 ラーバーンの意思と力を示す存在である、その象徴として。

 よって、オブザバーンの名を冠する機体は少数かつ、上位バーンにしか与えられていない。

 バーン序列二位。
 ホウサンオーが有するナイト・オブ・ザ・バーン〈バーンの騎士〉。

 バーン序列三位。
 ガガーランドが有するドラグ・オブ・ザ・バーン〈バーンの獣〉。

 そして、バーン序列一位。
 パミエルキが有するサタナ・オブ・ザ・バーン〈バーンの魔人〉。

 これ以外には、もう一機だけ開発が続けられているにすぎない。

 たったこれだけである。オブザバーンとは、最強のバーンたちに与えられる最強の力なのだ。それは世界を燃やすための力であり、実際に燃やすだけの力がそなわった恐るべき兵器である。

 ナイト・オブ・ザ・バーンのホウサンオーの力は見ての通り。当然、序列三位のガガーランドもまた同じく【異端】である。

「痛みだ!! オレに痛みを与えろ!! 生きている証を与えろ!!!」
 ガガーランドは【痛み】を欲している。戦いとは痛みあってのもの。殴る側に痛みが伴わない戦いは邪道であると考える。

 だから、この戦いにも不満を感じていた。
 誰一人として自分を傷つけないのだ。
 傷つけてくれないのだ。

 ドラグ・オブ・ザ・バーンから膨大な戦気が放出され、TJM(トライ・ジュエル・モーター)の出力が上がっていく!!

「やっ、気をつけるんだな! ドラグのTJMは試作機の三十倍の出力なんだぞ―――!」
 タオはフル回転を始めたTJMを見て絶叫する。彼女が考案したトライジュエルモーター、簡単に言えばジュエルモーターを三つくっつけるものなのだが、これが非常に厄介であったのだ。タオの脳裏に今までの苦労が蘇る。

○TJMの問題点(タオの脳内での回想)

 一つ目は、パワーが強すぎること。

 試しにジンクイーザに付けて出力を最大にしたら一瞬でバラバラになって、所有者であったフレイマンに五時間に渡って小言をネチネチ言われた件について。まだ最大出力では安定しない欠点もあるので怖い。

 二つ目は、パイロットへの負担が大きすぎること。

 試しにロキを乗せたら圧力で死んでしまって、その後に他のバーンがまったく協力してくれなかった件について。ゼッカー本人にも乗ってくれとお願いしたが、ザンビエルが本気で怒ったので「なんだ、あのハゲジジイめ」とか思った件について。

 三つ目は、ジュエルの消耗が激しい点。

 すぐジュエルが壊れるので、高品質のアグマロアをこっそり持ち出して使ったら、爆発して格納庫で変な生き物が大量発生した件について。よく見たらゴキブリがアグマロアの力で巨大化したもので、「リアルテラフォーマーなんだな!」とか思った件は懐かしい。

 さらに他のジュエルでもすぐに壊れたので、今度はゼッカーのバルス・クォーツ〈星の記憶〉を盗もうとして怒られた件はトラウマだ。

 タオがゼッカーに夜這いを仕掛けたと護衛のバーン序列十五位のシルキュラに勘違いされ、マジで殺されそうになった。いまだに思い出すとちびりそうになる。あの女、冗談が何一つ通じない。恐ろしいやつ。(タオは本気で盗もうとしていたが)


○TJMの解決策(タオの反省と改善点)

 問題点の一つ目のパワーが強すぎる件は、装甲の強化と機体の大型化によって克服した。

 それでも通常のMGの三倍以上の大きさになったので、正直運用面では使い勝手が悪い。ミユキとマユキの転移でさえ送るのが苦戦したので、いつかは規格そのものを見直す必要があるかもしれない。

 二つ目の問題はガガーランドが来たことで解決。

 それまでは頑丈なバーン序列三十八位のガルベスを騙して乗せていたが、乗るたびに内臓にダメージを受けて、口から血を出すのが正直怖かったので助かった。

 毎回「口から血が出るのは健康な証拠なんだな」と嘘を言っていたのだが、さすがに心苦しくなっていたので良かったと思った。

 三つ目の問題は、耐久性の強いテラジュエルを見つけてもらって(二つは人様のものを盗んで)解決。

 ただ、最初は組み合わせを間違えてエネルギーが逆流したため、これまた試作機が一瞬でバラバラになったという苦い経験がある。その際、ランバーロの格納庫にも穴が開いたのでめちゃくちゃ怒られた。

 しかも巻き添えをくらって、穴から落ちたバーン序列四十位のキースがいないことにしばらく気がつかず、その後砂漠に放置していた件が発覚。あとですごいキースにキレられた件も、いまだにトラウマである。なにあのチンピラ、うざいと思った。

※タオの回想終わり


(ああ、がんばったよ。うち、がんばったんだな)
 タオは製造の大変さを思い出して、思わず涙を流す。このように文字通り、タオの涙ぐましい努力によってようやく完成した機体なのだ。感慨も深いというものだ。

 ただし、その苦労に見合うほど【超危険なMG】になってしまったのだ。

 TJMは正直、まだ実験段階である。ジュエルの組み合わせ次第では無限の可能性を秘めているものの、安定性と耐久力には難があるのだ。試作機が簡単に吹っ飛んだことからも、暴発した際の威力は想像を絶するだろう。

 タオとしてはデータが欲しい反面、できれば少しずつ出力を上げていってほしいなーと思っていた。

 願望である。
 希望である。

 しかし、ガガーランドが聞くわけがないのである。所詮、願望は願望のままでしかない。この戦う以外に何の取り柄もない男に、そんなことを言っても無駄なのはわかっていた。

 だからバーンなのだから。

「雑魚は消えろ!!」
「いやぁぁあああ! やめてぇええ―――!」

 タオの叫びむなしく、ドラグ・オブ・ザ・バーンの拳が三倍に膨れ上がった。戦気があまりに強固で膨大なため、実際にMGの手が肥大化したように見えたのだ。

 それを大地に叩きつける!!

 大地が割れ、戦気のマグマが爆発しながらアピュラトリスの外周を回っていく。局地的な天変地異が起きたかの如く、ダマスカス陸軍の部隊は次々と爆発に呑まれて消えていった。

 わずかに戦気の欠片が触れただけでも、人間程度ならば消し飛ぶ威力。痛みがなかったのはせめてもの幸いだろうか。

「うぁあ、足がぁーー!」
「腕が…俺の腕がぁあ!」
「痛い、痛い、痛い!!」

 そこら中で余波に巻き込まれた兵士たちが、のたうち回っている。誰もが痛みに苦しんでいた。だが、ガガーランドには理解できない。

「わからん。なぜ痛みを怖れる! なぜ喜ばない!!」
 周囲から発せられる恐怖の感情、痛みを怖れる感情はガガーランドを不快にさせる。どれもが弱々しく、マイナスの感情ばかり出しているからだ。

 ここには本物の武人はいない。
 本当に戦うために生まれた存在ならば、それ自体が喜びのはずなのだ。

「足りぬ、足りぬ、足りぬ!!!」
 ドラグ・オブ・ザ・バーンは、怒り狂ったように大地に拳を叩きつける。そのたびに大地は破壊され、周囲に衝撃波が襲いかかる。まさに災害である。

 ちなみにドラグ・オブ・ザ・バーンが立っている場所は、「アピュラトリス外周」と呼ばれる、塔の周囲一キロのエリアである。

 このエリアは建造物はまったく存在せず、大地はアピュラトリスの隔壁と同じ素材で造られているため、恐ろしいほど強度が高い。それを砕くドラグ・オブ・ザ・バーンの拳の威力は、見ている人間に恐怖を与えていく。

 ナイト・オブ・ザ・バーンとドラグ・オブ・ザ・バーンの目的は、このエリアから陸軍をすべて排除、あるいは退去させることである。そのため二機は、陸軍を押しやるように外側に向かって移動していく。

 そして、ダマスカス陸軍は次第に後退。外周一キロから五キロの間にある、アピュラトリス関連施設で埋め尽くされている第二防衛エリアに押し込められる。

 ただし、それだけで終わるはずもなかった。

「ゲート、開きます。衝撃にご注意ください」
 ダマスカス軍を圧倒する二機にマレンから連絡が入る。同時にゲートが解放。

 始めに落ちてきたのは衝撃爆弾、DP5。本来の使い方はあらかじめ設置しておき、敵が来たら爆発させるものであるが、現在は直接ゲートから投下している。

 DP5の特徴は、爆発力が通常の爆薬を圧倒している点だ。むしろ爆薬が強すぎるのが難点であり、安定性にも欠け、製造中や輸送中の事故が相次いで兵器としては失敗作の烙印を押されたものである。

 が、こうして転移させてしまえばあとは爆発させるだけであるので、攻撃する側としては非常に都合がよい。特にこうした大多数の敵を相手にする場合、受ける側にとってはまさに脅威である。

 DP5は、二機から逃げまどう兵士たちを狙って落とされる。ちょうどアピュラトリスから多少離れた二キロ地点。兵士たちが固まって移動していた地点であり、転移がギリギリ可能な場所を狙って落とされた。

 爆風はすさまじく、まるで火山の噴火である。巨大な竜巻に小さき人間たちが呑まれていくかのように、一瞬で人を破壊していく。それを見た兵士たちはパニックに陥り、中にはアピュラトリス側に逃げる者たちもいた。

 しかし、そんな彼らをまた悲劇が待ち受ける。

 次に転移してきたのは、彼らを一瞬で押し潰す悪魔の兵器、巨大MGリビアルⅡ。リビアルは巨大な砲台を装備した全長五十メートル、全高二十メートルの対戦艦用のMGである。

 その巨体のリビアルが兵士たちの上に落下。容赦なく踏み潰す。それから砲撃を開始し、手当たり次第に周囲の動く物を破壊していく。砲撃は中型戦艦のものと同程度のサイズのため、ビルごと周囲を破壊していく。

 リビアルの隙間から次に降り立ったのは、あの悪魔の兵器バイパーネッドだ。バイパーネッドはまさに悪魔の兵器そのものであり、人を殺すためだけに造られた殺戮機械である。

 DP5とリビアルによって混乱に陥った兵士たちに対し、バイパーネッドはダブルガトリングガンで完全排除していく。機体のコンビネーションは完全なる統一の上で行われており、誰一人として逃さないほど精密に動いていた。

 気がつけば周囲は一瞬で血の海と化した。
 まさに悪魔の所業である。

 リビアルもバイパーネッドも、ガネリア動乱で投入された機体である。【代理悪魔】であったテベス・ローグが生み出した殺戮マシンは、当然の流れとして今や本物の悪魔の手に渡ったのだ。

 正当な所有者たる金髪の悪魔へと。

 色は両者とも黒に変更されており、禍々しさが増しているが、当然中身も変わっている。もともと賢人の技術が入っていた機体が、現在はさらに強化され出力は二倍となっているので、普通の兵士や機体では手に負えないのは当然である。

 こうしてアピュラトリス外周には次々と悪魔の軍勢、ラーバーンの機体が投入され、陸軍を蹂躙していった。会議場で元首たちが見た光景は、この場面である。

 マザー・モエラの起動と詳細な位置観測によって、アピュラトリス側に門の出口が作られた。そのおかげでミユキとマユキの大転移は、さらに強化されることになる。今は大型MGを含めたあらゆるものを転移可能となっている。

 これはすべてアナイスメルの演算能力によるものである。アピュラトリスは物的にも霊的にも隔離されたが、その仮想演算領域はラーバーンが借りたままになっている。これもマザー・モエラによって、アナイスメルの領域が拡大したことによる恩恵であった。

 こうして投入された機体数は、両種含めて五十に及ぶ。
 ほぼすべてが【無人機】であった。

 この動きの完全なる統一感は、機械でなければ不可能である。ただし、MGを無人で動かすことは可能であるが、そうしてしまうと本来の【強い武人が乗れば乗るほどMGも強くなる】というコンセプトが揺らぐ。それでは戦術的価値が下がり、通常の戦車などを運用したほうが効率が良いことも多い。

 本来ならばそうである。
 しかし、ラーバーンの機体は特別だった。

 降りるや否や、周囲にいる敵を圧倒的な力で排除していく。それがMGのハイカランであっても関係ない。的確な攻撃によって次々と撃破していく。

 ハイカランも応戦はしていた。マシンガンを撃ち続けていた。それでも、たかが無人機程度にまったく歯が立たないのだ。恐るべきことにそのすべての銃弾が、バイパーネッドの射撃によって完全に撃ち落とされていたからである。

 そして隙が生まれたところにリビアルの砲撃を受けて、ハイカランはあっけなく撃墜される。あまりに無力。あまりにあっけない。アミカが虐殺だと言うのも無理はない。まさにそうなのだから。

 なぜ無人機がこれほど強いのか。
 並とはいえ、武人が乗った高品質MGを圧倒できるのか。

 その理由の一つが【彼】であった。

 まるで蜘蛛のような八つ足の機体が、近くのビルから滑るように下りてきた。下半身が大きな蜘蛛、上半身が乙女を模した人型という異様な機体である。乙女の両手は胸の前で組まれ、まるで祈っているかのようなポーズも印象的である。

「オロクカカ、ただいま参上いたしました」
「ふん、いらぬ真似をする。このような雑魚など我らだけで十分よ」
 ガガーランドは不満そうに増援である蜘蛛型の黒い機体、ヘビ・ラテ〈禍津蜘蛛まがつくも〉を睨む。

 バーン序列八十二位、オロクカカ。

 【戦糸せんし術】という特殊な技を使う武人で、すべての無人機を強化する能力を持っている。それをヘビ・ラテがさらに強化しているため、リビアルもバイパーネッドも従来の力を大幅に超える性能を発揮していた。

 言ってしまえば、無人機の弱点を克服しているのである。それはすでに普通のMGと同じく、すべての無人機にオロクカカが乗っているようなものである。彼の戦気が上乗せされ、MG本来の性能が発揮されているのだ。

 それは恐るべき能力である。そして一番恐ろしいのは、これだけの数を同時に制御しているのに、当人はまるで涼しげな顔をしていることだろう。その情報処理能力はAI以上だというのに、平然とこなしているのだ。

 それに加え、五十にも及ぶ機体に戦気を与えているのに、まるで枯渇する気配がない。もし並大抵の武人が同じことをしようとすれば、ものの数秒で戦気を失いすぎて昏倒してしまうだろう。

 だが、戦気の量が多いオロクカカにとっては、この程度は造作もないことである。数だけならばこの数倍、二百機程度までは問題ない。それだけの実力者であった。

しゅのご命令でありましたので、失礼だとは思いましたが介入させていただきました。申し訳ありません」
「まあ、よい。こんな雑魚など、お前の【人形】で十分だ。ここには本物の戦士はいないようだからな」
「致し方ありません。偉大なるガガーランド様と比べれば、すべてのものが軟弱に見えてしまわれるでしょうから」

 オロクカカは、彼にしては珍しい同情の表情を浮かべる。ダマスカス軍はたしかに敵であり、オロクカカにしてみれば主に逆らう愚か者である。だが、ガガーランドを相手にしなければならないと思うと、さすがの彼でも同情してしまう。

 完全武装した人間を相手にする鳥の雛の気分である。もはや戦うというレベルを超えている。生殺与奪の権利を完全に握られた相手と対峙する恐怖は、想像を絶するに違いない。

 そもそもガガーランドと比べるほうがおかしいのである。序列こそ一つ下だが、ガガーランドの力はホウサンオーと同程度である。尋常ではない継戦能力も含めれば、おそらく戦闘能力に関してはホウサンオーすら上回るだろう。

 それでもホウサンオーが上位にいるのは、彼には戦闘以外の面での能力に秀でているからである。総合的な力においてはホウサンオーのほうが上。それはそれで、れっきとした実力の差なのである。ガガーランドも承知している事実である。

「しかしゼッカーめ、オレの戦いに人形を出してくるとは、相変わらずふざけた男だ」
 ガガーランドにとっては、無人機という存在そのものが気に入らないのだ。痛みを感じない人形自体を侮蔑しているのだから仕方ないだろう。

「これも戦でございます。主のお力を見せる良い機会でしょう」
「ずいぶんと楽しそうだな。それほど戦いたかったか?」
「はい。主が私にお声をかけてくださった時から、ずっと心待ちにしておりましたゆえに」

 今のオロクカカは喜悦の感情に満ちていた。バーンにとって悪魔に従うことは喜び。この世界に構築された、過った人のシステムを破壊するために集まった【悪魔の手足】なのだ。

 ようやく出番が来た。名前が呼ばれた。
 ゼッカーから力を貸してくれと言われた。

 【下位バーン】のオロクカカにとっては、まさに光栄極まりないことなのだ。一介の騎士にすぎない者が、【王】に直接使命を授けられるようなものである。これが喜びでなくて何であろうか。こうしている今も、オロクカカは喜びに打ち震えているのだ。

「面倒なことは任せるぞい。それより、ユニサンたちの機体は持ってきたかの?」
 対するホウサンオーは、オロクカカを大歓迎する。めぼしい相手もいないので、もう完全に飽きたらしい。それよりもホウサンオーは、ユニサンを気にかけていた。あの状態では寿命もそう長くはない。ならばせめて、戦う道具を与えてやりたいと思うのは同じ武人としての情である。

「心得ております。ドラグニア・バーンが転移される予定です」

 オロクカカの言葉とほぼ同時に、ユニサンの位置を算出し、その場に転移された機体がある。

 ドラグニア・バーン。

 ドラグ・オブ・ザ・バーンが生まれる前にタオが試作機として作ったものを、今回の作戦用に改修した機体である。いわばドラグ・オブ・ザ・バーンの弟。獣竜の系譜を持つ機体である。

 爆弾の投下の連絡を受けた段階でユニサンとロキ二人は下がり、待避していた。そこに漆黒の小竜、ドラグニア・バーンが舞い降りる。同時にロキ用のガヴァルⅡも転移される。

「おお、これがバーンの機体!! なんと凛々しいのだ!」
 ユニサンは、ドラグニア・バーンのあまりの逞しさと美しさに感嘆の声をあげる。

 ドラグニア・バーンはドラグ・オブ・ザ・バーンとは異なり、サイズは半分ほどである。それでも一五メートル程度はあり、ハイカランが子供に見えるほど大きい機体だ。姿は四肢を持った人型MGであるも、頭部から背中にかけては人とは異なる獣竜のデザインが施され、まさに竜人といった様相の容姿である。

 完全にタオの趣味である。ヘビ・ラテのデザインほど奇抜ではないにしても、このあたりが彼女の独特の美的センスを感じさせるところである。ただ、ユニサンも称賛しているので、この男の美的センスも若干怪しい。

「ドラグニア、これが俺の機体か!」
 ユニサンはドラグニア・バーンに乗り込む。本来ならば、けっして乗ることができないもの。触れることすら許されないMGである。バーン、人を焼く者にしか乗ることができない誇り高い機体なのだ。思わず心が高鳴るのも無理はない。

「小僧、並の覚悟で乗れば機体に喰われるぞ」
 ガガーランドは、機体に乗り込んだユニサンに忠告する。

 このドラグニア・バーンは、名前を見ればわかるようにオブザバーンシリーズではない。その性能も出力も相当落ちるものだ。しかし、これはロキすら圧死してしまった機体なのだ。あのタオが人間の痛みなど考えずに、とりあえずやりたいことをやるために造った無茶な試作機である。

 タオが造ったMGは、それだけで超一級品。彼女が駄作だと思って捨てたものでも、一般に流通しているものを遥かに超える性能を誇っている。それがオブザバーンの成りそこないともなれば、すでに桁が違う。存在が違う。

 今までのユニサンならば、即座に圧死。今の彼であっても、まさに命をかけなければ乗れない代物であった。

「全身全霊をもって挑ませていただきます。あなたがたと一緒に戦えるのならば、すべてをかけて戦うのみです」
 今のユニサンならば操れる。この般若の身体ならば耐えられるのだ。いや、耐えねばならない。これが彼に与えられた褒美。こうしてバーンの一員として迎え入れられることは、ラーバーンに関わる武人にとって最大の名誉なのだ。

 だが、同時に【痛み】でもある。

 痛みを知らねばバーンにはなれず、真の意味で人を焼くことはできない。ユニサンが味わってきた痛みは、すでにバーンに相応しいものであった。

「この痛み!! 怒り!! ドラグニアよ、共に道を開こうぞ!!!」
 ユニサンのドラグニア・バーンと、ロキに与えられたガヴァルⅡが駆ける。目の前には戦車の群れ。それはまるで突然の天災から逃げまどう、哀れな弱き人間たちに見える。これも自然と同様、人間が自ら生み出した【害悪】。

 人が愚かであったために起こった自然の成り行き、法則!
 怒りの鉄槌である!

「砕けろ!!」
 ドラグニア・バーンの拳が膨れ上がる。当然、ガガーランドには及びもしないが、強力な戦気によって強化された拳が地面に叩きつけられた。放たれた拳衝はユニサンの戦気を上乗せし、恐るべき力へと変わっていった。

 大地を走る拳衝が、十数両の戦車を吹き飛ばしていく!
 暴力。圧倒的な暴力がここにある!

「なんと…! 今まで乗った、どのMGよりもすごいぞ!」
 ユニサンは、自分がその機体を動かしていることに半信半疑であった。

 夢にまで見た高級スポーツカーを手に入れた平凡なサラリーマンの心境である。その加速、馬力、感受性、どれもが今までのMGを凌駕している。般若の身体を手に入れた時も驚いたが、その身体を全力で動かしても当たり前についてくる黒い小竜に驚きを隠せない。

 それと同じく、ガヴァルも敵を蹂躙していく。持ち前のスピードで戦車をかく乱し、一機一機的確に破壊していくさまは無人機のようだ。ただ、ロキの力が集中して乗ることもあり、性能としては無人機よりも上である。

 このガヴァルもまた、ガネリア動乱の頃よりも強化されていた。ドラグニア同様、パイロットがロキとなったぶんだけ負担を考えずに出力を上げることができるのだ。現在では、動乱当時のジンクイーザ並みの出力を誇っている優れた機体である。

 これで水を得た魚のごとく、ユニサンたちも存分に戦えるだろう。その充足感は、モニター越しでもよくわかるものであった。

「おー、おー、初々しいのぉ。ワシにもあんな時代があったかの」
「ふん、小僧の玩具にはちょうどよさそうだな。所詮、出来損ないのMGだ。壊しても問題なかろう」
 ホウサンオーとガガーランドにしてみれば、ユニサンなど幼児のようなもの。玩具の車に乗って遊ぶ姿が妙に微笑ましい。

「ふー、ようやく一息じゃな」
 ホウサンオーは、周囲の制圧をオロクカカに任せて腰を下ろす。ただ、カノンシステムを使っているのでMGも同じように腰を下ろしたため、隣にあった何かの施設を破壊してしまった。それはそれで椅子になったのでかまわないのだが。

「おい、何を落ち着いている。これからだろう」
「ワシはあまりやる気ないのー。若いもんに任せておけばよい」
「これから五大国家の騎士団、全部を相手にするのだぞ。休む暇はない」
「本気か? まあ、お前さんのことだから本気じゃろうがな」

 ホウサンオーは、ガガーランドが嘘や冗談を言わないことを知っている。どうやらこの男は、本気で五大国家すべてを相手にするつもりのようだ。実に恐ろしい。

「この子たちも初陣じゃ。あまり無理はしないほうがよいと思うがの」
「オレは生身でもかまわん」
「お前さんのことじゃ。負けはせんだろうが、泥沼になるだけじゃよ。それよりは目的を忘れんことよ。ワシらは相手を引きつけて時間を稼げばよい」

 実際にガガーランド一人でも相当な戦果を挙げることができるだろう。ただ、その際は終わりの見えない戦いとなる。相手を殺すか自分が殺されるか、果てしない破壊と闘争の泥沼に陥る。

 しかし、ラーバーンの最大の目的は、ルイセ・コノが仕事を果たすことである。ホウサンオーもガガーランドも、今回はそのための駒にすぎない。わざわざゼッカーが場を用意したのは、さまざまな狙いがあるからである。こうした判断ができることもホウサンオーの序列が高い理由でもある。

「お前も、晴らしたい思いがあるのではないのか。あの小僧のようにな」
 ガガーランドは、ドラグニア・バーンという力を得たユニサンを見つめる。彼の怒りが、人類が今まで行ってきた悪への怒りが爆発している。この場で、ユニサンほどわかりやすい人間もいないだろう。

 それを見てホウサンオーは、一つため息を吐く。
 それは人生に疲れた老人のものであった。

「あるにはあるが、ワシも歳じゃからな。それなりに抑えておかねばならんのよ。ジジイが一番はっちゃけていたら、子供がびっくりするわい」
「たかだか九十年、老いるには早いぞ」
「お前さんと比べるなや。ワシはこれでも普通の人間のつもりじゃからな」

 ガガーランドの素性はよくわからない。わかっているのは身長が三百五十センチ近くあり、おそらく八十九歳のホウサンオーよりも遥かに年上で、なおかつ「恐ろしく強い」ということだけ。それだけ聞けば、ガガーランドも相当な変わり者であろうか。

 ラーバーンの中には、ザンビエルを筆頭として長生きな人物も多い。武人も血の濃さによって老化の速度も違うし、禁術を使って老化を止めている者もいる。また逆に、ユニサンやロキのように力を得た代償で寿命が縮む者も多い。

 それに対しては何も言うつもりはないが、少なくともホウサンオーは普通の人生で良いと思っていた。普通の人間として老化し、そして死ねば良いと。だから彼の老化の仕方は、通常の人間とさして変わらないのである。

「まあ、気長にやろうや。まだ始まったばかりじゃよ」
「ふん、それもオロクカカの言う戦か。戦いとは、もっと単純なものなのだがな」
「誰もがお前さんほど強くはない。そして、長生きではない。そういうことじゃ」

 ガガーランドはホウサンオーの言葉を理解しつつも、彼らよりも遥かに若い男のことを思う。

「ゼッカーは、まだ足りぬと言う。オレたちを道具にしておきながら、欲張りな男だ」
「ほっほっほ、たしかにな。贅沢な男じゃよ」
 ホウサンオーやガガーランドを味方に引き入れることなど、ゼッカーにしかできないだろう。これだけの力を得れば、世界を変えたいという言葉も冗談には聞こえない。

 だが、まだ足りないのだ。
 これでもまだ足りない。

「今頃、ゼッカー君もがんばっておろう。王を相手にするのは、なかなか骨が折れる仕事じゃからな」
「やつとて王になれる器であるというのに。王気がないのが不思議なくらいだ」
「王とは生まれついてのもの。じゃが、彼の場合は自ら抑えている、といったほうが正しいじゃろうな」

 あれだけの英雄に王気がない。
 そのことに疑問を感じた人間は少なくないだろう。

 ゼッカーは生まれもっての指導者である。それは王の性質。ならば、王気が出てもおかしくはない。事実、ガネリア動乱では、人々を導く波動を放っていた。王気には及ばずとも、それに近い力を出していたはずだ。

 しかし、悪魔としての側面が、その力を抑えている。

「王気がないのではない。王気を正反対の悪魔の力に転換しているのじゃ。まさに神にも悪魔にもなれる英傑、というわけじゃよ」

 人を導く英雄にもなれれば、人の社会を破壊する悪魔にもなれる。それだけの器をゼッカー・フランツェンという男は持っていた。そして、今は悪魔であるにすぎない。

「では、その悪魔に使われてやるとするか。少なくともオレは、あいつが死ぬまでは付き合うつもりだ。それが武人の掟というものだろう」
「お前さん、案外義理堅い男じゃな」
「そう言うお前も、わざわざバーンになるなど酔狂な男だ」
「まったくのぉ。人生長く生きていれば、お互いにいろいろとあるものじゃな」

 金髪の悪魔でさえ、独りでは戦えないことを知っている。【数の力】を知っているのだ。そして、【個の力】を熟知している。彼が手にした最強の力こそバーンであり、オブザバーンという象徴なのであった。

 その象徴が二機、この場にいるのだ。
 五大国家すら敵に回し、堂々とここにいる。

 今、悪魔の軍勢は世界と戦う。

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