十二英雄伝

ぷるっと企画

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零章 第二部『バーン来襲、アピュラトリス外周制圧戦』

三十四話 「RD事変 其の三十三 『ゼルスセイバーズ』」

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 ゼニスブルーに統一された三十機近いMGが駆けていく。手足のスマートな曲線のフォルムは特殊部隊が装備する防護アーマーに似ているが、もっとたとえるならば甲冑を着た騎士に近い姿である。

 武装は、前衛は対MG用高周波ブレード、後衛は一二八ミリ特殊弾を発射できる大型レールガン。この二つの武装はまだ実験段階であり、実戦投入はこれがMG史において初である。

 その成果は上々。

 高周波ブレードはリビアルの足すら切り裂き、レールガンは中距離からでも分厚い装甲を貫ける。この威力の砲撃にはさすがのバイパーネッドですら迎撃はできず、リビアルを撃墜したあとはバイパーネッドも比較的安全に撃退できている。

 その特殊な部隊の中で、先頭を走る五機はまた特別であった。彼らだけ鮮やかなターコイズの色合いで、形状も他の機体とは異なり、大きさも一回り上のサイズである。

 その中の一機、指揮官機として特別に頭部に角が生えた機体、ゼルスワンのメイクピークが命令を発する。

「臆するな! この機体ならば十分対抗できるぞ! 進め! 我らの力を観客に見せつけてやるのだ!」

 この場はラーバーン側にとってのお披露目。悪魔とその配下の力を見せつけるための展示会場のようなもの。当然、観客は世界のトップたちである。が、それは何もラーバーンだけに限ったことではない。ダマスカス側にとっても威信をかけた戦いなのだ。

 ハイカランにしても量産型としては高品質である。各国のMG企業にとっては非常に興味深いものだ。では、ダマスカスが量産機の次にお披露目するのは何だろうか。ダマスカス陸軍の通常装備では到底ラーバーンに対抗はできない。

 ならば【特機には特機を当てて砕く】。

 これが一番である。ゼルスセイバーズとは、そのために組織された戦力なのである。通常の相手ではなく、数で手に負えない怪物が現れた時に真価を発揮する刀なのだ。そのために軍の中でも秘密特殊部隊として公にはされていない組織であった。

 ダマスカス軍の兵士も見慣れぬ機体に戸惑いながら、敵の戦線を切り裂いていくゼルスセイバーズに興奮を隠せない。その好奇と興奮の視線を感じながら、メイクピークは走り抜けていく。その後ろには四機の特機が続く。

「隊長のやつ、今日はやる気みたいだぜ」
 ゼルスワンのすぐ後ろを走るゼルスツーには、クウヤ・ブラウンズ。階級は小尉、年齢は二五。茶髪パーマとサングラスに加え、ガムを噛みながらの操縦と、実にフリーダムである。機体は一目見ただけで攻撃特化型だとわかるほど、ひときわ長い剣を持っている。

「ついに我らの出番が来たのだ。当然だ」
 他の機体よりさらに大型のレールガンを両肩に装備したゼルススリーには、ドミニク・ナガノーダン。格納庫でメイクピークを出迎えた男である。階級は大尉、ゼルスセイバーズのサブリーダーを務める。

「へっ、どうかな。焦ってんじゃねえの? 隊長も緊張とかするのかよ」
 クウヤはパーマのかかった茶髪を掻き上げながら、お気に入りのロックバンドの中でもさらにハイテンションの曲を流す。外部用スピーカーからも流されているので、音は外に駄々漏れである。

「クウヤ、うるさいよ。こっちにまで聴こえるじゃないか。少しは辛抱しな」
 両腕がまるで岩塊のように膨れ上がったゼルスフォーに乗るのは、紅一点のステヤ・M・コウラン。階級は中尉。出産を契機に軍を抜けていたが、メイクピークの誘いによって復帰した三十二歳の女性である。女性とはいえ戦士なので、このメンバーの中で一番腕力が強い。

「うっせえな。俺は自由にやるのさ。なあ、隊長、いいんだよな? 好きなだけ殺してもよ! 軍のお墨付きなんだよな!?」
 クウヤはメイクピークに馴れ馴れしく話しかける。階級はメイクピークが大佐であり、クウヤは小尉。軍において、本来ならばありえないことである

 が、このゼルスセイバーズでは問題ない。

「結果を出せ。結果を出すなら好きにしろ」
 メイクピークは常々、メンバーに対してそう言い続けている。結果。明確な結果。上層部が頷くしかないほどに結果を出せばいいのだ。

 軍の力が必要なのだと。
 ダマスカスを守るためには戦力が必要なのだと。
 かつてよりこの国にある武こそが、富を守る力であると、これでもかとわからせる必要がある。

「見ろ、富の塔が燃えている! すでに金貨は役に立たん! ここから先は武だけが物を言うのだ!! 最後は力なのだ!! 刀を取れ! 敵を斬れ!! それがすべてだ!」

 目に見えてゼルスワンから強烈なオーラが発せられる。それが旗印となって、ゼルスセイバーズ全体が一つの固まりになっていくようだ。各員も気が引き締まる。

「ドミニク、大佐は少し入れ込みすぎじゃないかい?」
 ステヤは立ち昇る力の大きさに圧倒されながら、いつもは冷静なメイクピークが熱くなっていることを危惧する。クウヤの言葉ではないが、メイクピークが焦ってはいないかと心配になったのだ。

 だが、長い付き合いであるドミニクの意見は違う。

「いや、喜んでいるのだ。危うく見えても、あれが本来の大佐の気質なのだよ」
 武闘派の家は総じて好戦的な気質を持つ。戦うことが常態化しているからであり、また常にそうでなくては意味がない。メイクピーク家も本来は、今のコウタ・メイクピークのように仁王のような姿で敵を威圧する存在であるべきなのだ。

 それは理解できる。メイクピークは剣豪としても一流である。優れた武人である以上、戦いが嫌いな人間は少ないものだ。ただ、ステヤは最初の言葉が気になった。

「喜ぶ? どうして?」
「我々と違って、大佐は家持ちだ。武人が戦うこと以外に従事するなど、これほどの拷問はない。鬱憤が溜まっているのだ」
 平和なダマスカスにおいて武は重要ではなくなった。その結果として、他の名家との付き合いも余儀なくされ、武闘派の彼はさぞかし自分の存在意義について悩んでいたことだろう。

 正直、メイクピークは怒っていたが、それと同じくらい相手に感謝もしていた。

 ゼルスセイバーズはまだ小さな組織である。集めた隊員は百五十名程度で、与えられるMGも五十機に満たないなど、各国騎士団の特殊部隊と比べるにはあまりにも恥ずかしい数である。

 ルシアなどは第二騎士団の特殊部隊でさえ三十に及ぶ数があり、その一つ一つが最低でも数百から千名単位で構成されている。しかも各隊の全員がプロフェッショナル。誰も彼もが軍の中から選ばれたトップクラスの武人なのだ。

 ルシアは領土が広く人口も多いため、数多くの優れた資質を持つ武人が集まる。その中からさらに厳選されたとなれば、特殊部隊がいかに強いかがすぐにわかるというものだろう。彼らが投入されれば、膠着した戦線など一気に吹っ飛ぶのだ。

 ただし、小国がそれに対抗できないわけではない。たとえばオリンピックで競技人口が少ないのに金メダルを取る国がある。各個人の奮闘や、その国の民族の資質によっては、数は少ないながらも優れた個を生み出すことができるのだ。

 人口の多さは有利に決まっているが、けっしてそれだけで差が決定付けられるわけではないのだ。だからこそメイクピークは、数ではなく個にこだわってメンバーを集めている。このクウヤにしても、気に入らない上官を平気で殴り殺すような人間としての落伍らくご者だが、強い。ただ強い。

 強さこそ、ゼルスセイバーズにおける正義なのだ。どんなに有名で周囲からの評価が高くても、簡単に折れてしまう刀など戦いでは役に立たない。所詮、そんなものは鑑賞用の玩具にすぎない。それは本物の刀ではないのだ。

 もう一つの数を補う手段の一つが、カリスマの存在である。

 メイクピークという存在。軍における異端であり、一つのカリスマが存在するからこそ成り立っているがゼルスセイバーズである。これはラーバーンにもいえることであって、ゼッカーという巨大なカリスマがあるからこそ、優れた個がバラバラにならずにまとまっている。強者に対抗するには、この手段を取るのが一番手っ取り早いのだ。

 ただし皮肉なことに、それこそがゼルスセイバーズが完全には認められない要素の一つになっていた。武闘派のメイクピークは他派閥から警戒されているのだ。対立している経済派の人間からは、いつ牙を剥くかわからない相手に力を与えるのは危険であると思われている。

 ダマスカスで軍事クーデターが起こったことは一度もない。かといって、これからも起きないとは限らないのだ。世界が揺れれば、いつどこで何が起こっても不思議ではないのだ。事実、目の前で富の塔が燃えているではないか。

 逆にこれを踏み台にすれば、ゼルスセイバーズはさらに成長することができる可能性がある。ダマスカスでは絶対の正義であった金銀財宝では敵を止められないとなれば、残った手段は武力による鎮圧である。メイクピークが上層部に常に訴えていた「武による平和」を示すチャンスなのである。

(今はまだ、ただの刀。されど必ず巨大な力にしてみせる!!)
 それがメイクピークの野心。ルシアやシェイクは国土的に無理でも、同じ島国であるロイゼン神聖王国と同レベルの騎士団を形成することが彼の夢なのだ。現実的にやろうとすればできない話ではない。あとはやるかやらないかの話である。

 武を求めるのも、すべてはダマスカスを守るため。
 本来あるべき姿に戻すためである。

 だから感謝しているのだ。これほどの大事件がなければ上層部を説得することなどできはしない。圧倒的な力でダマスカスを蹂躙している相手がいるからこそ、対抗手段を訴えられるのだ。

 これは千載一遇のチャンス!
 もう後がないメイクピークには絶体絶命であり、最大の好機!

「大佐、よく来てくれた。こちらも援護してくれると助かる」
 気を張るメイクピークにバードナーから連絡が入る。

「閣下! ご無事でしたか!」
「ああ、ハムジェルク中佐も無事だ」
 アピュラトリスから距離が離れるほどに通信状況は改善しており、多少聞き取りづらいが無線はほぼ正常に使えるようになっていた。メイクピークが呂魁の識別信号を確認すると、思わず笑みをこぼす。

「やはり閣下はMGがお似合いです」
「昔取った杵柄だ。あまり触れないでくれ」
「なんの、武人は戦ってこそ誉れ。血は隠せません」
「たしかに戦場は良いものだ。幾分か若返った気がするよ」

 メイクピークの言葉にバードナーも頷く。MGというものは不思議なもので、乗ると自分が拡大したように感じられるのだ。人間が持つ無限の可能性を感じ、自分はもっとやれるのではないかと思わせてくれる。

 そう、あの偉大なる者のように大きくなりたい。
 それはまるで大人に憧れる子供のような感覚。
 ずっと夢を見ている少年の姿である。

 だから人は魔人機に惹かれるのだろう。そこに人の未来があるから。強く気高い力の象徴があるから。

「閣下、残りの敵はこちらが対処します。離脱してください」
「中佐を降ろしたら私も援護する」
「ご心配無用。我らの力を見ていてください」

 メイクピークたちの次の標的は、バードナーを追いかけてきたバイパーネッドである。すぐに敵の位置を補足すると、ゼルスセイバーズに号令をかける。

「手段は問わない。破壊しろ!」
「はっ、今の隊長は最高だぜ! これが俺が求めていた理想の職場ってやつだよ!」
 クウヤは上機嫌に機体を加速させる。ようやく思う存分、剣を振るえるのだ。今までの訓練とは違う緊張感が楽しくて仕方ない。

「相手は普通の敵じゃない。侮るんじゃないよ!」
 ステヤが軽い気持ちのクウヤを戒める。誰が見ても相手は普通ではない。他の常任理事国のトップ騎士団と、正面から戦うくらいの気持ちでなければ危ない。

「いちいちうるせーな!! っと!!」
 クウヤはメイクピークのゼルスワンを追い越して長剣を構え、ビルの陰から飛び出てきたバイパーネッドを迎え撃つ。バイパーネッドはダブルガトリングガンを掃射。今までの相手ならばこれで倒せていた。蜂の巣である。

 しかし、このゼルスセイバーズは通常の軍隊ではない。乗っている機体も武人も並ではない。クウヤは長剣を使ってガード。その後ろにいたメイクピークたちも、すぐさま回避運動を取る。多少被弾するも装甲の厚さで、さしたるダメージにはならない。

 だが、バイパーネッドの武装はダブルガトリングガンだけではなく、その両腕のソードの攻撃も実に恐ろしい。機械的な正確さと素早さをもって一瞬で敵MGを切り刻むキラーマシンなのだ。その冷酷な刃がクウヤに向かって降り下ろされる!

 しかし、クウヤは動じない。

「踏み込みが甘いのさ!」
 クウヤは長剣を構えると、恐るべき速さで剣を振るう。その一撃は大きな弧を描き、先に振り下ろしたはずのバイパーネッドのソードをたやすく弾く。

「非力だねぇ! 大事な胸ががら空きだよ!」
 そして、回転しながら必殺の一撃を胸部にたたき込む。メキメキと巨大な鉄塊がバイパーネッドに食い込み、そのまま破砕した。胸部の部分が完全に破壊されるほどの一撃に、さすがのバイパーネッドの動きも止まる。

 速い。そして強力。
 相手の緻密で正確な一撃を、ただただ攻撃力で押し切ったのだ。

 長剣型高周波ソード【ザンギリ】。他の一般の機体が装備している高周波ソードよりも帯広で、重さも二倍以上ある大剣である。それだけ強く、攻撃に適しているともいえるが、あまりの使いにくさから、現在ゼルスセイバーズで使えるのはクウヤだけである。

 高周波ソードはただ当たるだけではなく、振動波によって切断のほかに破砕の効果も与える武器である。こうして一発で切断までいけない場合は、ある意味では破砕鈍器としての使い方もある。

「どうだ。こんなもんさ!」
 クウヤ・ブラウンズが勝ち誇る。たしかに彼にはそれだけの資格があるだろう。この凶悪なバイパーネッドを真正面から叩ける武人がどれだけいるだろうか。

 問題はある。この男の素行はひどく問題がある。常に戦っていないと精神が安定しない男で、定期的に誰かを殺していないと発狂する殺人狂である。彼がいつ刑務所送りになっても仕方ないと思うし、死刑になっても当然だとも思うだろう。

 しかしだ。

(天才だな)
 メイクピークは、紛れもなくクウヤが戦闘の天才であることを知っていた。彼が発狂しそうになれば、時間があるときはメイクピークが剣の相手をしていたし、どうしても駄目な場合は海外の戦場に連れていくこともあった。

 時には非公式で死刑囚の死刑執行をやらせたりもしていた。むろん、相手には有り余る武器を持たせて、である。それでも結果はいつも同じ。素手であっても、あえて自身の手を縛っている状態であっても、クウヤはどんな相手でも殺してしまった。

 血が間違った方向に覚醒した武人。血が強すぎて闘争本能だけが人並み以上に拡大すれば、時にはこうした現象も起こる。血の強さ、可能性の大きさに精神のほうが耐えきれないのだ。せっかくの才能がうまく覚醒されないのは非常に残念な事例である。放っておけば大量殺人を犯しかねない。

 されど、そんな危険な男を飼う価値は大いにあった。今日という日のために彼は生かされてきたともいえるのだ。彼自身もそう思っている。今日は初めて【鎖】が解き放たれる日なのだと。首輪は外せないが、リードを外して自由にドッグランを走り回ることができる日なのだ。気分が高揚するのも当然である。

 だが、これも忘れてはならない事実がある。パイパーネッドは悪魔の兵器。この日のために用意された完全なる殺戮機械なのだ。ガゴン。胸を破壊されたバイパーネッドが倒されかかった姿勢を制御し、クウヤの機体にガトリングの照準を定める。

 MGの胸部には通常、コックピットブロックが存在する。そこを砕けば、たいていのMGは停止するはずだ。

 中に人が乗っていれば。

 しかし、バイパーネッドは無人機である。最初からコックピットブロックなど存在しないのだ。人を殺すことに慣れていたクウヤには、その違いが若干の狂いとなってしまった。彼は自然と脳と心臓を狙う癖ができていたのだ。

「なに!」
 クウヤは気配を感じ、とっさに長剣で胸部を覆って必死に防御の構え。そこにバイパーネッドがガトリングガンを発射。防御したとしても、かなりのダメージは覚悟しなければならない間合いである。

 だが、ガトリングガンはクウヤには当たらず、機体の数メートル右に逸れていった。クウヤの視界には、刀を抜いたゼルスワン、メイクピークが操る機体がバイパーネッドの肩を粉砕している光景が見えた。ガトリングガンが備え付けられている肩を狙って正確に破壊したのだ。それによって射線がずれた。

 そして間髪入れずに、ゼルスフォーのステヤが頑強なナックルでバイパーネッドを殴りつける。スピードに乗った強力な一撃は、頭部を破壊しつつ吹き飛ばす。それでもまだバイパーネッドは動いている。

「ドミニク! 下腹部を破壊しろ!」
 メイクピークの言葉に、すでに大型レールガンを構えていたドミニクが反応。バイパーネッドの下腹部に一五八ミリ爆砕弾を打ち込む。砲弾は命中し、着弾と同時に爆発。バイパーネッドの下腹部は破壊され、上半身と下半身がちぎれる。

 これは貫通ではなく爆砕と衝撃を目的とした弾であり、装甲が厚いMGにも有効な砲弾である。バイパーネッドにはパイロットがいないが、もしいれば衝撃で気絶あるいは死亡していただろう。

「カゲユキ! 捕縛だ!」
「…了解」
 そしてゼルスファイブに乗っている青年、カゲユキが電磁ネットを放出。上下にちぎれたバイパーネッドを包み込む。

 電磁ネットは捕縛用の支援武器で、放出される強力な電磁波によって機器をショートさせることができる。バイパーネッドが万全の状態ならば防御されてしまうが、ここまで破壊されていれば防ぐことはできなかった。

 まだ虫のように上半身がわさわさと動いているが、なんとかバイパーネッドの捕縛に成功する。こうして敵を捕縛できるのは戦力差があるからである。ゼルスセイバーズには、まだかなりの余裕が見て取れた。

 敵を倒すのはもちろんであるが、捕縛すれば情報が得られる。機体の構造、使われている装備や部品から相手の素性や行動を分析できる。できれば数多くの敵を捕獲したいのは本音である。

「散会! 油断するな! ステヤ、シールドの準備だ!」
 が、ゼルスセイバーズはすぐに近寄らない。メイクピークは万一に備えてステヤに命令を出す。案の定、その直後にバイパーネッドは【自爆】。巨大な炎とともに対戦車用の散弾がまき散らされる。

「シールド展開!」
 ステヤがゼルスフォーに搭載されている特殊シールド【ハブリムの盾】を展開。薄く広がる黄色の光が部隊を覆い、散弾を受け止める。

 ゼルスフォーは格闘用のチューンに加えて、高出力シールドが搭載されている。シールドは物理結界と同じシステムであり、現在世界で開発が進められている【術式装甲】を発展させたものである。

 エネルギーを調整すれば広域にも展開でき、こうして部隊全体を守ることができる。ただ、広げると防御力も低下するため、砲撃にはまだ対応できていないなど課題も多く、今回は散弾で助かったともいえる。

 メイクピークは想定通りだったことに安堵しつつも、その恐ろしさを思い知っていた。

「やはり自爆したか。ステヤ、どうだ?」
「大丈夫です。問題はありません」
「カゲユキ、種類はわかるか?」
「…これも特殊散弾。…たぶん、かなり危ないやつ。…戦気じゃ防げない」
「またか。まったく、とんでもない代物を惜しみなく使うものだ」

 こちらの散弾にも、ロキが自爆で使ったものと同じ戦気遮断の術式が付与されていたのだ。物理結界は戦気を使わない仕組みなので、シールドは貫通せずに無事機能を発揮する。それもこれもすべて【体験談】によるものであった。

 実は、さきほどリビアルを倒した際にも相手が自爆。リビアルに搭載されていたのは火焔爆弾というDP5のような爆弾であった。そのせいで隊員が乗る機体が二機ばかりやられてしまった。次に交戦したバイパーネッドも散弾を撒き散らしたので、そうした体験によって予防策を練っていたのである。

「これで決まりだ。捕獲は諦める。そこまで相手は甘くない。それよりも敵の排除を最優先にする」
 メイクピークは決断。こうなれば、すべての機体に自爆装置がついていると思ってよいだろう。リスクを冒すよりも戦力の保全を優先するべきと判断。

 そして、クウヤに向かっても忠告。

「クウヤ、油断するなよ。こちらも新型とはいえ相手も未知の相手だ。何をしてくるかわからん。今のように常識が通用しないこともある」
「へいへい、了解。俺としては、そのほうが楽しいけどねぇ」

 クウヤは死の危険すら愉しんでいた。今まで感じたことのなかった刺激をビンビンと感じるのだ。危ういが、これこそ死と隣り合わせに生きる者たちに共通する感覚なのだろう。この程度の損害で相手の危険さを肌で感じ取れたのならば、むしろ安いものかもしれない。

「機体の調子はどうだ?」
「問題ねえよ。バッチリだ。あんな雑魚なら、いくらでも壊してやるよ」
「各員、機体のチェックは怠るな。試作機のうえに緊急出撃だから、どこで異常が出るかわからんぞ。自滅だけは避けろ」

 メイクピークは各員に注意を促す。本来、出撃する予定になかったので、機体の調整は完璧とはいえない。それでも日々試作機で訓練しているからか、クウヤたちの様子を見ている限りは問題ないようである。

「大佐、どうしますか。このまま連戦では、こちらもいずれ消耗します」
 ドミニクが状況を確認しつつメイクピークの指示を仰ぐ。現在出撃しているゼルスセイバーズの機体数は三十。うち二機は戦闘不能であり、敵の数は減らしているものの定期的に出現しているようなので、このまま戦えばゼルスセイバーズが不利である。

 陸軍の大半は撤退状態であり、得られるのはせいぜい戦車の砲撃支援程度。ダマスカスにはそれ以外の武器も多数あるが、すでにMG戦闘に入っている以上、ミサイルなどによる支援はできないだろう。

「我々は当初の予定通り、【ブラックワン】を最優先に落とす。他の機体にはかまうな」
 そもそもゼルスセイバーズの目的は、ブラックワンを倒すことであった。その目的に変わりはない。そのための新型。いまだ正式名称すらない試作機を持ち出したのは、こういうときのためなのだ。

 【武力ブリキ計画】。

 ゼルスセイバーズが主体となって押し進めてきた新型MG計画である。コンセプトは特機タイプの量産。通常のMGでは対抗できない相手を倒すための強力な特機型MGの開発と、その簡易量産化計画である。

 現在、WGが製造したナイトシリーズが高性能OGとして有名であるが、製造から何百年も経っており、失われた機体も多く存在する。WGが追加でナイトシリーズを製造することはなく、年々こうした特機型の量産機は減っていっていた。そのため各国は、自ら新しく生み出す必要性が出てきたのだ。

 この時代はMG技術が急速に普及するため、こうした実験機や試作機が何十万と造られたMG生産の隆盛期である。すでに各国騎士団においては、たとえばダマスカスの呂魁やこのブリキシリーズのように、ナイトシリーズに代わる特機MGが数多く開発されている。

 その中には【色物】と呼ばれる意味不明なコンセプトのものがあったりと、まさにこの時代の混沌さとダイナミックな進化のリズムを感じさせる例もある。そうした多様性がさらなる進化を呼び、技術というものは発展していくのである。

 ただ、富の国のダマスカスでは武力があまり重視されないため、ブリキ計画はかなり厳しい状況にあった。Aプランのオリジナル試作機が五機。その量産タイプのBプランが予備を含めて四十機。現状では、それが精一杯であった。メイクピークたちが使っているのは、そのBプランの機体である。

 Aプランの試作機はそれこそ最初に造るので、タオのようにやりたいことをやりたいだけ注ぎ込み、結果として出力は高いものの扱いにくい機体になるのが相場である。場合によっては、搭乗者に害を与えるものもあるので、それを見極める。それから危険な機構を排除して、ようやく安定した戦力であるBタイプが生まれるのだ。

 ちなみに、タオの機体が強いのは当然である。なぜならば、普通はやるであろうBプランをやらないからだ。実験機は進化していっても、搭乗者のリスクなどお構いなしに性能だけを上げていく。これこそ彼女がグレート・ガーデンで評価されなかった最大の理由である。

 が、それを強引に武人の強さによって解消し、さらにルイセ・コノたちが造ったAIのおかげで極限まで搭乗者をサポートすることで、ようやくにして問題を解決した化け物MGである。そもそも最初のコンセプトが違うのである。

 そして、このゼルスと呼ばれている機体も量産タイプと銘打ってはいるが、メイクピークたちは、その性能はナイトシリーズにも匹敵すると自負していた。試験結果にすぎないが、たしかにナイトシリーズの【平均値】に匹敵する能力は出ているようである。

 ただし、ナイトシリーズは各カラーによって特徴が相当違うし、特定の能力だけに特化している機体もある。その平均値となれば、なんとも評価しがたい値であるのは事実だ。なので、どちらかといえばすべてに安定しているグリーンナイトを目指した機体、といえるだろうか。

 それはメイクピークたちも承知しているので、メイクピークたち五人が使っている機体はBプランのさらに改良型として、すべての能力が向上しているカスタム機である。タイプ別に造り分ける必要があったが、それだけ個性を表現できる名機になったといってよいだろう。

 まだ名前がないのでそのままゼルスワン、ゼルスツーとコール名で呼んでいるが、いずれダマスカスの制式MGになると期待できる機体だ。そして、それを実現させるためには敵を倒すしかない。相手を倒して実績を作るしかないのだ。そうすれば陸軍も今回のように無様に敗残することもなかったのだ。

 今回の戦いにかけるメイクピークの想いが熱いのは、至極当然のことなのだ。この戦いにもう一つのダマスカスの未来がかかっているからだ。

「ブラックツーはどうしますか? 映像を見た限りでは、あれもかなり厄介そうです」
 ステヤがブラックツー、ドラグ・オブ・ザ・バーンの名を出す。ブラックワンの次にやってきた機体で、通常のMGの規格を超えているモンスターMGである。ブラックワンだけでも危険であるが、それがさらに増えたのはゼルスセイバーズにとっては災難であった。

「我々五機でブラックワンを叩いている間、他の者はやつの動きを止めておけ。牽制でかまわん。その後、一度撤退する」
 メイクピークはしばし逡巡したのち、対象をナイト・オブ・ザ・バーンだけに絞ることにした。

「よろしいのですか? 敵の占拠を許すことになりますが」
「ブラックワンだけでも十分な成果だろう。少なくとも、我々の部隊だけで陸軍数万の実力があると見せつけることができる。それ以上は不確定要素が多すぎる。欲をかかずに撤退すべきだろう」

 この判断は実に賢明である。メイクピークという男は自己の限界というものをよく理解していた。敵は明らかに周到な準備を進めてこの作戦を行っている。場当たり的に対処しているこちらとは練度が違うのだ。

 その意味では、アタックをしたあとに一度撤退するのが望ましい。状況を冷静に整理できるし、不本意ではあるが各国騎士団の協力も得られる。アミカたち、エルダー・パワーもまだ残っているのだ。

 ただし、手ぶらで帰ることはできない。明らかに格が違うブラックワンの首を持ち帰れば、少なくともダマスカスの面子は立つ。もっともこれだけ蹂躙されているのだからいまさらではあるが、少なくともゼルスセイバーズの有用性は立証できる。

「行くぞ! 何を犠牲にしても、ブラックワンだけは必ず倒せ! 死んでいった同胞のため! 自分たちのためにも勝つのだ!」

 ゼルスセイバーズが駆ける!
 目標はホウサンオーのナイト・オブ・ザ・バーンである。
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