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顧客リスト№34 『邪教団の背徳ダンジョン』

人間側 とある狩人の狂気

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フッ…良い月だ…。紅く、鈍く輝いている。今宵も素晴らしき夢が見れそうだ。



特別に誂えた狩装束を身に纏い、俺達4人は闇を駆ける。この先にあるのは、『背徳ダンジョン』。とある邪教を信奉する者共が身を寄せ合う場所だ。

その邪教の正体? 知らん。興味もない。どうで、隠れて狂気に身をやつしている連中。それはもう、人ではない。獣と同義だ。

獣を狩って何が悪い。それにダンジョンなんだ、狩ったところですぐさま復活するだけ。心を痛める必要なぞない。


…何のために狩りをしているのか? 当然、利のため。金のためだ。それも素晴らしいほどの。

奴ら…『邪教団の信徒』共の胸には、『面妖なる結晶』と呼ばれる特殊な結晶が生成される。市場に流せばかなりの高額がつく。

それだけじゃない。あの取り出した瞬間…血に濡れ、てらてらと光る琥珀色の結晶…素晴らしい…。アレを見るタめだったラ…俺タチは幾度でモ…!

…ハッ! 危ない危ない…意識が飛びかけた。…ここ最近、妙だな。時折、変な気分になる。



まあいい。その結晶だが…可哀そうに、信徒共はその邪教の神とやらに植え付けられているのだろう。そうでもなければ、人の身体に石なぞ出来ない。

つまりこの行いは、救いでもある。寧ろ感謝してほしいぐらいだ。俺達が習得した特殊技で内臓を攻撃してやれば、容易くその結晶を吐き出させてやれる。ただし、代償は命だ。


…む、そうこうしているうちに到着したか。全員、準備は良いな?

さあ、始めようか…!『獣狩りの』…違う、『結晶狩りの夜』を!








扉を蹴り開け、銃を撃ち鳴らしながら乱入する。すると、辺りにいた信徒共は瞬く間に慌てふためき始めた。

「ヒッ…!狩人が来たぞー!」

「に…逃げろ! 戦える者は武器を取れ!」


フン…『狩人』か。良い呼称だ。最初そう呼ばれた時は困惑したものだが、今や心地いい。

それに合わせて服装も変えたほどだ。森で動物を狩るチャチな連中が着る粗雑なものではない。これは、夜に紛れ密かに獣を狩る、そのための装束。

さて…どの人ならざる獣から狩っていってやろうか…! 

そう俺が、舌なめずりした時だった。





Pu oh ooooh oh oh      Pu oh oh oh oh ooooh


「!? なんだ…!」

突如、辺りに響き渡るおぞましきラッパの音。ぐあ…頭の内側をなぞられるような感覚が…!

「! これは…合図だ!」

「全員、奥に逃げろ!あとは彼女達に任せるんだ!」

俺たちが怯んでいる隙に、信徒共は一斉に逃げ去っていく…!

クソッ、追いかけたいが…!駄目だ…この音は…!何かがゴリゴリ削られていく…!




「……! はぁ…はぁ…」

「止んだ…?」

気づけば異音は消え、周囲を静寂が支配する。もはや誰もいなさそうだ。

まあいい。一人一人探して仕留めていけばいいだけのこと。俺達に勝てる奴は、そうはいないんだからな。






「…いないな」

「どこまで逃げたんだ、あいつら…」

しかし数分歩けども、信徒共はおろか、使い魔の一匹すら見つからない。せっかく大量に稼げると思ったんだが…。



「…お? 見ろ、あそこを」

と、仲間の一人が先を指差す。そこには、松明灯る路地が。覗き込んでみると…。

「おぉ…!宝箱じゃないか…!」

安置されていたのは、大きい宝箱。と、その裏には…

「ひっ…!」

小さな声をあげ、身を潜める女がいた。逃げ遅れか。探した甲斐があった。二つも良いモノが見つかるとは。


「お、お願い…」

と、その女は宝箱をズズッとこちらに押し出してくる。お願い、だと?宝箱をやるから見逃せ、という意味か。

フン…駄目だ。追い込んだ二兎の片方を逃がすわけはない。だが、まあ…仕留めるのは後回しにしてやろう。

どれ、まずは…宝箱の中身を確かめて見るとするか。

「先に失礼するぜ」

チッ、がめつい奴め。仲間の1人が先に宝箱に手をかけやがった。まあいい、どうせ折半だ…。

肩を竦め、一歩下がる。と、何かが足にカツンと当たった。何だ…?

…ッ!?待て…なぜここに…ラッパが落ちている…!?

ゾワッと背筋に嫌な予感が走り、宝箱の方へ弾かれたように顔を向けた…その時だった。



ズリュ…!

宝箱の両側面から、長い腕が…!? いや触手が…!! そして蓋が勢いよく開き、中から鋭い牙が…!マズい…!離れ…!

ガシッ ガブシュッ!

「ぎゃああああああっ!」

…遅かった…! 俺が叫ぶ前に、宝箱を開けた仲間は触手の腕に掴まれ、ガジガジと呑み込まれていく。

何故、こんなところにミミックが…! うおっ…今度は下から出た触手で、人間のような体を作り立ち上がりやがった…!その見た目、同じ製作会社だがゲームが違うだろ…!


こんな貪欲そうな奴、いくらこっちが複数人とはいえこんな狭い路地では不利だ…! 一旦退け…退け!








うねんうねんと名状しがたい動きで追いかけてくるミミックは、ラッパを咥え吹き鳴らしながら追いかけてくる。俺達は破裂しそうな頭を抑え、ひたすらに逃げた。

「あそこに扉が開いた部屋があるぞ!」

「飛び込め!」

手近に見つけた部屋に急ぎ駆け込む。扉を無理やり閉じ、鍵を下ろせば…!

「ハァ…これで安心か…」

追い込まれた気もするが…ようやく一息つけた。さて、どう倒すか…。

ミミックは強く、タフだ。上手く立ち回らなければ…。…ん?



「なんだ、この匂い…」

「腹減ってくるな…」

焦っていてわからなかったが、この部屋にはやけに美味しそうな匂いが立ち込めている。この大元は…。

「あっちか…」

俺達は誘われるように、ふらふらと部屋の奥へと進んでいく。仄かに灯った何かを目印に。一体何が…。

「店、か…?これ…」

薄暗めのランプの下には、屋台然とした店。置かれている寸胴からは、湯気が上がっている。そして、その手前にはに簡素なテーブルが幾つか。そこに置かれていたのは…

「「「ラーメン…!?」」」


出来立ての、旨そうなラーメンだ…。変なものが入っている様子はない…。背油も浮いている…。

深夜のラーメン…邪教団の連中、こんなものを嗜んでいるとは…。邪悪な奴らだ…。こうも背徳的なことを…容易く行うか。

見れば、箸こそ割られているものの、手付かず。俺達の侵入で、慌てて逃げ出したってとこか。


ぐううううううッ

…全員の腹が、鳴ってしまった。こんなもの見せられて、抗えるはずがない。

こちとら1人復活魔法陣送りにされたんだ。腹いせに食ってやろう…!!





全員揃って、席に着く。割りばしを手に、いざ実食…

「わー、匂いに釣られてノコノコ来たわね!」
「まるで引き寄せられた虫みたい…」
「ラーメンの魔力って恐ろし…!」

なっ…!? ラーメンが…喋った…!? どういうことだ…!?



チャプンッ ギュルッ!

瞬間、ラーメンスープの水面が揺れ、麺が…襲い掛かってきた…!!?違う、これは…触手だと…!!しまった…身体に絡みついて…

「ぷはっ!へい一丁お待ち!」
「ふうっ!ラーメンのスープを浴びたいって夢、叶っちゃった!」
「ふいー!お行儀すっごく悪いけどねー! 美味し!」

そう叫び、ラーメン鉢の中からひょっこり顔を出したのは、上位ミミック…!? こ、こいつら…ラーメンに擬態していただと…!?馬鹿な…全く普通の、美味しそうなラーメンだったぞ…!? 

「「「そーれっ!」」」
バシャンッ!

唖然としている間に、俺達は屋台の上の寸胴へと投げ入れられ…熱っ!? ね、熱湯…!? も、もしかして…!

「さて、豚骨ラーメンは美味しいけれど…人骨ラーメンはどうかしらぁ!?」

「「「ひ、ひいいっ!!」」」









ハッ…!

気づけば、復活魔法陣の上。死んだのか…。確か…ラーメン鉢入り上位ミミックに、思いっきり煮込まれて…。うっ…嫌な夢を…見ていた気分だ…。

「…気晴らしに酒でも飲みに行くか…」

「「「賛成…」」」



ふらつくまま、全員で街へと出る。どこで休もうか…バル、レストラン、ラーメン屋…ヒッ!

「ら、ラーメン…!!!!!」

あ、あぁ…! 麺が…! 麺が…! 襲ってくる…!!! 








――――――――――――――――――――――――――



狩人達が片付けられ、背徳ダンジョン内には活気が戻る。勿論、功労者であるミミック達にはラーメンが振舞われていた。

「うま~い!! さっき入ってたのも飲んだのに、まだスープ飲めちゃう!」
「やっぱ仕事の後の一杯は格別ねー! 何杯でもいけるわ!」
「さっきの狩人煮込んだの、不味かったわねー。狂気を煮出した、って感じ」


ちゅるちゅると麺とスープを啜る上位ミミック達。と、内一人が素朴な疑問を口にした。

「そういえば、狩人達が狙う『面妖なる結晶』って、なんで信徒の皆さんの身体に出来るんだろ?」

それに答えたのは、丁度自分のラーメンを完飲完食しきった別の上位ミミックであった。

「じゃあ聞いてみる?」

「え、誰に?」

「神様によ!」




「「聞けるの!?」」

驚く上位ミミック2人。提案者の上位ミミックは、うん!と頷いた。

「えーとね。社長曰く…このダンジョン内にいると、私達の『箱に自在に入れ、物を詰めこめる』っていう能力が『4次元空間』ってのと交差して、そこにいる神様とシンクロして、一時的に交信可能になる…だっけ?」

「「…何言ってるのかわからないんだけど…」」

「私もー!でも、社長は凄いから、ここに来てすぐに神様と軽くお話したみたい!だからアストちゃんが発狂?仕掛けた時にすぐ助けられたって言ってた!」

ケロッとした態度で笑う提案者のミミック。そのまま、彼女は続けた。

「アストちゃんにここの神様の文言を身体に刻んで貰ったでしょ? それのおかげで、私達でも上手くやれば交信できるみたいなの!」

「「やってやって!」」

「いいよー! あ、私の様子がおかしくなったら、触手で顔を思いっきり叩いてね!」





「まず、ラーメン鉢の中に入りまーす!」

そう言い、提案者の上位ミミックは食べ終わったラーメン鉢の中にスポリと入る。そして、自らの手を先程のようにラーメンのように変えた。

「そして、スープと具材を入れてもらって…と。お願いしまーす!」

「ホントに良いのかい…?熱いぞ? つっても、さっきも同じことやってたんだっけか…」

ラーメンを作っていた信徒の1人は、恐る恐る熱々のスープをラーメンミミックに注ぐ。しかし彼女は平然と。具材も乗せられ、美味しそうなラーメンが完成してしまった。


「うーん…。本当に美味そうだな…。こりゃ狩人が惹きつけられるのもわかるぜ…」

「えへへ…! でも、おじさんのスープが美味しいからですよ!」

信徒に褒められ、照れるラーメンミミック。それを誤魔化すように、最終工程へと移った。


「最後に、教典に書かれていた呪文を唱える。えーと…『いあ! いあ!  らぁめん ふたぐん! やさいからめまし あぶらすくなめにんにく!  ふたぐん! ふたぐん!』」

「…それ、呪文なの?」
「なんか、注文っぽくない…?」

困惑する上位ミミック2人。しかし、その直後だった。




ふわっ…!

突然、ミミック入りのラーメン鉢は宙に浮く。そして、麺…もとい触手を横に垂れ下げながら辺りを飛び始めた。

「…! おい…!あれを…!」

「あ…あぁ…! あの御姿…『空飛ぶラァメンモンスター』様…!」

その様子を見た、周囲の信徒達は、揃いも揃って両膝をつき祈りだす。傍から見ると、もはや何が何だかわからない絵面である。




数回辺りを周ると、飛んでいたラーメン鉢は元の場所に着地。中に入っていたミミックもひょっこり顔を出した。が…

「あ…あ…全ての深淵は…ラーメンスープと同義…あらゆるモノの混濁により…」

明らかに様子がおかしい。待っていた上位ミミック2人は顔を見合わせ…

「「えいっ!」」
ベチンッ!

顔面触手ビンタを食らわせた。



「あいたっ! ハッ!聞いてきたわよ、結晶の正体!」

ダメージで意識を取り戻したラーメンミミック。彼女の口から語られた真相は…

「ラーメンの食べ過ぎにより身体に害をなす成分を、神の力で特殊な結晶に変換してるんだって!」




「…うーん…?つまり、『結石』的なもの…?」
「…そんな感じかしら…?」

再度、困惑の表情を見せる上位ミミック2人。しかし、周囲で耳をそばだたせていた信徒達は違った。

「おぉ…!やはり神は私達を守ってくださる…!」
「素晴らしい…!流石、空飛ぶラァメンモンスター様…!」
「毎夜の楽しみの保証を…!ありがとうございます…!」

一様に感謝の言葉を口にする信徒達。困惑していた上位ミミック2人は、また顔を見合わせた。

「…まあ、皆喜んでるなら…」
「良いのかしらね…?」




そんな仲間を余所に、自分が入っていたスープと具材をもぐついていたラーメンミミック。突如彼女は、思い出したようにポンと手を打った。

「あ、そうそう!言い忘れてた! 皆を守ったお礼として、私達ミミックにも『毎日一杯、好きな麺を食べても太らない』加護くれたって!」

「えっ! ということは…今食べた一杯はノーカンってこと!?」

「やった! もう一杯食べましょ! 今度は別の味!」

ドッと活気づくミミック達。…しかし、問題があった。

彼女達は元から食いしん坊。加護を貰ったことで我慢のタガが外れたらしく、気づけばあれよあれよ杯を重ねていく。


そんな毎日を続けた、食べ過ぎ太り…事情を聞き駆け付けた怒髪天社長から、神様すらドン引く訓練ダイエットメニューを課されたのは…また別のお話。
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