【R18】Melting Room Stories ―密室で溶け合う、僕らの本能―

くすのき紬

文字の大きさ
1 / 18

Case.1 凪と柊斗 第1話:微熱の境界線

しおりを挟む
「やば! 柊斗(しゅうと)さんと凪(なぎ)さん、今日も一緒にいる~」
 「もう、結婚しちゃえばいいのに。眼福すぎる!」 

サークル総会が終わった後のラウンジ。

後輩の女子たちが、俺と凪をチラチラ見ながら騒いでいるのが見える。

「ったく。俺と凪はそんなんじゃねぇっての」 

「あはは。まぁ、いいんじゃない? あんたの女避けにはなるっしょ」

 (……それはこっちのセリフだ)


俺たちはサークル内でも有名な男女の親友コンビ。 

凪は少し気が強くてサバサバしていて、俺の雑な冗談にも倍の勢いで言い返してくる。

周囲の熱狂をよそに、俺たちは三年間、心地よい『親友』の距離感を完璧に守り続けてきた。

「じゃあ、私あっちのキャンパス戻るから。……バイバイ、柊斗」

凪が通う社会学部は、俺が通う経済学部とキャンパスが違う。

今日はサークルの総会のためにわざわざこっちに来ていたが、彼女が暮らすアパートは、ここから電車を乗り継いだ別キャンパスの近くだ。

凪が立ち上がった瞬間、その体がわずかに揺れた。

 「おい……凪?」 反射的に伸ばした手が、凪の二の腕を掴む。 

その瞬間、手のひらに伝わってきたのは、暴力的なまでの熱だった。

「おいお前……これ、熱あんだろ」

「……え、あー、バレた? ちょっと知恵熱かも」 

冗談めかそうとする凪だが、その瞳は潤んでいて、焦点が合っていない。

「……38度はあるぞ、これ。お前んち、こっから電車で30分だろ。無理すんな、俺んちで休んでけ」

俺の住むワンルーム。 
無論、凪が来るのは初めてではない。 

サークル終わりに一緒にゲームをしたり、酒を飲んだりする「ただのたまり場」だ。

「ほら、これ着とけ。貸してやるよ」 

「あ、ありがと……」

 「ベッド。使っていいから。……ちょっと買い出し行ってくるわ」

凪をベッドに案内し、俺は近所のコンビニへ走った。 
スポーツドリンクとゼリー飲料、それから冷却シートを購入し、部屋へ戻る。


「……ただいま」 

袋を提げて部屋に戻ると、凪はすでに深い眠りに落ちていた。 

俺のTシャツに着替えた凪は、枕に顔を埋めて、重い呼吸を繰り返している。

 ダボダボの袖から覗く細い腕。ショートパンツから放り出された、白い脚。


(…、無防備すぎだろ。俺を男として見てねーのかよ)


普段の気の強い彼女からは想像もできないほど、今の凪は「女」としてそこに存在していた。


(……落ち着け。相手は凪だぞ)


俺は自分に言い聞かせ、買ってきた冷却シートを貼ってやろうと、凪のそばに膝をついた。 

その時だった。

「……っ、……しゅう、と」

凪の指先が、俺のシャツの袖をぎゅっと掴んだ。 

そのまま俺の手首を自分の方へ引き寄せ、熱を持った自分の頬に、俺の手をぴたりと当てる。

 「……しゅうとの手、……つめたくて、気持ちいい……」

満足げに口角をわずかに上げると、凪はそのまま再び深い眠りに落ちてしまった。 

規則的な寝息が、静かな部屋に響き始める。

(……ああ、そうだ。もともと俺はこいつを、ちゃんと女として見てた)

三年間、『親友』というラベルで厳重に鍵をかけていた俺の独占欲が、凪の熱い吐息ひとつで弾け飛ぶ。

 一度自覚してしまえば、指先から伝わる凪の柔らかな肌の感触も、貸したTシャツの襟元から覗く華奢な鎖骨も、すべてが劇薬のように俺の理性を侵していく。



***

カーテンの隙間から、眩い朝の光が差し込み始める。 
結局、俺は一睡もできなかった。

繋がった手のひらから、凪の体温が俺の心臓へと伝染し、下半身には逃げ場のない熱が溜まっていく。

 隣で無防備に寝息を立てる凪を、俺は一晩中、食い入るように見つめていた。 

乱れた襟元から覗く白い肌、微かに震える睫毛、俺の手を求めてすり寄ってくる柔らかな頬。
 ……何度も、このまま無理やり組み敷いてしまおうかという衝動に駆られた。

(……マジで責任取れよ、凪。俺、お前のせいで一睡もできなかったんだぞ)

握られたままの右手は、もう痺れて感覚がない。 
けれど、それ以上に俺の中の怪物が、内側から俺の理性を食い破ろうと暴れ続けている。

昨夜までは、この距離感が『正解』だと思っていた。 
でも、もう限界だ。 三年間積み上げてきた「親友」なんていう分厚い壁が、今の俺の前では紙クズ同然に思える。

「……ん、……柊斗……?」

不意に、凪の長い睫毛が揺れた。 熱が引いたのか、少しだけスッキリした瞳が、寝ぼけ眼で俺を捉える。

 …ああ、もうダメだ。 俺はもう、優しい親友の顔なんてしていられない。

「……凪。おはよう。……気分はどうだよ」

低く掠れた自分の声が、自分でも驚くほど獣じみていた。 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

閉じ込められて囲われて

なかな悠桃
恋愛
新藤菜乃は会社のエレベーターの故障で閉じ込められてしまう。しかも、同期で大嫌いな橋本翔真と一緒に・・・。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

少女が出会ったのは狼さん(色んな意味で…)でした。

ヴィオ
恋愛
みんなが知っている童話の「赤ずきんちゃん」と思わせておいてのオオカミちゃん(女)が狼さん(男)に襲われるお話?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

御曹司の極上愛〜偶然と必然の出逢い〜

せいとも
恋愛
国内外に幅広く事業展開する城之内グループ。 取締役社長 城之内 仁 (30) じょうのうち じん 通称 JJ様 容姿端麗、冷静沈着、 JJ様の笑顔は氷の微笑と恐れられる。 × 城之内グループ子会社 城之内不動産 秘書課勤務 月野 真琴 (27) つきの まこと 一年前 父親が病気で急死、若くして社長に就任した仁。 同じ日に事故で両親を亡くした真琴。 一年後__ ふたりの運命の歯車が動き出す。 表紙イラストは、イラストAC様よりお借りしています。

年下研修医の極甘蜜愛

虹色すかい
恋愛
医局秘書として市内の病院に勤務する廣崎彩27歳。普段はスマートに仕事をこなすクールな彼女だが、定期的にやって来る「眠れない夜」に苦しんでいる。 そんな彩に、5年越しの思いを寄せる3歳年下の藤崎仁寿。人当たりがよくて優しくて。仔犬のように人懐っこい笑顔がかわいい彼は、柔和な見た目とは裏腹に超ポジティブで鋼のような心を持つ臨床研修医だ。 病気や過去の経験から恋愛に積極的になれないワケありOLとユーモラスで心優しい研修医の、あたたかくてちょっと笑えるラブストーリー。 仁寿の包み込むような優しさが、傷ついた彩の心を癒していく――。 シリアスがシリアスにならないのは、多分、朗らかで元気な藤崎先生のおかげ♡ ***************************** ※他サイトでも同タイトルで公開しています。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...