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Case.1 凪と柊斗 第1話:微熱の境界線
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「やば! 柊斗(しゅうと)さんと凪(なぎ)さん、今日も一緒にいる~」
「もう、結婚しちゃえばいいのに。眼福すぎる!」
サークル総会が終わった後のラウンジ。
後輩の女子たちが、俺と凪をチラチラ見ながら騒いでいるのが見える。
「ったく。俺と凪はそんなんじゃねぇっての」
「あはは。まぁ、いいんじゃない? あんたの女避けにはなるっしょ」
(……それはこっちのセリフだ)
俺たちはサークル内でも有名な男女の親友コンビ。
凪は少し気が強くてサバサバしていて、俺の雑な冗談にも倍の勢いで言い返してくる。
周囲の熱狂をよそに、俺たちは三年間、心地よい『親友』の距離感を完璧に守り続けてきた。
「じゃあ、私あっちのキャンパス戻るから。……バイバイ、柊斗」
凪が通う社会学部は、俺が通う経済学部とキャンパスが違う。
今日はサークルの総会のためにわざわざこっちに来ていたが、彼女が暮らすアパートは、ここから電車を乗り継いだ別キャンパスの近くだ。
凪が立ち上がった瞬間、その体がわずかに揺れた。
「おい……凪?」 反射的に伸ばした手が、凪の二の腕を掴む。
その瞬間、手のひらに伝わってきたのは、暴力的なまでの熱だった。
「おいお前……これ、熱あんだろ」
「……え、あー、バレた? ちょっと知恵熱かも」
冗談めかそうとする凪だが、その瞳は潤んでいて、焦点が合っていない。
「……38度はあるぞ、これ。お前んち、こっから電車で30分だろ。無理すんな、俺んちで休んでけ」
俺の住むワンルーム。
無論、凪が来るのは初めてではない。
サークル終わりに一緒にゲームをしたり、酒を飲んだりする「ただのたまり場」だ。
「ほら、これ着とけ。貸してやるよ」
「あ、ありがと……」
「ベッド。使っていいから。……ちょっと買い出し行ってくるわ」
凪をベッドに案内し、俺は近所のコンビニへ走った。
スポーツドリンクとゼリー飲料、それから冷却シートを購入し、部屋へ戻る。
「……ただいま」
袋を提げて部屋に戻ると、凪はすでに深い眠りに落ちていた。
俺のTシャツに着替えた凪は、枕に顔を埋めて、重い呼吸を繰り返している。
ダボダボの袖から覗く細い腕。ショートパンツから放り出された、白い脚。
(…、無防備すぎだろ。俺を男として見てねーのかよ)
普段の気の強い彼女からは想像もできないほど、今の凪は「女」としてそこに存在していた。
(……落ち着け。相手は凪だぞ)
俺は自分に言い聞かせ、買ってきた冷却シートを貼ってやろうと、凪のそばに膝をついた。
その時だった。
「……っ、……しゅう、と」
凪の指先が、俺のシャツの袖をぎゅっと掴んだ。
そのまま俺の手首を自分の方へ引き寄せ、熱を持った自分の頬に、俺の手をぴたりと当てる。
「……しゅうとの手、……つめたくて、気持ちいい……」
満足げに口角をわずかに上げると、凪はそのまま再び深い眠りに落ちてしまった。
規則的な寝息が、静かな部屋に響き始める。
(……ああ、そうだ。もともと俺はこいつを、ちゃんと女として見てた)
三年間、『親友』というラベルで厳重に鍵をかけていた俺の独占欲が、凪の熱い吐息ひとつで弾け飛ぶ。
一度自覚してしまえば、指先から伝わる凪の柔らかな肌の感触も、貸したTシャツの襟元から覗く華奢な鎖骨も、すべてが劇薬のように俺の理性を侵していく。
***
カーテンの隙間から、眩い朝の光が差し込み始める。
結局、俺は一睡もできなかった。
繋がった手のひらから、凪の体温が俺の心臓へと伝染し、下半身には逃げ場のない熱が溜まっていく。
隣で無防備に寝息を立てる凪を、俺は一晩中、食い入るように見つめていた。
乱れた襟元から覗く白い肌、微かに震える睫毛、俺の手を求めてすり寄ってくる柔らかな頬。
……何度も、このまま無理やり組み敷いてしまおうかという衝動に駆られた。
(……マジで責任取れよ、凪。俺、お前のせいで一睡もできなかったんだぞ)
握られたままの右手は、もう痺れて感覚がない。
けれど、それ以上に俺の中の怪物が、内側から俺の理性を食い破ろうと暴れ続けている。
昨夜までは、この距離感が『正解』だと思っていた。
でも、もう限界だ。 三年間積み上げてきた「親友」なんていう分厚い壁が、今の俺の前では紙クズ同然に思える。
「……ん、……柊斗……?」
不意に、凪の長い睫毛が揺れた。 熱が引いたのか、少しだけスッキリした瞳が、寝ぼけ眼で俺を捉える。
…ああ、もうダメだ。 俺はもう、優しい親友の顔なんてしていられない。
「……凪。おはよう。……気分はどうだよ」
低く掠れた自分の声が、自分でも驚くほど獣じみていた。
「もう、結婚しちゃえばいいのに。眼福すぎる!」
サークル総会が終わった後のラウンジ。
後輩の女子たちが、俺と凪をチラチラ見ながら騒いでいるのが見える。
「ったく。俺と凪はそんなんじゃねぇっての」
「あはは。まぁ、いいんじゃない? あんたの女避けにはなるっしょ」
(……それはこっちのセリフだ)
俺たちはサークル内でも有名な男女の親友コンビ。
凪は少し気が強くてサバサバしていて、俺の雑な冗談にも倍の勢いで言い返してくる。
周囲の熱狂をよそに、俺たちは三年間、心地よい『親友』の距離感を完璧に守り続けてきた。
「じゃあ、私あっちのキャンパス戻るから。……バイバイ、柊斗」
凪が通う社会学部は、俺が通う経済学部とキャンパスが違う。
今日はサークルの総会のためにわざわざこっちに来ていたが、彼女が暮らすアパートは、ここから電車を乗り継いだ別キャンパスの近くだ。
凪が立ち上がった瞬間、その体がわずかに揺れた。
「おい……凪?」 反射的に伸ばした手が、凪の二の腕を掴む。
その瞬間、手のひらに伝わってきたのは、暴力的なまでの熱だった。
「おいお前……これ、熱あんだろ」
「……え、あー、バレた? ちょっと知恵熱かも」
冗談めかそうとする凪だが、その瞳は潤んでいて、焦点が合っていない。
「……38度はあるぞ、これ。お前んち、こっから電車で30分だろ。無理すんな、俺んちで休んでけ」
俺の住むワンルーム。
無論、凪が来るのは初めてではない。
サークル終わりに一緒にゲームをしたり、酒を飲んだりする「ただのたまり場」だ。
「ほら、これ着とけ。貸してやるよ」
「あ、ありがと……」
「ベッド。使っていいから。……ちょっと買い出し行ってくるわ」
凪をベッドに案内し、俺は近所のコンビニへ走った。
スポーツドリンクとゼリー飲料、それから冷却シートを購入し、部屋へ戻る。
「……ただいま」
袋を提げて部屋に戻ると、凪はすでに深い眠りに落ちていた。
俺のTシャツに着替えた凪は、枕に顔を埋めて、重い呼吸を繰り返している。
ダボダボの袖から覗く細い腕。ショートパンツから放り出された、白い脚。
(…、無防備すぎだろ。俺を男として見てねーのかよ)
普段の気の強い彼女からは想像もできないほど、今の凪は「女」としてそこに存在していた。
(……落ち着け。相手は凪だぞ)
俺は自分に言い聞かせ、買ってきた冷却シートを貼ってやろうと、凪のそばに膝をついた。
その時だった。
「……っ、……しゅう、と」
凪の指先が、俺のシャツの袖をぎゅっと掴んだ。
そのまま俺の手首を自分の方へ引き寄せ、熱を持った自分の頬に、俺の手をぴたりと当てる。
「……しゅうとの手、……つめたくて、気持ちいい……」
満足げに口角をわずかに上げると、凪はそのまま再び深い眠りに落ちてしまった。
規則的な寝息が、静かな部屋に響き始める。
(……ああ、そうだ。もともと俺はこいつを、ちゃんと女として見てた)
三年間、『親友』というラベルで厳重に鍵をかけていた俺の独占欲が、凪の熱い吐息ひとつで弾け飛ぶ。
一度自覚してしまえば、指先から伝わる凪の柔らかな肌の感触も、貸したTシャツの襟元から覗く華奢な鎖骨も、すべてが劇薬のように俺の理性を侵していく。
***
カーテンの隙間から、眩い朝の光が差し込み始める。
結局、俺は一睡もできなかった。
繋がった手のひらから、凪の体温が俺の心臓へと伝染し、下半身には逃げ場のない熱が溜まっていく。
隣で無防備に寝息を立てる凪を、俺は一晩中、食い入るように見つめていた。
乱れた襟元から覗く白い肌、微かに震える睫毛、俺の手を求めてすり寄ってくる柔らかな頬。
……何度も、このまま無理やり組み敷いてしまおうかという衝動に駆られた。
(……マジで責任取れよ、凪。俺、お前のせいで一睡もできなかったんだぞ)
握られたままの右手は、もう痺れて感覚がない。
けれど、それ以上に俺の中の怪物が、内側から俺の理性を食い破ろうと暴れ続けている。
昨夜までは、この距離感が『正解』だと思っていた。
でも、もう限界だ。 三年間積み上げてきた「親友」なんていう分厚い壁が、今の俺の前では紙クズ同然に思える。
「……ん、……柊斗……?」
不意に、凪の長い睫毛が揺れた。 熱が引いたのか、少しだけスッキリした瞳が、寝ぼけ眼で俺を捉える。
…ああ、もうダメだ。 俺はもう、優しい親友の顔なんてしていられない。
「……凪。おはよう。……気分はどうだよ」
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