絆物語

藤原葉月

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大切な人との時間

第28話

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「ゴホゴホ・・・冷えてきたな」

雨はまた激しくなり少し冷える夜だった。
彼は、1人野宿をしていた。

と、そこへ
【マサ・・・・】

聞いたことがある声。
だが・・・・

「シュウ!?」
そこに居たのは知っている顔。
親友のシュウだ。

【へぇ?お前ナミに会ったんだな】
今までにない邪気をなぜか感じる。

「シュウ、まさかお前・・・・」

【簡単だったぜ。あいつにお前が傷ついた姿を見せたら忘れてくれたよ。お前の顔も声も全てな】

「な、なんだと?」
記憶喪失は、シュウのせいなのか?

【お前にあいつは渡さない!あいつは俺のモノだ】
「シュウ!何を言ってるんだ!」

操られているのか?

【くくく】
シュウは剣を出てきた。
「まてよ、シュウ!どうしたんだよ!お前にはこんな力・・・・・」

【ふふふ、俺と勝負しろ!!覚悟するんだマサ!!】
「やめろ!!こんなことやめるんだ!ナミの気持ちを弄んでお前はそれで幸せか?」
マサの剣と、シュウの剣が擦れあった!!

2人の力は互角だった!!

そして・・・・

「マサ・・・・・」

「えっ?シュウ?」
この気は・・・・正気なシュウ?

そう、正気なシュウの顔が写ったのだ。

「ま・・マサ、俺を刺すんだ!」
「シュウ、そんなこと出来るわけないだろ!!」
「俺はわかっていた。ナミは始めからお前に惚れているって。お前が出発する前から俺の負けだって・・・・」

「シュウ?」

「マサ、ナミのことを必ず幸せにしろよ?約束だからな!」
「シュウ!!」

シュウはマサの剣を弾き、力を振り絞って自分の剣で自分を刺した!!

「えっ?シュウ!!」

「ぐっ・・・・・」

「シュウ!!」
「マサ・・・・・最後に会えてよかった・・・・・」

ドサッ


彼は力つきてしまった!
「シュウ!!」
「・・・・マサ・・・・ごめ・・・・ん」

シュウは静かに目を閉じてしまった。


罠だったのか!!

「なんで逃げなかったんだよ!!シュウ!お前だって守るやつはいるんだろ!なぁ!!」
だが、彼はそれきり目を開けることは無かった。


【ふふふ。愚かな人間はやはり弱いな】

魔物の声がする。

「お前か?お前がシュウの心を・・・・そしてナミの心も・・・・・許せない・・・・」


マサは剣に力を貯めた。


【グッ】

魔物を一撃で仕留めた。


「シュウ、ごめんな。こっちこそ、ごめん・・・・」

マサは降りしきる雨の中、シュウの亡骸を土に埋めた。

そして空はいつのまにかさっきの雨が嘘のように晴れて月明かりがみえはじめた。



そして、彼は約束通り、食材を手に入れると夜遅くにマサは帰って行った。

みんなが寝静まっていた。


起こしちゃ悪いと思い、彼もそのまま寝てしまった。


次の日・・・・
「ゴホゴホ・・・・」
咳き込む声が聞こえてきて、

「マサさん?」
ケンはマサの様子がおかしいことに気づき、ノックをした。

今朝は快晴だった。

「マサさんでしたか?こんなに沢山の食材をありがとうございます。早速用意致しますね」

女将さんは嬉しそうだ。
「いえ、ゴホゴホ・・・・喜んでいただけて何よりです・・・・」

「大丈夫?咳き込んでるけど・・・・」

さらに心配するケン。

「昨日雨に当たったまま寝ちゃったからな」
「あの?大丈夫ですか?」

ナミも心配して駆けつけた。

「ナミ・・・・ゴホゴホ・・・・」
「マサさん、とにかく寝ててよ」
「いや、大丈夫だ。嵐も止んだし・・・・行かなきゃ・・・・」

「あのさぁ、昨日あんたが言ったセリフそのまま返すわ。」
「ゴウ・・・・」
「無理すんなよ。そんなんで戦っても負けるだけだ。そんなの俺が許さないから」

そこまでは言ってないけど・・・・


「ゴホゴホ・・・わかったよ。お前の言う通りにする・・・」

そして
「あの?大丈夫ですか?」
ナミは心配そうにマサに近づいた。

「大丈夫。君にうつしたくないから・・・ゴホゴホ・・・寝てれば治るから・・・・


そう言ってマサは眠ってしまった。

「酷い熱。ったく、本当はもっと前から・・・・?」
「私、薬を買ってきます」
ナミは走って降りて行った。

そして、

「マサさんが風邪?」
「うん、だからもうしばらくここにいることになりそうだから」

「僕は構わないよ。病人なら仕方ない。それより、散歩に行ってきてもいいか?」
遠慮がちに聞くヨシ。

「構わないですよ。この雨でそんな余裕ありませんでしたから」

ヒロは、快く了承した。

久しぶりによく晴れた朝だった。

ヨシは歩きながら深呼吸をした。


すると?

「ミュウ!」
ミュウが突然飛び出して走り出した。

「ミュウ?どうしたんだ!」
ヨシはミュウを追いかけた。

ミュウが向かったその先には・・・・・


「えっ?ヨシ・・・・?」

「レイナ・・・・」


そこに居たのは、レイナだった。
「ヨシ、良かった。生きていたのね」


「えっ?生きていた?僕は雨が降っていたから宿から出ていない。何かあったのか?」

「この近くでがけ崩れがあって青年の遺体が発見されたそうなの。あなたか、あなたの仲間かと思って・・・・」

「そうか。みんな無事だよ。女王様なのにそういうことも調べるんだな」

「・・・・・」

「ちょうど良かった。レイナに渡すものがあったんだ。会えてよかった」
ごく普通に名前を呼んでいるヨシ。

「私も、ヨシに会いたかった」

「レイナ、この前は・・・・」
と、ヨシがポケットからネックレスを取り出して渡そうとしたその時だった!!


「レイナ様に近づくな!!」
パキン!!

「・・・・あっ」

レイナの付き人のアルフがそのネックレスを剣で弾き飛ばした!

ガッシャーン
ネックレスの一部が切れてしまった。
ヨシはそれを拾い集めていた。

「ヨシ・・・・?」
「あっ、いや・・・ただの首飾りだ。こんなのいらないだろ?」

「ヨシが選んでくれたんでしょう?」
彼女はヨシの手からそのネックレスをとった。
「でも、壊れてしまったし・・・・」

「大丈夫、直すから。私にくれるんでしょう?」
「レイナ様」

アルフの姿を無視するように
「だめだ、レイナ・・・こんなの」
「大丈夫。大事にする!ありがとう!またね!」
そう言って持って行ってしまった。

「あ、あぁ」

「レイナ様!待ってください!!」


そして・・・・呆然とレイナを見送るヨシ。

「ヨシさん?」
ジュンはヨシがある方向を向いたまま動かないでいることを不思議に思ったが・・・・

その視線の先に、《その人》の後ろ姿があるのを見てピンと来た。

「もしかして、女王様に会ったの?」
「えっΣ(゚д゚;)ジュン・・・いつのまに」
当てられてしまったのといつのまにかいるジュンに驚いたヨシ。

「ま、まぁな」
「(反応遅いよ。本当は嬉しかったんだ)」

ヨシが一瞬だけ嬉しそうな顔をしたのをジュンは見逃さなかった。


「レイナ様!なぜあの男が!」

アルフは、レイナについて行きながら聞いた。

「アルフ、ごめんなさい」
レイナは大事そうにネックレスを握って答えた。

「私はヨシが好きだ。あの男のためだけに生きていく。今日、会ってわかった」

嬉しそうなレイナの顔にアルフは敵わないと思った。

こんなにそばに居るのに彼女が見ているのは・・・・


あの《ヨシ》であることに変わりはないんだと。
彼女の気持ちはもう変わらないんだと・・・・・そう思ったのだった。






    
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