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55話 弱虫と無自覚
しおりを挟む「ごめんね。安藤君、無理言っちゃって」
「あー、何がだよ?」
安藤がツバサに問う。
今、二人は道場へと来ていた。
「その、試験までに僕を一人前にするなんて、無茶なお願いをしちゃってさ」
困ったように言うツバサに安藤は眉を顰める。
「あのなぁ、絶対に無理なら引き受けねぇんだよ。俺はよぉ」
安藤は呆れた様にそう言って、ツバサに刀、朱白雪雨を投げて渡した
「とりあえず、それの重さに慣れとけ」
刀を腰に差すようにと安藤は言う。
「う、うん」
ツバサは言われた通りに刀を腰に差す。ズシリとした、重さが伝わってくる。
(うわぁ……。結構重いなぁ)
「ド素人のお前は、先ずは刀を持ち歩いて、慣れなきゃいけねえからな、暫くは寝る時と風呂以外は、ずっとそうしておけ」
「うん。わかったよ」
「うし、んじゃ。さっき教えた通りに身体強化使え」
「うん。……出来たよ!!安藤君、次はどうするの?」
「あー、とりあえず、死ぬ気で避けろ」
そう言うと安藤はツバサへ、一歩踏み込んだ。その手には竹刀が握られている。
『風が吹いた』とツバサは思った。
そして、気付いたらツバサは床で倒れていた。
「え………?あ!!!ごめん、安藤君。僕、今どれくらい寝てた?」
安藤は竹刀を肩にトントンとして暇そうに立っていた。ツバサの声にチラリと時計を見て、そして答えた。
「まあ2分くらいか?つーか、怪我は治んのに気絶すんのが問題だな、お前」
はあ、と溜め息を吐く安藤にツバサは居心地悪くなる。
「ごめん」
「あー?別に悪いとは言ってねえだろが、………悪くねえのに謝んな、あほ」
ツバサの前にポタリと雫が落ちる。
「あ?」
「違うんだ。……僕、怖いんだ。だから、すぐに気持ちが逃げちゃって、気絶しちゃうんだよ。僕が弱虫だから、せっかくのチートを使いこなせてないんだ」
ポタポタと落ちる雫は増えていく。
「……僕も安藤君みたいに、強くなりたい。何も怖くなくなりたい」
そう言って泣くツバサに安藤は、はあと息を吐いて、そして困ったように笑った。
「はあ?お前、俺を強いと思ってんの?俺に怖いものがなんにも無いとでも?何だよ、そりゃよぉ。お前何見てたんだよ?俺がユアンにズタボロにされた時お前、側に居ただろうが?ばっかじゃねーの」
安藤はそう言った。それにツバサは何も言えない。
「弱えから、怖くて、死にたくねぇから、だからこそ、頑張れるんだろうが?そう言うもんだろ?それが普通で、怖いと思うのは悪いことじゃねぇ。弱虫ともちげぇよ。………それに本当にお前が弱虫なら、今、俺の前には居ねぇんだよ。ばーか」
馬鹿とは言うが安藤の声は優しい。
(安藤君………)
またポロポロと涙が床に落ちる、だが先程の涙とは違う。暖かな涙。これは嬉し泣きだ。
「うん……。そうだね。怖いし死にたくないし、………だから頑張るよ」
◇◇◇◇◇◇
何度も気絶と覚醒を繰り返して、ふと時計を見ると、もうすぐお昼になる所だった。
「あー?どした?」
難しい顔で止まるツバサに安藤が声をかける。
「え?あー、その、園田さん、どうしてるかなって……」
「あー?お前がアイツに格好悪いトコ見られたくないって置いて来たんだろうがよ。アイツなら別に、テキトーにすごしてんじゃね?」
興味なさそうにそう言う安藤に、ツバサは暗い顔をする。
「誰かと一緒にいるのかなぁ……」
ポツリとツバサは呟いた。
(最近、ブランの様子がおかしいし。ユアンは園田さんの事が好きだし………むぅ)
なんだかツバサはムカムカして来た。
(特に今日のブランは変だったもん。格好良いお洒落なサングラスなんてかけてるし、それに、園田さんに近づき過ぎじゃない?園田さんも、あんなに触れられてるのに、気にしてないし……むぅ)
思い出せば出す程にツバサは、どんどんムカムカしてくる。
(だって園田さんは僕の、ーーーーーー)
「おーい?立ったまま気絶してんのかよ?」
呆れた様な安藤の声にツバサはハッと我に返る。
「……あ、ごめんね」
「別に良いけどよ、マジで大丈夫かよ。お前」
(………そう言えば安藤君って……)
「ねえ安藤君」
「んだよ?」
「なんでグレてたの?」
ド直球だ。
「あ?」
安藤はポカンとしている。
「いや、だって安藤君って色んな事知ってるし、優しいし。本当はカッコイイし」
「なんだよ、本当はって。……、ちっ……ぼーっとしてたかと思えば、急に何言い出すかと思えば、たくよぉ。はぁ……………お前はさ、たった10歳の子供がよぉ。今まで、仲良くしていた奴らが自分の事を本当は嫌っていたのを知ったら、どうなると思う?」
安藤の言葉にツバサは首を傾げる。
「え?それって?」
「自分は、代替え品。しかも、劣化品だとか言われてよぉ。味方だと思ってる奴らが皆、敵だったんだぜ?」
なおも安藤は続ける。
「死ぬまで、家に縛られて結婚相手すら、自分で選べねぇ。頑張っても誰も本当の意味では俺を見てねぇんだよ。グレたくもなんだろが………」
ほんの少しだけ安藤の声は辛そうだ。
「……それは、辛いね。………結婚相手って?」
「あぁ?………一応、許嫁がいんだよ。俺の家は風系統に固執してっからな。同じ属性の家と婚姻すんだ」
「許嫁?!うそっ!!すごいね!!」
「あー?でも、兄貴が助かるからな。もう、俺は関係ねえよ」
「え?なんでなの?」
「元々、二人に一人の女あてがってんだよ。クソ親父は……。だからアイツも兄貴と結婚すんだろ、元々俺は兄貴の予備だしな」
「え?」
ツバサは開いた口が塞がらない。安藤の生い立ちにショックを受けた。
「えと、安藤君は、その、許嫁さんの事は好きだったの?」
「はぁ?ねえな、あんなクソ女絶対無い。アイツと園田だったら、園田選ぶは」
「……へー?」
「あ………わりぃ、変な意味じゃねぇよ。お前、わかりやす過ぎ」
「?」
「はあ?マジかよお前、無自覚ってやつか」
キョトンと首を傾げるツバサを見て、安藤はポツリと呟き、溜め息を吐いた。
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