【改稿版】この世界の主人公が役にたたないのでモブの私がなんとかしないといけないようです。

鳳城伊織

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56話 少しの和解

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ユアンとミライ、二人は、まだ中庭のベンチに居た。少しは落ち着いたが、まだ、グスグスしているユアンの頭を抱きしめて、ミライは、優しく、よしよしと、あやしていた。ユアンは時折、甘えるようにスリスリとすり寄ってくる。

(うわー、あのユアンが、こんな風に甘えるって意外だわー。まあ、まだ18って子供みたいなものだもんね)

この国、ジパンでは、成人は15歳。お酒もタバコも解禁である。成人すれば男も女も結婚出来る。いつ死ぬか、わからない世界だから、何事も早いのだ。
だからユアンもミライも、成人している事になる。この国では、立派な大人だ。
しかし前世が日本人のミライにしてみれば、ユアンは、まだまだ未成年の子供だ。

(………そう思えば、甘えさせてあげても良いかなぁ)

なんだか母性が湧いて来る。

(あー、でも、そろそろちょっと………時間が……)

沢山甘えさせてあげたいが、何時までもこうしている訳にも行かない。どう声をかけようか、迷っているとチャイムが鳴った。

「あ……」

お昼だ。


「……、もうおひるだね。ごめんね、ミライ。もうだいじょうぶ……ありがとう」


そう言ってユアンが体を起こす。珍しく舌足らずなユアン。ハッとしてミライはユアンの顔を見て

(あ、やらかした。完全に行動ミスった……)

と思った。

ユアンがミライを見る目は、もう完全に恋する男の瞳だったのだ。瞳が甘く蕩けている。

鈍感系ヒロインじゃないモブのミライは、向けられた視線の意味に、ちゃんと気づいたのだ。

(あー……これは、ちょっとヤバいかも)

実際、ミライだってミーハーな女子の一人だ。アニメのイケメンキャラにキャーキャー言っていた。

しかし二次元に夢中で現実的な恋愛経験値は少ない。そんなミライが推しでは無かったが、好きなアニメのキャラ(イケメン)にこんな目を向けられているのだ。

(……っ。正直ちょっと嬉しい……。あ、でも)

脳裏にツバサの顔が浮かんで、何故だか、胸が痛んだ。

(なんで……今、ツバサ君の顔が浮かぶの?)






◇◇◇◇◇◇




顔を洗ってくるから、少し待っててと言って、ユアンが去って行く。

その背を眺めて、ミライは頭を抱えた。

(なんで?なんで、ツバサ君が出てくるの?うーん。……それにユアンとは、どうしよう?………更に好感度が上がっちゃったし…………ユアンには、完全に好かれてるよね?好かれた切っ掛けは謎だけど。………さっきのは、完全にやらかしたなぁ……、止める為とは言え、ほっぺにキスまでしちゃったし。はぁ。どうしよう) 
  
だが、いくら悩んでも、どうしようも無い。

(向こうからハッキリ言われるまではどの道、保留かなぁ……、今は恋愛とか、してる場合じゃないし……)

そう、今はそれどころでは無いのだ。

ミライとツバサには世界を救う使命が有る。あとついでに安藤にも。

(うん。保留………。うーん)






顔を洗い、さっぱりとした顔で戻って来たユアンから、通常食堂に行かないかと誘われた。断る理由も無いので、二人で食堂へと向かう。

(ユアン、普通だ。……良かった)

ユアンの様子は、普通に戻っていて、ミライはホッと胸を撫で下ろした。

(ん?)

食堂に着いて、席を確保し腰を下ろすと、何故かユアンはコケシを目の前に置く。

「ふふふ、ミライが二人居るみたいで嬉しいな」

(これが私に、似てると?ユアンには、そう見えてるの?)

ミライはユアンとコケシを交互に見る。コケシの顔は歯がむき出しの笑顔で、目はマリ○ッコリの様にニヤけている。更に首がカタカタカタカタ揺れてる。

(あれ?好かれてるって勘違いか?むしろ嫌われているのでは?)







◇◇◇◇◇◇





安藤は道場の壁にキモいお面を2つ飾ると、うんうんと、満足そうに頷いていた。

何故なにゆえそこに飾るのだ?」

後ろで、珍妙丸が困惑している。

「あ?こんなん自分の部屋に置きたくねーからだよ」



時は少し前に遡る。


チャイムが、鳴ったのでツバサは安藤へお昼はどうするのかと尋ねた。

「あ?あー、昼飯なら、もうすぐおっさんが持ってくんだろ」

「珍妙丸さんが?」

丁度、その時道場の扉が開いた。

お盆にお握りを山盛りにした、珍妙丸がそこに居た。よく見ると、後ろに志穂とエリカも居た。手にはおかずと、汁物らしき容器を持っている。安藤とエリカはお互い無言で見つめ合う。

「うむ、昼食を持ってきた故。みなで食べよ」

珍妙丸はそう言ってちゃぶ台の用意を始めた。志穂はお茶の用意をしている。

エリカは気まずそうにしていたが、おずおずと、安藤に話しかけて来た。

「ひょーじ………安藤」

「……昔みたいに呼べばいいだろがぁ」

「………うん。ねえ、アンタ、それ一体どういう事なの?」

エリカは気まずそうに安藤の額を指差す。

それとは、額の入れ墨、印の事だろう。

「はあ?何って風魔憑きだろが」

安藤が、何言ってんだコイツと言う顔をするとエリカは声を荒げた。

「な!!何よっ!!そんなの知るわけないじゃないっ!!だって、そんなの昔は無かったわ!!」

そう。豹二郎が引っ越したと聞いた10歳の頃には、そんな物は無かったので、エリカが知る由もないのだ。

「はあ?お袋から聞いてんだろ?」

「へ?なんの事よ?」

「?」

二人の会話は噛み合っていない。

「だぁからよぉ、お前、俺が印持ちになって気持ちわりぃから、遊びに来なくなったんだろうが。お袋が言ってたぜ」

イライラと安藤が言うと、エリカはポカンとしてから、叫ぶ。

「はぁっ?!何よっ!!それっ!!アンタが何も言わずに急に引っ越したんでしょう?!………一言くらい言ってくれても良かったじゃない」

「は?………あ。……へぇ、なるほどなぁ、そういう事かよ。は、はは」

安藤はポカンとしてから、笑い出す。だが、すぐにその顔は険しい物へと変わる。

「はは……ちっ……あんのババアやってくれるぜ……」

「ひょーじろう?」

はあ、と息を吐いてから安藤はエリカへと向き直る。

「俺は引っ越してなんかねえよ。まあ、部屋に閉じ込められては居たけどな」

ある日突然印が出て、風魔憑きが宿った。家には魔力無しが多く居たから、簡単に人の話を盗み聞き出来たし、風景を見ることも出来た。

それをよく思わなかった母親が、暫く外に出るなと言った。

エリカとは遊べないの?と聞いたら、あの子はお前を気味悪がって、もう家には来ないと母親は言った。ショックだった。


それから、エリカとは一度も会わずに過ごして、学校ここで再会した。


だが、エリカは安藤の事なんて、気にもしないで、他の奴らと楽しそうにしていたからムカついた。だから、嫌がらせしてやろうと、こちらから近づいては声をかけていた。

(気味が悪い俺に話しかけられて、今、どんな気分だよ?………クソムカつくぜ)

だけど、違ったのだ。エリカは何も知らなかった。気味が悪いなんて思っていなかった。

(ちっ……、クソババァが………)

母親にハメられたのだ。

印持ちになってすぐ、許嫁を紹介された。要するにそういう事だ。俺の周りから女を排除したかったのだろう。思わず拳を握りしめる。爪が食い込み、ポタポタと血が滴る。

「ちょっと何やってるのよ?!血が出てるじゃない!!志穂っ!!お願い!!治してっ!!」

エリカは慌てて志穂を呼びに行く。それを見て安藤は力が抜けた。

(まあ、もう、今更だな)

何もかもが、今更だ。どうやったって、過去は変えられない。それに、顔を青くして心配してくれる幼馴染が、今は手を伸ばせば届く程近くに居る。


「お前なぁ、慌てすぎだろ。こないだは、もっと血だらけだったろーが」

そう言って安藤は呆れた顔でエリカの後を追う。

「む?………良い風だな」

「そうですわね」

ふわりと爽やかな風が、吹いた。






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