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57話 ユアン素直になる
しおりを挟むミライとユアンが通常食堂で食事を始めると、周りの生徒達がチラチラ見てくる。羨ましそうな視線や、特別クラスの人だ珍しいなぁ。と言う視線は有るが、小説などで良くある、なんであんな女がユアン様と?と言う目線は一つも無い。
皆、良い人達ばかりの様だ。
ただ、皆一様に、机に置かれたコケシを見て変な顔をしていた。
(わかる、凄くわかる)
ミライは静かに頷いた。
「え?また、すぐ任務に行くの?」
ミライが驚きの声を上げるとユアンは苦笑した。
「さっき、呼ばれた件なんだけど、少し問題が起きたらしくてね」
「問題?」
「今回壁が、大規模で壊れた件で、人為的。または意図的な何者かの意思があるんじゃないかってね。なんでも魔物に指揮をとっている者が居たとか……」
ユアンは続ける。
「軍部の人間だけでは調査も手一杯らしくて、うちの学校から上位の成績の学生を数人連れて行きたいって、わざわざ中尉がいらしてね」
ユアンは困ったように笑う。
「だから、これを食べたら、すぐに行くよ。実はさっきそれを伝える為に、ミライを探してたんだ」
「あーなるほど。そっかぁ。無理しないでね」
ミライがそう告げるとユアンは嬉しそうに笑った。
「見送りしてくれるかい?」
「うん。勿論だよ。あ、他って誰が行くの?」
一年目からはユアン、エリカ、ライアン、にゃん子、らしい。
(にゃん子?)
「え?にゃん子強いの?」
「弱くは、無いと思うよ。まあ、今回は強さは関係なく彼女は呼ばれたんだ。壁の任務で、彼女の索敵能力が大活躍でね。そのせいだよ」
ミライはそういえば、褒賞が出たって言ってたなーと思い出す。後は3年目から5人。皆、同じ所かはわからないそうだが、行くらしい。長くなるかもしれないと聞いてミライは少し寂しくなった。
(帰って来たばっかりなのに……)
「ミライに会えないのは、……寂しいよ」
捨てられた子犬の様な顔でユアンは言う。ミライは少しドキリとした。
「ふふふ、この子も連れて行くよ。『ミライ』って名前にしようかな?」
ユアンはコケシをツンツンと突きながら、言う。
「いや、それは本気でやめて」
ミライは思わず真顔になる。
「……じゃあ、ミライ二号だから、ニライだね」
ユアンはニコニコしている。
(ニライ……?ニラみたいだし、やめて欲しいんだけど)
食事を終えるとユアンは立ちがり、そろそろ行くよと言うので、ミライは見送りに門の所まで一緒に向かう。その途中で、ユアンが立ち止まった。
「ユアン。どうしたの?」
ミライが尋ねると、ユアンは眉をハの字にして頬を染めている。
「えっと……ミライ。君をギュッとしても良いかな?」
「へ?」
ミライがポカンとして固まっていると、ギュッと抱きしめられた。
「ゆ、ユアン。……どうしたの?」
「ごめんね。……少しだけ、充電させて…」
ミライとユアンは結構な体格差が有るので、全身を包み込まれる感じだ。
(うぅ……。ちょっと恥ずかしい)
「ミライ……、ごめんね」
ユアンは小さく呟くとミライの頬にキスをした。
「え?」
ミライがあ然としていると、ユアンはパッと離れて
「さっきのお返しだよ」
そう言って門へと走って行ってしまった。後ろから見えたユアンの耳は真っ赤だ。
とり残されたミライも真っ赤。耳だけじゃなくて全身が茹でダコみたいだ。
「……何これ、乙女ゲーかよ」
頬を抑えて、ミライは呟いた。
◇◇◇◇◇◇
「で?なんで、お前らも来たんだ?」
安藤は、目の前で食事しているエリカと志穂に尋ねた。
「珍妙丸様が、昼食の支度をすると仰られたので、お手伝いする事にしたのですわ。作ったのですから、食べるに決まってます」
志穂がそう答える。しかし先程から血走った目で、安藤とツバサを見ては、何やらブツブツ言っているので、大方こっちが本来の目的だろう。
「もう、志穂ったら……、私は任務に行く前に確認しときたかっただけよ。それをね」
エリカは、それ、と言って安藤の額を差す。
「あー、なるほど。ん?任務?」
安藤は首を傾げた。
「エリカちゃん、また任務に行くの?」
ツバサも疑問の声を出した。
「うん。あ、私だけじゃなくて、ユアンとライアンもよ。あとにゃん子」
「へー、いつ行くの?」
ツバサが尋ねるとエリカはおにぎりを口に頬張った。
「これ。食べたら行くわ」
「ほう、なんとも急ではないか?」
珍妙丸も話に加わった。
「なんでも、問題が起きたそうよ。まあ、軍の人達と一緒だから、危険はない筈よ。モグモグ」
「ん。エリカちゃん。お米付いてるよ?はい、とれたよ」
「?!お……お兄ちゃん、ありがとう!!」
ツバサが、ちょこちょこエリカの頬についた米粒を取ってやっているのを安藤は、変な顔で眺めていた。
そしてなんでお兄ちゃん?と頭に疑問符を浮かべていた。
(………なんか良く分かんねーけど、まあ、良いか)
「んで、今度は、どんくらいかかるんだ?」
「それが、良くわからないのよね。多分一月はかからないわ。長くて2週間くらいかしら?早ければ一週間くらい?」
「そりゃ、また、ご苦労な事で」
昼食を食べ終わり、エリカは道場を後にする。
「あ、豹二郎。これ、アンタにあげるわ」
そして去り際に、お面を安藤に押し付けて行った。
◇◇◇◇◇◇
教室に戻るとミライが一人で居たので、ツバサはホッと息を吐く。それから頭に疑問符を浮かべた。
(園田さん?なんで、血走った目で本を持ちながらキョロキョロしてるんだろう?)
ミライは今、憤っていた。今日は色々と恥ずかしい目に合った。その原因は、殆ど、あの伊吹虎だと気付いたのだ。
(絶対にブン殴ってやる)
その為に、角が鋭利で分厚い本をわざわざ借りて来た。
ミライは伊吹虎を探して血走った目で辺りをキョロキョロと見回した。
エー、ナニアレー?
コワイ……。
メヲアワセルナッ!!
マジョダッ
イヤオニダッ!!
バケモノダッ!!
他の生徒はミライの奇行にザワザワしている。
(……………化け物は言い過ぎじゃない?言ったやつ誰?)
そしてツバサと目が合った。
「……な、なにしてるの、園田さん?」
「…………………別に?」
結局、伊吹虎は教室には現れなかった。
仕方がないので、一旦伊吹虎をブン殴るのは諦めて、とりあえず、ミライ、ツバサ、安藤、珍妙丸、志穂で並んで座る。
「そういえば座学って教科書とかいるの?」
ミライは安藤に尋ねた。
「あー?しらね」
だが、まともな返事は返って来なかった。
(ちっ、この役立たずが)
そんな安藤の代わりに志穂が答える。
「多分、先生が用意してくださいますわ」
「ふーん、そうなんだ」
そうこうしてる内に、ジョーンズ先生が来た。
「おい、お前ら、コレ取りに来い」
先生は大量の本を抱えている。言われるがままに、何人かが、立ち上がり取りに行く。
「うむ、某がまとめて、取りに行こう。皆は座っていると良い」
そう言って、珍妙丸が行ってくれた。そして、戻って来た珍妙丸の手の中の本には
『これで全てわかる魔法の事』と書いてある。
その著者の名前に、ミライは思わず声を上げる。
「魔賢者ノワノワール?!」
「園田さん、どうしたの?」
ツバサは不思議そうな顔でミライを見た。それにミライは、驚いた顔のまま、コッソリ答える。
「この人が、ツバサ君のおじいさんと一緒に禁術。人工精霊を産み出したんだよ」
「ええ!!それって……」
ツバサも驚きの声を上げるが、その声にジョーンズの声が被る。
「来月の11日12日に試験を行う。前半が筆記で後半が実技だ。その本、丸暗記すりゃ、筆記は問題ない。以上解散!!」
ジョーンズはそう告げると、教室を出て行った。
皆ポカンとした。
(え?座学の授業は?)
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