美味しくて切なくて優しい、ちいさな恋物語

かみゅG

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サマー・ベジタブル

めざめ(その3)

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 結局、吾輩が死神に鎌を振るわれることは無かった。
 助かったと思ったのは、勘違いではなく、事実だった。
 あの世で子分たちに再開するのは先になりそうだ。
 皮肉なことに、子分たちが居なくなったことで手足を伸ばす余裕ができ、吾輩の身体はさらに大きくなっていた。
 しかし、身体が大きくなるのとは反対に、心は喪失感に包まれていた。
 子分たちの犠牲の上に立つことに、申し訳なさでいっぱいだった。

「……ふぅ」

 子分たちに絡みつかれることなく、足はのびのびと土の中を伸びていく。
 子分たちに遮られることなく、手には光が降り注ぐ。
 子分たちに分ける必要もなく、水も飲み放題だ。

「……はぁ」

 最高の環境のはずなのに、物足りない。
 手間のかかる子分の世話を焼かないで良い分、楽ができるはずなのに落ち着かない。
 どうやら依存していたのは吾輩の方だったようだ。
 寄りかかられているつもりが、寄りかかっていたのだろう。
 一人で生きていくのは寂しい。
 これが、ずっと続くのだろうか。
 助かったのを不幸だとは思わないが、幸福かと問われたら答えに詰まってしまうかも知れない。

「おい、あんた」
「ん?」

 声が聞こえてきた。
 死神の声ではない。
 ゆえに、恐怖は感じなかった。
 だが、予期していなかったことに、反応が遅れる。
 声の発生元を探そうと、あわてて周りを見回す。
 すると、そこには、吾輩の同族がいた。
 背丈も吾輩と同じくらいだろうか。
 以前は気づかなかったが、背が高くなったおかげて、遠くまで見渡せるようになっていたようだ。
 隣の敷地から声をかけてきている。

「なにか?」

 本来なら同族の存在を喜ぶべきなのだろう。
 あの世界の終わりのような悲劇を乗り越えて出会った同族なのだ。
 しかし、そんな気は起きなかった。
 声をかけてきたのは、あくまでも他人。
 吾輩のファミリーではない。
 子分を失ったショックは、自分で考えているより、大きかったようだ。

「いや、特に何か用事があるわけじゃないんだが、ずいぶんと暗い表情をしていると思ってな。世間話ってやつだ」

 なるほど。
 いつもであれば、吾輩も同族を見つけたら、そうするかも知れない。
 だが、今はそんな気力もない。

「そうか、だが生憎と和気あいあいと世間話する気分ではない。話しかけてくれたことには感謝するが」

 そう答えるのが精一杯だった。
 あれ以来、無気力が続いている。
 なにもやる気がおきない。
 こればかりは、感情的なものなので、どうしようもない。
 だが、声の主はしつこかった。

「まあ、そう言うな。せっかくのご近所さんだ。井戸端会議くらいしてもいいだろう」

 正直、気は乗らなかったが、そう言われると話を切り上げにくい。

「むぅ」

 近所付き合いは大切だ。
 邪険にするのも躊躇われる。
 特に井戸端会議は、雑談のように見えて、重要な情報交換がおこなわれることもある。

「わかった。だが、吾輩は話題を提供することはできないぞ。何を話す」

 もし、話題の提供を求められたら、断ろう。
 近所付き合いが重要だとは言っても、初対面だ。
 丁寧に断れば、失礼にはあたらないだろう。
 逆に話題を提供してきたら、少し話してみることにしよう。

「話題か……じゃあ、あんたが何で暗い顔をしていたのか聞いてもいいか?」

 よりによって、それか。
 だが、話題を提供されたら話をすると決めたのは吾輩だ。
 あまり他人に話したい内容ではないが、気分転換くらいにはなるだろう。
 ざっと、かいつまんで話すことにした。
 口に出すのも辛い内容だが、心の整理をつけるためでもある。
 もし、相手が引いて話を切り上げるなら、それはそれでいいだろう。

「……それで、吾輩は子分たちを守ることができなかったということだ。情けないと笑ってくれ」

 自嘲気味であるのは分かったが、言葉は思いのほか滑らかに口から溢れ出た。
 あるいは誰かに聞いてもらいたかったのかも知れない。
 そして、情けないやつと罵ってもらいたかった。
 そうでなければ罪悪感に押しつぶされそうだった。
 吾輩だけが、のうのうと生きている現実に、耐えられなかった。
 口に出すことで、その想いが一層強くなる。

「情けないな、あんた」

 彼は期待通りの言葉を投げかけてきた。

「ああ、そうだな」

 そうだ。
 その通りだ。
 吾輩は情けないのだ。

「肯定するのはいいが、オレが何を情けないと言っているか分かっているのか?」

 そんなことは、改めて指摘されずとも分かっている。

「それは、子分たちを守ることができなかったから……」

 全てはそれだ。
 そのことを説明しようとする。

「そんなことは、情けなくなんかねぇ」

 だが、返ってきたのは、否定の言葉だ。
 しかも、こちらの説明を遮る勢いで放たれた。

「?」

 しかし、情けなくないと言われても、納得はできない。
 それでは何が情けないというのだろう。
 吾輩はこれでも身体には自信がある。
 目の前の彼にだって負けるつもりはない。
 だが、それでも子分たちを守れなかった。
 こんなでかい図体をしていて、守れなかったのだ。
 そのこと以上に情けないことなどあるものか。

「そいつらはそいつらで、必死に独り立ちしようとしていたんだろう? 最期は理不尽で残念な結果だったが、そいつらの努力はあんたも認めていたんだろう?」

 そんなことは言われるまでもない。

「ああ」

 即座に肯定する。
 だが、彼の話は続く。

「じゃあ、あんたがそいつらの生き様を褒めてやらなくてどうする。そして、あんた自信も子分たちが誇れる生き方をしないでどうする」

 言葉に詰まった。
 そして、言われたことが情けないことだと、否定する言葉も思い浮かばなかった。

「……」

 そうか。
 子分たちは立派に生き抜いたのか。
 無念な最期だったろうが、それでも立派に生き抜いたのか。
 吾輩以外に子分たちを認めてもらえたことに、喜びの感情が沸き上がる。

「ありがとう」

 だから、自然にその言葉が出た。

「何に対しての例だ? オレはあんたを情けないと侮辱したんだぜ?」

 そんなことは大した問題ではない。
 重要なのは、子分たちが認められたことだ。

「侮辱してくれて、ありがとう。おかげで目が覚めた」

 思い返せば、死神の鎌はあちこちで振るわれていた。
 きっと、彼のもとにも理不尽なできごとが起こったはずだ。
 それでも、彼は上を向いて生きている。
 ならば、吾輩も負けてはいられない。
 そんなことでは、子分たちに顔向けできない。

「お? ちょっとはマシな顔になったか?」

 自分でも気力が戻ってくるのが分かる。
 それが、たとえ空元気だったとしても、構わない。
 重要なのは、子分たちに胸を張れるようになることだ。
 そして、それは彼にも伝わったようだ。

「ああ。いつまでも落ち込んでいたら、あいつらに顔向けできないからな」

 吾輩がふっきれた笑いを向けると、彼もニヒルに笑い返してきた。
 これが、吾輩と彼の出会いだった。
 別れの後の出会い。
 そのことも吾輩と彼の絆を結ぶことに影響したのだろうか。
 互いを親友と呼ぶようになるまで、さほど時間はかからなかった。
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