美味しくて切なくて優しい、ちいさな恋物語

かみゅG

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サマー・ベジタブル

であい(その5)

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 数日後。

「……」

 気持ちの良い朝だというのに、辛気臭い空気が漂っている。

「……」

 なるほど、確かにこれは体力が削られていく。
 そして、吾輩たちは自らでは動けない身。
 じわじわと命が吸い取られていく恐怖は精神的にもくる。

「……わたし、このまま死ぬのかしら」

 小娘は悲観的になっているようだ。
 いつもの強気な性格がなりを潜めている。
 病は気からと言うし、このままではいかんな。

「……なんだ、もう諦めるのか? 叶えたい夢というのは、その程度のものなのか?」

 あえて、突き放すように、そう言ってやる。
 この場で必要なのは、励ましではない。
 気力を奮い起こさせる言葉だ。

「……だって……だって……ぐすっ」

 むぅ。
 こちらの挑発にも乗ってこないか。
 これでは、吾輩がただ小娘に冷たく当たっているだけになってしまう。
 どうしたものか。

『あら? アブラムシがついちゃってるわね』

 そこへ、いつも吾輩たちの面倒を見てくれるニンゲンがやってきた。
 だが、安心はできない。
 ここ数日、期待は裏切られてきた。
 吾輩たちが虫に襲われているのに気づかなかったようなのだ。
 去っていく後ろ姿を見るたびに絶望を感じた。

『ちょっと待っててね。よく効くものを持ってくるから』

 今日もニンゲンは去っていった。
 見慣れた光景に、もはや絶望も感じない。
 またかという思いの方が強い。
 だが、今日は違った。
 ニンゲンが何かを持って戻ってきた。

 シュッ……シュッ……

 霧状の何かを吹き付けられた。

 ポロ……ポロ……

「おお!」

 その霧状の何かに包まれると、虫どもが呻きながら落下していく。

「おい、助かったぞ!」

 即座に体力が戻ったわけではないが、気力が沸き上がってくるのが分かる。
 どうやら、吾輩も少し落ち込んでいたようだ。

「……うぅ?」

 小娘は意識が朦朧としているのか、霧状の何かを吹き付けられても反応が薄い。
 だが、まとわりつく虫が減るにつれ、次第に意識が戻ってきたようだ。
 表情にも活力が出てくる。

「……助かったの?」

 ようやく、状況を把握できたようだ。

「ああ、そうだ! やっと、ニンゲンが気づいてくれたようだ!」

 ニンゲンは葉の裏を含め、まんべんなく霧を吹き付けていく。

『これ農薬じゃないから、持続性はないのよ。明日からしばらく霧吹きしてあげるからね』

 一通り霧を吹き付け終わると、ニンゲンは去っていった。

「……まったく、気づくのが遅いのよ」

 小娘が毒づく。

「ははっ、そうだな」

 小娘の憎まれ口も戻ってきたようだ。
 もう、大丈夫だろう。
 一時はどうなるかと思ったが、一安心だ。

☆★☆★☆★☆★☆★

 次の日。
 吾輩も小娘も、すっかり体調が回復した。
 幸い、傷口は小さく、養分さえ補給できれば、体力が戻るのは早かった。

「今回は、あたなに助けられちゃったわね」

 小娘がそんなことを言ってきた。
 だが、心当たりがない。

「む? いや、吾輩は何もできなかったが」

 それは本当のことだ。
 虫に対して、自分の方にくるように話しかけたが、効果があったかどうかは、あやしいものだ。

「わたしに憑いた虫を引き付けてくれたじゃない」

 だが、小娘はそうは思っていないようだった。
 しかし、勘違いは正さなければならない。

「それは、たまたま……」

 別に恩を売るつもりではないのだ。
 それを伝えようとしたのだが、そんな吾輩の言葉を遮るように小娘が声を上げる。

「いいの! それでも、わたしは心強かったんだから!」

 照れ隠しなのか、声を荒らげながら、こちらの言葉を否定してくる。

「まあ、お互い無事でよかったな」

 せっかく助かったというのに、言い争いも無粋だろう。
 小娘の言葉は否定せずに、無事を喜ぶにとどめておいた。

「ええ。……それでね、お礼をしようと思うの」

 もじもじしながら、小娘がそんなことを言ってきた。
 だが、礼を受けるほどのことはしていない。
 断ろうとするが、それより前に小娘が言葉を続ける。

「あたなを、わたしのお婿さんにしてあげる!」

 次に来た言葉は予想の斜め上をいっていた。

「お、お婿さん?」

 思わず礼を断る言葉も忘れてしまう。

「あなたの子供を産んであげる!」

 えーっと……

「……種族が違うし、無理があるのではないかと」

 小娘なら言わなくても理解していると思うのだが。

「愛があれば問題ないわ!」

 うーん……

「……愛があっても、遺伝子的に不可能なのではないかと」

 いかに愛が素晴らしいものでも、自然の摂理までは曲げられないだろう。

「大丈夫!」

 根拠が分からん。
 だがまあ、今のままなら、どうせ生涯一緒にいることになるのだ。
 ままごとみたいな関係も一興だろう。

「そうだな。子供や婿がどうとかは別として、ともに生きていくのには異論はない」

 小娘の提案を受け入れる。

「ほんと! じゃあ、今日からわたしたちは夫婦ね!」

 子供や婿については別と言ったのだが、小娘の喜びようを見ると否定しづらい。
 まあ、大した影響があるわけでもないし、そのままにしておこう。
 それにしても、自分が嫁になるではなく、吾輩を婿にするか。
 なんとも、気が強い小娘らしい。
 小娘の感情がうつったわけではないが、なんとなくこれからの日々が楽しみになってきた。
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