美味しくて切なくて優しい、ちいさな恋物語

かみゅG

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サマー・ベジタブル

であい(その6)

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「おはよう、ダーリン! 今日も気持ちのいい朝よ!」

 今日も小娘は朝から元気だ。

「……おはよう」

 小娘と朝の挨拶を交わす。
 それはいいのだが、聞きなれない単語が聞こえた気がするのだが、聞き間違いだろうか。
 いや、聞き間違いだと思いたい。
 だが、万が一、聞き間違いではなかった場合、あれはもしかして吾輩のことを指しているのだろうか。
 気は進まないが、聞くしかない。

「ところでその……先ほど吾輩のことをなんと呼んだのか聞いてもいいか?」

 できれば、幻聴であって欲しい。

「ダーリン!」

 幻聴ではなかったらしい。

「……なぜに?」

 ただただ疑問を問いかける。

「夫婦だから!」

 答えは簡潔だった。
 勢いもあった。
 だが、同意はしたくない。

「……えーっと……」

 なにかを言おうとするのだが、言葉が出てこない。

「わたしのことはハニーと呼んでくれていいわ!」

 小娘の勢いは止まらない。

「ごめん、無理」

 反射的にそう返す。

「なぜ!?」

 なぜって、常識的に。

「その、なんだ……そういう呼び方は、もう少し交流を深めてからにした方がいいのではないかと」

 とりあえず、そう言ってみる。

「結婚したんだから、これ以上ない深さじゃない!」

 小娘は吾輩の疑問自体が理解できないようだ。

「まだ出会ってから、そんなに時間も経ってないし」

 濃い出会いではあったが。

「愛は時間じゃないわ!」

 どうも小娘は極端から極端に走る性格のようだ。

「……それとも、わたしのこと嫌い?」

 小娘は急に声のトーンを下げると、不安そうに、こちらの様子を伺ってきた。
 それはずるい。
 保護欲が刺激される。

「嫌いではない」

 そう答えるしかない。

「じゃあ、好き?」

 二択の選択を迫ってくる。

「う……む。まあ、好きか嫌いかで言えば、好ましくは思っている」

 そう答えると、小娘は花が咲くような感情を溢れさせた。

「なら、問題ないじゃない!」

 まあ、嫌いあうよりは問題がない。
 それを否定するつもりはないのだが。

「問題はないのだが……もう少し互いのことを知った方がいいと思ってな」

 そう提案する。

「そうね、それは賛成! わたしも、あなたのことを、もっと知りたい!」

 ずいぶんと可愛らしいことを言ってくれる。
 それから、互いのことを語り合う日々が始まった。

☆★☆★☆★☆★☆★

「たくさんの子供を産むのが夢と言っていたが、なにか理由があるのか?」

 そう問いかけたのは吾輩だ。
 吾輩は、いまだ具体的な夢を見つけることができていない。
 小娘が、何故それほどまでに情熱的になれるのか、その原動力を知りたかった。

「それが、わたしたち一族が生み出された理由だからよ」

 小娘の答えは端的だった。

「生み出された?」

 それは単に親から産まれたという以上の意味を指しているように聞こえた。

「わたしたちは、おいしい実を付けるために、何世代にも渡って改良されてきた伝統ある一族なの」

 壮大な話だ。

「ほぉ」

 素直に感嘆の声を漏らす。

「おいしい実を付けるのが、わたしたちの価値と言ってもいいわ」

 価値か。
 そういえば吾輩は、自分の価値をニンゲンに知らしめるのを目標にしようとしていた。
 だが、どんな価値を高めればよいのか分からず、具体的な目標にまでなっていなかった。

 身体の丈夫さも価値だろう。
 吾輩が生き残れた要因の一つだ。

 親友が言うように、子孫を多く残すことも価値だろう。
 それが繁栄に繋がる。

 そして、小娘が言うように、旨さも価値だろう。
 旨ければニンゲンは好んで育てるに違いない。

 小娘の言葉がヒントになる気がした。
 吾輩と小娘は同じように植えられた。
 ということは、求められているものは同じではないだろうか。

「でも、勘違いしないで。わたしは、伝統で決められたレールに従っているわけではないわ。おいしい実を付けることが、わたしの誇りであり、目標だからよ」

 小娘は、そこは勘違いして欲しくないと、主張してきた。
 むろん、そこを勘違いする気はない。

「ふむ。確かに生まれの良さに胡坐をかいているだけでは、旨い実は付けられまい」

 そのことは吾輩にも分かる。

「そうよ、いくら生まれがよくても、努力をしないものに味は付いてこないわ」

 小娘は胸を張りながら、そのことを説明してくる。
 それこそが、自分の誇りであるかと主張するように。

「そうか……」

 今まで闇に閉ざされていた目の前が開けた。
 それこそが吾輩が目標とすべきものだ。
 小娘の真似をするようだが、もはや心は決まった。

「決めた。吾輩も旨い実を付けることを人生の目的にするぞ」

 そう宣言する。

「ほんと? お揃いね!」

 小娘も、それを喜んでくれるようだ。

「お揃いなのは、その通りだが、ライバルということでもあるぞ?」

 ギスギスするつもりはないが、慣れ合いをするつもりもない。
 だが、そう言っても、嬉しそうな表情は変わらない。

「いいのよ! 種族が違うということは、つける実も違うということよ! それぞれが別のおいしさを生み出せるわ!」

 そして、小娘は感情的に言っているわけではなく、ちゃんと根拠もあるようだ。

「勝ち負けを競うのではなく、相乗効果で旨さを高めることができるということか」

 まさに、共存共栄の関係だ。
 吾輩と小娘は種族が違うため子を成すことはできないだろう。
 だが、種族が違うからこそ、良いこともあるということか。

「それでは、改めてよろしく頼む。互いに高め合って、共に生きていこうではないか」

 思わず口が滑らかになり、そんな言葉が出てきた。

「プロポーズね!」

 あいかわらず、極端な解釈をする小娘だ。
 しかし今日は否定する気分でもない。

「……まあ、それでもいいか」

 そんな感じで、吾輩は自らの夢を決めたのだった。
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