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サマー・ベジタブル
いとなみ(その1)
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「わたし……子供ができたみたい」
ある日、小娘がそう言い出した。
そして、それは待ちわびた言葉だった。
小娘の夢の第一歩でもある。
「本当か!?」
疑っているわけではない。
少し前に花を咲かせていたから、その可能性はあった。
だが、初産なので心配にもなる。
最初の子供を上手く産めないと、後々まで響くらしい。
しかし、めでたいことは間違いない。
「おめでとう!」
祝いの言葉を伝える。
なんにせよ、まずはそれだろう。
「ありがとう♪」
それに対して、小娘も素直に喜びを表す。
声が弾んでいることが分かる。
「だが、大丈夫か? 初産は重要だと聞くが……」
水を差すつもりはないが、どうしても聞いてしまう。
我ながら心配性だとは思うが、こればかりは性分だ。
「大丈夫よ。ほら」
そこへ、ちょうど、足音が聞こえてきた。
もはや聞きなれた足音だ。
『きゅうりが実をつけ始めたみたい! お爺さんにも教えなくちゃ!』
小娘を見るなり、来たばかりだというのに、パタパタと去って行く足音。
小娘が子供を宿したことに気が付いたようだ。
「きっと、ニンゲンがうまくやってくれるわ」
小娘の言葉に異論はない。
ニンゲンへの信頼は確かなものになっている。
「うむ。夢への第一歩だな」
その数日後。
吾輩も初めての子供を創ることができた。
☆★☆★☆★☆★☆★
「吾輩たちも子供を創るのに慣れてきたな」
あれから何人もの子供を創った。
夢は順調だ。
「そうね。でも、まだまだ先は長いんだから、気を抜いちゃ駄目よ」
小娘が注意を促してくる。
そうだな。
それは間違いないが。
「病は気からと言う。そちらこそ、気を抜いて病気になったら駄目だぞ?」
どちらかと言えば、小娘の方が心配だ
「もう! そのことは言わないでよ! あのときは、ちょっと気弱になっていただけなんだから」
虫に襲われたときや、病気になったときを思い出しているのだろう。
ぷりぷりと怒ったように返してくる。
しかし、付き合いも長いので分かる。
弱みを見せたところを突かれて、拗ねているだけだ。
その仕草も、見慣れた今となっては、可愛らしいものだ。
「それに、同じ夢を持つライバルなんだからね! あなたにも負けるつもりはないわ!」
そう宣言してくる。
いつかと言っていることが違う気がするが、まあ照れ隠しだろう。
「む? それは、こちらのセリフだぞ?」
だから、吾輩もそれに乗って答える。
「うふふふふ」
「はっはっはっ」
見つめ合いながら、不敵に笑いあう。
「あははははっ!」
「はははははっ!」
妙におかしくなって、やがて本気で笑いあう。
妻がいて、子作りも順調。
幸せな毎日だ。
☆★☆★☆★☆★☆★
バサバサ!
「わっ!」
小娘が声を上げる。
「うぉっ!」
吾輩も自らの手が立てる音に驚く。
駄々っ子が手を振り回すように、激しく揺さぶられる。
生まれてから、自分の身体から、このような音が発生したことはない。
「すごい風ね」
原因はそれだ。
圧力を持つほどに強い風が、手を振り回してくる。
「雨粒も痛いほど叩きつけてくるな」
いつもは柔らかく身体を揺らして潤いを与えてくれる雨が、今日は身体に穴を開けようとするかのごとく激しい。
恵みの雨に恐怖を感じたのは初めてだ。
悪意を向けられているようにも感じる。
「これは天変地異の前触れか?」
ニンゲンの手によるものではない。
だからこそ、それ以上の恐怖を感じる。
「ある意味、間違っていないけど……」
博識な小娘は思い当たることがあるようだ。
「これはおそらく台風よ」
吾輩が聞くより前に、そう教えてくれた。
「タイフウ?」
それがこの激しい風と雨の正体か。
聞いたことがない単語だが。
「これは、わたしたちだけでなく、ニンゲンにも被害をもたらすことがある、天の怒りよ!」
小娘の興奮した様子を見ると、どうも、吾輩の想像を超える事態らしい。
話を聞いただけであれば、笑ってしまったかも知れない。
しかし、この状況を見ると、それが大袈裟とは思えない。
「ニンゲンにも?」
吾輩たちにとっては神に等しい存在。
そのニンゲンにすら被害をもたらすという。
「そう! わたしたちからすれば神のように見えるニンゲンも、天の怒りの前には無力よ! 天の怒りは、ニンゲンを住処ごと濁流で押し流すこともあるわ!」
神をも殺す怒り。
今起こっているのは、それだという。
「なんと! それでは、吾輩たちなど抵抗すらできないではないか……」
幼い頃に見たニンゲンによる虐殺は、世界の終わりのように見えた。
そのニンゲンにすら被害を与えるということは、それを超える地獄の光景ということか。
風に煽られるのとは別の理由で、身体が震える。
「天は何をそんなに怒っているのだ? 許しを乞うことはできないのか?」
神を超える存在。
そんな存在に対してできることは祈ることだけだろう。
問題は怒りの原因だ。
「一説によると、天に近づこうとするニンゲンに怒っているとも言われているわ。でも、真相は謎よ。手の届かないところにいる存在の真意を知ることなんてできないわ」
原因が分からなければ、許しを乞うことすらできない。
祈ることすらできないのか。
ある日、小娘がそう言い出した。
そして、それは待ちわびた言葉だった。
小娘の夢の第一歩でもある。
「本当か!?」
疑っているわけではない。
少し前に花を咲かせていたから、その可能性はあった。
だが、初産なので心配にもなる。
最初の子供を上手く産めないと、後々まで響くらしい。
しかし、めでたいことは間違いない。
「おめでとう!」
祝いの言葉を伝える。
なんにせよ、まずはそれだろう。
「ありがとう♪」
それに対して、小娘も素直に喜びを表す。
声が弾んでいることが分かる。
「だが、大丈夫か? 初産は重要だと聞くが……」
水を差すつもりはないが、どうしても聞いてしまう。
我ながら心配性だとは思うが、こればかりは性分だ。
「大丈夫よ。ほら」
そこへ、ちょうど、足音が聞こえてきた。
もはや聞きなれた足音だ。
『きゅうりが実をつけ始めたみたい! お爺さんにも教えなくちゃ!』
小娘を見るなり、来たばかりだというのに、パタパタと去って行く足音。
小娘が子供を宿したことに気が付いたようだ。
「きっと、ニンゲンがうまくやってくれるわ」
小娘の言葉に異論はない。
ニンゲンへの信頼は確かなものになっている。
「うむ。夢への第一歩だな」
その数日後。
吾輩も初めての子供を創ることができた。
☆★☆★☆★☆★☆★
「吾輩たちも子供を創るのに慣れてきたな」
あれから何人もの子供を創った。
夢は順調だ。
「そうね。でも、まだまだ先は長いんだから、気を抜いちゃ駄目よ」
小娘が注意を促してくる。
そうだな。
それは間違いないが。
「病は気からと言う。そちらこそ、気を抜いて病気になったら駄目だぞ?」
どちらかと言えば、小娘の方が心配だ
「もう! そのことは言わないでよ! あのときは、ちょっと気弱になっていただけなんだから」
虫に襲われたときや、病気になったときを思い出しているのだろう。
ぷりぷりと怒ったように返してくる。
しかし、付き合いも長いので分かる。
弱みを見せたところを突かれて、拗ねているだけだ。
その仕草も、見慣れた今となっては、可愛らしいものだ。
「それに、同じ夢を持つライバルなんだからね! あなたにも負けるつもりはないわ!」
そう宣言してくる。
いつかと言っていることが違う気がするが、まあ照れ隠しだろう。
「む? それは、こちらのセリフだぞ?」
だから、吾輩もそれに乗って答える。
「うふふふふ」
「はっはっはっ」
見つめ合いながら、不敵に笑いあう。
「あははははっ!」
「はははははっ!」
妙におかしくなって、やがて本気で笑いあう。
妻がいて、子作りも順調。
幸せな毎日だ。
☆★☆★☆★☆★☆★
バサバサ!
「わっ!」
小娘が声を上げる。
「うぉっ!」
吾輩も自らの手が立てる音に驚く。
駄々っ子が手を振り回すように、激しく揺さぶられる。
生まれてから、自分の身体から、このような音が発生したことはない。
「すごい風ね」
原因はそれだ。
圧力を持つほどに強い風が、手を振り回してくる。
「雨粒も痛いほど叩きつけてくるな」
いつもは柔らかく身体を揺らして潤いを与えてくれる雨が、今日は身体に穴を開けようとするかのごとく激しい。
恵みの雨に恐怖を感じたのは初めてだ。
悪意を向けられているようにも感じる。
「これは天変地異の前触れか?」
ニンゲンの手によるものではない。
だからこそ、それ以上の恐怖を感じる。
「ある意味、間違っていないけど……」
博識な小娘は思い当たることがあるようだ。
「これはおそらく台風よ」
吾輩が聞くより前に、そう教えてくれた。
「タイフウ?」
それがこの激しい風と雨の正体か。
聞いたことがない単語だが。
「これは、わたしたちだけでなく、ニンゲンにも被害をもたらすことがある、天の怒りよ!」
小娘の興奮した様子を見ると、どうも、吾輩の想像を超える事態らしい。
話を聞いただけであれば、笑ってしまったかも知れない。
しかし、この状況を見ると、それが大袈裟とは思えない。
「ニンゲンにも?」
吾輩たちにとっては神に等しい存在。
そのニンゲンにすら被害をもたらすという。
「そう! わたしたちからすれば神のように見えるニンゲンも、天の怒りの前には無力よ! 天の怒りは、ニンゲンを住処ごと濁流で押し流すこともあるわ!」
神をも殺す怒り。
今起こっているのは、それだという。
「なんと! それでは、吾輩たちなど抵抗すらできないではないか……」
幼い頃に見たニンゲンによる虐殺は、世界の終わりのように見えた。
そのニンゲンにすら被害を与えるということは、それを超える地獄の光景ということか。
風に煽られるのとは別の理由で、身体が震える。
「天は何をそんなに怒っているのだ? 許しを乞うことはできないのか?」
神を超える存在。
そんな存在に対してできることは祈ることだけだろう。
問題は怒りの原因だ。
「一説によると、天に近づこうとするニンゲンに怒っているとも言われているわ。でも、真相は謎よ。手の届かないところにいる存在の真意を知ることなんてできないわ」
原因が分からなければ、許しを乞うことすらできない。
祈ることすらできないのか。
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