美味しくて切なくて優しい、ちいさな恋物語

かみゅG

文字の大きさ
31 / 55
スイート・ツリー

初めての春(その2)

しおりを挟む
『ほら、これがおまえが生まれた記念樹だよ』

 人間に子供が産まれてから、しばらく経ったある日。
 人間が吾輩たちの仲間を連れてきた。
 吾輩とピンク色の間に植えられた彼女は、小娘といってもいい若木だ。

「あのっ! はじめましてっ!」

 随分と緊張しているようだ。
 ここは大人として緊張をほぐしてやらねばなるまい。

「はじめましてー。かわいいお嬢ちゃん」

 と思っていたら、ピンク色に先を越された。

「かわいいだなんて、そんなっ! お姉さんの方がお綺麗ですっ!」

 本音か世辞か分からないが、年上に対する礼儀はわきまえているようだ。

「あら、ありがとうー」

 ピンク色も満更ではなさそうだ。

「ふむ。これから、よろしく頼む。小娘よ」

 吾輩も挨拶を返す。

「こちらこそ、よろしくお願いします。渋いおじ……お兄さん」

 言いかけた言葉が気になったが、まあ聞かなかったことにしておこう。
 子供の言うことに目くじらを立てる吾輩ではない。
 そんなに器は小さくないつもりだ。

「あのっ! お二人の名前を教えていただいてもよろしいでしょうか? わたしはスモモっていいます」

 ちゃんと自分から名乗ったな。
 偉いぞ小娘。
 当たり前と言えば当たり前なのだが、最近の若者はその当たり前ができないことがある。

「へぇ、スモモちゃんって言うんだ。ちょっと親近感が湧いちゃうなー。わたしはモモって言うの」

 一字違いか。
 確かに似ている。
 ピンク色と同族ではないようだが、親戚なのかも知れないな。

「ウメだ」

 吾輩も名前を名乗る。

「モモ姉さんと、ウメ兄さんですね」

 ウメ兄さん……
 なんだか新鮮な呼ばれ方だ。
 今までウメさんとしか呼ばれたことが無かったからな。
 妹ができたみたいだ。

「モモ姉さんだなんて、妹ができたみたいー」

 ピンク色も同じことを考えていたようだ。
 吾輩とピンク色と小娘で兄妹、姉妹か。
 悪くないかも知れないか。

「あのっ! それでお二人は恋人……いえ、夫婦なのでしょうか?」

 小娘は興味深々といった感じで聞いてきた。
 まあ、男と女が一緒に暮らしていれば、そう見えるか。
 だが、違う。

「ただの腐れ縁だ。そもそも吾輩とモモでは、子を生すこともできん。吾輩の花が散った後に、モモが花を咲かせるからな」

 それを聞いて、小娘はがっかりといった表情を見せる。
 期待に添えなくて悪いが、そうそう恋愛小説みたいな展開はないものだ。

「ごめんねー、恋バナができなくて」

 ピンク色が軽い感じで答える。
 当然、照れて誤魔化している様子もない。

「いえっ! とんでもないです。でも、お二人のお花、見てみたいです。きっと綺麗なんでしょうね」

 ふむ。
 その期待には応えたいが、吾輩もピンク色も花が散ったばかりだしな。
 まだまだ先だ。

「自画自賛になるが、花の美しさは吾輩の誇りだ。だが、おぬしの花も楽しみではある」

 勝ち負けを競うのとは別に、他人の花を愛でるのは、嫌いではない。
 それに、見たことが無い花を見るのは、好奇心を満たされる。

「そうねー。スモモちゃんは、いつ頃、花を咲かせるの?」

 ピンク色も同様のようだな。
 興味を示している。

「えっと! わたしは、まだ花を咲かせたことが無くて……」

 まあ、小娘はまだ若木だしな。

「でも、きっと、お二人と同じくらいの季節に花を咲かせると思います。種族も近いようですし」

 肌を見ると、確かにそのようだな。
 だが、差異もあるから、同族というわけでもないようだ。

「それじゃあ、三人でいっぱい花を咲かせるように、頑張りましょうー」
「はいっ!」
「言われるまでもない」

 そんな感じで、人間に続いて、吾輩たちにも家族が増えた。

☆★☆★☆★☆★☆★

『あぅー』

 ぺたぺた。

 大きな人間が小さな人間を抱えて、吾輩たちの近くまでやってきている。
 小さな人間は、ご機嫌といった感じで、先ほどから吾輩たちを触ってきている。

「くすぐったいですっ!」

 吾輩やピンク色も触るのだが、小娘に触ることが多いようだ。

「好かれちゃったみたいねー」

 花を咲かせていない時期だというのに、変わり者だな。
 だが。悪い気はしない。
 大きな人間は、花を咲かせる時期くらいしか、吾輩たちに興味を持たないからな。

『自分の記念樹だってわかるのかしら? ここに連れてくると、すぐに泣き止むわね』

 しかし、懐かれると種族が違っても愛着が湧くな。
 この娘のために、美しい花を咲かせようという気になる。

「くすぐったいですっ!」

 特に懐かれている小娘も、来年は花を咲かせることができるとよいが。
 若木だから数年先となる可能性もあるが、頑張って欲しいものだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

行かないで、と言ったでしょう?

松本雀
恋愛
誰よりも愛した婚約者アルノーは、華やかな令嬢エリザベートばかりを大切にした。 病に臥せったアリシアの「行かないで」――必死に願ったその声すら、届かなかった。 壊れた心を抱え、療養の為訪れた辺境の地。そこで待っていたのは、氷のように冷たい辺境伯エーヴェルト。 人を信じることをやめた令嬢アリシアと愛を知らず、誰にも心を許さなかったエーヴェルト。 スノードロップの咲く庭で、静かに寄り添い、ふたりは少しずつ、互いの孤独を溶かしあっていく。 これは、春を信じられなかったふたりが、 長い冬を越えた果てに見つけた、たったひとつの物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

カメリア――彷徨う夫の恋心

来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。 ※この作品は他サイト様にも掲載しています。

『☘ 好きだったのよ、あなた……』

設楽理沙
ライト文芸
2025.5.18 改稿しました。 嫌いで別れたわけではなかったふたり……。 数年後、夫だった宏は元妻をクライアントとの仕事を終えたあとで 見つけ、声をかける。 そして数年の時を越えて、その後を互いに語り合うふたり。 お互い幸せにやってるってことは『WinWin』でよかったわよね。 そう元妻の真帆は言うと、店から出て行った。 「真帆、それが……WinWinじゃないんだ」 真帆には届かない呟きを残して宏も店をあとにするのだった。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

処理中です...