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スイート・ツリー
初めての夏(その1)
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「雲一つない空! 最高ですねっ!」
梅雨が明けると同時に小娘がそんなことを言い出した。
陽の光を浴びることができなくて、そうとうストレスが溜まっていたらしい。
「スモモちゃんは、晴れの方が好きー?」
「大好きですっ! 雨なんかいりませんっ!」
即答だった。
ひさしぶりの陽気に、ハイになっているようだ。
それにしても、いらないとまで言うか。
梅雨の前には、雨が気持ちいいと言っていたのだが。
「そうなのー。でも、雨も大切よー? 雨が降らないと、わたしたちは枯れちゃうしねー」
水を差すつもりはないのだろうが、ピンク色がそんなことを言う。
「うーっ! でもでも、雨ばかりは嫌ですっ! 肌はふやけちゃいますし、足で呼吸しづらいしっ!」
姉と慕う相手の言うことだ。
否定はしづらいが、納得もできないといったところか。
「まあ、モモの言うことも、スモモの言うことも分かるがな。過ぎたるは及ばざるが如しだ」
吾輩とて、雨が大切なことは知っている。
だが、梅雨の間、憂鬱なのも確かだ。
理性と感情は別といったところか。
「ウメ兄さんもモモ姉さんも、毎年、あんな大変な思いをしているんですか?」
小娘がそんなことを聞いてくる。
来年も梅雨があることが、今から憂鬱なのかも知れない。
「まあ、そうだな。だが、四季には他にも大変な自然現象があるからな。梅雨など、まだマシな方だ」
怖がらせるつもりはないが、心構えはしておいた方がよいだろう。
知識があるのと無いのでは、精神的なショックの受け方も異なる。
「そうねー。冬の乾燥なんかは、梅雨の頃が恋しくなるくらい、乾きを覚えるしねー」
「えぇぇぇぇ……」
ピンク色の言葉に、小娘が今から嫌そうな声を上げる。
「だが、それより前に、もっと大変な自然現象があるだろう?」
「うーっ!!!」
小娘が親の仇でも見るような視線を向けてくる。
理不尽だ。
別にソレが起きるのは、吾輩のせいではないというのに。
ちらっ。
ピンク色の方を見る。
「♪ー」
吹けない口笛など吹きおって。
どうやら吾輩は、はめられたらしい。
とはいえ、どちらにしろ、教えておかねばなるまい。
憎まれ役を買ってやろう。
「大変な自然現象とは台風のことだ」
「……タイフウ?」
小娘もやつあたりしている自覚はあるのか、吾輩が解説を始めると、素直に聞く姿勢を見せる。
よいことだ。
子供は素直が一番だ。
「要するに、強い雨と風のことだ」
端的に説明すると、こうなるだろう。
だが、補足は必要だ。
「また、雨ですかぁ……」
小娘がうんざりといった感じで息を吐く。
やはり、そう思うか。
だが、台風の怖ろしさは、そちらではない。
「雨も確かに強いがな。それより怖ろしいのは、風の方だ」
「風……ですか?」
いまいちピンと来ていないようだ。
確かに小娘が来た春に吹いていた風は、心地よいくらいだからな。
春一番で強い風が吹くとはいえ、たかが知れている。
「そうよー、下手したら、わたしたちより大きくても倒れちゃうこともあるんだからー」
ピンク色が解説に加わってくる。
おのれ。
憎まれ役だけ吾輩に押し付けおって。
「モモ姉さんの言葉を疑うわけじゃないですけど、風で倒れるなんて信じられません」
アレは体験しないと想像できないだろうな。
圧倒的な暴力。
例えるならそれだ。
「まあ、モモの言い方も極端ではあるが、間違いというわけではない。風だけで倒れることは滅多にないが、雨で地面も緩んだ状態だからな。状況が重なれば、あり得ないことではない」
「な、なるほど。雨と風が両方強いから、倒れちゃうんですね」
驚愕という感じで小娘が納得する。
ふむ。
本当は説明には先があるのだが、どうするか。
ちらっ。
ピンク色の方を見る。
「……(ぱちっ!)」
なぜかウインクをしてきた。
意味が分からない。
だが、話すつもりはないようだな。
そうであれば、これ以上は不要か。
あえて小娘を不安にさせることもあるまい。
アレは数年に1度、発生するかどうかだからな。
☆★☆★☆★☆★☆★
「こ、これが台風ですかっ!」
バッサ、バッサ……
小娘が駄々っ子のように手を振り回す。
それどころか、身体まで激しく揺れている。
「落ち着け。これはまだ序の口だ。これから、どんどん酷くなっていくぞ」
気持ちは分からなくもない。
風は平等に吹き付けるとは言え、小娘は吾輩やピンク色より小さいからな。
体感の風速は上だろう。
「わたしとウメさんで、スモモちゃんに向かう風を少しは防げると思うから、大丈夫よー」
その点については、人間に感謝だな。
小娘が足を伸ばしている場所は、吾輩とピンク色の間だ。
そうでなければ、庇うこともできなかっただろう。
「それに見ろ」
近づいてきているのは気づいていた。
そちらに視線を促す。
『支えを補強しておかないとな』
人間たちが、小娘の支えを増やしていく。
吾輩とピンク色には何もしないが、そのことに不満はない。
さすがに吾輩たちくらい大きくなれば、この程度の風ごときに倒されることはないからな。
「人間たちも見殺しにするつもりはないようだ。どうだ? 風に耐えやすくなったのではないか?」
「ほんとですっ! 数本の棒で、こんなに変わるんですね」
小娘はあいかわらず手を振り回しているが、身体が揺れることは無くなった。
「まあ、一晩といったところだろう。それさえ耐えれば、台風は通り過ぎる」
「ほ、ほんとうですかぁ?」
先ほどよりはマシだが、まだ不安そうにする小娘。
「それくらいの長さだと思うわよー。でも……」
「?」
ピンク色が何を言いたいのかは予想がついている。
参ったな。
今年の台風は昨年よりも威力が大きい気がする。
それに雲も濃い。
「アレが来るかも知れないわねー」
「??」
ピンク色も考えていることは同じようだ。
こんなことなら、事前に小娘に教えておくべきだった。
今から話しても、怖がらせるだけだろう。
「可能性はあるが、そうと決まったわけではあるまい」
「???」
楽観視するつもりはないが、小娘の様子を見ていると、余計な不安を与えることは躊躇われる。
「な、なんですかぁ?まだ、なにかあるんですかぁ?」
「なんでもないわよ。……たぶん」
「気にすることはない。……おそらく」
「なんでもないように聞こえませんし、気にしないのは無理ですよっ!」
きれる小娘。
しまったな。
なんとかアレだけでも来ないように、天に祈っておこう。
梅雨が明けると同時に小娘がそんなことを言い出した。
陽の光を浴びることができなくて、そうとうストレスが溜まっていたらしい。
「スモモちゃんは、晴れの方が好きー?」
「大好きですっ! 雨なんかいりませんっ!」
即答だった。
ひさしぶりの陽気に、ハイになっているようだ。
それにしても、いらないとまで言うか。
梅雨の前には、雨が気持ちいいと言っていたのだが。
「そうなのー。でも、雨も大切よー? 雨が降らないと、わたしたちは枯れちゃうしねー」
水を差すつもりはないのだろうが、ピンク色がそんなことを言う。
「うーっ! でもでも、雨ばかりは嫌ですっ! 肌はふやけちゃいますし、足で呼吸しづらいしっ!」
姉と慕う相手の言うことだ。
否定はしづらいが、納得もできないといったところか。
「まあ、モモの言うことも、スモモの言うことも分かるがな。過ぎたるは及ばざるが如しだ」
吾輩とて、雨が大切なことは知っている。
だが、梅雨の間、憂鬱なのも確かだ。
理性と感情は別といったところか。
「ウメ兄さんもモモ姉さんも、毎年、あんな大変な思いをしているんですか?」
小娘がそんなことを聞いてくる。
来年も梅雨があることが、今から憂鬱なのかも知れない。
「まあ、そうだな。だが、四季には他にも大変な自然現象があるからな。梅雨など、まだマシな方だ」
怖がらせるつもりはないが、心構えはしておいた方がよいだろう。
知識があるのと無いのでは、精神的なショックの受け方も異なる。
「そうねー。冬の乾燥なんかは、梅雨の頃が恋しくなるくらい、乾きを覚えるしねー」
「えぇぇぇぇ……」
ピンク色の言葉に、小娘が今から嫌そうな声を上げる。
「だが、それより前に、もっと大変な自然現象があるだろう?」
「うーっ!!!」
小娘が親の仇でも見るような視線を向けてくる。
理不尽だ。
別にソレが起きるのは、吾輩のせいではないというのに。
ちらっ。
ピンク色の方を見る。
「♪ー」
吹けない口笛など吹きおって。
どうやら吾輩は、はめられたらしい。
とはいえ、どちらにしろ、教えておかねばなるまい。
憎まれ役を買ってやろう。
「大変な自然現象とは台風のことだ」
「……タイフウ?」
小娘もやつあたりしている自覚はあるのか、吾輩が解説を始めると、素直に聞く姿勢を見せる。
よいことだ。
子供は素直が一番だ。
「要するに、強い雨と風のことだ」
端的に説明すると、こうなるだろう。
だが、補足は必要だ。
「また、雨ですかぁ……」
小娘がうんざりといった感じで息を吐く。
やはり、そう思うか。
だが、台風の怖ろしさは、そちらではない。
「雨も確かに強いがな。それより怖ろしいのは、風の方だ」
「風……ですか?」
いまいちピンと来ていないようだ。
確かに小娘が来た春に吹いていた風は、心地よいくらいだからな。
春一番で強い風が吹くとはいえ、たかが知れている。
「そうよー、下手したら、わたしたちより大きくても倒れちゃうこともあるんだからー」
ピンク色が解説に加わってくる。
おのれ。
憎まれ役だけ吾輩に押し付けおって。
「モモ姉さんの言葉を疑うわけじゃないですけど、風で倒れるなんて信じられません」
アレは体験しないと想像できないだろうな。
圧倒的な暴力。
例えるならそれだ。
「まあ、モモの言い方も極端ではあるが、間違いというわけではない。風だけで倒れることは滅多にないが、雨で地面も緩んだ状態だからな。状況が重なれば、あり得ないことではない」
「な、なるほど。雨と風が両方強いから、倒れちゃうんですね」
驚愕という感じで小娘が納得する。
ふむ。
本当は説明には先があるのだが、どうするか。
ちらっ。
ピンク色の方を見る。
「……(ぱちっ!)」
なぜかウインクをしてきた。
意味が分からない。
だが、話すつもりはないようだな。
そうであれば、これ以上は不要か。
あえて小娘を不安にさせることもあるまい。
アレは数年に1度、発生するかどうかだからな。
☆★☆★☆★☆★☆★
「こ、これが台風ですかっ!」
バッサ、バッサ……
小娘が駄々っ子のように手を振り回す。
それどころか、身体まで激しく揺れている。
「落ち着け。これはまだ序の口だ。これから、どんどん酷くなっていくぞ」
気持ちは分からなくもない。
風は平等に吹き付けるとは言え、小娘は吾輩やピンク色より小さいからな。
体感の風速は上だろう。
「わたしとウメさんで、スモモちゃんに向かう風を少しは防げると思うから、大丈夫よー」
その点については、人間に感謝だな。
小娘が足を伸ばしている場所は、吾輩とピンク色の間だ。
そうでなければ、庇うこともできなかっただろう。
「それに見ろ」
近づいてきているのは気づいていた。
そちらに視線を促す。
『支えを補強しておかないとな』
人間たちが、小娘の支えを増やしていく。
吾輩とピンク色には何もしないが、そのことに不満はない。
さすがに吾輩たちくらい大きくなれば、この程度の風ごときに倒されることはないからな。
「人間たちも見殺しにするつもりはないようだ。どうだ? 風に耐えやすくなったのではないか?」
「ほんとですっ! 数本の棒で、こんなに変わるんですね」
小娘はあいかわらず手を振り回しているが、身体が揺れることは無くなった。
「まあ、一晩といったところだろう。それさえ耐えれば、台風は通り過ぎる」
「ほ、ほんとうですかぁ?」
先ほどよりはマシだが、まだ不安そうにする小娘。
「それくらいの長さだと思うわよー。でも……」
「?」
ピンク色が何を言いたいのかは予想がついている。
参ったな。
今年の台風は昨年よりも威力が大きい気がする。
それに雲も濃い。
「アレが来るかも知れないわねー」
「??」
ピンク色も考えていることは同じようだ。
こんなことなら、事前に小娘に教えておくべきだった。
今から話しても、怖がらせるだけだろう。
「可能性はあるが、そうと決まったわけではあるまい」
「???」
楽観視するつもりはないが、小娘の様子を見ていると、余計な不安を与えることは躊躇われる。
「な、なんですかぁ?まだ、なにかあるんですかぁ?」
「なんでもないわよ。……たぶん」
「気にすることはない。……おそらく」
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きれる小娘。
しまったな。
なんとかアレだけでも来ないように、天に祈っておこう。
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