美味しくて切なくて優しい、ちいさな恋物語

かみゅG

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スイート・ツリー

初めての秋(その1)

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「どうだ、スモモ? 花芽は付けられたか?」

 涼しくなってきた頃。
 吾輩は小娘にそんなことを尋ねてみた。

「えっと、その、わかりません」

 もじもじとしながら、そう答える小娘。
 花を咲かせたことがないようだから、無理もないか。

「そうか。まぁ、焦ることはない。今は手足を伸ばすことも重要だからな。身体は資本だ」
「……はい……」

 素直に頷く小娘。
 返事はいいのだが、なぜか恥ずかしそうにしている。

「もう、ダメよー、ウメさん」
「む? なにがだ?」

 横から口を挟んでくるピンク色に、疑問を返す。
 おかしなことは、言っていないはずだが。

「デリカシーがないわよー。女の子に子供を作る準備はできたかって聞くなんてー」
「なっ! そんな意味で聞いたのではない!」

 とんだ言いがかりだ。

「やーい、セクハラー」
「子供みたいな、からかい方をするな!」
「あ、あのっ! 気にしていないですからっ!」

 しかし、そうか。
 小娘の成長が気になって聞いてしまったが、いささか無神経だったかも知れないな。
 デリカシーが無いという点は、認めるしかあるまい。

「すまないな、スモモ。そんなつもりでは無かったのだが」
「いえ、大丈夫です。モモ姉さんもウメ兄さんも、わたしのことを気にかけてくれてるって知っていますから」

 そうは言うが、小娘はどこか焦りのようなものを含んでいる。
 先ほどまでは気づかなかったが、小娘が感情を露わにしたことで気づくことができた。

 そうか。
 いくら口で焦るなと言っても、期待は伝わってしまう。
 焦るなということは、焦らなくてもいいが成果を出せと言っているようなものだ。
 小娘からすれば、プレッシャーに感じてしまっても、無理はない。
 ピンク色は、それとなく話を逸らしてくれたのだろう。
 借りができた。

 子供を応援するというのは難しいものだな。
 甘やかしすぎず、プレッシャーをかけすぎず。

「まあ、のんびりいこう」

 それが今の吾輩の精一杯だった。

☆★☆★☆★☆★☆★

「最近、あっちにある集落が紅く見えませんか?」

 ある日、小娘がそんなことを言い出した。
 ふむ。
 少し前から色が変わり始めていたのだが、ようやく気付いたのだろうか。
 いや、色は徐々に変わるからな。
 確信が持てて言い出したのかも知れない。

「吾輩にも、そう見えるな」

 小娘の意見を肯定してやる。
 あそこまで色づいていれば、見間違いということはあるまい。

「もしかして、火事ですかっ!」
「ん?」

 なにを言い出すのだ。
 そんな訳がないだろう。

「大変ですっ! 最近、雨も降ってないですから、燃え続けているんじゃないですか!?」
「ま、待て待て」

 そういうことか。
 小娘は秋を体験するのは始めてか。
 正確には秋の景色を見るのが初めてなのだろう。
 ああなる種族がいない土地もあると聞くからな。

「くすくすっ。あれは別に異常事態じゃないわよー」

 ピンク色が微笑ましいものを見る様子で声をかける。

「でも、あんなに紅くなって!」

 少し距離があるからな。
 そう見えなくもないか。
 この家の周辺に、ああなる種族が住んでいればいいのだが、何年も前に人間たちに殺されてしまったからな。
 あの時は身勝手な人間に憤慨したものだが……。
 今はそれはいい。
 まずは、慌てふためいている小娘だ。

「あれはねー。紅葉しているのよー」
「コウヨウ……ですか?」

 微妙な顔をしている小娘。
 高揚。
 効用。
 広葉。
 なにやや違うことを考えている気がする。

「なにをそんなに興奮しているんでしょう?」

 やはりか。

「高揚ではなく紅葉……紅く葉が染まることだ」
「手が紅くなる……病気ですか?」
「いや、そうではなくてだな」

 むう。
 短く説明するのが難しいな。
 いや、知ってはいるのだ。
 寒い時期に光合成をするために、成分を変化させているなど、理由は知っているのだ。
 だが、そこから説明しようとすると長くなるし、小娘が理解できるかも疑問だ。

「ようするに、寒くて手が冷えて紅くなってるのよー。ほら、人間がそうなっているところ、見たことないー?」

 見た目は似ているが理由が違う。
 そんな説明で納得するわけが・・・

「あっ! ありますっ! ここに来る前に面倒を見てくれていた人間が、そうなってましたっ! そうか、そういうことですか」

 あった!?
 その説明で納得するのか。
 吾輩が頭を悩ませていたのは、なんだったのだ。

「おい、モモ」

 納得して喜んでいる小娘に水を差すのも悪い。
 だが、子供の教育は正しく行うべきだ。
 こそっとピンク色に話しかける。

「人間の手が赤くなるのは別の理由だろう」
「いいのよー。寒さに対処するためってところは同じだから、大きな意味では同じよー」
「そうかぁ?」
「具体例で教えた方が分かりやすいでしょ?」
「うーむ、一理ある気もするが……」

 まあ、日常生活に支障をきたすわけではないが。
 知ったかぶりは無知より質が悪い。
 小娘には、そうなって欲しくないのだがな。
 時期を見て、もう少し詳しく教えることにしようか。

「それじゃあ、あっちの集落が黄色いのも?」

 小娘が別の方向を指して質問してくる。

「ええ、紅葉よー」

 そちらもピンク色が説明するつもりのようだ。
 こちらはどのような具体例で話すのだろう。
 少し興味がある。
 吾輩には思い付かない。

「でも、寒くても黄色くはならないですよね?」

 案の定、疑問を口にする小娘。
 それに対するピンク色の答えは……

「あれはねー、みかんの食べ過ぎよー」
「なるほどっ!」
「それは違うだろ!?」

 さすがに声を上げた。

「あははー」
「誤魔化すな!」
「?」

 ちょっと感心したら、これだ。
 やはり、ちゃらちゃらしたピンク色に、可愛い妹の教育は任せられん。
 時間がかかっても、正しい知識を身につけさせてやろう。
 吾輩は、そう決意した。

「ウメさんって、意外と教育パパになりそうよねー」
「うるさい」
「?」

 不思議そうな顔をする小娘を見ながら、どうすれば分かりやすく説明できるか頭を悩ますのだった。
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