美味しくて切なくて優しい、ちいさな恋物語

かみゅG

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スイート・ツリー

初めての秋(その2)

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「ウメ兄さん、えっと、その……」

 寒さが日に日に増してきている、ある日。
 小娘が話しかけてきた。
 それはいいのだが、なにやら言い淀んでいる。
 今さらなんだろう。
 水臭い。

「どうした? 遠慮することはないぞ、なんでも言うがいい」

 疑問ならば答えよう。
 気に入らないところがあるなら見直そう。
 吾輩は家族の言うことに耳をかさないほど器が狭いつもりはない。

「えっと、あの……」
「ハゲてるわよー、ウメさん」
「……」

 小娘の言葉を遮って、ピンク色がふざけたことを言ってきた。
 その内容に沈黙する。

「ひっ!」
「あははー」

 いかん。
 殺気が漏れてしまったようだ。
 小娘を怖がらせてしまった。
 だが、ピンク色の言葉を否定しないところをみると、小娘が言いたかったことも同じ内容のようだ。

 ふむ。
 ハゲているか。
 まあ、なんとなく何のことか予想がつくが、一応聞いてみるか。

「スモモよ。なにを持って、ハゲていると思うのだ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 しまったな。
 よほど先ほどの殺気が強烈だったらしい。
 その対象はピンク色だったのだが、小娘まで影響を受けている。

「そうではなくてだな。あー……つまり、吾輩から葉が抜け落ちているのを、気づかってくれているのだろう?」
「そうです、ごめんなさいっ!」
「謝る必要はない」

 やはりそうか。
 ピンク色がちゃちゃを入れるから話がややこしくなったが、子供が持つ疑問としては真っ当な内容だ。

「これは冬に向けて落葉しているだけだ。来年の春になれば、また生えてくる」
「あ、そうなんですか」

 吾輩が怒っていないことを察したのだろう。
 あっさりと小娘が納得する。

「だいたい、モモもスモモも同じだろう。冬に葉が落ちないか?」
「そうねー、わたしも、もうすぐかなー」
「えっと、わたしは昨年までは、冬になると寝ちゃってたので」

 気づかなかったというわけか。
 確かに指摘してくれるものがいないと、意外と自分の身体のことは気づかないものかも知れないな。

「まさに、それが理由だ。冬になると眠くなるだろう。それなのに葉が生い茂っていては体力を使う。それを防ぐために、葉を落とすのだ」
「うーん……」

 小娘はいまいち納得できていないようだ。
 今の説明で、どこか分かりづらいところがあっただろうか。

「その理由は納得できなくもないですけど、動物は逆に毛を増やしますよね。それと違う気がして」

 経験が理解の障害になっているわけか。
 疑問は素直に口にする。
 小娘は良い生徒だ。

「あれは体温を維持するためだ。吾輩たちは体温を下げて休眠する。寒さに対処する方法が異なるのだ」
「なるほど」

 今度は納得したようだ。
 ふう。
 子供の教育は大変なものだな。
 だが、苦痛ではない。
 日に日に知識を吸収して成長していく小娘を見るのは、楽しみでもある。

☆★☆★☆★☆★☆★

 シャッ……シャッ……

 大きい人間が、吾輩たちが落とした葉を集めている。

 ぺたぺた。

 小さい人間が、小娘の身体を触りまくっている。

『花が咲いてるわけでも、実をつけてるわけでもないのに、お気に入りねぇ』

 なにが面白いのか、小さい人間はちょくちょくやって来ては、小娘に触っている。

『来年は花が咲くといいわねぇ』

 ぺたぺた。

「く、くすぐったいですぅ……」

 小娘も懐かれて嫌ではないのだろう。
 くすぐったいのを必死に耐えているようだ。
 最初の頃のように激しく抵抗する様子はない。

「媚びを売れとは言わないが、人間たちとは仲良くしておいた方がよいぞ」
「そうよー。花は見られてこそだからねー」

 それに、養分を撒いたり、虫を排除したり、手入れもしてもらえるしな。
 だがまあ、現実的な話をすることもないか。
 小娘の表情を見ると、花を見てもらうということが、心に響いているようだ。

「きっと綺麗な花を見せてあげるからね」

 小娘が小さい人間に語りかける。
 言葉は通じないはずだが、想いが伝わったのか、小さい人間は笑っているように見える。

 ぺたぺたぺたぺたぺた。

「でも、くすぐったいですぅ……」

 情けない声を上げながらも、小さい人間を振り払うようなことはしない。
 自分より小さい存在に対して母性本能が刺激されたのか、小娘も日々成長しているようだ。

☆★☆★☆★☆★☆★

 うつらうつら……

 小娘が風に揺られながら、眠そうにしている。

「ふあぁー」

 ピンク色も眠そうだ。
 大きな欠伸をしている。

 かくいう吾輩も同じだ。
 葉は全て落ちた。
 もうすぐ冬なのだろう。

「スモモよ。無理しないでよいのだぞ」
「そうよー。寝る子は育つって言うし、睡眠も大切よー」
「で、でも、ウメ兄さんとモモ姉さんより先に寝るなんてっ!」

 いじらしいことを言ってくれるが、逆の立場で考えてみて欲しい。

「子供より先に大人が寝ていては、みっともないだろう」
「育児放棄って思われちゃうわよねー」
「うーっ! お二人とも、わたしを子供扱いしてぇ」

 小娘は不満そうだが、その態度が子供であることに気づいていない。

「夜更かしが大人だと思っているうちは、子供の証拠だ。それに吾輩も、もう寝るぞ」
「夜更かしは美容に悪いから、わたしも寝るわねー」
「え、あの、わたしも寝ますからっ!」

 早寝早起きの見本を見せるのも大人の役目か。
 それに、そんな理由は別にしても、体温が下がってきて、そろそろ眠気も限界だ。

『おやすみなさい』

 花を咲かせる時期まで、しばしの別れだ。
 最初に目覚めるのは吾輩だろうか。
 そんなことを考えながら眠りについた。
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