美味しくて切なくて優しい、ちいさな恋物語

かみゅG

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スイート・ツリー

初めての冬(その2)

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『今年も梅が綺麗に咲いたね』

 複数の人間がやってきた。
 小さい人間もいる。

『外は寒いから、縁側で花見をしようか』

 人間たちは、しばらく吾輩を見た後、少し離れたところで宴を始めた。

「どうだ、スモモ。これが正しい花見だ」

 酒を飲み、肴を食べ、花を愛でる。
 今日の主役は吾輩だ。

「楽しそうですねっ!」

 小娘も素直に同意してくる。
 ナルシストのつもりはないが、花を咲かせることが価値である吾輩によって、見られることは何よりの喜びだ。
 それを同意してもらえることも同様だ。

「今日はご機嫌ねー、ウメさん」

 ピンク色が呆れたように言ってくるが、それも気にならない。
 今日は全てが許せる気分だ。

「せいぜい年に1回のことだ。今日くらいは浮かれてもいいだろう」

 人間たちが吾輩を見ながら宴を開くのは、せいぜい年に1回。
 見知らぬ人間が来たときは数回開くこともあるが、どちらにしろ回数は多くない。
 だからこそ、今日という日を大切にしたい。

「それに、人間たちに新しい家族が増えたようだしな。その子によっての初めての花見は、盛り上げなければなるまい」

 視線を向けると、小さい人間も楽しそうに、宴に混ざっている。
 吾輩は風に吹かれるままに腕を揺らし、少しの花びらを散らしてやる。
 それは、まだ寂しい冬の景色に、彩を添える。

「演出にも力が入るというものだ」

 ばっさばっさと腕を揺らす。
 あまりやり過ぎると、花びらが宴の飲食物に積もってしまうからな。
 ふわりと漂う程度に留めるのがコツだ。

「なるほどっ! ただ見られるだけじゃなくて、積極的に盛り上げるということですねっ!」

 小娘が感心したような声を上げる。

「その通りだ。スモモも数は少ないが蕾がついているようだしな。自分が花を咲かせるときの参考にするとよい」
「はいっ!」

 いい返事だ。

「風に吹かれているだけな気がするけどー」

 外野の声など聞こえない。
 その辺りは気の持ちようで、なんとでもなることだ。

☆★☆★☆★☆★☆★

 宴も終わりに近づいた頃、小さな人間がこちらに近づいてくる。
 だが、見上げているのは、吾輩ではなく小娘のようだ。

「な、なんですか?」

 小さい手を小娘の方に伸ばしている。

『もうすぐ咲きそうだから、触っちゃだめよ』

 大きい人間が、小さい人間を抱えて、伸ばす手を止める。

「ふむ。小さい人間は、スモモが咲くのを楽しみにしているようだな」
「わたしをですか?せっかくウメ兄さんが満開なのに……」

 吾輩が浮かれていたので、気をつかってくれているようだな。
 だが、吾輩はそれで拗ねるほど子供ではないし、なにより家族が楽しみにされているのは、素直に嬉しい。

「よいのだ、スモモよ。吾輩は充分に満足した。次はスモモの番だ。綺麗な花を咲かせて、せいぜい人間たちを驚かせてやるがいい」
「でも、わたし初めてで……上手くできるか自身がありません……」

 普段は元気いっぱいなのに、こういうときは自分に自信がないようだな。

「吾輩には吾輩のよさが。スモモにはスモモのよさがあるのだ。自信をもって咲き誇るといい」
「……はいっ!」

 それに小娘が咲く姿を見るのは初めてだ。
 吾輩も楽しみにしている。

「ねぇねぇ、わたしはー?」

 ピンク色が仲間にして欲しそうに話に入ってくる。

「モモも適当に咲き乱れるがいい」

 手を振りながら、返事を返してやる。

「ちょっとー、わたしの扱いがスモモちゃんと違い過ぎないー? 人を淫乱みたいに言わないでよー」

 今さら改めて言うのは照れくさいだけだ。

「えっと、その、わたし、モモ姉さんが咲くのも楽しみですっ!」
「スモモちゃんは、いい子ねー。お姉さん、頑張っちゃうよー」

 そう言って、ピンク色が張り切っているようだが、吾輩の次に咲くのは小娘だろう。
 蕾の様子を見ていると、吾輩が散り始める頃に、小娘が咲きそうだ。
 ピンク色は、その後だな。

「今年は、春まで途切れることなく、花を咲かせることができそうだな」

 華やかになりそうだ。

☆★☆★☆★☆★☆★

 吾輩が予想した通り、吾輩の花が散り始めて、しばらく経った頃に、小娘の花が咲き始めた。

「ど、どうですか?」

 小娘が自信なさそうに、尋ねてくる。

「かわいいわよー」
「うむ。可憐という言葉が似合う姿だ」
「ありがとうございますっ!」

 吾輩とピンク色が褒めちぎると、小娘はどこか照れくさそうに、だが素直に喜んだ。

「でも、お花見は開いてくれないみたいですね……」

 残念そうに言うが、吾輩はそうは思わない。

「だが、毎日のように人間たちが見に来ているだろう」

 小娘が花を咲かせるのが初めてということもあるだろうが、その美しさを愛でているのも確かだろう。
 派手に宴を開いてもらえるのも嬉しいものだが、毎日のように見てもらえるもの嬉しいものだ。
 それに、吾輩たちが人間の成長を見守るのと同じように、人間たちも小娘の成長を見守っているのだろう。

「そうですね。あの子も毎日見に来てくれます」

 人間の子供のことだ。
 この地にきた時期が近いせいか、小娘は人間の子供に親近感を持っているようだ。
 そして、人間の子供も、親に連れられて小娘を見に来ることが多い。

「どちらが先に大きくなるか、競争しているつもりなのかも知れないぞ」
「負けませんっ!」
「ははっ。まあ、頑張るがいい」

 ただ、見て、見られるだけなのも退屈だからな。
 そのように考えるのも、張り合いが出ていいだろう。

「二人で盛り上がって楽しそうねー」

 そこへピンク色が少し拗ねたように言ってくる。

「別に仲間はずれにしているつもりはないぞ?」
「わかってるけどー、わたしも蕾が大きくなってきたのに、誰も誉めてくれないしー」

 まあ、毎年のことだからな。

「経験豊富なモモを、今さら褒めるのもな。当たり前のことを褒めるのも、逆に失礼ではないか?」
「わかってないなー、ウメさんは。女の子は、当たり前のことでも褒めてもらえると、喜ぶものよ」
「そういうものか?」
「そういうものですっ!」

 どうやら小娘も同じ意見のようだ。
 モモより先に返事をしてくる。

「モモ姉さんは蕾がいっぱいで羨ましいですっ!」
「ありがとー。ほら、これよ、ウメさん」

 毎年のことでも、宴を開いてもらうのが嬉しいのと、同じことだろう。
 その気持ちは分かる。
 だが、昨年までは、そんなことは言っていなかったのだが。
 やはり、ピンク色も小娘がいることで浮かれているようだな。
 初めて自分の花を見せるから、張り切っているのだろう。

「わかった、わかった。せいぜい、スモモにいいところを見せてやれ」
「もう! あんまり、わかって無さそうだけど、まあいいわ。合格にしておいてあげる」

 いつから試験になったのだ。

「スモモちゃんー。ウメさんに負けない花を見せてあげるからねー」
「楽しみですっ!」

 それから、しばらくの後。
 小娘の花が散る頃、ピンク色が花を咲かせ始めた。
 ちょうど吾輩、小娘、ピンク色の順に入れ替わりながら、花を咲かせる形だ。

 咲く時期がずれているのは、よかったのかも知れないな。
 そのおかげで、張り合わずに、それぞれの花を愛でることができる。
 そんな感じで、良好な関係のまま、吾輩たちは春を迎えた。
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