美味しくて切なくて優しい、ちいさな恋物語

かみゅG

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スイート・ツリー

二年目の夏(その1)

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「あっ! あの子が!」

 夏の暑い日。
 小娘が声を上げた。
 そちらを見ると、すぐに理由が分かった。

「ほぅ、もう歩き始めたのか」

 見ると、人間の子供が、よちよちと歩きながら、小娘の方に寄っていっている。
 今までは人間の大人に抱えられながら来ることが多かった。
 歩いたのを見るのは初めてではないだろうか。

「そっかー、もう一年以上経つものねー」

 小娘と比べると、身体が大きくなる速度は遅い。
 だが、人間の子供も成長しているのだろう。

「わぁ、かわいいなぁ」

 小娘が我が子を愛でるように、人間の子供を愛でる。
 ぺたぺたと身体を触られるのも、気にならないようだ。

『ままぁ』

 隣には吾輩やピンク色もいるのだが、こちらに来る様子はない。
 やはり、小娘に一番懐いているようだ。

『あらあら、ママはこっちよ。李はまだ小さいから枝を折らないようにね』

 人間の大人が近づいていき、子供がぺたぺたと触るのを、やんわりと止めさせる。

「あっ、別に触っていてもいいのに」

 人間の子供が離されると、少し寂しそうにする小娘。
 くすぐったそうにしていた昨年とは違う。

「スモモも人間と良好な関係を気づけそうでなによりだな」
「そうねー。あんなに懐かれるのは珍しいんじゃない?」
「そうなんですか?」

 吾輩やピンク色が、この地に定住してから数十年が経つが、その間にも人間の子供は何人かいた。
 だが、ここまで懐かれたことはないように思う。

「わたしやウメさんも花は見てもらえるけど、それ以外の時期にも見てもらえることは、少なかった気がするわー」
「やはり、同じ時期にこの地に来たから、親近感が湧くのではないか?」

 思えば、ほぼ同時期だ。
 なにか意味があるのかも知れないが、そこまで人間たちの考えることに詳しいわけではない。

「あの子とスモモちゃんは、姉妹みたいなものかも知れないわねー」
「姉妹ですか」

 種族が違うというのは、ここでは無粋だろう。
 ピンク色が言っているのが、そういうことでないことは、吾輩にも分かる。
 寄り添って暮らして入れば、たとえ種族が違うとしても、それは家族だ。

「じゃあ、わたしがお姉さんですね。わたしの方が身体も大きいですし」

 小娘もすっかり乗り気だ。
 そこに水を差すつもりはない。

「それなら、吾輩にとっても、あの子は妹だな」

 どちらかというと、娘のような気もするが、それだと小娘も娘ということになってしまう。
 そうすると、小娘がまた悲しそうな顔をしそうな気がしたので、妹ということにしておいた。

「わたしが長女でー、スモモちゃんが次女でー、あの子が末っ子ね」

 ピンク色も年齢を考えれば姉というより母親という気がするが、それを指摘すると突っかかってきそうだな。

「みんなで家族ですねっ!」

 まあ、いいか。
 小娘も嬉しそうだし、些細な問題だ。

☆★☆★☆★☆★☆★

「ついに……来ましたねっ!」

 小娘の言葉に応えるように、ごうっと強い風が吹く。

「今年は怯えたりしませんっ!」

 小娘の気合は充分のようだ。

「勝負ですっ!」

 ピカッ! ゴロゴロゴロッ!

 勝負の合図のように雷鳴が轟く。

「ひあっ!」

 それに対して、小娘は情けない声。
 ダメだ。
 すでに勝負はついている。

「まあ、勝負ではないしな」

 今年も台風の季節がやってきた。

「スモモちゃんも身体が大きくなっているし、1年前より怖くはないと思うわよー」

 ピンク色が子供をあやすように、小娘に話しかける。

「うぅーっ、モモ姉さぁん」

 小娘は小娘で泣きべそをかきながら、ピンク色に甘える。
 どうみても、姉妹というより母娘だ。
 そうだな。
 背伸びする娘と、それを見守る母親といったところか。
 口に出すつもりはないが。

 それに怖さにも種類がある。
 大人になっても克服できないものはある。
 怖がっているからという理由で子供扱いは失礼か。

「大人になっても幽霊は怖いものだしな」
「ひいぃぃぃっ!」

 幽霊という単語に反応したのか、小娘が雷を切り裂くような悲鳴を上げる。

「ちょっと、ウメさんー。スモモちゃんをいじめちゃダメよー」
「いや、そんなつもりは無かったのだが」
「うぅ……ぐすっ」

 理不尽だ。
 怖がっている相手の前で、不用意な単語を出したのも悪かったが。

「好きな子をいじめちゃう子供じゃないんだからー」
「ぐすっ……好きな子?」
「むっ……」

 ピンク色のやつめ。
 また、答えづらい、からかいを。
 小娘は、上目づかいで、こちらの言葉を待っている。

「あー……まあ、今年も風よけくらいにはなってやるから、許してくれ」
「……はい」

 少し微妙な表情をしながらも、吾輩の言葉に頷く小娘。

「30点かなー」

 うるさい。

「守ってやる! くらい言うと80点だったんだけどねー」

 残り20点はなんだ、まったく。
 それを聞くと深みにはまりそうだから、あえて聞かないが。
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