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スイート・ツリー
二年目の夏(その2)
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それから数個の台風が来たが、特に大きな被害は出なかった。
最初の台風が一番大きかったようで、そのときに人間が支えを強化してくれたおかげで、2個目以降は楽だったくらいだ。
「モモ姉さんの赤ちゃんも、色づいてきましたね」
「ここまで良い香りが漂ってくるぞ」
「そうねー、もうそろそろかしらー」
暑くはあるが、穏やかな日々。
三人で、そんなことを話していた。
「あ、噂をすればー」
人間がやってくる。
近づいてくるのは、ピンク色の方向だ。
そして、1つ、2つと、実を収穫していく。
「今年も全部持っていかれちゃいましたね」
小娘が少し寂しそうな声を出す。
1年前に話を聞いているから騒ぐようなことはしないが、完全に納得できているわけではないようだ。
「でもほらー」
少し離れたところで、あの子が収穫された実を興味深そうに見ている。
『1つ食べてみようか』
大人が切り分けて、あの子の口に運ぶ。
口に入れた瞬間に、笑顔の花が咲く。
「おいしそうに食べてますね」
子孫を残すことは必要だ。
だが、硬い殻に包まれた子供たちが芽を出すのは確率が低い。
それに、芽を出したとしても、大きくなるには時間がかかる。
だから、人間に果実を提供するかわりに世話をしてもらうことで、結果的に種子の数を多くして確率を高めるのだ。
「そうでしょうー。あの笑顔を見るのが、わたしの幸せよー」
そんな理屈を抜きにしても、ピンク色は人間たちが果実を笑顔で食べるのを嬉しそうに見ている。
吾輩は花を誇るように、ピンク色は実を誇っている。
もっとも、ピンク色は花も美しく、そこに吾輩は嫉妬もするわけだが。
今まで意識したことはなかったが、ピンク色が実にこだわっているのは、吾輩に気をつかってのことかも知れないな。
ピンク色が全て優れていれば、吾輩は心穏やかにはいられなかったはずだ。
「わたしも、あの子に笑顔になって欲しいです」
小娘にもピンク色の気持ちが分かるようだ。
羨望と憧れの入り混じった表情を向けている。
その希望を叶える手伝いをするのも、悪くないのかも知れない。
☆★☆★☆★☆★☆★
まだまだ残暑が厳しい。
「セミの声がうるさいな」
夜は静かになるとはいえ、耳元で鳴き続けられるは、なかなか辛いものがある。
「まぁまぁー。セミは寿命が短いから、大目に見てあげなきゃー」
「わかってはいるのだがな」
あいつらも子孫を残すのに必死だ。
それを、うるさいという理由だけで、排除する気はない。
「セミって、寿命が短いんですか? 夏の間、ずっといるような気がしますけど」
数十年、あるいはそれ以上を生きる吾輩たちからすれば、夏の間だけというのも短いものだが、実際にはもっと短い。
「1ヶ月くらいだったー?」
「地上にいる個体が生きていられるのは、そのくらいだな」
以前、吾輩たちに泊まりにきた個体を観察したことがある。
外敵によって寿命まで生きられないこともあるが、1ヶ月くらい長生きした個体もいた。
もっとも、子供の頃は土の中にいるようだから、生まれてからの寿命は知らない。
知っているのは、地上に出てきてからの寿命だけだ。
「ずっといるから、もっと長生きなのかと思ってました」
小娘がそう思うのも仕方がない。
違う種族の個体など、よく観察しないと見分けがつかないからな。
「みんな、生きるのに一生懸命なんですね」
感心した様子で、自らに泊まるセミを見つめる小娘。
すると、視線が気になったのか、セミは勢いよく飛び立つ。
「きゃっ! ……雨?」
どうやら水滴がかかったらしい。
吾輩はその正体を知っているが、言っていいものか。
「あー……それはな……」
「?」
さすがに、言い淀んでしまう。
「それはねー、セミのおしっこよー」
「!!!」
遠慮なく真実を告げるピンク色に、小娘の顔が引きつる。
「ひどいっ! 女の子の顔におしっこをかけるなんてっ!」
「いや、あれは逃げるために身体の水分を排出しているだけで、小便というわけでは……」
「セミなんて滅んじゃえばいいんですっ!」
「おいおい」
さっきと真逆のことを言っている。
「セミだって一生懸命、生きているんだし」
「おしっこをかけるのに一生懸命な人生なんて、終わっちゃえばいいんですっ!」
「それに一生懸命なわけではないのだが」
ばっさばっさと手を揺らして興奮している。
ダメだ。
落ち着いてから、改めて説明してやろう。
「あははー」
元凶は楽しそうに笑っている。
まったく。
最初の言い方が違えば、これほど話がこじれることもなかったろうに。
「うぅーっ!」
まあ、感情豊かな小娘を見ているのも楽しいが。
「あははー」
後始末をこちらに回して欲しくないものだ。
☆★☆★☆★☆★☆★
そろそろ暑さが和らいできただろうか。
「もうすぐ、夏も終わりですね」
小娘が呟く。
「花芽はいっぱいつけることができた?」
ピンク色が尋ねる。
「前の年よりは多いと思います」
1年前は花芽がついたかどうかも分からなかったからな。
成長しているということだろう。
「今年の夏の思い出は?」
経験があるということと、経験がないということは、大きく違う。
たった1回の経験が、子供を大人にすることもある。
心に生まれた余裕が、他のことに目を向けさせるからだ。
最近は小娘も慌てたり不安そうにしたりすることが少なくなってきた。
ころころ変わる表情を見られなくなることを寂しく思う反面、成長を嬉しく思う気持ちもある。
「セミにおしっこをかけられたことですっ! 来年はそんな隙は見せませんっ!」
もっとも、経験を積むということは、最初の1回を経験するよりも、時間がかかる。
一歩一歩、地道に歩んでいくしかない。
そんな道を一緒に歩んでいくのも悪くないかも知れないな。
「もう秋か」
女心と秋の空。
しばらくは、小娘の心がどう移ろいゆくか、見守ることにしようか。
最初の台風が一番大きかったようで、そのときに人間が支えを強化してくれたおかげで、2個目以降は楽だったくらいだ。
「モモ姉さんの赤ちゃんも、色づいてきましたね」
「ここまで良い香りが漂ってくるぞ」
「そうねー、もうそろそろかしらー」
暑くはあるが、穏やかな日々。
三人で、そんなことを話していた。
「あ、噂をすればー」
人間がやってくる。
近づいてくるのは、ピンク色の方向だ。
そして、1つ、2つと、実を収穫していく。
「今年も全部持っていかれちゃいましたね」
小娘が少し寂しそうな声を出す。
1年前に話を聞いているから騒ぐようなことはしないが、完全に納得できているわけではないようだ。
「でもほらー」
少し離れたところで、あの子が収穫された実を興味深そうに見ている。
『1つ食べてみようか』
大人が切り分けて、あの子の口に運ぶ。
口に入れた瞬間に、笑顔の花が咲く。
「おいしそうに食べてますね」
子孫を残すことは必要だ。
だが、硬い殻に包まれた子供たちが芽を出すのは確率が低い。
それに、芽を出したとしても、大きくなるには時間がかかる。
だから、人間に果実を提供するかわりに世話をしてもらうことで、結果的に種子の数を多くして確率を高めるのだ。
「そうでしょうー。あの笑顔を見るのが、わたしの幸せよー」
そんな理屈を抜きにしても、ピンク色は人間たちが果実を笑顔で食べるのを嬉しそうに見ている。
吾輩は花を誇るように、ピンク色は実を誇っている。
もっとも、ピンク色は花も美しく、そこに吾輩は嫉妬もするわけだが。
今まで意識したことはなかったが、ピンク色が実にこだわっているのは、吾輩に気をつかってのことかも知れないな。
ピンク色が全て優れていれば、吾輩は心穏やかにはいられなかったはずだ。
「わたしも、あの子に笑顔になって欲しいです」
小娘にもピンク色の気持ちが分かるようだ。
羨望と憧れの入り混じった表情を向けている。
その希望を叶える手伝いをするのも、悪くないのかも知れない。
☆★☆★☆★☆★☆★
まだまだ残暑が厳しい。
「セミの声がうるさいな」
夜は静かになるとはいえ、耳元で鳴き続けられるは、なかなか辛いものがある。
「まぁまぁー。セミは寿命が短いから、大目に見てあげなきゃー」
「わかってはいるのだがな」
あいつらも子孫を残すのに必死だ。
それを、うるさいという理由だけで、排除する気はない。
「セミって、寿命が短いんですか? 夏の間、ずっといるような気がしますけど」
数十年、あるいはそれ以上を生きる吾輩たちからすれば、夏の間だけというのも短いものだが、実際にはもっと短い。
「1ヶ月くらいだったー?」
「地上にいる個体が生きていられるのは、そのくらいだな」
以前、吾輩たちに泊まりにきた個体を観察したことがある。
外敵によって寿命まで生きられないこともあるが、1ヶ月くらい長生きした個体もいた。
もっとも、子供の頃は土の中にいるようだから、生まれてからの寿命は知らない。
知っているのは、地上に出てきてからの寿命だけだ。
「ずっといるから、もっと長生きなのかと思ってました」
小娘がそう思うのも仕方がない。
違う種族の個体など、よく観察しないと見分けがつかないからな。
「みんな、生きるのに一生懸命なんですね」
感心した様子で、自らに泊まるセミを見つめる小娘。
すると、視線が気になったのか、セミは勢いよく飛び立つ。
「きゃっ! ……雨?」
どうやら水滴がかかったらしい。
吾輩はその正体を知っているが、言っていいものか。
「あー……それはな……」
「?」
さすがに、言い淀んでしまう。
「それはねー、セミのおしっこよー」
「!!!」
遠慮なく真実を告げるピンク色に、小娘の顔が引きつる。
「ひどいっ! 女の子の顔におしっこをかけるなんてっ!」
「いや、あれは逃げるために身体の水分を排出しているだけで、小便というわけでは……」
「セミなんて滅んじゃえばいいんですっ!」
「おいおい」
さっきと真逆のことを言っている。
「セミだって一生懸命、生きているんだし」
「おしっこをかけるのに一生懸命な人生なんて、終わっちゃえばいいんですっ!」
「それに一生懸命なわけではないのだが」
ばっさばっさと手を揺らして興奮している。
ダメだ。
落ち着いてから、改めて説明してやろう。
「あははー」
元凶は楽しそうに笑っている。
まったく。
最初の言い方が違えば、これほど話がこじれることもなかったろうに。
「うぅーっ!」
まあ、感情豊かな小娘を見ているのも楽しいが。
「あははー」
後始末をこちらに回して欲しくないものだ。
☆★☆★☆★☆★☆★
そろそろ暑さが和らいできただろうか。
「もうすぐ、夏も終わりですね」
小娘が呟く。
「花芽はいっぱいつけることができた?」
ピンク色が尋ねる。
「前の年よりは多いと思います」
1年前は花芽がついたかどうかも分からなかったからな。
成長しているということだろう。
「今年の夏の思い出は?」
経験があるということと、経験がないということは、大きく違う。
たった1回の経験が、子供を大人にすることもある。
心に生まれた余裕が、他のことに目を向けさせるからだ。
最近は小娘も慌てたり不安そうにしたりすることが少なくなってきた。
ころころ変わる表情を見られなくなることを寂しく思う反面、成長を嬉しく思う気持ちもある。
「セミにおしっこをかけられたことですっ! 来年はそんな隙は見せませんっ!」
もっとも、経験を積むということは、最初の1回を経験するよりも、時間がかかる。
一歩一歩、地道に歩んでいくしかない。
そんな道を一緒に歩んでいくのも悪くないかも知れないな。
「もう秋か」
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しばらくは、小娘の心がどう移ろいゆくか、見守ることにしようか。
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