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スイート・ツリー
二年目の秋(その1)
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暑さが去り、涼しさが訪れた頃。
「ウメさん、ハゲてるわよー……ぷぷっ!」
失礼なことを言うのはピンク色だ。
「うるさい。ハゲでないことは知っているだろうに」
1枚、2枚と葉が落ち始めたことには、言われずとも気づいている。
「えっと、ごめんなさい。1年前に、わたしがそんなようなことを言ったから……」
まあ、それをネタにしているのだろうな。
だが、別に小娘のせいというわけではない。
悪いのはピンク色だ。
「スモモは気にしないでいい。それに、吾輩をハゲというなら、モモも同じだ」
ピンク色からも葉が落ち始めている。
「女の子にハゲって言わないでよー。ダイエットしてるって言って」
たわけたことを言ってきた。
「なにがダイエットだ。せいぜい、肌荒れが酷くなったと表現するのが適切だろう」
冬は乾燥するからな。
あながち、間違いというわけではない。
もっとも、葉が落ちるのは、乾燥ではなく寒さが原因だが。
「肌荒れ……」
そう言って自分の身体を見る小娘。
その身体からも葉は落ち始めている。
しまった。
こっちまで気にするようなことを言ってしまったか。
「ダメよー、ウメさん。スモモちゃんに、ひどいこと言っちゃ」
そして、ピンク色が話をおかしな方向に傾ける。
「違うからな、スモモ。モモに言ったのだ。第一、スモモは若いから、肌荒れなど起きないだろう」
慌てて軌道修正をはかる吾輩。
「ひどいー! わたしが、おばさんだって言いたいのー!」
不満げな声を上げるピンク色。
「ウメ兄さん、女性に向かって、ひどいですっ! モモ姉さんが、かわいそうですっ!」
なぜか小娘からも責められてしまう。
「ハゲ扱いされた吾輩は、かわいそうではないのか」
理不尽だ。
「ウメ兄さんは、ハゲていても頼りになるから、いいんです」
「……あー、それは……ありがとう」
「あっ! えっと……どういたしまして?」
なんだろう。
このむずがゆい感覚は。
「あれー? ウメさんを、からかっていたはずが、いつの間にか、ウメさんが持ち上げられてるー?」
そこへ、ちゃちゃへ入れるのはピンク色だ。
というか、やはり、からかっていたのか。
「初々しいわねー」
「もうっ! モモ姉さんっ!」
からかわれていることに気づいたのか、小娘もピンク色に文句を言う。
「わかったろう、スモモ。モモなど、おばさんで充分だ」
「そうですね」
「ああー、スモモちゃんも、ひどいー」
当たり前だ。
☆★☆★☆★☆★☆★
「ウメ兄さん、モモ姉さん。あの子が何か食べているんですけど、なんだか分かりますか?」
「ん?」
「どれどれー?」
確かに食べているな。
あれは、見たことがある。
今はもう切り倒されてしまって居ないが、昔は近所にも居た。
「あれは柿だな」
「そうねー。あ、栗もあるみたいね。まだ、食べることができるようには、していないみたいだけど」
毬栗もあるな。
おそらく人間が、どこかから入手したのだろう。
「……浮気です」
小娘がなにやら言い出した。
だが、意味が分からない。
「浮気って、なにがー?」
ピンク色も同様のようだ。
「だって、モモ姉さんがあげた果実をおいしそうに食べていたのに、他の果実を食べるなんてっ!」
小娘が声を荒らげる。
理由は分かった。
分かったが、あいかわらず、意味は分からない。
「そうは言っても、年中、果実を提供できるわけではないしな。モモは、夏の味覚。柿や栗は、秋の味覚というやつだ」
「そうよー。あの子も色々食べたいだろうしねー」
ピンク色自身は、特に思うところはないようだ。
まあ、そうだろうな。
「でもでもっ! 見てくださいよ、あの河童のお皿みたいなヘタや、痛そうなトゲトゲを! UMAやツンデレを気取ってますよ!」
「いや、そんなことはないだろうが」
そもそも、UMAだとか、ツンデレだとか、どこから仕入れた知識だ。
まあ、ピンク色が余計なことを教えたのだろうが。
「いいのよー、スモモちゃん。みんな違う味だからねー。みんな、おいしいでいいのよー」
「うー……」
小娘はいまいち納得できていないようだ。
成長したと思ったのだが、まだまだ子供っぽいところもあるな。
少し、ほっとした。
「それに、そんなことを言ったら、来年はわたしとスモモちゃんも競争相手(ライバル)よー」
「恋敵(ライバル)……ですか」
ピンク色は、それを避けたいという意味で言ったのだと思うのだが、小娘は、なぜか闘争心を燃やす。
「負けませんっ!」
「あれー?」
ピンク色は、訳が分からないといった表情だ。
「んー? ……あぁ、そういうことー。違うわよ、スモモちゃん。どっちが、おいしいかってことよー」
「え? ……あ! えっと、あの……」
「大丈夫、分かっているからー。そっちを取るつもりはないからー」
「あ、えっと、ありがとうございます」
「?」
なにか二人だけで通じ合っている。
なんだろう。
どの果実が一番旨いかという話ではないのか?
「じゃあ、ウメさん。あとは頑張ってねー」
「なにをだ?」
「よろしくお願いしますっ!」
「?」
よく分からない。
よく分からないが、小娘が柿や栗を敵対視しなくなったのは、確かなようだ。
ならば、まあ、いいか。
強すぎる独占欲は身を滅ぼすからな。
「ウメさん、ハゲてるわよー……ぷぷっ!」
失礼なことを言うのはピンク色だ。
「うるさい。ハゲでないことは知っているだろうに」
1枚、2枚と葉が落ち始めたことには、言われずとも気づいている。
「えっと、ごめんなさい。1年前に、わたしがそんなようなことを言ったから……」
まあ、それをネタにしているのだろうな。
だが、別に小娘のせいというわけではない。
悪いのはピンク色だ。
「スモモは気にしないでいい。それに、吾輩をハゲというなら、モモも同じだ」
ピンク色からも葉が落ち始めている。
「女の子にハゲって言わないでよー。ダイエットしてるって言って」
たわけたことを言ってきた。
「なにがダイエットだ。せいぜい、肌荒れが酷くなったと表現するのが適切だろう」
冬は乾燥するからな。
あながち、間違いというわけではない。
もっとも、葉が落ちるのは、乾燥ではなく寒さが原因だが。
「肌荒れ……」
そう言って自分の身体を見る小娘。
その身体からも葉は落ち始めている。
しまった。
こっちまで気にするようなことを言ってしまったか。
「ダメよー、ウメさん。スモモちゃんに、ひどいこと言っちゃ」
そして、ピンク色が話をおかしな方向に傾ける。
「違うからな、スモモ。モモに言ったのだ。第一、スモモは若いから、肌荒れなど起きないだろう」
慌てて軌道修正をはかる吾輩。
「ひどいー! わたしが、おばさんだって言いたいのー!」
不満げな声を上げるピンク色。
「ウメ兄さん、女性に向かって、ひどいですっ! モモ姉さんが、かわいそうですっ!」
なぜか小娘からも責められてしまう。
「ハゲ扱いされた吾輩は、かわいそうではないのか」
理不尽だ。
「ウメ兄さんは、ハゲていても頼りになるから、いいんです」
「……あー、それは……ありがとう」
「あっ! えっと……どういたしまして?」
なんだろう。
このむずがゆい感覚は。
「あれー? ウメさんを、からかっていたはずが、いつの間にか、ウメさんが持ち上げられてるー?」
そこへ、ちゃちゃへ入れるのはピンク色だ。
というか、やはり、からかっていたのか。
「初々しいわねー」
「もうっ! モモ姉さんっ!」
からかわれていることに気づいたのか、小娘もピンク色に文句を言う。
「わかったろう、スモモ。モモなど、おばさんで充分だ」
「そうですね」
「ああー、スモモちゃんも、ひどいー」
当たり前だ。
☆★☆★☆★☆★☆★
「ウメ兄さん、モモ姉さん。あの子が何か食べているんですけど、なんだか分かりますか?」
「ん?」
「どれどれー?」
確かに食べているな。
あれは、見たことがある。
今はもう切り倒されてしまって居ないが、昔は近所にも居た。
「あれは柿だな」
「そうねー。あ、栗もあるみたいね。まだ、食べることができるようには、していないみたいだけど」
毬栗もあるな。
おそらく人間が、どこかから入手したのだろう。
「……浮気です」
小娘がなにやら言い出した。
だが、意味が分からない。
「浮気って、なにがー?」
ピンク色も同様のようだ。
「だって、モモ姉さんがあげた果実をおいしそうに食べていたのに、他の果実を食べるなんてっ!」
小娘が声を荒らげる。
理由は分かった。
分かったが、あいかわらず、意味は分からない。
「そうは言っても、年中、果実を提供できるわけではないしな。モモは、夏の味覚。柿や栗は、秋の味覚というやつだ」
「そうよー。あの子も色々食べたいだろうしねー」
ピンク色自身は、特に思うところはないようだ。
まあ、そうだろうな。
「でもでもっ! 見てくださいよ、あの河童のお皿みたいなヘタや、痛そうなトゲトゲを! UMAやツンデレを気取ってますよ!」
「いや、そんなことはないだろうが」
そもそも、UMAだとか、ツンデレだとか、どこから仕入れた知識だ。
まあ、ピンク色が余計なことを教えたのだろうが。
「いいのよー、スモモちゃん。みんな違う味だからねー。みんな、おいしいでいいのよー」
「うー……」
小娘はいまいち納得できていないようだ。
成長したと思ったのだが、まだまだ子供っぽいところもあるな。
少し、ほっとした。
「それに、そんなことを言ったら、来年はわたしとスモモちゃんも競争相手(ライバル)よー」
「恋敵(ライバル)……ですか」
ピンク色は、それを避けたいという意味で言ったのだと思うのだが、小娘は、なぜか闘争心を燃やす。
「負けませんっ!」
「あれー?」
ピンク色は、訳が分からないといった表情だ。
「んー? ……あぁ、そういうことー。違うわよ、スモモちゃん。どっちが、おいしいかってことよー」
「え? ……あ! えっと、あの……」
「大丈夫、分かっているからー。そっちを取るつもりはないからー」
「あ、えっと、ありがとうございます」
「?」
なにか二人だけで通じ合っている。
なんだろう。
どの果実が一番旨いかという話ではないのか?
「じゃあ、ウメさん。あとは頑張ってねー」
「なにをだ?」
「よろしくお願いしますっ!」
「?」
よく分からない。
よく分からないが、小娘が柿や栗を敵対視しなくなったのは、確かなようだ。
ならば、まあ、いいか。
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